あんこvsチューロック
あんこは森に記された道を浮かびながら進んでいた。するとその道の先に灰色のネズミの魔族が仁王立ちをして待っていた。
「よく来たッチュね。俺は害鼠の弟、チューロックッチュよ。」
「あ!こんにちは!」
あんこは礼儀正しくお辞儀をした。チューロックも一礼を返した。
「...って、そんな礼儀はいいッチュよ!とりあえず、ここまで来たからには覚悟ができてるッチュよね?」
「覚悟?」
「殺し合う覚悟ッチュよ。俺は相手が女であっても容赦はしないッチュよ?」
チューロックはグググッと拳を握った。あんこは神のへそくりである、「ミュージカル」を取り出した。すると服の中に潜んでいた銀色の紙が集まってひし形になった。それが7つできた。
「あたしも!相手が男でも容赦しないよ!?」
あんこの予想外の返答にチューロックは困惑した。
「ああぁ、そうなんだ。そんなこと言われたの初めてだな...」
チューロックはそう言ってからあんこに接近した。あんこは防御のヒシちゃんを真ん中に配置して周りをほかのヒシちゃんで六角形を作り大きな透明な青色のシールドを作った。チューロックはそれを打ち破ろうとしたが、予想以上の硬さに跳ね返された。
「なんて硬さ...これがシールドッチュか...」
「そうだよー!7つのヒシちゃんが集まれば、大きな街を守ってるやつとおんなじ硬さになるんだよー。」
「なるほど。つまりシールドを展開している最中は、ほかの攻撃は出来ないって事ッチュか?」
「ううん。こうやって分離させれば...」
あんこはそう言ってシールドのヒシちゃんに4つ、切断のヒシちゃんに3つ組み合わせることによって、盾と、透明な青色の剣が出来上がった。
「ほら!ふたつになるんだよ!」
「...便利だな。」
チューロックはつぶやいた。あんこは褒められてデヘヘッと笑った。
「まーぁねー!ヒシちゃんたちはこの銀色の棒で操れるんだー。だからこの棒が無くなったらヒシちゃんたちを動かすの、難しくなるのー!」
「...ご丁寧に弱点まで教えてくれるのか...ありがたいッチュね...」
「はっ!?これ言っちゃダメだって姉御ちゃんに言われてたんだった...また怒られちゃうよー!ねえねえ、今言った事、内緒にしてて...くれる?」
あんこは後ろで手を組んで上目遣いでお願いをした。チューロックはその可愛さについ目をそらしてしまった。
「ま、まあ、別にいいッチュけど...」
チューロックは頬を赤らめてつい承諾してしまった。あんこはニッコリと笑った。
「ありがとー!キミっていい奴なんだね!」
「そ、そんなことはどうでもいいだろ!?今は闘いの最中なんだ。いいから闘うッチュよ!?」
チューロックはあんこに調子を狂わされっぱなしでタジタジになりながらも戦闘態勢をとった。あんこも大きくうなずいた。
「うん!そうだね!じゃあ、ヒシちゃんの怖さを見せてあげるよ!」
あんこはヒシちゃん7つを呼び集めた。そしてまるで指揮者のように棒を振ってヒシちゃんに指示を与えた。するとヒシちゃんはチューロックを囲むように四方へと動いた。チューロックはヒシちゃんひとつひとつを警戒しながら見ていた。
「じゃあ、こうげき!かいしー!!」
あんこが合図を送るとヒシちゃんたちはチューロックに向かって突進を始めた。チューロックは上にジャンプをしてそれをかわした。しかしヒシちゃんたちはチューロックを追いかけて宙を飛んできた。チューロックは木の枝に捕まり、ピョンピョンと渡って逃げていた。
『...あのヒシちゃんとかいう武器。やっかいッチュね。それぞれ見た目が全く同じなのに、それぞれが全く違う攻撃を仕掛けてくる...防御型と剣型がいたのは分かったッチュけど、ほかが何をしてくるのか、用心するッチュね。』
チューロックはそう考えて一旦は逃げることに専念した。しかしそれを許さず、あんこは自身がチューロックの先回りをして蹴りで地面に叩き落した。
「ぐぁっ!?」
チューロックは予想外の攻撃に対処が遅れてあんこの蹴りをもろに食らってしまった。そして地面に叩き落されたチューロックを追い打ちするために、ヒシちゃんたちが攻撃を仕掛けた。まずレーザーのヒシちゃんに3つが1列についてレーザー攻撃を仕掛けた。チューロックはそれを後ろに飛んで避けた。すると今度は切断のヒシちゃんに4つが1列に並んでついてさっきよりも一回り大きな剣で串刺しにしようと後ろから接近してきた。
「後ろぉ!?いつの間に!?」
チューロックは驚いて声を出した。そしてヒシちゃんの攻撃をバク宙で華麗に避けた。そしてヒシちゃんたちはあんこの手元へと戻ってきた。
「いまのヒシちゃんたちの攻撃を避けるなんて、すごいね!姉御ちゃんに褒められた技だったのに!?」
あんこは素直にチューロックのことを褒めた。しかしチューロックは余裕のあるあんことは裏腹にかなり恐れていた。
『この人、めっちゃ強くねーか?ヒシちゃんって武器の扱いも長けてるし、なにより本人から食らった蹴りがめっちゃいてぇ!こういうのは本体が弱いっていうのが基本だって害鼠から聞いてたのに、本人の方が強いッチュよ!?どうなってるッチュか?』
チューロックはあんこの強さにひや汗を流していた。
「...こりゃ、出し惜しみしてる場合じゃないッチュね...」
チューロックはそう言って全身に力を溜め始めた。
「んー?なんか、強くなってるー?」
あんこはチューロックの筋肉の変化に気づいた。チューロックは今までよりも一回りほど筋肉が大きくなった。
「こっからは、俺も本気で行かせてもらうッチュよ。」
チューロックはそう言うと、目にも止まらぬ速さであんこの背後を取り蹴り飛ばした。あんこはすぐさま振り向いて防御のヒシちゃんを呼んだが間に合わず、腕をクロスさせてその蹴りをくらった。
「ううぅ!」
あんこは勢いよく後ろへと飛ばされた。チューロックはさらに追撃を与えようと、再度あんこの後ろに回り込んで蹴り飛ばした。あんこは背中を蹴られて「かはっ!」と肺の空気が口から漏れ出した。そしてそのまま地面へと叩き落とされた。
「いったーい!?ほんとに強くなってるじゃん!?」
あんこは口から唾液を吐き出しながら言った。そして四つん這いの状態からゆったりと立ち上がった。チューロックはフーッと一息ついた。
「これが、俺の本気ッチュよ。さすがに人間のやわな体じゃ、もう闘えないんじゃないッチュか?」
「まっさかー!まだまだ闘えるよ!」
あんこはそう言って再びヒシちゃんたちを集めて陣形を取った。今度は水のヒシちゃんと爆発のヒシちゃんが横に並んで、その後ろにほかの5つのヒシちゃんが連なった陣形を取った。
「まだ、やる気ッチュか?正直、殺したくは無かったッチュが、仕方ないッチュね。」
チューロックはそう言ってあんこに接近してきた。
「じゃあ!ヒシちゃんのもう一つの強さを見せちゃおっかなー!」
あんこはそう言ってヒシちゃんに指示を出した。すると水のヒシちゃんと爆発のヒシちゃんは互いに共鳴し合い、その場には大量の霧が発生した。チューロックは思わず目をふさいだ。
「なに!?」
「これがヒシちゃんのもう一つの連携!能力の同時発生だよ!大量の水を一気に爆発させて霧にするの!」
あんこは立ち込める霧の中でチューロックに言った。チューロックは若干熱い水蒸気に囲まれた。そしてそこから逃げ出すために後ろへと大きく後退した。そこを狙っていたあんこは切断と風を合わせた、かまいたちの攻撃を繰り出した。霧を切り裂くかまいたちにチューロックはギリギリで避けた。
「あっぶね!...こんな攻撃も出来るのかよ。もう何でもありじゃない?」
チューロックはあんこの多彩な攻撃手段に苦言をこぼした。あんこは得意げにしゃべった。
「フフン!ヒシちゃんは縦につなげると一番先頭のヒシちゃんの効果が上がって、横につなげるとつながったヒシちゃん同士の能力がミックスされるの!どう?すごいでしょ!」
あんこは鼻を伸ばし、胸を張って言った。チューロックは改めてあんこが油断の一切できない相手であることを認識した。
「なるほど。でもそのエネルギーはなんだ?まさか無限って訳じゃないだろう?」
「するどいねー!?そのとおり!ヒシちゃんたちの弱点は、そのエネルギーの消費がすっごいことなの!だから一回の戦闘ですぐばてちゃうの。だから普段はあたしの体に張り付いてあたしの魂の力を蓄えてるんだー。だから扱いが難しいんだー。すっごく強い分、弱点もわかりやすいって事なんだー。」
あんこはヒシちゃんの弱点を全てわかりやすく説明した。チューロックもいい加減あんこの性格を理解してきた。なのでツッコミはしなかった。
「...なるほど。じゃあ、長期戦は苦手って事でいいのか?」
「そう!それが言いたかったの!すごいねー!あたしの言いたいことが分かるなんて!」
「...そうか。なら、俺は長期戦に持ち込ませてもらうッチュ!」
そう言ってチューロックはひたすら逃げに徹することにした。
「ああ!待ってよー!ヒシちゃんは移動スピードがそんなに速くないんだから!そんな速度で逃げられたら追いかけるの面倒になるよー!」
あんこはそう言って森の中をひたすら逃げまくるチューロックを追いかけまわした。