反省会
ゴゴは何食わぬ顔で姉御のもとへと歩いてきた。レイジたちはゴゴと顔を合わせるのが気まずかったので、姉御と昆布以外の者たちは皆うつむいていた。ゴゴはそんなことには全く気付かずに姉御に話しかけた。
「無事でよかった!レイジたちが助けたのか?」
姉御はレイジとあんこの肩を借りながら近づいて行った。
「まあ、そんなもんだね。あたしが情けない姿をさらすことになるとは、思ってもいなかったけどね。」
姉御は自身の力不足をあざ笑うように自虐的に笑った。ゴゴはその感情が分からず、とりあえず笑ってるなら笑い返そうと思い、笑った。
「ハーッハッハ!そうかそうか!やっぱり俺の判断はそんなに間違って無かったって事だな!...っていうか、そんなことよりドナルドの奴がメチャクチャ急いでマフィアタウンに向かってったけど、なんかあったのか?」
ゴゴは聞いた。姉御はハッとした。
「そうだ!ガイアが言ってたんだが、どうやらマフィアタウンで何かがあったらしい。火の手が上がってるから嘘ではないようだね。あたしらも行ってみるかい?ここで体力の回復を待つのも手だけど?」
姉御はレイジに話しかけた。レイジは姉御の顔を見て言った。
「ああ。そうだな...ここでジッとしているのは嫌だしな、行ってみようか?もしヤバそうだったら逃げられるように逃げ道だけは確保しておこう。まだ、闘える気力がある奴はいるか?」
レイジは全員に話しかけた。勢いよく手を上げたのはゴゴだった。
「はい!はーーーーーい!!!俺まだまだ闘いてーぜ!!!さっさと行こーぜ!」
ゴゴは右手を上げて言った。その自由に動かせる右手を見てレイジは疑問に思った。
「ゴゴ...お前、右手の傷はもう大丈夫なのか?」
レイジに言われてゴゴは自身の右手を見た。
「ああ。全く大丈夫じゃねー。今はくっつく能力で破裂した筋肉を無理やりくっつけてる状態だからな。このまま戦闘なんかしたら俺の右手は間違いなく破裂するだろうな!」
ゴゴはガッハッハと大笑いをしながら言った。レイジはゴゴの命知らずなところが今は恐ろしく感じた。
「そ...そうか。まあ、気をつけろよ。」
レイジはどうしてもゴゴのことを信頼しきれず、そっけない返答になってしまった。その違和感に姉御は気づいた。
「レイジ?なにか、あったのかい?ゴゴに対しての態度が、いつもと違うように見えるよ?」
姉御の鋭い観察眼にレイジは一瞬硬直した。そして思考が廻った。
『どうする?あの出来事を姉御に言うべきか?でも、姉御はゴゴに両親を殺された身だ。もし、ゴゴがダンたちを殺したことを知ったら、いったい姉御はどういう行動に出るだろうか?追放ならまだしも、処刑なんてことになったら...いや、なんで俺がゴゴの心配をしているんだ?俺が心配する事じゃないだろ?...でも、ゴゴが死ぬのは嫌なのかもな。それに、ゴゴの行動が無かったら、俺は姉御の救出に全力を出せなかっただろうし...』
レイジは長考していた。するとゴゴが口を開いた。
「ああ!そいつは俺がダンたちを殺したからだと思うぜ?」
ゴゴはいつもの調子で言った。その言葉に姉御は一瞬でさっきまでの和やかな雰囲気を無くした。
「...ん?どういうこと?」
姉御は鋭く冷たい目線をゴゴに向けた。ゴゴは少し考えてから話し始めた。
「そのままの意味だよ。ダンたちが化け物になったから俺が殺した。...間違ってねーよな?」
ゴゴはレイジたちに目線を配って言った。誰もゴゴと目線を合わせようとしなかった。昆布と姉御を除いて。そしてその説明では不十分だと感じた姉御はさらにゴゴに質問をした。
「化け物になった?それってどういう意味?」
ゴゴはまた考えた。しかしゴゴにはその答えになる言葉が見つからなかった。
「うーん。なんていうか、白猫がそうしたっぽい。」
ゴゴの回答に姉御はため息をついた。
「ダメだ。ゴゴの説明じゃ全く分からない。レイジ、あんたも見てたのかい?だったら、あんたから説明してくれないか?」
姉御はレイジの目を見た。レイジはヘタなウソを言う方がかえって状況を悪化させると思い、息を吐いてから冷静に話し始めた。あの白猫が幻獣だったこと。その幻獣のせいでダンたちは怪物に変えられたこと。それを見捨てることができなかった自分たちの為にゴゴがダンたちにとどめを刺したことを言った。それを聞いた姉御は顎に手を当てて考え込んだ。そしてゆっくりと口を開けた。
「...なるほどね。だからダンたちを殺したのね。...なるほどね。」
姉御はゆっくりと顔を上げてゴゴの方を向いた。ゴゴは緊張感なく、ボーっと姉御の方を見ていた。
「ゴゴ、あんたがやったことはとんでもないことだって、わかってる?」
姉御はゴゴのことをじっと見た。ゴゴはいまだに緊張感のない顔をしていた。
「うーん。そんなに悪い事なのか?俺としては、これから一生をビャッコの奴隷として生きていく方が酷い人生だと思うがな。...って、まあ、これはただの言い訳だな。まあ、俺だって人殺しなんて二度とやりたくはなかったさ。だが、どうしても必要なら、俺は何人だって殺す。それがたとえどんなに好きな相手だろうとな。」
ゴゴはそう言ってニッコリと笑った。その笑顔は屈託のない、覚悟が感じられる笑顔だった。それを見た姉御はフゥーッと息をついた。
「そうかい。あんたはそう言う考えなんだね...」
姉御は何を思っているのか分からない、淡々とした口調で言った。レイジは少し心配になった。
「...姉御?」
姉御はレイジの呼びかけで顔を上げてから口を開いた。
「ゴゴ!あんたは、間違っているよ!」
「え?そうなのか?どういう所が間違っていたんだ?教えてくれないか?」
「まず!人を殺したこと!どんな理由があっても、あんたは人を殺しちゃいけないって、あたしとの約束だったよね?それを破ったことがまず一つ目の間違い!そして二つ目の間違い!それはあんたがレイジの為を思ってやろうとしたこと!それ自体が間違い!」
「えええ?どういうことなんだ?俺はそうしたらレイジが姉御の救出に集中できると...」
ゴゴの言い訳に被せるように姉御は言った。
「その考えが間違い!!レイジとしては、逆に集中できなかったと思う!なぜなら、ゴゴがダンたちを殺したという驚きで頭の中がぐちゃぐちゃになっちゃうから!」
「うん?そうなのか?じゃあ、俺はレイジたちを救ったんじゃなくて、余計なことをしたっていうのか?」
「そう!あんたがしたことは余計なお世話ってやつさ!むしろ何もしない方が良かったまである!そして三つ目!」
「ええー。まだあんのかよ...」
ゴゴがぼやいていても、姉御はお構いなしに言葉を並べた。
「三つ目は...あんた自身の問題だね。」
「俺自身の問題?どういうことだ?」
「あんたはね、あたしとの約束を守るためなら、何をしてもいいって思っちゃってるところだよ。それが間違いなんだ。」
「んんんん??違うのか?それが俺の罪を償う方法だって思っていたが...」
「いいや、あたしはね、あんたの自由を全て奪うつもりなんてないの。だからあんたが闘いたいって言うならできるだけ闘わせるし、あんたが人殺しをしたくないって言うなら、なるべくやらせない。そういう人間の好き嫌いをできるだけ尊重するつもりなの。だから、あんたがレイジの為に手を汚すなんてことはしなくていいの。もし、本当にそうしなければ仲間が死ぬのだったら、遠慮なくやってもいいけど、基本的にそういうことはしない!分かった?」
姉御はゴゴの目を見て言った。ゴゴはその言葉を考えていた。
「うーーーん。難しいな!結局今回のダメなところは何だったんだ?」
「そうだねぇ、まあ、三つ言ったけど今回の一番の原因は殺した相手だろうね。」
「ダンたちのことか?」
「そう。ゴゴにとってダンたちってどういう人たちだったの?」
姉御は聞いた。ゴゴはすぐに答えが出てきた。
「友達!結構好きな奴ら!」
ゴゴはニッコリと笑った。
「そう。それはレイジたちにとっても同じだったの。レイジたちも少なからずいい印象を持っていたの。それを殺すから、レイジたちは悲しんだ。しかもその相手がまさかのゴゴだった!だから余計に心が乱されるの。分かる?」
「うーーーーーーん?わかんねー。それって心の問題ってやつ?」
「心の問題というか...気持ちの問題?」
「気持ちの問題?...わかんねー。心と気持ちって別なのか?」
ゴゴの理解力の無さに姉御はさすがにため息をついた。
「まあ、そこら辺はあとあと分かってくると思うし、今回はあまり理解しなくてもいいわ。」
姉御はそう言って話を切り上げようとした。しかしあんこがぶっこんだ質問をした。
「もしかして...ゴゴって人の心が無いの?」
その言葉は全員が心の奥底で思いながらデリケートな問題ゆえに聞かなかったことだった。ゴゴはハッハッハと高笑いをした。
「ああ!よく気付いたな!その通り!!俺には心が無いんだ!だから人の心だとか、気持ちだとか、魂だとか、そういう目に見えないものが苦手なんだ!」
「...やっぱり。だからあんなことをしたのに平気でいられるんだね...なんか怖いよ。あたし、ゴゴのこと、信用できないかも...」
あんこはゴゴに対する不信感をつのらせた。それはレイジもネネも同じだった。しかしそこにフォローを入れたのは昆布だった。
「ま、まあまあ!ゴゴはちょっと不器用なだけでござるよ!ゴゴ自身も気づいてないでござるが、ダンたちを殺したことを悔やんでいる様子だったでござるよ!だからそんな目で見ないであげて欲しいでござる...」
昆布の言葉にレイジたちは頷いた。
「ああ。そうだな。すまん。俺は、ゴゴのことをただ知らなかっただけだったんだよな。ゴゴのことを全て知ったような錯覚に陥っていただけなんだよな?...でも、あれは流石にひどいと思うが...」
ネネもレイジと同じような気持ちだった。
「そうね。私もゴゴのすべてを知ったわけじゃないものね。それに、時にはああいう非道なことができる人間が必要な場面もあるものね。それにしたって、あれはどうかと思うけれども...」
あんこは人一倍ゴゴのことを信じられなかった。
「うん。あたしは、ゴゴのこと、全然理解できないよ。人を殺すのもダメなのに、ダンたちを殺すなんて...どんな理由があっても、そんなことする人を信じられないよ!...でも、ゴゴは人の心がないから、しょうがないのかなぁ?」
あんこの発言に姉御は一応フォローを入れた。
「人の心がないんじゃなくて、人の心が理解できないだけだからね。闘いに対する欲望は誰よりもあるからね。」
姉御はそう言ってあんこの頭を撫でた。そして姉御はレイジに聞いた。
「じゃあ、まあ、いい休憩にはなってないけど、とりあえずマフィアタウンに向かおうか?」
そう聞かれてレイジは答えた。
「ああ。そうだな。俺はマフィアタウンがどうなっているのか、気になって仕方ないからな。」
そう言ってレイジたちはマフィアタウンに向かって歩き出した。