敗走からの話し合い
レイジたちはスラムタウンから逃げ出し、荒れた荒野の中を日が落ちるまで走り続けた。そしてレイジたちは野宿を始めた。
「よし、これで一応の準備は整ったな。」
レイジは周りが岩で囲まれている場所にテントを張って食事の用意をした。それをドナルド達も手伝い、レイジたちは焚火の前で食事をし始めた。そしてレイジがドナルドに話しかけた。
「なあドナルド。大丈夫か?」
ドナルドは串に刺された肉をほお張りながら答えた。
「まあ、大丈夫だ。お前らにはみっともねぇ所を見られちまったな。だが、もう大丈夫だ。大丈夫。」
ドナルドはうつむきながら言った。レイジは明らかに大丈夫ではない様子を見て心配になったが、これ以上踏み入るのは失礼かと思い聞かなかった。代わりにアルバーニとフォルキットに聞いた。
「じゃあ、アルバーニとフォルキットは、大丈夫なのか?」
その質問にアルバーニが答えた。
「まあ、ルドラータファミリーが無くなってファーザーまで失っちまったけど、俺らは大丈夫だ。ファーザーの最期の遺志を継いでいくっていう役目もあるしな。泥水すすってでも生きていく覚悟だ。」
アルバーニの答えにフォルキットは頷いた。
「そうですね。アルバーニと同じ意見です。ファーザーへの恩義は、生きていくことで果たしていく気ですね。」
そう言ってアルバーニとフォルキットは串焼き肉を食べ始めた。そしてアルバーニは言った。
「まあ、ドナルドは俺たちの中でもファーザーに対する恩を一番感じてたからな。ファーザーを失って一番辛いのはドナルドかもしれねーな。」
アルバーニの言葉にドナルドはフーッと息を吐いて答えた。
「まあ、確かに辛いとは思う。だが、いつまでも泣いてらんねーだろ。それに、大切な物を失うのはこれが2度目だしな。」
「2度目?」
レイジは聞き返した。ドナルドは頷いた。
「ああ。あんまり話したくはなかったんだが...」
そう言ってドナルドは口を閉ざした。するとレイジは気になって聞いた。
「言ってくれないか?ドナルド。俺はお前の過去に何があったのか、気になるよ。それに、どうしてそんなに立ち直りが早いのかも気になるしな。」
レイジに言われてドナルドはフーッと息を吐いてから話し始めた。
「いいぜ。お前らは一緒に魔族を倒した奴らだし、ほとんど関係ないファーザーを助けるために動いてくれた恩もある。だから、話す。といっても、面白い話じゃねーぞ?」
ドナルドの言葉にレイジは頷いた。
「ああ。大丈夫だ。聞かせてくれ。」
「そうか。まあ、じゃあ簡単に話す。...俺は、もともとスラムタウンの生まれなんだ。親が誰でどうしてスラムタウンにいたのかは知らねー。俺は赤ん坊のころに捨てられたんだと思う。まあ、スラムタウンじゃよくある話だ。」
ドナルドの境遇を聞いてあんこは言った。
「うげー。ひどい町!」
ドナルドはフッと笑って話を続けた。
「そこで俺は教会に孤児として育てられた。まあ、あんまりいい思い出はねーな。神父もシスターも金のために俺たちを育ててただけだったからな。」
ネネは聞いた。
「金のために?」
ドナルドは頷いて話し始めた。
「ああ。どうやらその教会は子供を育ててニッコリーニファミリーに使い捨ての駒として引き取るっていう契約を結んでいたらしい。だから反抗的な子供は飯抜きだったり教育という名の暴力を受けていた。そしてそれでも反抗的な子供は教会から追い出したな。」
姉御はフーッとため息をついた。
「ひどい話だねぇ。」
「まあ。そうだな。あんたたちの感覚で言うならひどいかもな。だが、スラムタウンの子供たちにとっては生き残る最後の手段だったからな。それが地獄のクモの糸だったとしても、掴んで登るしかなかったってわけよ。」
ドナルドはそう淡々と言った。昆布は言った。
「でも、ドナルドはニッコリーニファミリーじゃなくて、ルドラータファミリーにいたでござるよな?」
「ああ。そうだな。俺は素行が悪くて教会を追い出されたからな。その時は、8歳だったか?まあ、そんなわけで追い出された俺は、俺より前に追い出された子供たちと手を組んで盗みとかでその日暮らしさ。まあ、俺はその中でも飛びぬけて強かったから、大人相手のストリートファイトとかでも稼いでいたがな。」
アルバーニは少し笑いながら言った。
「ああ。俺もそのころはすでにルドラータファミリーの一員だったが、うわさは聞いてたぜ。なんでもスラムタウンに大人ですら勝てねーガキがいるってよ。」
ドナルドはフッと笑った。
「ああ。まあ、そんなわけで俺が11歳の頃だ。俺たちの存在を疎ましく思った連中が、俺がストリートファイトをしている最中に俺の仲間たちを全員皆殺しにした。あの時の景色は忘れらんねーよ。アジトに戻ったら全員が目玉をえぐられた生首として並んでたからな。しかも、俺の好きだった女の子は強姦の末に殺されていた。」
その言葉で場の空気が凍り付いた。そしてドナルドは淡々と話を続けた。
「俺は怒りで我を忘れた。俺は誰がやったのか突き止めるために俺に恨みのある奴らを片っ端から拷問した。そしてストリートファイトの運営が俺を殺すためにマフィアに依頼したことが分かった。そして俺はその運営をあいつらと同じ殺し方で殺してマフィアタウンに乗り込んだ。」
ドナルドの話を全員が黙って聞いていた。ドナルドは奥歯をかみしめて言った。
「俺はその時マフィアの派閥が3つあることを知らなかった。だからとりあえず道を歩くマフィアを全員ぶっ殺そうとした。そこで最初に襲ったのがルドラータファミリーだった。」
フォルキットはフフフと笑った。
「そうでしたね。あの時のドナルドはまさに怪物でしたね。」
ドナルドはフフッと笑った。
「ああ。そうだな。俺もあそこまで怒りで我を忘れたのは初めてだった。そして、その時に出会ったのがファーザーだった。ファーザーはファミリーを殺されたことで出てきた。そして俺と闘った。その時、俺は初めて俺より強い奴と闘った。そして結果は俺の負けだ。まあ、かなりいい勝負はしたがな。」
アルバーニはガッハッハと豪快に笑った。
「そうだな!ファーザーは言ってたぞ?『あの小僧。わたしに本気を出させた...』ってな!ファーザーめっちゃ嬉しそうに言ってたなー!」
ドナルドは照れくさそうに笑った。
「そうだったのか。まあ、とりあえず俺は負けて殺されると思った。だがファーザーは俺に理由を聞いた。そしてそれを知ったファーザーは『それはうちのやり方じゃねえ。マルテーゼのやり方だな』って言って俺を殺すことはしなかった。そして言ったんだ。『小僧。わたしのファミリーに入らないか?』って。当然俺は断ったさ。だが、その日から俺はファーザーにスカウトされまくった。そして俺の復讐の手伝いをするなら入ってやるって言った。ファーザーは了承した。そして俺は復讐を果たしてファミリーに入ったんだ。」
ドナルドは話し終わって少しの間感傷に浸っていた。そしてドナルドは立ち上がった。
「まあ。これが俺の過去だ。仲間を全員殺されたときに思ったんだ。力が無けりゃ、だれも守れない。力さえあれば、なんでもできるってな。だから俺は力を求めるんだ。誰にも負けないように、誰にも俺の大切な物を奪わせないようにな。」
そう言ってドナルドは夜の見張りに行った。そして残されたレイジたちは少し重たい空気のまま話し始めた。
「...まさかドナルドの過去にそんなことがあったなんて。俺は最初に会ったときはイヤな奴だと思ってたけど、それにはちゃんとした理由があったんだな。」
レイジはそう言った。ネネもあんこも姉御もうなずいた。
「そうね。私も、彼とは絶対に仲良くできないと思っていたわ。けど、ドナルドはドナルドで苦しい人生を歩んできたのね...」
ネネはそう言った。あんこもうなずいた。
「そうだねー!意外だったよ!ドナルドは自分のことしか考えてない人だと思ってた!けど、ほんとは大切な人を守るために強くなろうとしてたんだね!ちょっと好きになったよ!」
あんこはふわふわと浮きながら言った。姉御はあんこの頭をなでながら言った。
「あたしも、もっとチンピラなのかと思ってたさ。でも、過去を聞いて納得したよ。ドナルドが初めて会う人間にあそこまで敵意を向ける意味がね。...まああたしとしてはそれよりもドナルドの今後が気になるね。もうマフィアタウンには行けない。だったら、あたしたちと一緒に旅をするのも悪くないんじゃって思うね。」
姉御の発言にレイジは頷いた。
「そうだな!ドナルドと一緒に旅ができるなら、心強いな!なあ、アルバーニとフォルキットは俺たちと旅をする気はないか?」
アルバーニとフォルキットは互いに顔を見合わせてアルバーニが答えた。
「いや、俺たちはねーな。勇者の旅は俺たちの目的とは違うからな。」
「目的?」
レイジは聞いた。フォルキットは答えた。
「ええ。私たちはファーザーの遺志を継ぎます。新たなマフィアを作り上げて、いつかマルテーゼとニッコリーニに復讐をします。そしてマフィアタウンの頂点にルドラータファミリーを築き上げたいと考えております。」
フォルキットの言葉を聞いてレイジは寂しそうに答えた。
「そっか...人それぞれだもんな。それなら、残念だ。」
レイジは肩を落としながら言った。それに対してアルバーニは言った。
「だが、ドナルドは別かもな。」
「えっ?」
「あいつは、勇者の力を受け継いでいる。だから、お前たちの旅の目的は、魔王討伐だろ?」
「うーん。まあ?」
レイジはあいまいな発言をした。レイジとしては魔王討伐には興味がなく、仕方なしにやることだったからだ。
「だから、あいつはお前たちと一緒にいる方がいいのかもな。まだあいつの意思を聞いてねーから分かんねーけど、あいつは元々マフィアに収まる器じゃねーしな。」
アルバーニは言った。フォルキットも同じ気持ちだった。
「そうですね。ドナルドは裏の世界で成り上がる男では無く、表舞台で活躍できる素質がありますからね。マフィアだけの世界では、彼には狭すぎるでしょう。それほどまでに、彼の力は人類にとって大きなものですからね。」
それを聞いてレイジは少しうれしそうに笑った。
「そうなのか!じゃあ、ちょっと本人に聞いてくる!」
レイジは急いでドナルドを追った。ドナルドは闇夜の中に目を光らせて見張りをしていた。
「ドナルド!」
レイジはドナルドに呼び掛けた。ドナルドは周囲を警戒しながらレイジの方に耳を傾けた。
「レイジか。どうした?」
「なあ、ドナルド。俺たちと一緒に旅をしないか?」
「なに?」
ドナルドは予想外の言葉に思わずレイジの方を見た。レイジの顔はとても冗談を言っている顔では無かった。
「ドナルドは勇者だろ?その勇者の使命は一応、魔王を倒すことだろ?だったら、一緒に旅をした方がいいだろ?」
レイジの言葉にドナルドは少し考えた。そして笑いながら首を横に振った。
「ありがたい誘いだが、俺は断らせてもらう。」
「ええ!?なんでだ?」
レイジは聞いた。ドナルドは星空を見上げながら答えた。
「俺は、何がしたいのか。よくわかんねーけどよ。今は、今だけは、はっきりしてんだ。ファーザーの仇を取りたい。マフィアタウンを俺たちの手に取り戻したい。だから、俺のこの目的はお前たちの旅の目的とは異なるだろ?だから、断らせてもらう。」
ドナルドはそう言った。レイジはなんとか説得しようとしたが、ドナルドの覚悟の決まった顔を見てこれ以上は無駄だと思い、やめた。
「...そっか。それなら、仕方ないな。でもさ!もし、ドナルドの目標を叶えた後なら!その時は、俺たちと一緒に旅をしてくれるか?」
レイジはそう聞いた。ドナルドはフフッと笑って答えた。
「ああ。もちろんだ。俺の方こそ、よろしく頼むよ。」
そう言ってドナルドは手を差し伸べてきた。レイジはその手を握って握手をした。