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星の勇者  作者: アシラント
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絶望の中の合理的選択

ダンたちは異形の姿になってしまった。レイジはそれを見て巨大な白猫の仕業だと思った。


「おい!!これお前のせいだろ!元に戻...」


といいかけてレイジはやめた。なぜなら前にもそんなことがあったのを思い出したからだ。


『これは、蛇の幻獣の時と同じか?あの時も人間が姿を変えられていた...今回も姿を変えられている。もしかして、あの時と同じように、元に戻したらダンたちは死ぬんじゃないか?』


レイジはそう思うとヘタなことを言えなくなった。そして質問をした。


「お前も、幻獣なのか?」


レイジの質問に白猫はニヤリと笑った。


「おうよ!俺様は幻獣よ!よくわかったな。まあ、これだけ巨大な猫は自然界にいねーからな!」


「やっぱり、幻獣なのか...じゃあ、お前がダンたちを...この異形の姿にしたのか!?」


「おうよ!その通り!俺様の能力でそいつらは俺の奴隷になった。もうじき自我も無くなると思うぜ?」


白猫は平気な顔して後ろ足で自身の首元を掻きながら言った。レイジはイライラした。


「ふざけるな!そんなこと、俺が許さない!」


「別にふざけてなんかいねーよ。俺様が作り出した森に住んでいやがったんだ。俺様の毒にやられたってだけの話だろ。」


「作り出した森?毒にやられた?いったいどういうことだ?」


レイジは気になる発言をすべて聞き返した。白猫はあくびをしながら答えた。


「だーかーら!さっきまであった森は、俺様が作り出した森なの!俺様が復活するまで、森に入ってくる動物たちの魂を喰らうためのな!だが、魂の力が今後増えそうな希望ある子供たちはこの森にずっと居たくなるような毒をその魂に刻んで、ゆっくりと時間をかけて魂を搾取し続けるはずだった。だが、復活できた以上、そいつらは役立たずになった。だから俺がそいつらの魂に仕込んでいた毒を呼び起こして俺に従順な奴隷にしてやったって話。理解できたか?」


白猫はまるで常識を説明するかのように言った。その言い方がレイジには恐ろしく感じた。人間を醜い姿に変え、自我を失わせて奴隷にすることを何とも思っていないことがヒシヒシと伝わってきたからだ。


「...もういい。十分理解した。」


「おっ?理解できたか。じゃあ、お前の正体でも...」


そう言いかけていたところでレイジは怒り狂う炎をまとった。


「ああ!お前が俺たちの敵って事がな!!!」


レイジは刀を抜いて2刀流になり、白猫に襲い掛かろうとした。しかしそれを昆布が止めた。


「落ち着いて!兄貴!」


「放せ!昆布!あいつをぶっ殺してダンたちを救うんだ!」


レイジは怒りで顔の表情が歪んでいた。昆布はレイジの腹にしがみついて言った。


「今闘うべきなのはこいつじゃないでござる!まずは姉御の救出が最優先でござる!それに、こんなバカでかい幻獣に勝てるわけがねーでござるよ!万が一勝てたとしても、そのころには姉御は連れ去られた後になっちまうでござる!」


昆布の言い分は正しかった。それを理解していたからこそレイジはムカついた。


「じゃあ!お前は!ダンたちを見捨てろっていうのか!?どっちも救うのが理想だろ!!」


「そりゃそうでござるけど!でも現実は、束になってもガイア1人を倒せないボロボロの拙者たち!それが幻獣も倒してガイアと牛鬼も倒そうだなんて、どう考えても無理でござるよ!拙者だってダンたちを助けたい!でも、正直言って助かる見込みがほとんどないでござる!それなら、まだ助かる見込みのある姉御の救出に全力を尽くす方がいいと思うでござるよ!!」


昆布は現状を理解して言った。レイジもそれは分かっていた。分かっていながらも、見捨てるという選択は取りたくなかった。ほんの少ししか一緒にいなかったが、それでもレイジはダンたちがスラムタウンを良くしようという、夢を持っていたことを知っていた。それを叶えるために姉御に修行をつけてもらおうとしていたことを知っていた。それなのに、ここでダンたちを見捨てるのはその夢を自分たちの手で壊すような気がして嫌だった。


「ハーーーーーッハッハッハ!!なるほどなー。こいつは傑作だ!」


白猫は突然高笑いをし始めた。それに動揺したレイジは聞いた。


「な、何がだよ?」


レイジの質問に白猫はニタァ―っと悪い笑みを浮かべて言った。


「何がって、お前らがこの俺様と闘おうとしてることだよ!悪い事は言わねーから、バカなこと考えるのはやめとけ。たとえ俺を殺したとしても、俺はいずれ復活するし、そのためにそこの奴隷どもを喰う。まあ、闘いたいならお好きにどうぞ?それに、どうやらあっちも決着が付きそうだしな。」


白猫はガイアたちの方を向いた。ドナルドと姉御は二人とも魂の力が底をつき、立っているのもやっとの状態だった。


「なるほどな。そう言う事か。」


そうつぶやいて一人で勝手に納得していたのはゴゴだった。ゴゴはそれを言うと同時にダンたちの方へと歩き始めた。それを見たレイジたちは戸惑い、困惑していた。そしてレイジが聞いた。


「ゴゴ?なにをするつもりだ?」


その呼びかけに答えることなく、ゴゴはボロボロの右手に力を込めて、肉塊となったダンを殴った。その肉塊は音を立ててはじけ飛び、返り血が周辺に飛び散った。ゴゴの予想外の行動にレイジ、あんこ、ネネは言葉を失った。そしてゴゴは何も言わず、次にジャックを殴ってはじけ飛ばした。


「な、何やってんだ...?ゴゴ...?」


レイジは驚きのあまり動けなかった。そしてゴゴはまた無言のままルーシーに近づき、殴ってはじけ飛ばした。その異常な光景を誰もが見ていることしかできなかった。まるで夢でも見ているかのような、それが現実だと理解したくなかった。そしてあんこは叫び声をあげていた。


「わああああああああああああああああああ!!!!」


その叫び声でレイジはハッと現実に引き戻された。そしてレイジはゴゴに向かって走り出していた。


「ゴゴオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」


レイジは叫びながら近づき、ゴゴの顔面を思いっきり殴った。ゴゴははじけ飛んだ死体に仰向けになって倒れた。


「何やってんだ。何やってんだ!何やってんだ!!!」


ゴゴは冷静にその質問に答えた。


「ダンたちが死んだら、姉御の救出に行くしかないだろ?だから殺した。」


ゴゴはレイジの目を見て話した。その言葉は裏があるわけでもなく、ただただ本当にそう思ったから実行したと、その目は語っていた。レイジは手に握っていた名刀『憤怒の魂』を振りかぶり、ゴゴを殺そうと思った。しかし、それは出来なかった。なぜなら、レイジも心の一部では理解していた。もうダンたちが助からない事を。そして、ゴゴもそれを理解していて、レイジたちの一縷(いちる)の望みを消すためにやったのだと理解していた。しかし、たとえそうであったとしても、ゴゴに対する怒りは消えなかった。それはあんこもネネも同じだった。


「ゴゴ...なに、してんの?それは、ダンたちだったんだよ?分からなかったの?」


あんこはゴゴがバカであって欲しいと思った。もし、ダンたちだと理解して行ったとしたら、それは人間じゃないと思ったからだ。ネネはただ、涙を流すことしかできなかった。


「嘘...ゴゴが...そんな...そんなことを...」


ネネもレイジと同じく心の底ではダンたちが助からないとわかっていた。しかし、それでもダンたちを殺すという選択を取ったゴゴを肯定することは決してできなかった。しかし、昆布だけは違った。


「ゴゴ...すまない。」


昆布はゴゴに謝った。昆布はその選択をゴゴに押し付けたことを謝っていた。ゴゴは相変わらず表情一つ変えずにいた。


「まあ、俺のことは後ででいい。だから姉御を助けに行こう。ここにいても、もう誰も助けられないから...」


ゴゴの発言にレイジは怒った。そして本気で殺そうかとも思ったが、さすがにやめた。そして失意の中、レイジは立ち上がり、涙を流しながら姉御の方へとフラフラと歩いて行った。それはあんこもネネも同じだった。そして昆布は倒れているゴゴに手を差し伸べた。ゴゴは昆布の手を握り、上体を起こした。


「昆布...さすがに、やめといたほうがよかったか?」


「いや、すごいよ。ゴゴは。拙者は...兄貴に嫌われたくないから、殺せなかったでござるよ...」


「まあ、俺は嫌われても闘えるならそれでいいからな。俺の心はそれしか無いからな。それより、昆布もさっさと姉御の救出に向かってくれ。俺はここに置いていってくれ。どうやら、俺じゃ役に立てそうもないからな。」


「...そうか。珍しいな。ゴゴが闘いの場に挑まないなんて...」


「まあな。救出任務はつまらないからな。」


ゴゴの返答に昆布は笑った。


「なるほどな。その返答こそ、ゴゴらしいよ。」


そう言って昆布は急いで姉御の救出に向かった。そして白猫は高笑いをしてゴゴに顔を近づけた。


「ハーーーーッハッハッハ!!!お前、なかなかおもしれ―じゃねーの!?俺の奴隷どもをぶっ殺しちまうなんてよぉ!お前、人間じゃねーな?」


「なんだ?ダンたちの代わりに俺に奴隷になれって言いたいのか?」


ゴゴの返答に白猫はまた高笑いをした。


「ハーーーーッハッハッハ!!!まさか!お前の行動に感心してんだよ。それに、その魂は懐かしいな!」


「そうか。まあ、面識あるのは当然か。」


そう言ってゴゴは飛び散ったダンたちの肉片を集めていった。


「まあ、お前の正体についてはだいたい見当がついてる。本当ならここでぶっ殺して届けるべきなんだろうけど、俺は面白いのが好きだからな!お前たちの今後を見守ってやる。お前たちのチームは、とてつもなく面白そうだ!」


白猫は高笑いをしながら言った。ゴゴはフッと笑った。


「そいつはありがてぇ。だが、お前はめっちゃ強そうだ!いつか必ず闘ってもらうからな!」


白猫は予想外の発言に大笑いをした。


「ハーーーーッハッハッハ!!!そう来るとは思わなかったぞ!」


そう言ってゴゴは血まみれになった体で立ち上がり、地面に穴を掘ってダンたちの墓を作った。


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