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星の勇者  作者: アシラント
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敗走からの話し合い②

レイジは焚火の前に戻って姉御たちにドナルドが仲間にならずにファーザーの仇討ちをしようとしていることを伝えた。姉御は頷いて納得した。


「そうかい。やっぱりそうなるかい。」


姉御はそうなることを予想していた。レイジは聞いた。


「姉御は分かってたのか?ドナルドが俺たちと一緒に来ない事を。」


「ああ。まあね。もしルドラータファミリーがまだ残ってたとしたら、話は変わってたと思う。けど、恩人が亡くなったのに勇者としての義務を優先できるほど、ドナルドは器用な人間じゃない。むしろ、今すぐにでも弔い合戦をしたいと思ってるんじゃないかな。」


「そうなのか?ドナルドはなんか、平気そうだったけど...」


レイジは先ほどのドナルドの様子を見てそう思った。姉御はフッと笑った。


「レイジ。あんたの目には平気そうに映ったかい?でもそれは違うよ。ドナルドは誰よりも大きな声で泣き叫びたいんだと思う。でも、あたしらがいるから恥ずかしくて強がってるだけさ。だからドナルドは今すぐあたしらと行動を共にできない。」


姉御はそう言った。レイジはそう言われてからドナルドのことを思い出すと、確かにドナルドの笑顔はぎこちなかったように見えた。


「そうだったのか...姉御はよくわかったな。俺は全然気づけなかったよ。」


「まあね。あたしはこれでもあんたたちをたった1人で育ててきたんだ。相手の感情を読み取る力は生きる上で大切だったからね。嫌でも身についたのさ。」


姉御は少し自嘲気味に言った。しかしレイジはそれにも気付かずに単純にすごいと思った。


「そうなのか。やっぱ姉御はすごいな。」


レイジと姉御のやり取りを聞いていたアルバーニとフォルキットは互いにフッと笑った。レイジはそれを見て疑問に思った。


「なんだ?なにか笑えることがあったか?」


レイジの質問にアルバーニは笑顔で答えた。


「ああ。ドナルドの言葉を聞いてな。あいつはてっきりお前たちと旅をすると思ってたからな。俺たちと同じ目的で、嬉しいし、少し寂しいって思ってな。」


「寂しい?」


レイジはなぜその感情が出てくるのか、分からなかったから聞いた。アルバーニは答えた。


「ああ。あいつは、確かに俺たちの中じゃ飛びぬけて強い。だが、あいつはまだ子供だ。正確な歳はわからんが、20もいってないだろう。だからこそ、ファーザーはドナルドには自由に生きて欲しいって思ったんだと思う。俺とフォルキットはもう長い事マフィアやってるからな。今更変わろうとしても難しい歳なんだよ。」


アルバーニはそう言った。フォルキットはフフッと笑って言った。


「そうですね。私もほかの生き方ができない不器用な人間です。マフィアとして生きていくのが最適でしょう。だからこそ、ドナルドにはこの道に染まりきって欲しくない。そう思います。」


フォルキットはそう言った。レイジは頷いた。


『そうか。2人はドナルドのことをとても大事に思っているんだな。だからマフィアという道よりももっと自由な道に進んで欲しいんだな。』


レイジはそう思った。そしてその後はお互いに話し合いながら眠りについた。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





魔王城では、帰還したガイアと牛鬼が膝をついて魔王に報告をしていた。


「魔王様。申し訳ねぇ。わしがいながら勇者パーティーの女を1人さらうっちゅう目的を果たせんかった!この詫びは必ずするっけ!」


牛鬼は頭を下げながら言った。鉄の仮面をかぶった魔王はフーッと息を吐いてから言った。


「牛鬼。顔を上げよ。」


その低く唸る機械音の声に、牛鬼は恐る恐る顔を上げた。すると魔王は牛鬼の前に立ち、優しく牛鬼の肩に手を置いた。


「牛鬼。お前はよくやった。勇者たちに実力の差を見せつけるという一番の目的は果たした。お前でなければ達成できなかっただろう。謝ることは無い。次の作戦に向けて準備を整えてくれ。」


魔王は牛鬼をねぎらった。牛鬼はその懐の深さに感動し、頭を下げた。


「魔王様!なんちゅう懐の深さじゃ!わしは...わしは感動すったぞ!」


牛鬼は涙を流しながら言った。魔王はよしよしと頭をなでてギュッと抱きしめた。


「いいんだ。牛鬼よ。魔族が生き残るためにはお前の力が必要だ。今は生きて帰ってきたことが何よりも嬉しい報告だ。しっかりと休息をとるがいい。」


魔王はそう言ってまるで赤子をなだめるように牛鬼に優しい声色で言った。牛鬼は涙を流して勢いのいい返事をしてその場を後にした。そしてガイアが言った。


「魔王様。俺もして欲しい。」


ガイアは頭を下げながら待った。そして魔王はフフッと笑ってからガイアにもよしよしと頭をなでてギュッと抱きしめた。


「ガイア。お前の作戦以外の行動には怒っているんだぞ?」


魔王はガイアの頭をなでながら言った。ガイアは頷いた。


「わかってる。ゴゴをボコボコにしたのは反省。」


「わかっているならいい。むやみにゴゴと闘うな。あいつは想像以上の速さで強くなっている。」


「うん。」


ガイアは魔王の抱擁(ほうよう)に心地よくなっており、簡単な返事しかできなかった。それでも魔王は話を続けた。


「それから、服を着なさい。風邪ひくよ?」


「それはヤダ。」


ガイアは服を着ることだけはキッパリと断った。その反応を見て魔王はクスッと笑った。


「そんなに嫌なの?」


「うん。」


ガイアはそっけない返事だったが、とても固い決意がその一言で表れていた。魔王はそれを聞いて、もう服を着ろとは言わなかった。


「まあ、そんなに着たくないのならそれでもいい。それで、チュー五郎とチューロックは無事なんだな?」


「うん。ふたりはどうやらレイジとあんこと闘って、俺たちにいる場所まで運ばれたらしいけど、姉御のピンチを見た2人に置いて行かれたらしい。だから転送装置を使って帰ってきたらしい。」


「そうか。じゃあ、害鼠とチューナナとチューヤは死んだんだね?」


「うん。ふたりは、死体は確認してない。けど、生命反応が無かった。害鼠は...負けてるとは思ってなかった。」


「そうか。分かった。ガイア。ご苦労だった。」


そう言って魔王はガイアから離れて玉座に座った。ガイアは少し物足りない表情をしてその場を去っていった。


『チューナナ。チューヤ。すまない。勝てないとはわかっていたが、レイジたちの実力を知りたかったから行かせてしまった。そして害鼠。お前は絶対に死なないと思っていた。ドナルドがお前以上に強いとは全く予想していなかった。本当にすまない。』


魔王はそう心の中で思ってため息をついた。


そしてガイアが魔王の部屋から出るとそこにはウィンドがいた。


「どうやら、失敗したらしいですね。あなたらしくもない。」


ウィンドは皮肉と慰めの両方の意味を込めた言葉を言った。ガイアはツーンとした態度でそれを無視した。ウィンドはそれでも言葉をつづけた。


「牛鬼と一緒だったというのに、こんな簡単な任務に失敗するとは...初めての経験ですかね?」


ウィンドはまた嫌味を言った。ガイアはムカついてウィンドをにらんだ。ウィンドはフフッと笑った。


「おやおや、そんな目で見られるとは、怖いですねぇ。魔王様に泣きついて許しを()いましたか?目が(うる)んでいますよ?」


ウィンドはさらに嫌味を言った。ガイアはさすがにキレて中指を立てた。


「お前の脳みそにちんこぶち込んでやろうか?」


ガイアは汚い言葉で(ののし)った。ウィンドはハッハッハと高笑いをした。


「いい気味ですねぇ!私は失敗をしないあなたがどうにも好きになれませんでした。ですが、今のあなたを見てなんだか親近感がわいてきましたよ!」


ウィンドはニヤニヤとイヤーな笑い方をした。ガイアは舌打ちをしてその場を去ろうとした。ウィンドはそれを止めずに、ガイアに聞こえるようにわざと大きな声で言った。


「ああそうそう!そういえば!今度の作戦は問題児のあなたを除いたファイア、アイス、そして私の3人で行くつもりらしいですよ!いやー、これほど大きな作戦なのに、あなたがいないのは寂しいな―!」


ウィンドはそう言ってケタケタ笑った。ガイアはイライラしながらもその場を去っていった。

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