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星の勇者  作者: アシラント
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勇者集合

レイジたちは王のいる城へとたどり着いた。城は白色の外壁に青色の屋根、茶色の扉と、まさに城といった外観だった。


「おお、ユダ殿!我らが勇者様!お待ちしておりました。」


門番はユダに近づいてきた。


「待っていたとは、どう言うことでしょうか?」


ユダは眉間にしわを寄せた。


「たった今勇者様全員を招集したところです。ユダ様を探しに行きましたが、なかなか見つけられず困っていたところでした。」


ユダは眉間のしわを緩めてニタァっと笑った。


「ケッケッケ。それはそれは、ご苦労様です。私は子供の頃からかくれんぼで見つかったこともないですし、誰かを見つけたこともなかったものでして。私は生まれながらにして変なスキルを身に付けてしまったのですよ。今まで役に立ったことは一度もありませんよ。ケッケッケ!」


ユダは自虐ネタを言っている。誰一人として笑っていない。それどころか全員が少し引いている。門番は苦笑いをしている。


「ははは......集合場所は二階へ上がって右手奥の扉です。」


門番は敬礼して持ち場に戻った。


「なあユダ。なんでここは城みたいなデザインなんだ?もっと機能的に便利な構造に建てることもできただろ?」


レイジは自身の中に湧き上がった疑問を投げかけずにはいられなかった。


「なんでもこの街の王様はこういう城が大好きで多額の費用をかけて建てたらしいですよ。」


ユダは桟橋を渡りながらレイジの疑問に応えた。


「うげぇ、わがままー。」


あんこは軽蔑した声色で言った。


「全く、こんな時代だってのに王様はよほどおめでたい人らしいねぇ。」


姉御は首を振りながら言った。


「へへへ、ここの王様とは気が合いそうだな!」


ゴゴはシンパシーを感じた。


「なるほど。憧れが原動力ってことか?」


レイジは王様の行動原理を予測した。


「さあ、ここが他の勇者様がいらっしゃる部屋らしいですね。皆さん、対面する覚悟はよろしいですか?」


ユダは扉に手をかけながら言った。レイジは固唾を飲み込んだ。


「ああ!......開けてくれ。」


レイジは呼吸を整えた。それを見届けてからユダは扉を開いた。扉の中は応接室の様な場所だった。真ん中に大きな丸いテーブルがあり、それを囲んで椅子が六つ用意されていた。一番奥には冠を被った男が座っていた。おそらく王様だろうとレイジは思った。


そしてその右隣にはテーブルに足をあげて銀色の靴を見せる様に座っている男がいた。真っ黒のカウボーイハットを被り、白のシャツに黒のジャケットを羽織り、真っ黒なズボンを履いていた。


「ん?ようやく来たか。嘘つきのカスどもが。」


その男はこちらを見つけると敵意剥き出しの言葉を投げつけた。


「こら!まだ嘘つきだと決まったわけじゃないだろう!言葉は慎重に選ぶんだぞ!」


王様の左隣に座っていたとても姿勢の良い青年が先ほどの男に注意した。彼は金髪でおでこにオレンジ色のバンダナを巻いており、青色のマントを羽織り、白色のタイツの上にオレンジ色の服を着て、茶色のベルトを巻いていた。腰には銀色の剣を携えていた。


「おお!ユダ殿!そしてそちらの赤髪の方が五人目の勇者様ですな?外門の門番から報告を受けました。ささ、空いている席にお座りください。」


王様は二人の言い合いをよそにユダとレイジに話しかけた。ユダとレイジは一礼して空いている席に座った。姉御たちはレイジの後ろに立った。


「......」


レイジの左にユダが座り、右にはもう一人の勇者がいた。銀色のマントを羽織り、全身を隠し、フードで頭も隠していた。わずかに見える顔は、マスクで覆われていて、目はサングラスをかけていた。まさに不審者そのものといった風貌だった。


王様は全員が座ったことを確認して、口を開いた。


「本日はお集まりいただきありがとうございます。本日集まっていただいたのは、伝説の勇者の装備が全て揃ったからであります。」


「ほぉ、ついに揃ったか。じゃあそいつを全て俺によこせ。本物の勇者は俺だからな。」


真っ黒ジャケットの男はカウボーイハットから鋭い眼光を光らせながら言った。


「こらこらドナルド君。まだそうだと決まったわけじゃないだろう?それを確認するためにも集まっていただいたんだから。」


王様はドナルドをなだめた。ドナルドはツーンと王様の言葉を無視した。王様は咳払いをして、話を続けた。


「まあ、ドナルド君の言った通り、十七年前の伝説の勇者は一人でした。そして、勇者の装備の力を最大限に引き出せるのは勇者だけなのです。一般人も扱うことはできますが、力をうまく引き出せないのです。なので今日集まっていただいた皆様が話し合って、誰が勇者なのかを見極めて、その者に勇者の装備を託したいと思います。何か意見がある方はいらっしゃいますか?」


王様は話し終えると五人の出席者たちに目を配った。そして一人が口を開いた。


「......全員が勇者って可能性は無いの?」


口を開いたのはレイジの隣に座っていたマントで全身を覆った人だった。その声はとても可愛らしい女性の声だった。王様はその質問に対しすぐさま返事をした。


「うーむ、可能性としてはありますが、十七年前は一人だったのにいきなり五人に増えるとはやはり考えにくいですね。こんなことはあまり言いたくありませんが、勇者を偽っている可能性の方が高いかと思います。その場合、本物の勇者は勇者の装備の五分の一しか持っていないことになります。それでは復活した魔王を倒すことは困難だと思われるので、やはり一人に集めたいと思いますね。」


「そう......」


マントの女は納得した。ドナルドは呆れた顔でため息をついた。


「まあ、まずは自己紹介から始めましょう。それでは、ドナルド君から時計回りでお願いします。」


王様に言われてドナルドは顔を上げた。


「俺はドナルド・ダグラス。一週間前、勇者のブーツを偶然見つけて、俺が勇者であるとわかった。だから装備をよこせ。」


ドナルドは依然として敵対心を放ちながら自己紹介をした。他の四人はもはや何も言わずにうつむいた。


少しの沈黙の後に、ドナルドの隣の席に座っていたマントの女が立ち上がった。


「私は、ネネ。」


ネネはそれだけ言って座った。そしてレイジが立ち上がった。


「俺の名前はレイジ。俺も一週間前に勇者の刀を見つけたんだ。まあ、誰が勇者なのかはわからないけど、魔王退治なんていう面倒くさいことを引き受けてくれるのなら、喜んでこれを渡すよ。」


レイジのその発言に、ドナルドは眉を寄せてレイジを睨んだ。


「お前、魔王討伐がしたいんじゃないのか?」


「うーん、魔王が何者なのかは知りたいけど、魔王を倒すことには興味がないね。むしろ自分が一体何者なのかを知りたい!」


レイジは目を輝かせながら答えた。その答えにドナルドは驚き、笑った。


「わっはっは!そんな考えの奴もいるのかよ!お前、相当バカだろ?魔王を討伐すればその後の人生は一生安泰なんだぞ?そんな最高に美味しい話になんで興味がねぇんだよ。」


ドナルドは小バカにした喋り方でレイジに問いかけた。レイジはその態度を気にも留めずに答えた。


「安泰だとか安定だとか、そういうのには興味がないんだよ。俺は俺の気の向くままに生きてるだけだからな!魔王退治は興味がない。だからやりたくないんだよ。ただそれだけだよ。」


レイジは無邪気な笑顔で答えた。ドナルドは「りょーかいー」と小バカにしながら言った。


レイジは座り、ユダが立ち上がった。


「私の名前はユダ。本日は勇者である皆様にお会いできてとても感動しています!まさに運命を超えた出会いであるように感じます。」


ユダはギョロギョロと他の勇者たちを見ていた。その目は感動と喜びに満ちたものだったが、他の勇者たちは気持ち悪がっていた。王様は苦笑いした。


「あ、ありがとうユダ君。じゃあ最後に、ブレイブ君。お願いするよ。」


王様に言われてブレイブは自信に満ち溢れた表情で立ち上がった。その頭は金髪で額にはオレンジ色のバンダナをしており、青色のマントに黄色のシャツ、オレンジ色の腰巻きにベージュ色のズボンを履いていた。顔はかなりの美形で、瞳は青色に染まっていた。


「僕の名前はブレイブ!僕も一週間前にこの勇者の剣を手にしたんだ。その時になんだか変な記憶が頭に溢れてきたんだ。その記憶では僕は勇者って呼ばれてた。だから僕は自分が勇者の生まれ変わりなんじゃないかなって思ったんだ!」


ブレイブの発言に勇者候補の全員が反応し、頭を上げてブレイブを見た。そしてドナルドがまず先に言葉を発した。


「なに?お前もその時に勇者の記憶らしきものが頭に流れてきたのか?」


「それ、俺もだ!」


「奇遇ですねぇ。私もそうなんですよ。ケッケッケ!」


「...わ、わたしも。」


ドナルド、レイジ、ユダ、そしてネネは自身がブレイブと同じ体験をしたことを驚きながら話した。


「じゃあ、ここにいる五人はみんなが勇者ってこと?勇者って増えるものなの?」


ブレイブは他の勇者たちの反応を見て驚き、質問した。真っ先に反応したのはドナルドだった。


「いや、それはおかしい。伝説の勇者はたった一人だった。それは人類全てが知る常識だ。それが増えるわけないだろ。誰かが嘘ついて本物の勇者を騙そうとしてるに決まってんだろ。魔王の手下が人間の姿だったって話は聞いてんだ。きっとそいつが紛れ込んでるんだろ。」


ドナルドは依然として疑いの眼差しを他の勇者四人に向けた。重苦しい沈黙が流れる。その沈黙を破って、ネネが喋り出した。


「......あの、もしかしたら、私たちの武器に勇者の力が宿っていたって可能性は無いの?それをたまたま手にしたのが私たちなだけであって......」


「なるほど、たしかにその可能性はあり得そうだな。」


レイジは顎に手を当てながら頷いて言った。


「いや、それは無いな。」


ドナルドはキッパリと言い切った。レイジは眉間にしわを寄せた。


「どうして?」


その問いにドナルドは自信満々に答えた。


「なぜなら、俺は子供の頃から恐ろしく強かった。喧嘩で負けたことは一度もねぇ。それはな、俺の中に別の力が宿っているからなんだよ。俺はガキの頃からそれを感じてた。そして勇者のブーツを手にした時に、その正体がわかった。それは勇者の力だったんだよ!」


ドナルドはドヤッという顔をしながら言った。レイジはぽかーんとしながら「はぁ。」と言った。


「ケッケッケ。それは何かの勘違いという可能性は無いのですか?ドナルド殿。」


ユダはケタケタと笑いながら質問した。ドナルドはその態度に「あぁ?」と苛立ちを含めた言い方をした。


「それぐらいの特別な力は誰にだってあるものですよ。私だって子供の時から頭が良く、周りの大人たちからは天才児だと言われてきましたよ。なのでそれだけの体験談であなたを勇者であると認めるには、少し説得力に欠けると思いますよ。」


ユダは相変わらず不気味な笑みを浮かべながら話した。その態度にドナルドはイライラが込み上げてきた。


「あ?なんだぁ?俺の話が信用ならねぇってのか?」


「いえいえ、そういう事ではなくてですね、その話が本当だとしても、あなたに私たちの勇者の装備を渡す事は難しいと言いたいのです。」


「俺の力が信用ならねぇってのか?ならやり合ってみるかぁ!?気持ちわりぃギョロ目野郎がよぉ!?」


ドナルドは立ち上がり、テーブルに片足を乗せた。そしてユダに敵意の眼差しを向けた。そんな状況でもユダは不気味に笑い続けていた。


「......どうやら、チカラで示すのがあなたにとって一番効率よく黙らせられるようですねぇ。喧嘩は好きではありませんが仕方ありません。少々遊んであげましょうか。」


ユダはドナルドを挑発した。その態度にドナルドはさらに怒りのボルテージを上げた。


「上等だ。その自慢の目ん玉ひん剥いてやるよ。」


両者は互いに睨み合い、一触即発の状況になった。王様はアワアワと慌てていた。


バンッ!!


突如として入り口の扉が勢いよく開かれた。その音に部屋にいたものたちは全員が扉の方を見た。そこにいたのは息を切らした兵士だった。


「はぁはぁ、ほ、報告です!東にある平原で、幻獣の出現を確認しました!幻獣は、真っ直ぐにこちらへと向かってきています!」


「なんだと!?幻獣がこの街に向かってきているだと!?」


王様は机を叩きながら立ち上がって言った。


「すぐに全兵を集めよ!対幻獣用の装備を整えさせて、幻獣を迎え撃つぞ!」


王様の指示に周りにいた兵士たちは二つ返事で走り出した。そして王様は座り込み、頭を抱えた。


「なんという事だ。よりにもよって予備シールドしか無い今を攻め込まれるとは。」


王様は頭を掻きむしった。その様子を見てブレイブは王様の肩に手を置いた。


「安心しなよ!今ここにいるのは、大体が勇者なんだよ。つまり、幻獣なんかぱぱっとやっつけちゃうってこと!」


ブレイブは屈託のない笑顔を浮かべながら言った。王様は驚きと喜びを感じた。


「おお!ブレイブ君!我々と共に戦ってくれるのか!?」


「ああ!もちろん!困っている人を助けるのは、勇者として当たり前だからね!」


ブレイブは腰に携えた勇者の剣を抜いて言った。


「じゃあみんな!一緒に幻獣退治に行こう!」


そう言うとブレイブは勢いよく部屋を出ていった。ドナルドは舌打ちをした。


「なんで俺たちが行くことを前提で話してんだよ。」


ブツブツ言いながらもドナルドは部屋を出ていった。去り際にユダを睨みつけた。


「ケッケッケ。では私も行きますか。ドナルド殿の強さも見てみたいですしねぇ。」


不気味な笑顔を浮かべたままユダは出ていった。 そして、何も言わずにネネも出ていった。


「あー、じゃあ、どうしようか?姉御。」


レイジは姉御に意見を求めた。あんこが割り込んで言ってきた。


「そりゃ!行くに決まってるでしょ!むしろ行かない理由なんてあるの?」


正義感に燃えるあんこは興奮しながらレイジに言ってきた。レイジは「はははー、やっぱり?」と言った。


「まぁ、あんこの言う通り、行かない理由がないからね。それにここで行けば幻獣との戦いの経験が積めるし、この街の信用も得られるしでいいことばっかりだからね。」


姉御は行くことに賛成した。レイジは「わかった。」と言った。


「よし、じゃあ行こうか。ゴゴも来るよな?」


レイジはゴゴの方を見た。口から涎を垂らし、目は虚ろなゴゴが立っていた。


「ゴゴ!おいどうした?」


レイジは心配してゴゴの体を揺さぶった。するとゴゴはハッと意識を現実に戻した。


「あぁ、わりぃ、今シミュレーションしてた。」


「シミュレーション?なんの?」


「なんのって、あの勇者達と戦うシミュレーションに決まってんだろ!ああああああああああ!!!戦いたああああああい!!!もーーーう興奮がおさえられねぇぇぇぇぇぇ!!!」


ゴゴは切断されたイカの足みたいに体をくねらせながら言った。


「はははは早く!!!!早く行こうぜ!!!あいつらが戦ってるところが見たいっ!!」


ゴゴはレイジの手を引いてドタドタと部屋を出ていった。




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