変態的な面
真っ暗な時間が終わり、イケメンな太陽がゴゴを照らした。その光は夜に慣れていたゴゴの目には眩しすぎて、反射光でさえ直視できないほどだった。
「ああ、朝かぁ。楽しい見張りの時間はもう終わりかー。」
ゴゴは太陽の出現に安心と落胆をその心で味わった。
「起きろー!朝だぞー。早くサンシティに行こうぜー。」
ゴゴは昨夜使った鍋とおたまをカンカンと打ち鳴らした。するとテントの中からとてつもなくイライラした姉御が出てきた。目には恐ろしいほど黒いクマがあった。
「ああ、おはよう。昨夜は、ずいぶんと、楽しそうだったじゃないか。」
姉御は今にも爆発しそうな頭の火山を理性でギリギリ抑えながらゴゴに言った。ゴゴは嬉しそうに笑った。
「ああ!昨日はめちゃくちゃ楽しかった!俺のスーパーイメージトレーニングによって、あの魔王軍のファイアって奴を完膚なきまでにボコボコにしてやったぜ!」
ゴゴはシャドーボクシングをしながら嬉しそうに姉御に説明をした。その様子についに姉御の火山が噴火した。
「うるさぁぁぁい!!!昨日の夜はとにかくうるさかった!!!あんたがオリャ!とかテリャァ!とかくらえぇぇぇぇ!!なんて叫んでたからあたしは敵襲か!?って思っていちいち外の様子を確認して、そしたらあんたがただシャドーボクシングしてるだけでってそんなのが昨日の夜だけで何回もあって!もーう全然眠れなかった!」
姉御は溢れ出る怒りのマグマを感情的な日本語に乗せてゴゴにぶつけた。ゴゴはキョトーンとして動かなかった。
「え?夜の見張りってそういうもんじゃないのか?むしろじっとして何も喋ってなかったら暇じゃん。そんな暇な時間を何時間も過ごせっていうのか?そんなのただの拷問じゃん。やだよそんな見張り。」
ゴゴは純粋な目をしていた。その様子に姉御はゴゴに何を言っても意味がないことを理解してしまい、ぶつけようのない怒りにただ叫ぶしかなかった。その叫び声に起こされてレイジとあんこは目を覚まし、テントの中から出てきた。
「おはよー。なんだよ姉御、また何かあったの?」
ゴゴは大欠伸をしながら姉御に怒りの理由を聞いた。
「レイジ!昨日のやつのうるさい声を聞いた!?あれじゃ見張りどころか敵襲だよ!あたしたちを寝かせないようにしたスパイの巧妙な手口だよ!なのに当の本人は悪びれる様子もなくただ見張りをしただけだって言い張ってて、もーう無理ぃ!」
姉御は頭をかきむしりながらレイジに愚痴を言った。レイジは「まあまあ」と姉御の方に手を置いて姉御を落ち着かせようとした。
「俺はあんまり気にならなかったけどなー。そんなうるさかったのか?」
「あんたは一度眠るとびっくりするほど起きないから気づかなかったのかもしれないけど、ほんっとうにうるさかったのよ!何度か注意したけど一時間もすればまた叫び出して、結局全然眠れなかったのよ!」
姉御は泣きつく子供のようにレイジの服にしがみついて訴えた。レイジはとてつもなく困りながら激しいバンドのライブに来たファンのように、頭をブンブンと頷かせて、安心させるように姉御の肩を叩いた。
そしてあんこはいきなり服を脱ぎだし、裸になった。それを見た姉御は一瞬で母親スイッチに切り替えてあんこの元へと走りだした。
「こら!知らない男の人の前で裸になっちゃいけないって何度も言ってるでしょ!」
「水浴びしてくるー。」
あんこは重たいまぶたを擦りながら姉御の注意を聞き流してふわふわと浮き出し、高速道路の下に流れる川に向かいだした。レイジはゴゴの方をチラッと見た。ゴゴは何食わぬ顔でその様子を見ていた。
「おい、ゴゴ。あんこを襲ったりするなよ?」
レイジはあんこの心配をして、ゴゴに釘を刺した。ゴゴは一瞬考えて、高らかに笑い出した。
「安心しろ!いくら今のあんこが無防備だからといって、不意打ちを喰らわせようなんてせこい事考えてないぞ!やるんなら正々堂々一対一で殴り合うさ!」
ゴゴはサムズアップと輝く歯を見せながらレイジに言った。
「いや、そう言う意味じゃなくて、いくらうちのあんこが可愛くて誰に対しても警戒が薄いからといってエッチなことするなよって言いたいんだよ。」
レイジは自身の心配をきちんと言葉にしてからゴゴに言った。ゴゴは頭に『?』を浮かべながら数秒考えて『!』に変わった。
「ああ!そういうことか。なるほど、それは考えてなかったなぁ。なにしろ俺はちんこはあるけどタマは無いからなぁ。性欲?ってやつが全く無いんだよなぁ。」
「ええぇ!?タマがない!?」
レイジは予想の遥か上をいくゴゴの言葉に完全に目が覚めてしまった。ゴゴは自身のズボンとパンツを脱ぎだした。
「ほら見ろよ、タマがないだろ?」
ゴゴはちんこを持ち上げてタマ袋をレイジに見せつけた。レイジはマジマジと見つめた。そこにはたしかにタマはなかった。タマ袋があるのにタマはなかった。二つあるはずのタマが完全にゼロだった。
「ほんとだ、マジでないじゃん!な、なぁ!ちょっと触って確認してもいいか?」
レイジは上目遣いでゴゴに聞いた。ゴゴはまたサムズアップをして承認した。レイジはゴゴのタマ袋を鷲掴みにした。そして指を動かし、入念にタマ袋を探った。しかし本当にタマは無かった。そのかわり、何かの切り傷らしきものを見つけた。それを目を凝らして見てみると、去勢手術の跡と思わしきものだった。
「おい!こんなところで気色悪いことしてないで、片付けるのを手伝っておくれ。」
姉御はテントを片付けながらレイジ達に言った。レイジは生返事をしてゴゴの股間を触るのをやめて手伝いに行った。ゴゴもパンツとズボンを履き直して手伝いに行った。
テントを片付け終えた時、あんこも魚を捕まえて帰ってきた。そしてレイジに手渡した。
「ただいまー、レイジーそれ焼いてよー、おねがーい。」
あんこはふわふわ浮きながらレイジに上目遣いでおねだりをした。レイジは「はいはい」とやる気なさそうに右手に火をつけて魚を焼き始めた。そして姉御はタオルを持ってあんこの元へと駆けつけた。
「こら!さっきも言ったでしょ、外で裸になるのはダメだって。」
姉御はあんこの体を拭きながら言ったが、あんこはそんなことお構いなしに全身で自然を感じていた。
「だってぇ、お外で裸になるの、すっごく気持ちいいんだもん!今私はあの空に浮かぶ雲とおんなじ、自然と一体化してるの!それに、いけないことだってわかってるけど、それをやってることにすごく興奮しちゃうんだよ!胸がドキドキするの!」
あんこは空を見つめて、雲と同じように空中にぷかぷか浮きながら自身の変態な面をおおいに満喫していた。
「あのね!あんこ、それがもし悪い人に見つかったらあんた何されるか分かったもんじゃないんだよ?」
姉御は一通り拭き終わり、あんこに服を着せた。あんこは姉御に向き直り、変態な笑みを浮かべた。
「その見つかるかもしれないっていうスリルもまた楽しいんだよ!見つかったら酷いことされるかもしれないって思ったら、もっと心臓がドキドキするの!それがすごく楽しいの!」
あんこはレイジから焼きあがった魚を受け取り、頬張りながら満足そうに言った。姉御は肩を落として深いため息をついた。
「どーしてこんな変態な子に育っちゃったんだろうねぇ、自由な子に育てたいって思ってたけど、ここまで自由すぎるととっても心配になるよ。」
姉御は頭を抱えた。レイジは姉御の方に手を乗せた。
「まあまあ、誰だってそんな変態的な面は持ってるんだから、気にしなくていいよ。それに、たとえ見つかったとしてもあんこほど強かったら返り討ちにできるんだし、心配いらないよ。」
「そう!科学者はみーんな変態な所を持っていたっていうし、私もその例に漏れることなく変態だったってだけだよ!むしろこれは優秀な科学者の証拠だよ!誇るべきことだよ!」
あんこはゴゴみたいに高らかに笑い出した。
「なるほど、外で露出するとそんなに楽しいのか、俺もやってみようかなぁ。でも裸を見られるなんて、とっても恥ずかしいわぁ〜ん!」
ゴゴはクネクネと気持ち悪く体をくねらせて恥ずかしがっていた。レイジは冷めた目でそれを見ていた。
「恥ずかしいって、ちんこを平気で見せるし触らせるやつのどこに恥ずかしがる感情があるんだよ!」
レイジは突っ込まざるを得なかった。ゴゴは突っ込まれたことに満足して高らかに笑い出した。その三人を見て姉御は『ああ、このチームはもうダメだな。』と思った。