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星の勇者  作者: アシラント
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サンシティに到着

道中何事も無くサンシティについたレイジたちは王様のいる城を目指して歩いていた。その途中で気になる銅像を見つけた。


「これは...?」


レイジはその銅像に近づいた。それは腰まである長い髪に剣と盾とマントを装備した立派な像だった。それを見た昆布は言った。


「ああ!勇者でござるね!」


昆布の言葉にレイジは振り向いた。


「勇者...?これが?」


レイジは勇者の姿を見たことが無かったため知らなかった。昆布は頷いて話し始めた。


「そうでござるよ。教科書に載っていたでござる。長いクリーム色の髪の毛、緑色の瞳、引き締まった筋肉、そしてすべての人を魅了するその端正な顔。教科書に載っていた写真にそっくりでござるよ」


昆布は出来のいい銅像に感心していた。レイジは初めて見る先代勇者の姿に考えるところがあった。


『これが先代勇者か...なんだ?この感じ...どこか、懐かしい?そんな感じがする...』


レイジは銅像を見て懐かしさを感じていた。それはドナルドもネネも同じだった。


「なんか、懐かしいって気がするなぁ。」


「あら、ドナルドもそうなのね。私もそう思ったわ。」


2人の発言にレイジは驚いた。


「ええ!?ドナルドとネネもか!?俺もそう思ったところなんだよ。」


3人は互いに顔を合わせた。そして姉御が言った。


「3人の共通点...みんな勇者の力を受け継いでいるってことだね。どうやらあんたたちは本当に勇者なのかもしれないね。」


姉御はフッと笑いながら言った。レイジはイヤそうな顔をした。


「ええー。やだなー。勇者の力なんかいらないから、自由に冒険させてくれよー。」


レイジは正直な気持ちを言った。それに対してドナルドは大笑いをした。


「ハーーーッハッハッハ!!レイジ!お前やっぱ面白いなぁ!そこまで正直に嫌いって思える奴はお前ぐらいしかいないんじゃねーか?」


ドナルドはレイジの素直さに笑った。レイジはドナルドに聞いた。


「でもよ!ドナルドはそうは思わないのか?面倒くさい責務を押し付けられて、迷惑じゃないか?」


レイジは聞いた。ドナルドは笑いを徐々に収めながら深呼吸をして言った。


「まあ、気持ちは分からんでもねーが、俺は別に気になんねーな。」


「マジかよー。どうして?」


「どうしてって、そうだなー。俺は人類の為に何かをする気はねーからかな?」


「人類の為に闘うわけじゃないって事か?」


「そうだな。俺は俺が強くなりたいから闘ってる。だからたとえ俺が勇者じゃなかったとしても魔族と闘いに行っただろうな。だから俺は自分が勇者であろうがどうでもいいって思うぜ?たまたま俺のやりたいことと周りの人間の俺への期待が同じだっただけだからな。正直な所、人類が滅んでも魔族が滅んでも、俺にとっちゃどっちでもいい話だ。俺の大切な仲間を守れるのならな。」


ドナルドはそう言った。その言葉にレイジは感心した。


「そうか。ドナルドは自分の為に魔族と闘ったり人間と闘ったりしているのか...いいなー。俺もそう言う風に思えたらいいのになー。」


「逆にレイジはなんでそこまで勇者の力ってか、勇者の責任がイヤなんだ?魔族を倒さねーとこの戦争は終わんねーんだぞ?」


ドナルドの質問にレイジは当たり前のことのように言った。


「そりゃ、死にたくないからな!闘ったら死ぬかもしれないだろ?まだ知りたいことが沢山あるのに死ねないだろ!魔族ってなんなのかとか、魔王の正体とか、幻獣の正体とか、四神獣ってなんなのかとか、この世界のすべてを知る前に死ぬのは悔いが残る!だから俺は闘いたくないんだ!」


レイジはムカつきながら言った。その態度にドナルドは笑った。


「ハッハッハ!レイジがイライラしてるのは初めて見たな。よっぽど世界のことが知りて―んだな」


「そりゃそうだよ。俺が生きていて一番楽しいって感じる時は、謎の解明に必死になってる時だからな!...そういやネネは?ネネはどうなんだ?」


レイジはネネに話を振った。ネネは急に指名されて戸惑った。


「え?私?」


「ああ。ネネは勇者の力を受け継いだことをどう思ってんのかなーって、気になってな。」


レイジはそう言った。ネネは少し黙って悩んだ後に口を開いた。


「私は...勇者の力なんて要らなかった。ただただ普通の女の子として生きていければそれだけでよかった。でも、私はなんでか知らないけど、魔族として生まれてきた。だから、本当は闘いたくない。でも、闘わないと私の未来を勝ち取れないのなら、相手が誰であろうとも闘うわ。」


ネネは勇者の力は不要だと思っていても、その現実を受け止めて覚悟を決めていた。それを見たレイジは素直にすごいと思った。


「...そうか。ネネはすごいな。俺は勇者の力が無かったら―って思うばっかりで、現実を受け止めてなかったからな。それを今実感したよ。」


レイジに褒められてほほを赤く染めたネネはフードを深くかぶって顔を隠した。


「そ、そんなに真正面から褒めないでよ。...ちょっと、恥ずかしい...」


ネネはだんだんと声が小さくなっていった。レイジは聞き取れなくて「え?」と聞き返した。するとネネは恥ずかしくて顔をそらした。


「も、もう!何でもない!何でもないから!こっち見ないでよ!」


ネネは恥ずかしさのあまりレイジに冷たい言葉を放ってしまった。レイジはキョトンとした顔をして「あ、ああ。わりぃ。」と言った。そして心の中で不安になった。


『なんだ?俺、なにか嫌われることしたのか?ヤバいな...ネネにだけは嫌われたくないんだが。というか、嫌われたらどうしよう。俺、失恋って事か?ヤダヤダ!!それだけはイヤだ!!ネネのことが好きなのに、ネネに嫌われるとかイヤすぎる!!!』


レイジは心の中でそう思ってネネの言うとおりにした。その初々しい恋模様に姉御はゾクゾクとした。


『こ、この展開は!!?両想いの男女がささいなすれ違いに勘違いして仲が悪くなるパターン!?だとしたらこの後に男女の仲を切り裂く悪い奴が現れてそれを目撃したレイジかネネがあの二人付き合っているのでは?って勘違いしちゃって余計にすれ違って身を引いちゃう展開が...!!?』


姉御は期待と不安を胸に抱きながらその展開を待った。するととある男が現れた。


「なあ、レイジ!そんなに勇者の力がいらねーなら、俺にくれよ!!!」


話しかけたのはゴゴだった。姉御はお呼びでない人物の登場に一気に心が冷めた。


『...まあ、そう都合よく来ないわよね。知ってたし。期待なんかしてないし。...というかなんでここでゴゴなのよ!もっと適任がいたんじゃないの!!?』


姉御は心の中でゴゴに敵意を向けていた。ゴゴは全く気付かずにレイジと話していた。そしてレイジはゴゴの言葉にツッコんだ。


「いやいや!お前はこの勇者の刀を扱えねーだろ!ゴゴは幻獣使いなんだから、幻獣特攻の『神のへそくり』で出来た勇者の刀は握っただけで痛いだろ!?」


レイジは丁寧に説明しながら言った。ゴゴはガッハッハと笑った。


「でもよ!レイジは炎の幻獣使いなのに平気だろ?だから俺も慣れれば平気になるんじゃねーか!?」


ゴゴはそう言った。レイジはゴゴのバカな発言にため息をついた。


「慣れればって...慣れるもんじゃねーだろ。俺だってなんで神のへそくりである、勇者の刀が扱えるのか、わかってねーんだから!...いや、もしかしたら、初めて勇者の刀に触れる者限定で発動する特殊な効果か?だから俺が幻獣使いでも大丈夫だった?その可能性は大いにあり得るな...」


レイジはいつもの考察タイムに突入した。そしてゴゴはそんなレイジの隙を見て勇者の刀を握ってみた。するとゴゴの手のひらは焼けるような熱さを感じた。


「あっつーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!?」


ゴゴは思わず大声で叫んで手のひらにフーッと息を吹きかけた。レイジはハッと現実に戻った。


「ゴゴ!!?なーにやってんだ?お前?」


ゴゴのバカな行動にレイジはツッコんだ。ゴゴはへへへと笑った。


「いけるかと思ったが、やっぱダメだった!」


ゴゴはニッコリと笑った。レイジはそんなバカすぎる行動にため息が出た。


「ゴゴ...お前、頭大丈夫か?なんか、その行動すべてが怖いと感じてしまうよ。」


レイジはポロッと本音を漏らした。ゴゴは眉をひそめた。


「俺が...怖い?」


ゴゴの言葉にレイジは「やべ!」と言葉を漏らした。ゴゴは聞いた。


「なあレイジ。お前は俺のことが怖いのか?なんでだ?なにか怖い所でもあるのか?」


ゴゴは全く気にすることなく聞いた。レイジは気まずそうな顔をして重たい口を開いた。


「まあ、なんだ。あのー。...ちょっとな。ゴゴの行動が全く理解できなくて、怖いんだよ。次に何するのか、わかんねーからな。」


レイジはめちゃくちゃ気を遣いながら言った。ゴゴはガッハッハと笑った。


「なんだ!そんな事か!それなら気にするな!俺は常に闘う事しか考えてねーから!」


「いや、俺もそう思ってたんだが...」


レイジはそう言って周りを気にした。


『この話題はみんながいるところで話すもんじゃねーな。』


レイジはそう思い、ゴゴを連れて離れた場所へと移動した。そこでレイジの思っていることを話した。


「...お前がダンたちを殺したことが、気になってな。闘う事しか頭にない奴の行動じゃなかったからな。だから、そのー、怖くなったんだよ。」


レイジの発言にゴゴは真面目な顔をして答えた。


「そうか。あの行動はたしかに俺らしくなかったな。まあ、なんでダンたちを殺したのかって言うと、レイジがダンたちを見捨てらんなかっただろ?だから、無理にでも諦めてもらうために殺したんだ。」


ゴゴはニッとさわやかな笑顔を向けた。その笑顔がレイジは逆に怖かった。


「...なんで、笑ってられるんだ?ダンたちを殺したのに...」


レイジはうつむいて目を合わせずに言った。ゴゴは頭をかきながら言った。


「うーん。この場合は笑わない方が良かったのか?だとしたら悪かったな。」


ゴゴは真顔で言った。その感情の読めない行動にレイジは恐怖を感じた。


「悪かったなって...別に悪いわけじゃねーよ。ただ、ダンたちを殺したのに平然としているところが変なんだよ。もっと、罪悪感とかないのか?」


レイジは聞いた。ゴゴは一瞬考えてから言った。


「わかんねーな。」


「わかんないってなんだよ?何がわかんないんだよ?」


レイジはイライラしながら言った。ゴゴはまた考えてから言った。


「俺の...気持ち?それがわかんねーんだよな。俺は。」


「はあ?どういうことだ?」


レイジはゴゴの言葉が理解できなかった。そしてゴゴはうーんと悩んでから言った。


「これは、姉御から言うなって言われてるんだけどな。俺は感情が無いんだよ。」


「え?」


ゴゴのとんでもない発言にレイジは言葉を失った。ゴゴは続けて話し始めた。


「生まれた時からそうなんだ。嬉しいとか、悲しいとか、そういった感情が無いんだ。いつも笑ってんのはその方が周りの人間から好かれるかだ。人間は笑っている人間が好きみたいだからな。」


ゴゴは淡々と話し始めた。レイジは言葉をはさむ余裕も無く、ただただゴゴの話を聞いていた。


「だから俺はよく間違うんだ。ダンたちを殺した後も笑顔のままだと変なんだろ?そういう所がわかんねーんだ。だから、俺が間違ったことしたなら謝るよ。ごめん。」


ゴゴは頭を下げた。レイジは言葉を失ったまま立ちすくんでいた。


「...その話、本当なのか?」


レイジは聞いた。ゴゴは顔を上げた。


「ああ。俺には感情がない。だから、レイジの気持ちも全くわかんない。だから今回のようなミスをするんだ。悪いな。」


ゴゴはそう言った。レイジはそれが嘘ではない事を理解した。今話しているゴゴの顔が全くの無表情なのが決定的な証拠だったからだ。レイジは納得した。


「...なるほどな。ようやくわかったよ。ゴゴのことが。」


「...そうか。でも、これは姉御には内緒にしといてくれよ?言ったら俺は殺されるからな。」


「...ああ。言わねーよ。そして...ありがとな。ゴゴ。」


ゴゴはお礼を言われたことが理解できなかった。


「ん?なんでお礼を言われたんだ?なにかしたのか?俺は?」


「いや、なんというか、ようやくお前のことが理解できたからな。それに、そんな秘密を打ち明けてくれたことに感謝してんだ。俺のことを信頼しているって事だろ?それとも、そんな感情すらも無いのか?」


レイジは聞いた。ゴゴはガッハッハと笑った。


「ああ!たぶん無いな!でも、何でか分かんねーけど、レイジになら言ってもいいかなって思ったんだ。」


ゴゴは笑って言った。その言葉に重みを感じなかったが、レイジはそれでも嬉しかった。


「そうか。まあ、お前のことがわかってよかったよ。」


そう言ってレイジとゴゴは姉御たちのもとへと歩いて行った。

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