マフィアタウンの戦争⑨
納豆丸はジェラルドの首をはねた。そしてジェラルドはようやく動きを止めた。
「危なかったー。死ぬ間際の人間が一番厄介だって、いつも言われてたのになー。」
納豆丸は依然として緊張感のない喋りかたで言った。それを見たバルトロは納豆丸に文句を言った。
「な、何をしているんだ!!危うく死ぬところだったんだぞ!?」
バルトロは納豆丸に怒りをぶつけていた。納豆丸はそれを全く意に介さずにいた。
「はー。そう。でも生きてるし、いいんじゃね?」
「そ、そういう問題ではない!!!私が死ぬかもしれなかったことが問題なのだ!!なにが最強の兵士だ!あのジェラルドに不意を突かれおって!!」
バルトロはギャーギャーと騒いでいた。しかし納豆丸はそれにうんざりした。
「じゃあ、なんだ?そんなに気に食わねーんなら、うちの兵士たちを全員帰らせてもいいんだぞ?そのボロボロの戦力でマフィアタウンの秩序を守れるっていうならな!」
納豆丸は小心者のバルトロに言い返した。するとバルトロは態度をコロリと変えた。
「そ...それは困りますよぉ!この戦争を仕掛けることができたのは、あなたの会社がニッコリーニファミリーと繋がっていたおかげですから!いやいや!失礼なことを言ってしまってすみませんねぇ」
バルトロは急に弱気になって手をこまねいて言った。納豆丸はその小物っぷりにため息をついた。
「まあ、いいや。そんで、逃げたドナルド達を殺せばいいんだよな?」
「はいぃ!そうして頂けるとありがたいですねぇ!」
「ふーん。わかった。じゃあそうする。」
そう言って納豆丸は襟を持ち上げて、そこに付いている通信機で指示した。そして納豆丸はドナルドを追いかけてスラムタウンに向かった。
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ドナルドは失意に引きずられるままスラムタウンを移動していた。
「ここまで来れば、追っ手は来てないか?」
アルバーニは走りながら後ろを振り返った。そこにはレイジたちが走っている姿が見えて、ホッとした。
「よかった。あいつら逃げ切ったのか!」
フォルキットはフッと笑った。
「そうですねぇ。ファーザーが体を張ってくれたおかげでしょうね。」
フォルキットは寂しそうに言った。そしてドナルドは涙を拭きながら立ち上がって走り出した。
「...そうだな。ファーザーが命をかけて守ろうとした俺たちの命を、無駄にするわけにはいかねーもんな。」
ドナルドは無理やり心を立ち震わせた。その無理をしている表情を見たアルバーニはなにか言葉をかけようとしたが、かける言葉が見つからず「そうだな。」とあいまいな返事をするしかできなかった。そしてドナルド達はスラムタウンの出口が見えてきたところで襲撃にあった。
「うおぉ!!?だ、誰だ!?」
アルバーニは突如目の前に立ちふさがった存在に問いかけた。その者は全身をマントやターバンで隠しており、そのスタイルや立ち姿から男だとわかったが、それ以外に情報は何もわからなかった。そしてその襲撃者はなにも語ることなく、アルバーニめがけて襲い掛かってきた。
「く、来るってのかよ...」
アルバーニはメリケンサックを両手にはめて拳を握った。そして襲撃者はゆらゆらと揺れる独特の動きをしながら右手に持っていた小刀で攻撃をしてきた。アルバーニはそれをメリケンサックで相殺して右ストレートを放った。その攻撃をまるで空中を舞う幽霊のようなスラーっとした動きでかわされた。
「なんだ?この動き...全く見たことがないな。」
アルバーニが困惑しているとき、姉御が冷汗をかきながら叫んだ。
「気をつけな!!!この攻撃は、あたしは見たことがある!!!これは...納豆丸と同じ戦闘技術だよ!」
姉御はそう言った。しかしレイジは理解できなかった。
「そうなのか?俺は納豆丸の戦いを見たけど、こんな動きしてなかったぞ?」
レイジの質問に姉御は悩みながらも小さな声で答えた。
「これは、あたしの両親を殺した時のゴゴの動きにそっくりなんだ。本人から聞いたよ。」
「あのゴゴが!?こんな動きを!?」
レイジは信じられなかった。ゴゴといえばゴリゴリマッチョで華麗な動きとは無関係だと思っていたからだ。しかし姉御の真剣な眼差しを見て嘘ではないとわかったレイジは一応納得した。
「...全く想像がつかないけど、ゴゴも昔はこんな動きをしてたんだなー。」
レイジはそう独り言を言い、名刀『憤怒の魂』を抜刀した。そしてあんことネネと昆布も戦闘態勢に入った。そして必死で逃げていたために気づかなかったことにレイジは今気づいた。
「あれ?そういえばゴゴは?」
その言葉に全員が首をかしげた。そしてネネが言った。
「ゴゴなら、ユダに吹き飛ばされたままダウンしていたようだけど...」
その言葉に全員が最悪のケースを想像した。
「もしかして、置いてきちゃったのか?」
レイジは言葉にした。それを聞いた姉御たちは全員額から汗が噴き出た。しかし、その不安を吹き飛ばすようにゴゴは高笑いをしながら登場した。
「ハーッハッハッハ!!まんまと逃げだしてやったぜ!!!」
ゴゴはひとりだけスラムタウンの門の外にいた。なんと、誰よりも先に逃げ出していたのである。それを見たレイジは安堵と呆れを同時に感じた。
「ゴゴ...お前...」
そしてゴゴはようやくレイジたちの姿に気が付いて手を振った。そしてそんなことをしている最中にもアルバーニとフォルキットとドナルドは襲撃者と闘っていた。
「全員いるのか!?だったら早くこいつを倒すのを手伝ってくれ!!」
アルバーニはレイジたちに言った。レイジは頷いて襲撃者に斬りかかった。襲撃者は声を発することなくレイジたちと距離を取った。そしてにらみ合いになった。そしてドナルドがレイジに言った。
「レイジ、気をつけろ。どうやらこいつはタダもんじゃねー。一気に片付けんぞ!!」
「ああ!!」
レイジは二つ返事に了承した。そして謎の襲撃者を倒そうと近づいたところでレイジとドナルドは左右から近づく謎の人物に気づき、その人物の攻撃を防御した。
「なに!?誰だ!?」
ドナルドはそう言ってその姿を見た。するとそれは謎の襲撃者と同じ格好をした者だった。それを見てレイジはすぐに気づいた。
「こいつら、仲間なのか?」
そう思ってレイジとドナルドは一旦距離を取った。マントとターバンをまとった襲撃者は3人になっていた。それを見てレイジはピーンと来た。
「こいつら、全員納豆丸と同じ奴らか!?1人じゃなくて3人もいたのか。」
レイジの言葉にドナルドは言った。
「いや、3人どころじゃなさそうだぜ。」
ドナルドは周囲を見てレイジに言った。レイジは周囲を見た。すると同じ格好の人たちがいたるところに潜んでいた。その数はざっと見渡して15人はいた。そしてレイジは気づいた。
「完全に囲まれている...やばくね?」
レイジは冷静に言った。ドナルドは頷いた。
「そうだな。これだけの強さの奴が何人もいるとなると、正直逃げ切れる気がしねーな。」
ドナルドは半ば諦めのような言い方で言った。レイジもそれは分かっていた。
『対話ができるような相手じゃないし、強引に突破できるような相手でもない。助けに来る奴はいない。...万事休すか。』
レイジはそう思った。そしてレイジに向かってくる襲撃者の攻撃を刀で防いだ時、事態は急変した。
「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
そう叫びながら襲撃者に攻撃を仕掛けたのは、なんと門番の人だった。襲撃者は高くジャンプをしながら宙返りをしてその攻撃を避けた。
「も、門番の人!?」
レイジは驚いた。そして門番の人はレイジたちに言った。
「早く逃げてくれ!!事情は分からないけど、ドナルド様の助けになるなら!俺はここで命を捨てる!!!」
門番の人は襲撃者に無謀な突撃をかました。襲撃者は冷静に門番の人の右手を斬り飛ばした。門番の人は痛みにもだえながらも、左手の拳のみで立ち向かった。
「早く!!!逃げてください!!!ドナルド様!!!」
ドナルドは理解できずにいた。
「な、なんでお前が俺の助けをするんだ?」
ドナルドの疑問に門番の人は痛みに顔をゆがませながらも笑って答えた。
「あなたは、この腐った街であるスラムタウンの希望だった!強ささえあればマフィアタウンに行けるという希望を、俺たちにくださった!それに、あなたはスラムタウンの住人に仕事を与えてくれた!鉱山で働くこと、外の世界に略奪しに行くこと、その仕事のおかげで私たちは生きてこられたのです!」
門番の人は襲撃者の小刀を素手で握りしめて動きを封じた。そして襲撃者に攻撃を仕掛けていったのは門番の人だけではなく、スラムタウンに住む者たちの大勢が加勢した。
「そうだ!俺らはもともとゴミみたいな人間。そんな俺たちにも、あんたはチャンスをくれた!力を示せばあんたの隊に入れると言った!何一つ希望も無く、酒と麻薬と女におぼれていた俺たちが、這い上がれる希望をくれた!!その恩返しを今したいんだ!!!」
痩せて骨が浮き出ているおじさんも別の襲撃者に戦いを挑んでいた。そして多くのスラムタウンの住人がドナルドの為に命を散らしていった。ドナルドはその姿がファーザーの最期に重なり、とてもつらかった。
「もういい!!やめろ!!!お前たちが犠牲になることは無い!!!」
「何言ってるんです!俺たちはただ、俺たちのやりたいことやってるだけなんですよ!!」
「そうだ!!どうせ俺には這い上がれるほどの力はない。なら!恩人の為に死ねるなら本望だ!!」
「あたしだって!このまま生きていくより、ドナルド様に希望を託して死んでいきたい!」
スラムタウンの住人はそれぞれがドナルドに希望を託して死んでいった。その死に顔は、この町に来てから一番満足そうな顔をしていた。そしてドナルドは彼らの願いを一身に受け、感動と罪悪感の涙を流しながら小声で言った。
「...すまない。」
そう言ってドナルドはスラムタウンの門へと走って行った。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
ドナルドに襲い掛かる襲撃者をドナルドは全て蹴り飛ばしながら進んだ。そしてレイジは言った。
「いまだ!ドナルドが作ってくれた道を行くんだ!!!」
そう言ってレイジはドナルドの後ろをついて行った。道中で何人もの襲撃者が襲い掛かったが、ここの住人が命をかけて足止めをしてくれたおかげで容易に斬り殺すことができた。そしてドナルドはスラムタウンの門を潜り抜け、外へと出ることに成功した。そしてレイジたちも遅れながら門を通過した。そこにはゴゴが待っていた。ゴゴの姿を見たレイジはゴゴに言った。
「ゴゴ!!お前!!なんで俺たちを助けに来なかったんだ!?門番の人が助けに来たってのに!」
レイジは怒りをあらわにした。しかしゴゴは全く聞いている態度ではなく、ただただスラムタウンにいる襲撃者たちを見ていた。
「あいつら、俺の知らねー奴らだな...個性のない奴らの量産なんて、パパらしくねーな。」
ゴゴはひとりでブツブツといっていた。それを見たレイジはなんだかゴゴと話し合う気すら起きなくなってきてゴゴを放っておいた。
「もういい!とりあえず!追っ手はまだ来てる!外に出られたけどまだ安心できない!急いでここから離れるぞ!」
レイジはそう言ってさらに走り続けた。しかしドナルドがスラムタウンを見て立ち止まっていた。
「ドナルド?どうした!?早くしないと...」
そう言いかけてレイジはやめた。ドナルドが悲しそうな、寂しそうな表情を浮かべていたからである。そしてドナルドは重たいため息をついて言った。
「...そうだな。ここには、もう帰ってこれねーかもしれねーしな。...行くか。」
ドナルドはそう言って重たい足を頑張って動かしながら歩き出した。それはアルバーニもフォルキットも同じだった。
「ドナルド...」
レイジはそんなドナルドを見て言葉をかけられずにいた。そしてそのままレイジたちはスラムタウンを背に走り続けた。