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星の勇者  作者: アシラント
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ネネvsチュナナ②

ネネとチュナナは一進一退の攻防を繰り広げていた。


「さっきまでとは大違いッチュね!?技のキレも反射神経も攻撃の鋭さも!何もかも本気って感じがするッチュよ!」


チュナナは高速で走り回りながら言った。ネネはそれに追いつくほどの速さで駆け回った。


「そうね!さっきまでの私は精神的に不安定だったのよ。でも、一度感情を爆発させたらすっきりしたわ!」


ネネはチュナナに攻撃を仕掛けては避けられ、チュナナの反撃を避けてはまた攻撃を仕掛けるという繰り返しをしていた。チュナナはネネの速さが予想以上だったことに驚いた。


「オラは害鼠の兄ちゃんに鍛えられてここまで速く動けるようになった。だけんど、おめーさんはそのオラに匹敵するほどの速さを持っとるな!なんでだ?いっくら魔族の姿をしてるとはいえ、ここまで速く動けるものはそうそういないべよ?」


チュナナの質問にネネはフフッと笑った。


「私はね、いつでも人間たちから逃げられるようにずっと鍛えてきたの。逃げ足の速さだけならほかの誰よりも負けない自信があるわよ。それに、旅の途中で姉御さんに鍛えられたのもあるわね。」


ネネは高速で森を駆け回るチュナナの背中からパンチを繰り出した。チュナナはクルッとネネの方を向いて両手でガードした。チュナナはそのまま地面へと落とされた。


「オラが、追いつかれるっとはなー。おめーさん、やっぱりタダもんじゃねーな。」


チュナナはヒョイッと軽々しく起き上がった。ネネは追撃の蹴りをチュナナに向かって繰り出した。チュナナはそれを後ろに飛んで避けた。


「あんたも相当強いわね。それに、なんだかまだ余裕があるように感じるわ。」


ネネの質問にチュナナは笑いながら答えた。


「チュッチュッチュ!それを見破るとは、いい観察眼をしてるッチュね!その通り!オラはまだ100パーセントの実力を出してねーッチュよ。」


「じゃあ、そのまま本気を出さずに死んでもらえると助かるわ。」


ネネは皮肉な冗談を言った。チュナナは笑った。


「チュッチュッチュ!それも面白そうッチュけど、残念ながらオラは死にたくないッチュからね!本気を出させてもらうッチュよ!」


そう言ってチュナナは全身に力を入れた。すると筋肉が肥大化し、体の大きさも一回り大きくなった。


「これがオラの本気の姿!ここからはオラの反撃のターンッチュよ!」


そう言ってチュナナは一瞬にして姿を消した。ネネは周囲を警戒してキョロキョロと周りを見渡した。すると上の方から殺気を感じてネネは上空を見た。そこには空から爆弾のように突っ込んでくるチュナナの姿があった。


「一瞬であんな上空まで飛んだっていうの!?っていうかまずそうだし!!?」


ネネはとっさにチュナナが落ちてくる場所から走って逃げた。チュナナはそのまま地面へと激突した。その衝撃で地面には大きなクレーターができ、衝撃波が周囲の木々をなぎ倒した。


「クッ!ううぅ!?」


ネネは身をかがめて迫りくる衝撃波を防いだ。チュナナはぬるっと起き上がりネネの姿を確認すると一瞬で近づきネネを蹴り飛ばした。


「かはっ!!?」


ネネは口から血を吐き出して吹っ飛ばされた。


「うぅ、げほっ!がはっ!ぐふぇ!」


ネネは腹を抑えて吐血した。口の中は血の味に染まった。そしてチュナナは無慈悲な追撃を仕掛けた。上空からネネめがけて突っ込んでいき、両足でネネの背中を思いっきり踏みつけた。その威力は先ほどのものと同等の威力だった。それをもろに背中に受けたネネは再び口から血を吐き出した。


「かはっ!!?」


今度は声にもならないほど小さな音とともに吐血した。ネネの内臓はもはや圧迫され過ぎて機能不全一歩手前だった。


「おや?まだ生きてるなんて、おめーさん、相当頑丈だなー!この急降下爆撃アタックを直撃して生きてる相手なんておめーさんが初めてだ!ほかの奴は当たらないか、当たったら腹をぶち破って死ぬかのどっちかだったからなー。やっぱおめーさん、つえーな!」


チュナナはネネの頑丈さを褒めたたえた。そんな余裕があるほどの実力差があった。ネネは死を全身に感じた。目の前の景色が歪んで見えてきた。


『ああ。私は死ぬんだな。』


ネネは頭の中でそう思った。そして今までの人生を振り返ってみた。


『思えば、私の人生って何だったんだろう?生まれた時から村人に忌み嫌われ、拷問を受けて、パパとママが死に、森の中でたった一人で生きてきた。そして偶然勇者のマントを手に入れてレイジたちと出会った。ようやく私にも普通の幸せが手に入るのかもって、思ってた。でも、私はここで死ぬ。チュナナが強すぎる。...どうして、私は幸せになれないの?私は、不幸になるために生まれてきたの?もうそう思っちゃうほど、私の人生は不幸の連続だった。...もう、死んじゃったほうが楽になれるかな?』


ネネはその考えが頭をよぎり、生きることを放棄しかけた。その時、頭の中に声が響いた。


【本当に、諦めちゃうの?】


『え?』


ネネはいきなり声をかけてきた何者かに驚いた。その声は優しく、可愛らしい女性の声だった。


『だれ?』


ネネの質問にその声の主は答えなかった。


【あなたのこと、ずっと見守ってたよ。ごめんね。辛かったよね。本当にごめんなさい。】


『どうしてあなたが謝るの?』


【でも、あなたには生きていて欲しいの。...これも私のわがままだわ。ごめんなさい。】


『なに?だれ?あなたは誰なの?』


【本当に悪いと思っているわ。でも、世界を救うために、あなたはこの魔族を倒してもらわないといけないの。】


『そんなこと言ったって、私じゃ勝てないわ。』


【ううん。あなたなら勝てる。でも、あなたはその力が大っ嫌いなのよね。...ごめんなさい。】


『...そうね。あの力を使えば、私は自分が魔族だってことを認めるようなものだもの。絶対に使いたくないわ。』


【うん。そうだね。でも、本当はそう思ってるんじゃないんでしょ?】


『え?』


【あなたは、自分が魔族なのがイヤなんじゃない。魔族だから殺そうとする他人がイヤなんでしょ?】


『...どっちでも同じことだわ。私が人間だったら解決してた問題よ。』


【ううん。違うわ。だってあなたには、魔族だとか人間だとか、そういうのを気にしない仲間がいるじゃない】


『...レイジたちのこと?』


【そう。あの人たちはあなたが何者だとしても、見た目にとらわれず、中身を見てくれる。そうでしょ?】


『...どうだろう。レイジは、きっと、私が魔族だから誘ったんだと思うわ。だって、レイジは魔族に出会ったことが無かったみたいだから。だから私に興味があるんじゃなくて、魔族に興味があるのよ。...きっと。』


【...そう。あなたは本当に自己肯定感が低いのね。でも、それも私のせいだわ。本当にごめんなさい。】


『...そんなに謝られても困るわ。』


【そうね。ごめんなさい。でも、わがままだっていうのは分かってるの。それでもあなたには生きていて欲しい。それだけは真実なの。それに、あなたの人生はこれからが楽しくなってくるはず。それはあなたも感じていたことじゃないかしら?レイジたちとの旅は、今までの人生を忘れてしまえるほどに楽しいものでしょう?ここで死んだらもったいないわ。】


『...わかったわよ。姉御さんに早く戻るって約束もしたものね。いいわ。大っ嫌いな力を使ってやるわよ!』


【...ごめんなさい。私の目的が達成すれば、きっとあなたには普通の幸せが待っているはずなの。だから、あなたの幸せをつかむために生きていてくれないかしら?】


『うん。私も、死にたいわけじゃないもの。』


ネネは謎の声との会話を終わらせて現実の世界に意識を戻した。


「じゃあ、かわいそうッチュけど、とどめッチュ!」


チュナナは再び飛び上がって急降下爆撃アタックをネネに仕掛けた。ネネはカッと目を見開き、目にも止まらぬ速さでその攻撃をかわした。


「なに!?よけたぁ!?」


チュナナはネネの動きに驚いた。そしてネネはゆったりと体を起こし、チュナナの方を見た。その姿は背中からドラゴンのような羽が生え、角は二本とも大きくなり、その髪の毛は逆立って色が赤紫色から薄いピンクに変わった。

そして顔は猫の目のように瞳が縦に細長くなっており、顔つきも爬虫類のように変形していった。

そしてその体は手足が長くなり、爪も鋭くとがり、脚は筋肉が肥大化してまるで恐竜の脚のように太く、尻尾も太く長いものが生えていた。


「な、なんなんッチュか!?その姿は!?」


チュナナはネネの恐竜のような姿に驚きを隠せなかった。ネネはガアアッとほえると足に力を溜めてから一気に間合いを詰めた。そしてその長い腕でチュナナを切り裂いた。チュナナは自分よりも速いスピードで襲ってきたネネに反応が遅れてよけきれず、その腹を五本の爪で切り裂かれた。


「うがぁ!?お、オラの腹が!!?」


チュナナはよけきれなかったが、その傷は内臓には届かなかったため、致命傷にはならなかった。


「だ、大丈夫!いくら姿を変えても!オラには勝てねーべよ!」


チュナナはネネに蹴りを放った。ネネはその足をマントでからめとった。


「ガアアアアアアアアアアッ!!」


ネネは大声で叫びながらチュナナをマントで持ち上げて上空に放り投げた。


「うわあああああ!!?」


チュナナはグラングランと回転しながら空中をさまよっていた。ネネは足に力を溜めて一気に上空へと飛び上がり、そのまますれ違いざまにチュナナの肉体を切り裂いた。チュナナは上半身と下半身が真っ二つになって地面に落ちた。


「あ、あああ、お、オラが、負けた?」


わずかに残った命の炎でチュナナは自身に起こったことを認識した。そしてネネはシュルルルルッと元の姿に戻った。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ...ゆ、遺言は、ある?」


ネネは息を切らしながら上半身だけになったチュナナに聞いた。チュナナは笑った。


「チュッチュッチュ!...牛鬼様には気を付けるッチュよ。あのお方はオラみたいに弱くないッチュからね。それと、害鼠兄ちゃんに、オラがごめんって謝ってたって言って欲しいッチュ。弱い兄弟でごめんって。」


チュナナはそう言い残して絶命した。ネネは初めて魔族を殺したことを認識すると、罪悪感で胸が苦しくなった。


『私は、殺したんだ。魔族を...。なんで、こんなにも、胸が張り裂けそうなの?やっぱり、私も同じ魔族だから?』


ネネは苦しい胸の痛みと腹の痛みにもだえながら、姉御のもとへと向かった。

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