マフィアタウンの戦争
レイジたちは反省会を終えた後にマフィアタウンに向かった。そしてついた先はまさに地獄絵図だった。スラムタウンの住人は今まで通り悪行はびこる生活をしていたが、マフィアタウンの方はどこもかしこも血と火と悲鳴が見えて聞こえてきた。
出発前のマフィアタウンからは想像もできないほどの戦場と化していた。市民は男も女も大人も子供もそのすべてが等しく殺されていた。
「いったい、何が起きたってんだ!?」
レイジは目を疑う光景に驚き、思考が止まらなかった。そしてあんこは凄惨な状況に心を痛めていた。
「マフィアタウンは嫌いな場所だったけど、人の命がこんなにもたくさん失われるなんて、許しておけないよ!犯人は誰なの!?」
あんこは怒りと悲しみに心を打ち震わせていた。そして姉御は状況を把握しようと必死だった。
「むごいね...死んだ人々は抵抗した結果って感じの死に方だねぇ。白昼堂々と戦争おこすバカは誰だ?市民を巻き込むほどの大戦争だよ。これはマフィアタウンの歴史が変わるかもしれないね。」
姉御は状況把握をしながらもマフィアタウンが生まれ変わるかもしれない事に少しだけ希望を見出した。そしてネネはフードを深くかぶった。
「門番の人もいなくなっていた...それほどえげつない事になってるのに、スラムタウンの住人は逃げるでも盗みに入るでもなく、いつもと変わらない日常を過ごしているのがこの町のいびつな所ね。まともな思考の人間が住んでいないのかしら...」
ネネはスラムタウンの住人の異常性を直に感じていた。そして昆布は冷静だった。
「これはまずそうでござるね!早くルドラータファミリーに向かった方がいいかもしれないでござるね。まあ、拙者がひとりなら、問答無用で逃げ出してたところでござるが、兄貴は優しい人でござるからねー。少しでも関わりのある友好的な人間を助けずにはいられないんじゃないでござるか?」
昆布は片眉を上げながら言った。そしてゴゴは楽しそうだった。
「うおおおおおおおおおお!!!闘い!!!!闘い!!!!大乱闘!!!!!ここは天国かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!??」
ゴゴはそう叫んでウキウキして謎のダンスまでしていた。レイジはそんなことは全く目に入らず、みんなに言った。
「昆布の言う通り、とりあえずルドラータファミリーに向かおう。ドナルドたちを見つけてこの状況を説明してもらおう。そのあとで俺たちが誰に味方をするべきか考えよう。」
そう言ってレイジは走り出した。それにみんなが付いて行く。ゴゴは叫びながら付いて行った。
「ひゃっほぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!祭りじゃああああああああああああ!!!!」
ゴゴはとんでもなくハイテンションで踊り狂っていた。レイジはそれを認識したくなかったので見なかったことにした。
そしてレイジたちは炎があちこちに燃え盛る中、ルドラータファミリーの屋敷に着いた。そこはもうすでに火の海になっており、石造りの家は中から炎が踊り、動物の焼けたにおいが家の外まで臭ってきた。レイジは窓から侵入して生存者を探した。それを見た昆布は慌てふためいた。
「うわあぁ!!?レイジが自殺したーーーーー!!?」
その様子を見た姉御は昆布に言った。
「落ち着きな。レイジは火の幻獣使い。だからその体が炎で焼かれても本人はいたって平気なのさ。レイジいわく、『暖かい日向ぼっこみたいな感覚』らしいよ。だから自殺したんじゃないさ。安心しな。」
姉御にそう言われて昆布は落ち着きを取り戻した。
「ああ!よかった!!兄貴が死んだら拙者は心が張り裂けてしまうでござるよ!いやー!よかったよかった!」
昆布はニッコリと笑った。そしてレイジは部屋中を探したが、生存者はいなかった。なのでレイジはその家から出てみんなに言った。
「この家に、生存者はいなかった。俺が知っている人もいなかった。おそらく、ボスや幹部の人たちはみんなこの家を脱出してどこかに行ったはずだ。その場所は、門の前にあった噴水広場からさらに奥にあるマルテーゼの領地に入ったと思う。」
レイジの発言にネネは聞いた。
「どうしてそう思うの?」
ネネの質問にレイジは答えた。
「ドナルドの部屋にあった紙には、マルテーゼの観察記録があった。それを読むとどうやらマルテーゼはルドラータを倒すために暗躍をしていたらしい。だからドナルドが向かった場所はマルテーゼの領地である可能性が高い。そしてボスたちもジッと守りに入るタイプじゃなさそうだし、戦争を仕掛けられたなら報復に自らが赴いたと思う。それに、今はそれ以外の手掛かりがない。だからとりあえずそっちに向かおう。」
レイジの言葉にみんなは頷いた。そしてレイジたちは来た道を戻って噴水広場まで来てからマルテーゼの領地に足を踏み込んだ。そして炎で遮られていたせいで分からなかった。しかしレイジがその炎を飲み込んで消してくれたので見えるようになった。そこは、ルドラータの領地よりもさらにひどい事になっていた。ルドラータファミリーとマルテーゼファミリーの全面戦争だった。
レイジたちの目の前では炎の渦の中を何人もの人間が傷つけ合い、血を流し、四肢を欠損してもなお、相手を殺そうとしていた。ある者は炎に体を焼かれて死に、ある者は相手の刃が心臓に突き刺さり死に、ある者は頭を砕かれ死に、敵を殺した瞬間に別の敵に殺される。そんな人間とは思えないほど野性的な、原始的な、憎しみの殺し合いだった。レイジはそれを見たとき、後ずさりをしてしまうほどの恐怖と悲しみと絶望を味わった。
「これが...戦争...?これが...人間の...戦争?」
レイジは初めて見る光景に息を吸うことも難しくなっていた。衝撃的な映像が目の前で繰り広げられている。そのことに恐怖を感じたのはあんこも同じだった。
「信じられない...こんなにも、人が、人を殺すだなんて...」
あんこは人間の裏の顔を目の前で見せられて動揺していた。それでも、姉御は二人の背中に手を当てて言った。
「二人とも、これが人間の本性だよ。自分が生き残るためならどんな手段だって使う。それは悪い事じゃない。でも、醜いものだね。...っと、とりあえず、ボスって人を探そうか。あたしら女子連中は見たこと無いからね。男どもに任せるけど、いいね?」
姉御はレイジと昆布とゴゴを見て言った。レイジはハッと我に返った。
「あ、ああ。...わかった。いまはそれが目的だもんな...」
「了解でござる!拙者はこういうのに慣れているゆえ、頼りにしてもらっても大丈夫でござるよ!」
「へへ、へへへっへへ!最高の場所だぁ。早く!早く!俺に闘わせてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?」
ゴゴはよだれを垂らしながら上半身をグラングランと揺らしながら歩いて行った。そしてレイジは辺りを見回してみた。すると人一倍殺しているドナルドを発見することができた。
「ドナルド!?」
レイジは駆け寄った。ドナルドはその目から必死さが伝わるほどにマルテーゼの人間を殺しまくっていた。
「...レイジか。手を貸せ。こいつらを殲滅する。」
ドナルドは今までにないほどの剣幕で言った。レイジはそれに気圧されないように踏ん張って聞いた。
「ドナルド、これはマルテーゼが仕掛けてきた戦争なのか?」
「そうだ。俺たちルドラータは武闘派集団だがこの町の住人からは奪わない。だからマルテーゼが戦争を仕掛けてきたに違いない。やつらはずっと俺たちルドラータを始末したがっていたからな。準備が整ったってところだろうな。」
「本当にそうなのか?なにか証拠は...」
レイジがそう言いかけていた時に、ドナルドはレイジの胸元を掴み、怒鳴った。
「そうに決まってんだろ!?お前よりも俺は奴らのことを理解している!それに見てみろ?こいつらはもう止まんねぇ。どっちにしたって同じことだ。ルドラータかマルテーゼのどちらかが潰れるまでこの戦争は終わらねぇ。お前が味方をしねーって言うなら、俺の邪魔だけはするな。もし、敵に回るようなら、俺はお前を殺すぞ?」
ドナルドはレイジの胸倉を乱雑に放した。レイジは襟を正して言った。
「わ、わかったよ。俺もお前とは闘いたくない。だから一応ルドラータに手を貸すけど、もし戦争が終わって正義がこっちにないってわかったときには...」
「わかったときには?なんだよ?」
ドナルドはそう言ってレイジの返答を待った。レイジは深く息を吸って心を落ち着けてから言った。
「俺がルドラータを滅ぼす。そして、マフィアタウンをぶっ壊す。それが、ダンたちの夢を、無念を叶える方法でもあるからな。」
レイジは真顔で答えた。その目は覚悟を決めた男の目だった。それを見たドナルドは同じく真顔になっていたが、レイジの覚悟を見定めるとフッと笑った。
「ああ。それでいい。ようやく男らしい目つきになったじゃねーか。その覚悟の目、嫌いじゃねーな。」
ドナルドはそう言うとある方向を指さした。
「おそらく、そっちの方にボスがいる。マルテーゼの連中がみんな向かっている場所だ。そこまで一気に行くぞ?」
「ああ。わかった。...人殺しか。仕方ないよな。人を助けるためだもんな。」
レイジはそう自分に言い聞かせて覚悟を決めた。