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星の勇者  作者: アシラント
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四幻獣の白虎

ゴゴがダンたちの墓を作っている最中にレイジは様々な考えが頭の中を駆け巡りながら姉御のもとへと歩いていた。


『ゴゴ...俺はお前のことが分からなくなったよ。お前のことは、バカで自分勝手で闘いが好きすぎる命知らずだと思ってた。けど、さっきのやつは...闘いでも何でもない、ただの殺人だった。お前の武器はハンマーだった。それは人を殺さないように柔らかい素材でできているって言ってた。そんなものを持っているから、俺はてっきり殺しはしない主義だと勘違いをしていたみたいだ。』


レイジはそんなことを思いながら歩いて行った。それでも、心の奥底では気づいていた。自分が優柔不断でダンたちを見捨てきれない性格なのをゴゴは知っていた。だから無理やりにでもそれを諦めさせるためにあんな行動をしたのだと。頭では理解できても、心はモヤモヤしたままだった。それはあんこもネネも同じだった。そして3人は意気消沈のまま姉御のもとにたどり着いた。


「あ、姉御...」


レイジは弱弱しい言い方で言った。姉御はすべての魂の力を使い果たし、片膝をついて息を切らしていた。ドナルドがまだかろうじて戦える様子で、牛鬼とガイアの攻撃を避け続けていた。


「レイジ!あんこ!ネネ!」


姉御はレイジたちの顔を見た瞬間表情がパァ―ッと明るくなった。そしてそれと同時に自分が助けられる立場になったことを自嘲した。


「まさか、あたしが助けられる側に回るなんてね...情けなくてイライラするよ!」


姉御はそう言うと根性で立ち上がり、再び薙刀を握った。レイジはゴゴの行いを姉御に伝えるべきか迷ったが、今は余計な情報を姉御に伝えるべきではないと判断して言わなかった。それをあんことネネにも伝えた。あんことネネも同じ思いだった。


「うん。あたしも...そう思う。今は姉御ちゃんの救出に集中しなきゃね!」


あんこは無理やり笑顔を作った。その笑顔はレイジの目にはとても辛そうに、苦しそうに笑っているように見えた。


「そうね。集中、しないとね。」


ネネは全く笑顔になれなかった。そして無理にでも笑っているあんこのことを凄いと思う反面、悲しいとも思った。そして3人はドナルドに加勢した。


「悪いな。ドナルド。お前ひとりに任せちまって。」


「へっ、この程度の奴らは、俺ひとりでも、十分、だぜ?」


ドナルドは息を切らしながら無理やり強がった。決して弱音を吐かなかった。それはドナルドとしてのプライドだった。そして集合したレイジたちを見てガイアは言った。


「まだ抵抗するのか。悪いが、こちらも急いでいる。|ビャッコの復活はもう少し後だと思っていた。その予定が崩れた。だから全力で行かせてもらう!」


そう言ってガイアはボロボロのレイジたちに襲い掛かった。しかしレイジたちはその猛攻を防ぎ、避け、反撃を繰り出した。そのことにレイジたち自身も驚いていた。


「な、なんだ?あいつの動きが見えるぞ?」


先ほど闘ったときには全く見えなかった動きが見えるようになっていた。それはレイジたちにも、ガイア自身にも分からなかった。しかし、ガイアはハッと気づいた。


「まさか、ビャッコ?」


ガイアは上を見上げた。すると白猫はニヤァッと悪い笑みを浮かべた。


「ああ!俺はこいつらを気に入った!だから少しばかり邪魔させてもらうぜ?」


白猫はそう言った。ガイアにはその意味が分かった。そして牛鬼の方を見た。牛鬼もまた、ガイアと同じように自身の動きの鈍さに驚いていた。


「ガイア。わしも同じじゃ。まあ、全力でやりゃあ倒せんことも無いっけど、さすがに命の覚悟はしな、いかんな。」


牛鬼はそう言った。ガイアは頷いた。そしてレイジたちの方を向いた。


「今回は、引き上げよう。君たちの勝ちだ。我々は害鼠という大きな犠牲を生んでしまった。」


ガイアはそう言ってこの場から離れようとした。しかしそれをドナルドは見逃さなかった。


「待てよ。逃げる気か?俺がお前らを逃がすとでも思っているのか?それに、魔王城の場所が記された地図はまだもらってねーぞ?」


「それはゴゴに渡した。あとで見ろ。それに、このまま俺たちを追ってくるのはいい判断とは言えない。」


「なに?どういう意味だ?」


ドナルドは聞いた。ガイアはマフィアタウンの方を向いた。


「どうやら、マフィアタウンでなにか始まったらしい。気にはならないか?」


ガイアは挑発的に言った。ドナルドは焦ってマフィアタウンの方を見た。するとマフィアタウンとスラムタウンの方から黒い煙が大量にあがっていた。


「なに!?...ボス!!?」


ドナルドは一目散にマフィアタウンに向かって飛んで行った。レイジたちはそれを止める暇も無かった。


「あ!おい!ドナルド!?」


レイジが呼び止めたときにはドナルドは声が聞こえないところまで飛んで行ってしまった。そしてそっちに目を奪われている隙にガイアたちはこの場からいなくなっていた。


「ああ!ガイアたちが逃げた!!?」


それに気づいた時にはすでに周囲からガイアたちの姿が消えていた。そしてレイジたちは白猫とともに取り残されていた。そしてレイジは白猫の方を向いた。


「...お前、名前がビャッコって言うのか?」


「おうよ!俺様が四幻獣(しげんじゅう)が一角、大地のビャッコ様よ!」


そう言ってビャッコはキラリと光る歯を見せながら笑った。


「四幻獣?それって、なんだ?」


「なんだよ。四幻獣を知らねーのか?俺様ことビャッコと、ゲンブと、セイリュウと、スザク!この四体の幻獣が、いわば、幻獣たちの幹部ってところだな。まあ、厳密にはちげーけどな。」


「なに!?スザク!?それって...」


レイジが言いかけていたところをビャッコはニヤリと笑って言った。


「ああ!お前の中にいる存在。それが四幻獣が一角の、炎のスザクだ!思えばそいつともなげぇ付き合いだなー。今はお前の魂に取り込まれちまってるようだが...開放してやった方がいいんだろうか?」


そう言ってビャッコはレイジに殺意を向けた。レイジはとっさに刀を抜いて警戒態勢に入った。しかしビャッコは面倒くさそうにため息をついた。


「やめだ!やめ!めんどくせー!!まあ、人間の寿命なんて一瞬だからなー。待ってる方がよっぽど楽だわ。それに、俺はお前たちが気に入った!あまりにも面白い奴らしか居ねーからな!」


そう言ってビャッコは殺意を無くし、あくびをした。それを感じたレイジは刀を収めた。そして気になっていることを聞いた。


「なあ、ビャッコ。お前たち幻獣は...なんなんだ?なぜ人々を襲う?なぜ...あの少年たちをあんな化け物にするんだ?」


「ん?さっき言ったろ?復活するためだよ。俺たち幻獣は、人々の魂を喰って元の姿に戻るのが目的。理解したか?」


「...ああ。それは、なんとなくわかったが...」


レイジがそう言いかけていた時にビャッコが口をはさんだ。


「じゃあ、俺からも質問な。お前、いったい何者だ?」


白猫は先ほどまでのヘラヘラした態度とはうってかわって、真剣な眼差しで聞いた。その質問の意味が分からず、レイジは困惑した。


「な、なんだ?何者かなんて...どういう意味だ?」


「意味も何も、言葉通りの意味だ。お前は、いったい、何者なんだ?って聞いてんだ。」


「何者なのかって...そりゃ、人間だが?」


レイジの答えにビャッコは首を振った。


「そうじゃねー。俺が聞きてーのは...いや、もしかして知らねーのか?」


「知らないって、何がだよ?」


レイジの反応を見て、ビャッコは確信した。


「そうか...お前は知らないのか...どうりで眠ったまんまだと思ったぜ。起きてたら、真っ先に俺を殺しに来るはずだもんな?」


ビャッコは自己完結して大事な部分を全くレイジに言ってくれなかった。レイジはそれがすごくモヤモヤして気持ち悪かった。


「なんなんだよ!?教えてくれよ!なにか知ってるんだろ?」


レイジは自分の知らない事が知りたくてしょうがなかった。ビャッコはへへへと笑った。


「まあ、教えてやってもいいが...そのかわり、その空中浮遊している女の子をくれ。それが交換条件だ。」


ビャッコはあんこを指さして言った。あんこはヒエーー!と言ってレイジの背中に隠れた。レイジは怒って答えた。


「だ、ダメに決まってんだろ!?あんこは大切な、本当に大切な仲間だ!それを売るわけがねーだろ!?」


その言葉は、ビャッコではなくネネに刺さった。


『あんこが、そんなに大事なんだ...やっぱり、私のことが好きなのは、魔族として、なのかな?レイジが本当に好きなのは...あんこのこと?...そうね。きっとそうだわ。レイジが私のことなんかを好きになるはずないもの。...私、なに勘違いしてたんだろ。レイジが私のこと好きかも―なんて、よく考えればすぐわかるはずなのに...』


ネネはそう思ってしまった。そしてネネはレイジに対する思いを抑えることを決意してしまった。そしてビャッコは笑った。


「ハーーーーーッハッハッハ!!だろうな!分かっていたさ!まあ、じゃあ教えることは出来ねーな。話は以上だ。俺も行く場所があるんでな。それじゃ!」


そう言ってビャッコは地面に潜っていった。そして取り残されたレイジたちは姉御の体を心配した。


「姉御!?大丈夫か?」


レイジはそう言って姉御に駆け寄った。姉御はさすがに気が抜けたのか、膝をついて息を切らし、薙刀を地面に立てて支えにしていた。


「ああ。大丈夫。死にはしないって。でも、さすがに疲れたね。それに、イライラしてしょうがないよ。自分の傲慢(ごうまん)さに腹が立つよ!あたしがいればレイジたちを守れるだなんて、とんだバカな考えだったよ。あたしは、強くならなくちゃいけない。そう痛感する闘いだったよ...」


姉御はそう言って苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。レイジはどんな言葉をかけていいのか分からず、何も言えなかった。しかしあんこは言った。


「それは違うよ!姉御ちゃんがいてくれなかったら、あたしたちはみんなやられてた!特にあたしとレイジなんて、赤ん坊の時に姉御ちゃんに拾われたから今まで生きてこられたんだよ?」


あんこの言葉に一番驚いていたのは昆布だった。


「ええ!?そうだったんでござるかぁ!!?」


昆布の驚いた声にあんこは驚いた。


「うわ!昆布!いつの間にここにいたの?」


「ああ、いや、遅れてしまって済まないでござる!ちょっと、ゴゴと話していたでござるよ。」


昆布が『ゴゴ』という単語を発すると、その場にいた姉御以外のものたちは皆、顔をうつむかせた。それに違和感を覚えた姉御はきょろきょろと周りを見渡してから言った。


「なんだい?ゴゴが、どうかしたのかい?...まさか!?」


姉御はそう言って無理やり立ち上がり、ゴゴのいた場所へと歩いて行こうとした。それを見てレイジとあんこは姉御に肩を貸した。


「姉御、無理すんな。俺たちもボロボロだけど、一番きついのは姉御だろ?もう魂の力がすっからかんだしな。俺たちはまだかろうじて残っているからな。肩貸すぞ?」


「そうだね!姉御ちゃんが一番強い相手と闘っていたからね!それだけやられるのは当然だよ!むしろ、生きててほんっっっっっっとおおおおおおおに良かったよ!!!」


あんこは涙を流して喜んでいた。姉御はあんこの頭をなでてゴゴのもとへと歩き出そうとした。しかしゴゴの方から姉御のもとへとやってきた。


「おお!姉御!生きてたか―!勝負しよーぜ!」


ゴゴはピンピンした様子で相変わらずの言葉を発した。

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