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星の勇者  作者: アシラント
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マフィアタウンの戦争⑧

ドナルドは子供のように叫びながらアルバーニとフォルキットに連れられて、ニッコリーニとマルテーゼの軍隊を蹴散らしながら撤退していった。その機に乗じて姉御は言った。


「今のうちにあたしらも逃げるよ!」


だが、それをあんこは否定した。


「でも!!このままじゃファーザーさんが!!!」


あんこは誰かを見捨てることなどできなかった。姉御はそれをわかっていたが、ここは心を鬼にして言った。


「あんこ!ファーザーの意思を無駄にする気かい!?ファーザーは自分が犠牲になる道を選んだんだ!それを捻じ曲げることは敵でも味方でもできないことなんだよ!」


姉御は基本的にレイジとあんこの自由意思を尊重してきたが、この場に限ってはそれを押さえつけるように言った。姉御もそんなことは言いたくはなかったが、そうでも言わない限り、あんこはファーザーを見捨てないとわかっていたために強く言った。あんこはそれでも納得できなかった。しかしそれをレイジが説得した。


「姉御の言うとおりだ。あんこ。俺たちはファーザーの意思を無駄にしちゃいけない。ここで死ぬことは、ファーザーに対する最大の侮辱だ。だから俺たちは死んじゃいけないんだ。俺だって、見捨てたくなんてないけど。それでも、この場にボロボロの俺たちが残ったところで勝てる可能性は間違いなくゼロだ!」


レイジはフラフラと立ち上がり、うつ伏せに倒れているあんこの腕をつかみながら言った。あんこは苦しそうに言った。


「じゃあレイジは!ファーザーさんの役割が姉御ちゃんだったとしたら、見捨てられるの!?あたしは絶対にそんなことできない!誰かが犠牲になるなんて、間違ってるよ!!みんなで生き残ることを考えるほうがいいに決まってるでしょ!!?」


あんこの言葉にレイジは言葉に詰まった。


「そ、それは...」


レイジは思ってしまった。今はファーザーが犠牲になるから簡単に切り捨てられる。しかし、それが姉御だった場合、その選択は絶対にしないと。あんこは人一倍感受性が豊かで、今はドナルドの気持ちを考えられるから、ファーザーを見捨てられないのだと、レイジは気づいた。


「...そうだな。もし姉御が犠牲になるって言ったら、俺は間違いなく止めただろうな。でも、それでも!俺は生き延びたい!!!情けない言葉だと自分でも思うが、俺は!ここで!死にたくない!!だから!俺は逃げる!!逃げて、生きて、この世界の謎を解明するまで、俺は生き続けたいんだ!!!」


レイジは自身の心にある弱さ、認めたくない醜さをあんこにさらけ出した。あんこはレイジの意外な一面を見て、心を動かされた。


『あのレイジが、こんなに情けない事を言ってる...それほど、死にたくないんだ。レイジはプライドが高くて自分の弱点を絶対にさらさないって思ってたけど、それをさらしてまであたしたちと生きたいんだ。』


あんこはそう思って折れることにした。


「...わかったよ。レイジ。苦しい!辛い!イヤだけど!!でも、逃げよっか。」


あんこは悲しそうに笑った。レイジは自分勝手な理由であんこの意思を曲げてしまったことに、後悔と罪悪感を抱えながらあんこを立ち上がらせて逃げて行った。それを見たファーザーはフッと笑った。


「そうだな。レイジは大人っぽく見えて、まだまだ子供なんだな。そんな子供を巻き込んで、わたしは大人失格だな。」


ファーザーは納豆丸の腕をつかんで抑えたまま言った。そしてユダが一応逃げるレイジたちに追走をしようとしたところ、マルテーゼのボスのバルトロがそれを止めた。


「ユダ。追わなくていい。彼らはルドラータファミリーのものではない。それに、仲間を殺して復讐心を高められても厄介だ。まあ、納豆丸のところから優秀な人材を派遣してもらうから、私の首をとれるわけないが、むやみに敵を作らないのも大事だ。」


「...そうですか。」


ユダは一言言って、自身の大剣を取り戻すためにゴゴが吹っ飛ばされた場所まで移動した。するとそこにはゴゴの姿が無く、代わりに大剣と壁に文字が刻まれていた。


 次は勝つ!!


壁にはその短い文字が刻まれていた。それを見てユダは面白がった。


「ケッケッケ!いったいいつ抜け出したんだぁ?このわたくしのパンチを顔面に食らってダウンしているものだと思っていたのですが...あまりにもタフな奴だ。そのタフさだけは認めましょう。」


ユダはゴゴのことを初めて褒めた。そしてユダは大剣を携えて戻ってきた。


「では、バルトロさん。依頼であるルドラータファミリーのボス、ジェラルドを生きたまま捕獲いたしましたので、報酬を頂きたいのですが...?」


「ああ。お前の実力はすさまじいものだった。褒美は少しオマケしている。今後もお前を雇っていきたいからな。」


そう言ってバルトロは褒美の金をユダに渡した。ユダはそれを受け取るとそそくさと立ち去ろうとしていた。それをバルトロは呼び止めた。


「おい、もう行くのか?これから残虐なショーが始まるんだぞ?見なくてもいいのか?」


バルトロの質問にユダは笑って答えた。


「ケッケッケ!わたくしは傭兵。金さえ手に入れば後はどうでもいいのです。それに、わたくしは少し用事があります。ので、失礼ながらここで帰らせていただきますよ。」


そう言ってユダは歩き去っていった。バルトロはそれを見送ってからジェラルドを見た。


「なあ、ジェラルド。もしお前が泣き叫びながら俺に土下座をして裸で逆立ちをしたら、お前の可愛い部下のドナルド、アルバーニ、フォルキットを見逃してやってもいいんだぞ?」


「なに?どういうことだ?ドナルド達は逃げ切ったんじゃないのか?」


「俺がお前の遺志を継ぐ可能性のあるものを生かすと思うか?もうすでにスラムタウンには納豆丸の会社から派遣された兵士がたくさんいる。」


「...そうか。まあ、お前の性格はよく知ってる。ここで何をしても、ドナルドを狙うだろう。だが、あいつらなら大丈夫だ。お前が思っている以上に強い。そして、私のやることは、お前を絶対に逃がさない事だ!」


そう言ってジェラルドは納豆丸を上空に放り投げて、歩き去っていったユダを追いかけた。ユダは近づいてくるジェラルドの気配を感じながらニヤリと笑った。


「おやおやぁ?わたくしはもうあなたと闘う気は無いというのに...」


「いいや、お前だけは逃がすわけにはいかない。お前からは危険なにおいがする。俺の直感だ。いずれ厄介な存在になり得るなら!!」


そう言ってジェラルドはユダに思いっきりパンチを繰り出した。それをユダは難なく避けてジェラルドの顔面に回し蹴りを食らわせた。ジェラルドはその蹴りの重さに驚いた。


「...これほどの威力。きさま、どこで身につけた?」


「いえいえ、ただの独学ですよ。傭兵ゆえにね。」


2人はジッと見合っていた。すると後ろから急接近する存在にジェラルドは気づいた。しかし気づいた時にはもう遅く、ジェラルドの腹部は背中から刺された小刀が貫通していた。


「うぐぐ!!?」


「おいおい!俺を忘れてねーか?上空に放り投げやがって。」


ジェラルドの背中を突き刺したのは納豆丸だった。納豆丸はスーッと刀を引き抜いた。ジェラルドは口から血を吐いた。


「お前たち2人は、絶対に!ここから先にはいかせない!!!」


ジェラルドはそう言って深手を負いながらも必死に戦いを挑んでいった。しかしユダと納豆丸には全くかすりもしなかった。


「これがマフィア最強のフィジカルかー。まあ、人間にしては強い方なんじゃねーの?」


納豆丸は余裕そうに腕を組みながら避けていた。ユダもあえて攻撃をしなかった。


「いつまで踊れるか。見ものですねぇ。残虐な殺しは見るに堪えませんが、人間の限界を見るのは好きですからねぇ!」


ユダと納豆丸はお互いにニヤニヤと笑いながらその様子を見ていた。ジェラルドはそれでもなお立ち向かっていった。そしてバルトロが笑った。


「ハーッハッハッハ!あのジェラルドがまるで赤子の様だ!!!なんて強いんだ!あの傭兵たちは!!!」


バルトロは高笑いをしていた。そしてジェラルドは息を切らして動きが鈍くなった。そして納豆丸はバルトロに聞いた。


「バルトロさんよぉ!もう始末しちまってもいいかぁ?」


「ああ!!!本当は部下の首を持ってきて絶望を味わわせながら死んでいってもらいたかったが、もういい!!殺してしまえ!!!」


「はいよー!」


納豆丸は気の抜けるような返事をしながら目をキリッと変えて、本気の目をした。そしてジェラルドの腹部を切り裂いた。


「うごぉ!!?」


ジェラルドは腹部に熱さを感じた。そして自身の腹を見るとそこから内臓がボトボトと地面に落ちていった。その激痛は言葉にならないものでジェラルドは奥歯が折れるほどの力でかみしめていた。


「ぐうううううううううううううう!!!!?」


そしてジェラルドはうずくまった。そこを納豆丸は小刀を振り上げて首を斬り落とそうとした。


「さようなら。」


そう言って納豆丸は小刀を振り下ろした。しかしジェラルドは、死の覚悟をしていたせいか、死の淵に立って助からない事を察してか、周りの時間がゆったりと感じ、様々な思い出を思い出していた。その中でもドナルド、アルバーニ、フォルキットの3人の思い出は強く心に刻まれていた。そして、それを思い出した時、彼らを守らなければいけないという使命感が全身を駆け巡った。


『まだだ!!!まだ死ねない!!!!』


そう思ってジェラルドは納豆丸すら凌駕するスピードで頭を上げてその断首の攻撃をかわした。そして自身の内臓を掴み、それを納豆丸の顔面に押し当てた。


「なっ!!?ぐわああああ!!?」


納豆丸は目の前が血に染まり、一瞬動きが止まった。その瞬間にジェラルドは渾身の一撃を納豆丸にくらわして納豆丸を吹き飛ばした。


「なんと!?」


ユダがそのジェラルドの速さに気づいた時にはもうすでにジェラルドの拳が腹に当たっていた。


「がはぁっ!!?」


ユダはそのまま吹き飛ばされた。そしてジェラルドは鬼の形相でバルトロを見た。バルトロはその顔を見た瞬間、恐怖で足がすくんだ。


「ひぃっ!!?お、お前ら!殺せええええええ!!!ジェラルドを殺せえええええええええ!!!」


バルトロは全軍に突撃を命令した。ジェラルドはそれらを全て押しのけてただ一直線にバルトロに近づいた。その間にジェラルドの体には無数の刃が刺さり、殴打で骨は砕け、もはや生きている事すら怪しい状態だった。それでもジェラルドの歩みはとどまることを知らず、敵を蹴散らしながら近づいて行った。


「バルトロおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」


ジェラルドはそう叫んでバルトロに手が届く位置まで来た。そしてバルトロは恐怖のあまり失禁してしまい、腰を抜かして動けなくなった。


「お前だけはああああああああああ!!!地獄に落とすううううううううううううう!!!」


そう叫んで手を伸ばした時、その手は納豆丸によって斬り落とされた。


「あっぶねぇ!依頼主の1人を死なせるところだった!」


納豆丸は額に汗を流しながら、ジェラルドの首をはねた。ジェラルドはそれでようやく動きを止めた。

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