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星の勇者  作者: アシラント
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ボロボロのレイジたちに襲い掛かる絶望

ガイアは倒れているゴゴに近づいた。うつ伏せに倒れているゴゴは、右手から蒸気を発しながら徐々に元の大きさにしぼんでいっていた。そしてまだ息があることを知ると心底驚いた。


「まだ、生きているのか...」


そしてガイアはゴゴを始末するかどうか悩んでいた。


『魔王様の命令で殺してはならないと言われたが、こいつだけはここで殺しておかねば、後々まずいことになる予感がする。さて、どうしたものか...』


ガイアは悩んでいた。そこへゴゴの救出に立ちはだかったのはあんこだった。あんこは切断のヒシちゃんをガイアの足をめがけて飛ばした。ガイアはそれを難なくかわした。


「はぁ、はぁ、ゴゴは、殺させないよ!というか、私の仲間は誰一人殺させないから!」


あんこはガイアに蹴り落された際に受けたダメージが体中に響く中、立ち上がった。ガイアはそれを見て面倒だと思った。


「...どうやら今はチャンスじゃない。またの機会にしよう。」


そう言ってガイアはゴゴから離れようとした。しかしそのガイアの足を掴んで離さない奴がいた。それはゴゴだった。


「へ、へへへへへ。ま、まだ、終わって、ない!」


ゴゴは血まみれで筋肉もズタズタに引き裂かれ、骨も粉砕している右手でガイアの足を掴んで離さなかった。ガイアは驚きを通り越して恐怖を感じた。


「ま、まだ闘う気があるのか!?...おそろしいな。」


そしてガイアは心の中で思った。


『こいつは、初めての経験だ。格下相手に恐怖を感じるとは...この恐怖は命の危険からくるものじゃない。理解できない怖さだ。勝てないとわかっていながら、さらにもうじき死ぬかもしれないのに、それでも闘いをやめないのは、戦闘狂どころか戦闘依存者だ!』


ガイアはゴゴの腕を振り払おうと足をブンブンと振ったが、ゴゴの腕は掴んだまま全く離さなかった。それを見てあんこは魂の力を少し開放してガイアに襲い掛かった。しかしガイアは冷静にゴゴの腕を切り落として脱出した。ゴゴは手首を切られた。


「へへへへへ。手首だけでいいのか?欲のない奴だなー!」


ゴゴはそう言ってなんと立ち上がった。それを見たレイジたちはゴゴの存在が恐怖に変わってしまった。そしてレイジは思わずつぶやいた。


「ゴゴ、お前、人間じゃない。腕を切り落とされて笑っていられるのは、おかしいって...」


レイジはそう言った。ゴゴはそう言われて少し悲しそうに笑っていた。


「ははは。そうだったのか...いつでも笑ってれば、好かれるってもんでもねーのか。難しいなー!感情って!」


ゴゴは腕が切り落とされたにもかかわらず平常運転なテンションで言った。そしてガイアの足にしがみついていたゴゴの右手はガイアが外してゴゴに返した。


「ほら。やるよ。ついでにこれも。」


ガイアはゴゴの右手と一緒に1枚の紙を投げて渡した。その紙は魔王城の場所が記されていた紙だった。


「これは...魔王城の地図か?」


ゴゴは右手をくっつける能力でくっつけながら言った。言い終わるころにはゴゴの右手はグッパグッパと動き出していた。


「ああ。約束だからな。...ん?ドナルドはどこ行った?」


ガイアはゴゴに気を取られている隙にドナルドを見失っていた。そしてガイアはハッと気づき、牛鬼の方を見るとドナルドは牛鬼と闘っていた。


「まずい!いつの間に!?」


ガイアは急いで牛鬼のもとへと向かおうとした。しかしそれを阻むものがいた。それはレイジとネネとあんこだった。


「待てよ。行かせねーぞ?」


「そうね。ドナルドが動き出したことは、私も今知ったけど、あっちは彼に任せても大丈夫なのかしら?」


「うーん。どーなんだろーね?でもとりあえず、ガイアが一緒になって動くよりも大丈夫だと思うよ?」


レイジたちはガイアの前に立ち、ボロボロながら戦闘態勢に入った。それを見た昆布は死んだふりをいったんやめた。


「あれ?兄貴、やる気でござるか?」


「ああ!なんとか俺たちで足止めをする!お前はその隙にゴゴと姉御を連れてスラムタウンまで逃げてくれ!それしか今の現状を打破する方法はない!」


「了解でござる!闘わないのなら!拙者はやる気十分でござる!」


昆布は敬礼をして一目散にゴゴを連れて逃げ出そうとした。しかしゴゴはそれを拒否した。


「俺はいい。ひとりで歩ける。」


「歩けるって...なーにバカな事言ってるでござるか!この中で圧倒的に重症でござる!」


「俺より、姉御の方に行け。そっちの牛鬼とかいう奴の方が厄介そうだ。傷ついた姉御とドナルドだけじゃ確実に負ける。でも、昆布が行けば何とかなるだろ?」


「せ、拙者が行ってどうにかなるわけないでござる!せいぜい拙者にできるのは、けが人を連れて逃げることだけでござるよ!」


「...じゃあ、いいじゃねーか。それで姉御が助かるんだろ?」


「そ、それはそうかもしれないでござるけど...でもゴゴが死んだら後味悪すぎるでござるよ」


「俺なら大丈夫だ。いいからとっとと行け!考えてる時間がもったいねーだろ!」


ゴゴは叫んだ。昆布は一瞬気圧(けお)され、仕方なしにゴゴの言う通り、ゴゴをこの場に残して姉御の救出に向かった。しかしそれをガイアが簡単に許すはずも無く昆布を呼び止めた。


「待て。俺が行けない以上、お前たちも誰一人として行かせるわけにはいかない。」


そう言ってガイアは昆布の背後に回り昆布の背中を蹴ろうとした。その瞬間。大地が激しく揺れ始めた。レイジたちは全員が床に手を置いて座り込んだ。


「なんだ?地震か!?」


レイジはそう言った。ガイアは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。


「なんて間の悪い...まあ、予想以上に時間を食ったからか...ゴゴめぇ!」


ガイアはゴゴをにらんだ。そして地面の揺れは激しさを増し、縦横斜めに大きく揺れ始めた。そしてレイジたちのいる場所と牛鬼たちのいる場所の間で巨大な白いなにかが地面から飛び出してきた。それが何なのか、レイジにはわからなかったが、姉御の姿が見えなくなったことでレイジの不安は一気に増大した。


「姉御!!?」


レイジは届くはずもない腕を必死に伸ばした。しかし目の前には真っ白な壁が出ていた。そしてそれがふさふさの毛で覆われていることにレイジたちは気づいた。


「なんだ!?こいつは!?」


レイジが驚いて上を見上げるとそこには顔があった。その顔はまさしく猫そのものだった。


「白い...猫?」


「うるせえええええええええええ!!!眠れねーじゃねーかよおおおおおおおおおお!!!」


その巨大な白猫は大地を揺るがす怒号を放った。その雄たけびはまるで目の前で大爆発が起きているかのような爆音だった。レイジたちは耳をふさぐことしかできなかった。


「ああー、ああー!面倒!面倒!!」


ガイアはその白猫を見た瞬間怒りが込み上げてきた。その怒りは作戦が全くうまくいかない事によるものだった。


そしてガイアはレイジたちが白猫に気を取られている隙にスッと消えるように逃げ出した。


「あ!おい待て!!」


レイジはガイアを追おうとした。しかしそれを白猫が許さなかった。白猫はレイジの前に自身の手を置いてレイジの行く手を阻んだ。


「おい待てええええ!!!俺様の上で散々騒いだ挙句、逃げ出そうだなんて思ってんじゃねーだろうなあああああああ!!!」


白猫は怒りで血管が浮き出していた。レイジは白猫が喋れることに驚いた。


「な、なんなんだ?お前?」


「『なんなんだ』だとぉ?てめえ!!この俺様を知らねーでこの森で騒いでいやがったのかぁ!!?クズがあああああああ!!!ぶっ殺してやる!!!!」


白猫は思いっきり右手を振りかぶってレイジへとたたきつけた。レイジはそれを避けたが、地面から飛び散る土や石が全身に当たり、ところどころ出血をしていた。


「うぐぅ!」


レイジは諦めずに対話を試みた。


「わ。悪かったよ!あんたがここにいることを知らなかったんだ!だから闘うのはやめてくれないか?」


「あぁ!!?...なんだよ。謝れるんじゃねーか。よーし!じゃあ言い訳を聞いてやる。」


白猫はそう言ってムスッとした表情のままレイジに顔を近づけた。レイジはギョッとしたが冷静さを取り戻して話しかけた。


「まあ、まずそのー。悪いのはガイアの奴なんだ!あいつがこの場所で闘うことを指定したんだ!だから文句があるならガイアに言ってくれ!俺たちは被害者なんだ!」


「なにぃ!!?ガイアだとぉ?...そいつはどこのどいつだ?」


「たぶんあなたの後ろにいる牛の魔族と一緒にいる、ほぼ裸の変態ムキムキ男です!」


レイジはそう言った。すると白猫は後ろを振り向いた。後ろには牛鬼と闘うドナルドと、何とか牛鬼の拘束から逃げ出して闘っている姉御と、牛鬼と一緒にいるガイアがいた。


「おんどれかぁあああああああああああ!!!わしのテリトリーで暴れまわる大馬鹿モンはあああああああああああ!!!」


白猫はそう叫んでガイアに向かって腕を振り下ろした。ガイアはそれを難なく避けた。


「違う!さっき話していた赤髪の二刀流が犯人。あいつが全部悪い。」


「なにいいいいいいいい!!?やっぱりおめえかああああああああ!!?」


白猫はそう叫んで今度はレイジに腕を振り下ろした。レイジは避けた。そして思った。


『なんて単純な奴なんだ!?人の言葉をうのみにしていやがる!もしかしてバカなのか!?』


レイジは心の中でそう思いながらまた何かを言おうとしたが、白猫の動きが止まっていることに気づいた。


「おい...なんで、あの一族がここにいるんだ...?」


白猫の視線の先にいたのはあんこだった。あんこは「え?あたし?」と自分を指さして言った。


「ああ。お前だ。なぜ?...一族は皆死んだと、そう、俺は、言われてて...」


白猫は目玉が飛び出そうなほど驚いていた。あんこはそういう目で見られるのが怖くてレイジの陰に隠れた。


「え?あんこが、なにかあるのか?一族って何の話だ?」


レイジがそう聞くと白猫はハッと気づき、首をブンブンと振って冷静さを取り戻した。


「なんの話って...そのままの意味だよ!絶滅したはずの一族の末裔がいる!だから俺は驚いてんだ!...いや、待てよ?だから俺は計画よりも1000年ほど速く目が覚めたのか?だとしたら...」


そう言って白猫は全身に力を溜め始めた。そしてほんの少し魂の力を出したところで力を抜いた。


「なるほど。それなら納得するっきゃねーな。」


白猫はひとりで勝手に納得して笑った。レイジは聞いた。


「な、なにしてんだ?」


「ん?なにって...いや、言わなくてもいいか。とりあえず!」


そう言って白猫はニャオオオオオオっと鳴くと、森全体が枯れ始めていった。


「な、なんだぁ!!?」


レイジは周りの景色が一瞬のうちに変わることに驚いた。そして数秒のうちにその森は無くなり、ただの更地になった。


「ふぅー。刑期満了!しかも、可愛らしいお供までできたっつーね!」


白猫がそう言うと、あんこたちの後ろから人間の叫び声が聞こえた。あんこは恐る恐る振り返った。そこにはダンとジャックとルーシーが苦しがっていた。


「ダン!ジャック!ルーシー!」


あんこは急いで駆けつけた。しかしダンたちは痛みに(もだ)え、あんこの言葉が届いていないようだった。


「あああああ!!!ううぅっ!!ぎああああああああ!!!」


ダンたちは叫び出した。すると、ダンたちの腹がブクブクと膨れ上がり、その腹が裂け、中から内臓が飛び出し、その内臓が膨れ上がり、破裂し、ダンたちの皮膚が裏返り、見るもおぞましい肉塊へと姿を変えた。


「あ、あああ!」


あんこは目の前でダンたちが変貌するのを見ることしかできなかった。そしてダンたちはぐっちゃぐちゃの肉塊となった。さらに恐ろしいのは、その肉塊は生きていることだった。


「お、オネエチャ!だ、ダズゲデ!!」


その肉塊はグロテスクな見た目とは裏腹に、声はダンたちのものだった。そして肉塊は血を噴出し、蒸気を噴出し、骨が丸見えとなった腕でもがいていた。あんこは想像を絶する光景に言葉も出なかった。

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