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星の勇者  作者: アシラント
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マフィアタウンの戦争⑥

ゴゴをダウンできなかったユダは自身の蹴りの弱さに嘆いた。


「まさか筋肉だるま君すらダウン出来ないとは...」


ユダは頭を抱えた。ゴゴは笑った。


「ハッハッハ!俺の強さは昆虫以上のタフさと生命力だ!そう簡単にくたばってたまるかー!」


ゴゴはそう言ってユダに闘いを仕掛けていった。ゴゴはユダに一気に近づいて間合いを詰めて戦おうとした。その方がゴゴにとっては都合がよく、逆にユダにとっては都合が悪かった。ユダの持っている大剣は近すぎると振り回しづらかったためである。


「距離を詰めてきますか...単純な考えですねぇ!」


ユダはゴゴよりもスピードに自信があり、ゴゴが一生懸命に走って追ってきても余裕で距離を開いていけるほどに足が速かった。


「くそう!全然距離が縮まらねーじゃねーか!なら!一生追いかけてやる!」


ゴゴはユダのスタミナ切れを狙って追いかけまわした。しかし、全速力のゴゴと余裕をもって距離を離していくユダではスタミナの無くなる時間も負けていた。ゴゴは走り回った挙句に息を切らして膝に手を置いた。そして全身から汗をドバドバと流して走るのをやめた。


「く、くそお!ぜ、全然、追いつける、気がしねー!」


ゴゴは息を切らしながら言った。ユダは全く息を切らさずに言った。


「そもそも、魂の力を全く使わずにわたくしと闘おうなどと思っている時点で、勝負は決まったようなもの。使えないのであれば、闘いを挑まなければよかったのでは?」


ユダは聞いた。ゴゴはまだ息を切らしながら答えた。


「へ、へへ!そんなもったいねーことできねーだろ!目の前に俺の全力をぶつけたい相手がいる!だったら、闘うしかねーだろ!」


「...意味が分かりませんねぇ。筋肉だるま君は何を目的として闘っている?それを知りたいのですが?」


ユダの質問にゴゴは首をかしげた。


「闘う目的?そんなもん、わかんねーよ!それがわかれば魂の力を解放してるっての!」


ゴゴは考えることが苦手なため、それを放棄して戦いに挑んだ。逆にユダはその答えが気になった。


『ここまで闘いが好きなのに、自身が闘う目的を知らない?そんなことがあり得るのでしょうか?それとも、これはわたくしを混乱させる嘘?いや、この筋肉だるま君はそんな嘘がつけるほどの知力を持っていない。本当に闘う目的を分かっていないようですねぇ。なら、普通はそれを見つけるために修行をするのが一般的なのでは?...もしや、この男、自身の魂と向き合うのが怖いのでは?』


ユダは一つの結論に至った。それは、ゴゴは自分のことを考えたくないから考えることをやめているのではないかという結論だった。


「...なるほど、もしそうなのだとすれば、見た目に反して意外にもセンチメンタルなのかもしれないですねぇ。」


ユダはそう思い、確認のためにゴゴに質問をした。


「筋肉だるま君、あなたは自分の内面に目を向けたことはありますか?」


「あ?内面?それって、心って事か?それとも魂って事か?」


「どちらもですねぇ。」


「うーん。全くないな!面白くねーからな!」


ゴゴははっきりと言った。ユダはそれを見て頷いた。


「なるほど...やはり自身の内面を見るのがイヤなのですか...」


そう言ってユダは確信した。


『この男。やはり自分自身から目を(そむ)けている。なにがあったのかは知らないが、背けたくなる理由がありそうですねぇ。...というか、わたくしが勇者候補の皆様以外に興味を持った人間なんて、珍しいですねぇ。なぜ気になるのでしょうか?...くっつく能力のせいでしょうか?魂の力を解放できないのに、幻獣の能力は問題なく扱えている。それどころか一瞬でわたくしの大剣を首で受け止めた精度。相当な鍛錬を積んできた何よりの証だと思える...その矛盾が気になるのかもしれませんねぇ。』


ユダはそう考えて再びゴゴに聞いた。


「あなたのくっつける能力。あれはいつごろから備わっているものなのですか?」


「ああ、あの最強の能力のことか?」


「最強...とは思えませんが、その能力のことですねぇ。」


「そりゃ、生まれた頃から身についてる能力だ。」


「生まれた頃から?...なるほど?」


ユダはまた考えはじめた。


『生まれた頃からの能力...どういう事でしょうか。彼もまた、我々と同じ存在?それにしては歳が離れすぎている。うーむ、謎が深まっていく...この男、いったい何者なのでしょうか?」


ユダはゴゴに対する興味が出てきた。そしてユダは言った。


「そうだ。もしもこの闘いにわたくしが勝利したら、あなたの出生の秘密をお教えいただきたい。その代わり、あなたが勝った場合、わたくしがあなたの魂の力を解放する手伝いをいたしましょう。それでどうです?」


「いいねぇ!勝ち負けになにかを賭けるってのは、面白そうだなぁ!」


「...交渉成立ということで...」


そう言ってユダは今までのお遊びから一変して、本気の顔つきに変わった。ゴゴは一瞬で全身から理解した。『ユダには絶対に勝てない。』そう思うとゴゴは全身がブルブルと震え始めた。


「くぅーーー!!!たまらねーぜ!!!世の中にはこれほどまでにつえー奴がいるってのかよ!!!やっぱ抜け出して正解だったな!!!」


ゴゴは武者震いを経験して狂った笑顔を浮かべた。そしてゴゴも全身に力を入れ始めた。


「ユダアアアアアアアア!!!全力で来い!!!!俺も!!!!全力でえええええええ!!!!行くからなああああああああああ!!!!」


ゴゴはそう叫んで地面を蹴り飛ばし、ユダに近づいた。ユダも同じくゴゴに近づいた。そして両者は間合いに入るとそこから足を完全に止めて逃げを封じたインファイトに入った。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」


ゴゴは叫びながら無数に来るユダの大剣の斬撃を寸前のところで(かわ)し、ユダに向かって連続で拳を振り続けた。ユダもゴゴの無数の拳をかわしつつ、ゴゴのくっつく能力で大剣を取られないように浅い傷をゴゴに与えながら一歩も引かずに放ちまくった。

 一見互角のように見えるこの激しい攻防戦は、ゴゴの方が圧倒的に劣勢だった。なぜなら、ユダはいまだに一発もパンチを受けていなかった。しかしゴゴは全身のいたるところに切り傷を作り、そこから血が流れ落ちていた。このままではゴゴは出血多量で戦えなくなってしまう。それにゴゴは気づいてながらも、決してそのインファイトをやめようとはしなかった。

 それに気づいたユダはゴゴに聞いた。


「なぜ、引かないのですか?このままでは確実にわたくしの勝利ですが?」


「そんなもん!決まってんだろ!このインファイト!楽しすぎるんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」


ゴゴは楽しさのあまりインファイトをやめられずにいた。そしてゴゴはだんだんと周りの時間が遅く感じてきた。


『この感覚!!!納豆丸にボコボコにされてた時と同じだ!世界がスローモーションで見える!!!ユダの大剣が、止まって...いや、ユダの大剣は速い!!!しかも、俺の動きは遅い!来るのが分かってるのに避けらんねー!!』


ゴゴは必死に避けようとしていたが、ユダの大剣の方が自身の動きよりも速く、全く避けられなかった。そして世界がスローモーションで見えるせいで、ゴゴはある衝撃的な事実に気づいた。


『俺のパンチ...めっちゃ遅い!!!しかも、ユダの奴は俺がパンチを構えた瞬間にもう避けてる!俺のパンチが通る道を俺の構えから見抜いていやがる!これじゃ当たるわけねーわ!!』


ゴゴは今までは見えていなかった現実を目の当たりにして震えた。


『しょ、勝負にすらなってねー!!!ユダの奴はまだ魂の力を全て開放していないのに、それでも俺は一発も攻撃を与えられねー!!格の違いがはっきりとしちまった!!!』


ゴゴはユダの強さに、そして自身の弱さに震えた。その震えはまさしく雷に打たれたような気持だった。


『なんて、なんて最高なんだ!!!強すぎる!!!ユダは強すぎる!!!そんな奴に出会えたことが何よりも嬉しい!!!そして俺はもっともっっっと!!!強くなれる!!!』


ゴゴは自身の伸びしろに目頭が熱くなった。ユダは驚いた。


『この状況で、なぜ恍惚(こうこつ)とした表情を浮かべる?決して勝てないのに?...やはり何を考えているかわかりませんねぇ。そこが少しばかり気にはなりますが...!』


ユダは一気に決着をつけるためにインファイトから更に踏み込んで右手の大剣をゴゴの脇腹に思いっきり切りつけた。ゴゴはそれを脇腹にくっつける能力を全て注いで受け止めた。そしてユダは大剣から手を離して左手で思いっきりゴゴの顔面を殴りつけた。そのパンチは魂の力を込めたとてつもない威力のパンチだった。ゴゴは顔面の骨をバキバキに折るほどの衝撃が加えられ、そのまま後方の家の二階に吹っ飛ばされた。


「...さすがに、これで気絶でしょう。この威力を魂の力なしに受けて意識があるのは流石におかしいでしょう?」


ユダはそう言って手と手をパッパッと払った。そして納豆丸の加勢に行こうとした。それを止めたのはレイジとあんこだった。


「ユダ、行かせねーぞ?」


「うん!もうボロボロのボロボロだけど、あたしたちがみんなを救うんだもん!」


レイジとあんこは魂の力を使い果たしてフラフラの状態でも武器を手に取って立ちふさがった。ユダはため息をついた。


「なんで眠っていてくれなかったのでしょうか...その方があなたの命を危険にさらさずに済むというのに...」


ユダは悲しそうに拳を握った。大剣はゴゴの脇腹に刺さったままゴゴと一緒に吹き飛ばされたので武器なしで闘うことにした。

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