あんこvsチューロック②
あんことチューロックは追いかけっこをしていた。チューロックはあんこのヒシちゃんのエネルギーが尽きるのを待つために逃げていた。あんこは早期決着を求めるために追いかけていた。
「ちょっとー!逃げてばっかじゃん!全然追いつけないし―!」
そう言いながらあんこはヒシちゃんのレーザー攻撃を何発も打った。
「俺は逃げ足だけなら兄弟で一番速いッチュよ!」
チューロックは後ろから飛んでくるヒシちゃんのレーザーを軽くよけながら森の中を駆け回った。
「...しょーがないなー。そんなに逃げるなら、あたしも逃げちゃうもんねー!」
そう言ってあんこはチューロックとは反対方向に逃げて行った。予想外の行動にチューロックは困惑した。
『...?なにを考えていやがる?まさか、諦めたのか?それとも、俺が逃げ回っている間にヒシちゃんのエネルギーを回復させようって事ッチュか?』
チューロックはその不安をぬぐい切れず、恐る恐るあんこの後を追っかけた。するとあんこは地面に立って、服を脱ぎ、ヒシちゃんたちにギューッと抱き着いていた。
『...?なぜ服を脱いだんだ?』
チューロックは木の陰から覗いてみていた。そしてヒシちゃんたちのエネルギーが少しずつ回復しているように見えた。
『ヒシちゃんの中心にある光が、赤色から緑色に変わっていく...やっぱり回復していやがるのか!?』
チューロックはそう思い、いそいであんこのもとへと姿を現した。
「回復なんかさせねーぞ?」
「あっ!やっぱり来た!」
あんこはそう言って構えた。
「全く、そんなにも簡単に回復できるものなのかよ。そんだけ難しい機能を持った武器なら、もっと面倒な回復なのかと勝手に誤解していたぜ。」
チューロックは希望が絶望に変わったことでため息をついた。あんこはへへへと笑った。
『本当はこれっぽっちも回復してないんだけどねー。チューロックの言う通り、回復には時間がすっごくかかるの。だから回復したように見せるため、ランプの色を緑色に変えただけなんだけど...作戦大成功!』
「...しかもなんで服脱いでんだよ?」
「それはー、服脱いだ方があたし強くなるから!」
あんこは訳の分からない理論を言った。チューロックは全く理解できなかった。
「...まっ、嘆いていても仕方ねーな。それなら正面切って闘うだけだ!」
チューロックはあんこの周りを高速で動き回った。あんこはいつどこから攻撃が来るのか警戒しながら、自身の周りにヒシちゃんをまとわせていた。チューロックはその高速移動から石を投げつけた。石はヒシちゃんの体を張った守りで防いだ。
「石...?まあ、あたったら痛いけど、これじゃあたしを倒せないよ?」
あんこはチューロックが石を投げた意味が分からなかった。しかしチューロックは返事をせずに石を投げつけまくった。そのたびにヒシちゃんが自動的に動いてあんこを守った。そしてあんこもだんだんとチューロックの狙いが分かってきた。
「あ!もしかして、ヒシちゃんのエネルギー切れを狙ってるの!?」
「悪いね!俺は卑怯な手を使ってでも生き残りたいタイプでね。安全なところからヒシちゃんをエネルギー切れさせるッチュよ!」
チューロックはさらに石を投げる速度を増して無数の弾丸のように放った。あんこは空中に飛んで逃げた。
「あのままあそこにいたらすぐにヒシちゃんのエネルギーが尽きちゃうよ!すごいこと考えるなー。レイジみたいだなー。」
あんこはずる賢い作戦を見てレイジを思い出した。そして空に逃げることには成功したが、チューロックの姿を見失ってしまった。
「あれ!?さっきまであそこにいたのに...どこ行っちゃったの?」
あんこが必死に地面を見て探しているとき、背後からチューロックが襲い掛かってきた。あんこはとっさに防御のヒシちゃんを展開してガードしたが、チューロックの蹴りが想像以上に重く、あんこはそのまま地面に叩き落された。
「ううぅ、痛い。」
あんこは蹴られた衝撃で右手にあざができていた。そして地面に叩き落された衝撃で体中がズキズキと痛んだ。
「空を飛ぶのは予想していたぜ。だから姿をくらまして奇襲に成功した。そしてどうやら防御のヒシちゃんのパワーはずいぶん落ちたみたいだな。最初はあんなに硬くて動じなかったのに、今は衝撃を吸収出来てねーようだな。」
『ううぅ、バレてるよー。』
あんこは苦しそうな表情を浮かべた。
「それに、防御のヒシちゃんだけじゃねー。ほかのヒシちゃんもだんだんと力が弱まって来てるな。もう限界なんじゃねーのか?」
『全部バレちゃってるよー!どうしよー!』
あんこはさらに苦しそうな表情を浮かべた。
「さあ、ヒシちゃんなしに俺と闘うつもりか?悪いが、俺は容赦しねーぞ?殺し合いだからな。」
チューロックは鋭い眼光であんこをにらみつけた。あんこはその体に死の予感が走った。そして恐怖を感じた。
『ほ、本気だ!本気で殺そうとしてる!...怖い!』
あんこはそう思った。そしてそれと同時に不敵に笑いだした。
「フフ、フフフフフッ。アッハハハハ!!」
あんこは大きく口を開けて笑い始めた。その変貌ぶりにチューロックは驚いた。
「なんだ?いきなり笑いだして...」
あんこは恍惚とした表情を浮かべて、頬を赤らめた。両手で自身の震える体を抑えながらあんこは興奮していた。
「あたし、恐怖してる!怖いんだ!死ぬかもしれないのが!!...でも、それに立ち向かうのが、何よりも楽しいの!!!」
そう言ってあんこはヒシちゃんを紙状にして自身の体に取り込んだ。
「ヒシちゃんを取り込んだ...?いや、一番最初に会ったときと同じ状態って事か?」
「チューロック。あなたはあたしに最高のことを思い出させてくれた...あたし!恐怖に立ち向かうのが好きなの!怖くても、逃げ出したくても、それでも立ち向かう...そんなヒーローにあたしは憧れてたの!!!だから、あたしはこの闘い、絶対に逃げない!そしてあなたに勝って見せるわ!!」
あんこは言い終えると全身に魂の力を100パーセントで解放した。するとあんこの体から真っ白なオーラの液体がシュパシュパと上に向かって垂れ落ちていった。さらにあんこの背中には白くて透明な蝶のような羽が現れた。さらにあんこの髪の毛は肩くらいの長さからお尻の方まで届く長さに変わった。
「な、なんだ!?この力は!!?その姿は!?まるで神様のような姿じゃねーか!?」
チューロックはその美しすぎる姿に圧巻された。あんこはその白いオーラがまるで女神のベールのような、天女の羽衣のような姿に見えた。
「この姿は、姉御ちゃんに止められてたの。なんか嫌な予感がするって言ってね。だから本当は魂の力を解放したくなかったけど、チューロックは強いからね。本気で闘いたくなったの!」
そう言ってあんこはチューロックに接近して右手で殴りかかった。チューロックはあんこの一挙手一投足に心を奪われて、自身が殴られるまで戦闘中だということを忘れていた。
「ググゥッ!!?」
チューロックは殴られてようやく思い出した。自身が闘っていたことを。そしてあんこが敵であることを。
「フフッ。もしかして、あたしのかわいさに魅力されちゃった?」
あんこはいつもの調子で言った。その言葉ですらチューロックには女神の愛しいささやきに聞こえた。
「な、なんなんだ!?お前は!?」
「あたしも、よくわかんないよ。でも、この姿でいることは、すっごく気持ちいいの。まさに自由!って感じ!」
あんこは再びチューロックに殴りかかった。チューロックも正気を取り戻してその攻撃を腕でガードした。あたりに衝撃波が走る。その衝撃波に当てられた木々はとてつもないスピードで成長し、草花は色鮮やかで艶やかな葉を生やし、色鮮やかな花を咲かせた。それはチューロックも同じだった。
「な、なんだ!?なぜか、力がわいてくる!!?俺のすべての細胞が生き生きと動き出している!!?」
チューロックは全身にみなぎる力を嫌でも感じていた。鼓動が動くたびに筋肉は喜びで震え始め、内臓は生まれたてのようにスッキリとした表情を浮かべ、脳みそはビリビリと恐ろしいほどの気持ちよさを感じていた。
「チューロック!まだそんな元気があるのー!?すごいねー!」
あんこに褒められたチューロックは脳みそを焼き切られんばかりの喜びを感じていた。今まで生きてきた中で、いや、産まれる前の前世から生まれ変わった来世でも味わうことのできない史上の幸福を全身で感じていた。そしてチューロックは直感した。
『ああ。これが、女神の祝福なんだ。』
チューロックはあんこに褒められることだけしか考えることができなくなっていた。それは子供が母親の愛情を求めるようなものだった。
『もっと褒められたい!もっと笑顔を見せて欲しい!俺はできる子なんだ!』
チューロックはそう思った。そしてあんこはそんなことは全く知る由も無くヒシちゃんを召喚して7つ全てを横並びにして端と端をつなげて円状にした。
「じゃあ、もう最後の技で決めちゃおっか!」
あんこはヒシちゃんたちの真ん中に手を置いて力を入れた。するとヒシちゃんたちは中央に巨大なエネルギーを集め始めた。チューロックはただそれを見ていた。見ているだけで最上級の幸福を味わっていた。
「これがあたしの最高の技!スタンディングオベーション!!!」
あんこが技名を言い放つとその中央のエネルギーは巨大なエネルギー砲となってチューロックを吹き飛ばした。チューロックは全身を包み込まれた。
『ああ。幸せ。』
チューロックは無傷のままうつ伏せになり倒れた。あんこは魂の力を抑えて元の姿に戻った。
「ふうーっ!なんとか勝った!しかも殺さないで!やっぱりヒーローはどんな時でも相手を殺さないよね!」
そう言ってあんこはチューロックを担いで姉御のもとへと飛んで行った。




