ドナルドvs害鼠②
ドナルドは魂の力を100パーセント出した。すると黒いオーラはドナルドの全身をさらにまとい、モヤモヤとした霧のような鎧が出来上がった。その姿に害鼠は驚いた。
「なんだッチュ?そのあいまいな鎧は?まるで亡霊みたいッチュね。」
「亡霊か...同じセンスしてんじゃねーか。」
「ん?どういうことッチュか?」
害鼠は困惑した。ドナルドはフフフッと悪い笑みを浮かべた。
「黒亡霊!こいつは俺がフルパワーを発揮したときに身にまとう幻影だ。」
ドナルドはそう言って拳を握った。
「こっからは、拳も使わせてもらうぜ?お前も全力で来いよ。」
「もちろん、そのつもりッチュよ?」
害鼠は尻尾をくねらせた。そしてお互いに地面を蹴り上げて接近した。ドナルドの拳と害鼠の拳がぶつかり、森全体を揺るがすほどの衝撃が走った。その衝撃でお互いにのけぞった姿勢になる。そこからお互いにまた拳を拳をぶつけた。ぶつけては弾き合い、ぶつけては弾き合う。その繰り返しを何回か行った後にドナルドは足を使って攻撃した。
「俺の本領は脚なんだよぉ!」
ドナルドは害鼠の拳をはじき返した。害鼠は体勢を崩した。そこを逃さず、ドナルドは追撃の空中回し蹴りを放った。完璧にとらえたと思われた蹴りだったが、害鼠は尻尾を使いその蹴りをはじいた。
「そんなこと!みりゃ分かるッチュ―の!」
害鼠はドナルドの蹴りをはじいてすかさずドナルドを殴り飛ばした。ドナルドは腕をクロスさせて防御したが、そのままはるか後方へと吹っ飛ばされた。
「...やっぱりあいつの尻尾は強力だな。俺の蹴りすら弾いてくるとは。クククククッ!面白れぇ!面白れぇなぁ!実力の近い相手は面白いなぁ!!!」
ドナルドは自身のフルパワーをぶつけられる相手との闘いに心が躍った。そしてそれと同時に強くなりたいという渇望が生まれてきた。害鼠は追撃の為にドナルドに接近してきた。ドナルドは狂った笑顔で迎えた。
「オイラの攻撃はぁ!まだまだまだまだぁ!!こんなもんじゃないッチュよ!?」
害鼠は尻尾をドナルドの脚めがけて薙ぎ払った。ドナルドはブースターを点火させて飛んで避けた。そしてドナルドはクルッと体勢を変えて害鼠に突撃しながら脚を下から上に薙ぎ払った。害鼠はそれを両腕で防ごうとしたが、想像以上の威力に抑えきれずにあごを蹴り上げられた。
「グフッ!つ、強くなってる?」
害鼠は先ほどの蹴りよりも威力が上がったことに戸惑った。そしてその戸惑いを晴らせないままドナルドの猛攻が始まった。害鼠の周りを飛び回りながら蹴りを入れてくる。害鼠は避けることに必死になったが、それでもドナルドの猛攻を避け切ることができずに全身をけられまくった。
「ガ八ッ!グフッ!ぐえっ!」
害鼠は蹴られるたびに痛みが走り、口から声が漏れてしまった。そして害鼠は避けることが全くできずにドナルドの攻撃を全て受けてしまった。
『まずいッチュ!なんとかこの状況を打破しなければ...!!』
害鼠は全身を回転させて全方向の攻撃をはじく防御態勢に入った。ドナルドはそれでも蹴りを入れてみたが、案の定弾かれてしまった。
「なに?弾かれた?」
ドナルドは驚いて止まった。害鼠は一旦回転を止めた。
「さすがは勇者候補ッチュね。なぜドナルドの蹴りが威力を増したのかは謎ッチュが、それでもオイラには勝てねーッチュよ!」
そう言って害鼠は戦い方を大きく変えてきた。4本の脚で地面をしっかりととらえて、尻尾だけで攻撃するようになった。
「どうッチュか!これがオイラの真の戦い方ッチュよ!」
害鼠は4本の脚で動くようになってから格段に足が速くなった。ドナルドはその速度を見て驚きと焦燥が入り混じった表情を浮かべた。
「ちくしょう!まだ速くなるのかよ!」
ドナルドが愚痴をこぼしているときに害鼠はドナルドめがけて尻尾を伸ばして突き刺し攻撃を繰り出した。ドナルドは間一髪避けたが、害鼠の動きに付いて行けずにいた。
「くそっ!これじゃ防戦一方だな...」
ドナルドは目で追う事すらかなわない害鼠の動きに嫌気がさした。そしてドナルドは上へと飛んで一旦逃げようとした。しかしドナルドの脚に害鼠の尻尾が巻き付き、そのまま地面まで叩き落された。
「うっぐ!!」
ドナルドは背中から地面に激突した。地面はその衝撃でミサイルが落ちたように丸いクレーターができていた。そしてドナルドは口から血を流していた。
「どうしたッチュかぁ?逃げるなんて情けない事は、オイラが許さないッチュよ?」
害鼠はそう言ってドナルドをもう一度上へと持ち上げてから地面に叩き落した。ドナルドは再び血を吐いた。
「クソが!」
ドナルドはそう言って掴まれてない左足の方で黒裂脚を放った。しかしそれを害鼠はいとも簡単に尻尾で弾き飛ばした。
「ひょろひょろの黒裂脚ッチュなぁ!もうそろそろ魂の力も尽きるって事ッチュかぁ?」
害鼠は煽りながら3度目のたたきつけを行った。ドナルドはまた口から血を吐いた。が、その口は笑っていた。
「クククッ!今の黒裂脚は切るために放ったんじゃねーからな。」
「なに?」
ドナルドの言葉の意味が分からず、害鼠は戸惑った。そしてハッと気づくと後ろから黒裂脚が戻って来ていた。
「戻ってきた!?さっきと同じか!」
害鼠はそう言って振り向いて尻尾で弾こうとした。しかしその隙を見逃さずにドナルドは技を放った。
「黒裂脚!!!」
ドナルドは背中を見せた害鼠に向かって黒裂脚を放った。害鼠は挟み撃ちにされた。
「クッ!」
害鼠は回転をして弾こうとしたが、ドナルドがブースターを最大出力で噴射して回転させないようにした。害鼠はたまらずドナルドの脚に巻き付けていた尻尾を放して回転をして黒裂脚をはじいた。しかし回転を始める時間が遅かったせいで最高回転数にならず、害鼠の背中にザックリと切り傷が付いた。
「がはぁ!!!」
害鼠は背中の痛みに耐えかねて声を漏らした。ドナルドは口から流れる血を手で拭った。
「へっ!ざまあみろ!」
ドナルドはそう煽ったが、さすがにダメージを受けていたので、立ち上がるのに時間がかかった。そして害鼠は背中をパッカリと開いた傷にうつ伏せのまま動けなくなっていた。
「さ、さすがは、ドナルド。ゆ、油断していたッチュよ...」
害鼠はドナルドを褒めてゆっくりと4つ足で立ち上がった。
「さすがに、浅いか...」
ドナルドは害鼠の背中の傷を見て息を切らしながら言った。害鼠は苦しそうに笑った。
「へへへ。あの時オイラが足を放す判断が少しでも遅れていたら内臓までやられていたッチュよ。でも、これならまだ闘えるッチュよ。」
「お前、まだ闘う気なのか?」
「心配無用ッチュよ。もっとひどい傷で闘った経験もあるッチュからね。それに、ドナルドの方だって、オイラの攻撃が響いているはずッチュよ。」
「フッ、お互いさまって訳か?」
「へへへ、オイラの方が、ちょっとばかり重症ッチュけどね!!!」
2人はそう言って近づいた。そしてドナルドはブースターを最大出力させた渾身の蹴りを、害鼠は尻尾の突き刺しを繰り出した。お互いの最大限の攻撃がぶつかり、大気が震え、大地が振動した。そしてお互いに弾き飛ばされた。
「ぐはぁ!」
ドナルドは木々をなぎ倒しながらブースターで減速させた。そしてハッと上を見ると害鼠が上から襲いかかってきた。
「槍雨!!!」
害鼠はそう言って尻尾をドナルドに向かって何十回もとてつもないスピードで突き刺しまくった。ドナルドはそれを空中で必死に避けた。しかしよけきれずに何回か体をかすった。ドナルドはたまらず害鼠から距離を取るために木々の間をすり抜けて逃げて行った。害鼠は木々を4っつの脚でしっかりとつかんでピョンピョンと飛び回って追いかけた。
「逃げるのか!ドナルド!」
「逃げねーよ!」
ドナルドはくるっと害鼠の方を向いて一気に距離を詰めた。害鼠は尻尾をドナルドに突き刺そうとした。しかしドナルドはそれを空中で華麗に避けて害鼠を蹴り飛ばした。害鼠は腕で防御をした。そして吹っ飛ばされるときに尻尾でドナルドの頭上から振り下ろし、はたき落とした。
お互いに地面にたたきつけられて土煙が上がった。
「はぁ、はぁ、もう、そろそろ決めようッチュ!これ以上無駄に体力を使うのはお互いスッキリしない終わり方になるッチュよ!」
「はぁ、はぁ、そうだな!お互いに最後の技で終わらせようじゃねーか!!」
2人は互いに息を切らしながら言った。そしてお互いに全身に力を溜めた。
「オイラの最後の技は!この尻尾による最強の貫通攻撃ッチュ!!!この技は、あの魔王様も恐れたほどの威力ッチュ!!!」
害鼠は尻尾をバネのようにぐるぐると巻いて威力を高めた。
「俺の技は、必殺の技だ。」
そう言ってドナルドはすべての魂の力を右足に集中させた。すると右足に装着してある勇者の靴がバチバチと音を立てた。そしてその姿が真っ黒に変わり、まがまがしいデザインへと変貌した。
「黒い、神のへそくり...そんなもの見たこと無いッチュよ!」
「ああ。俺も誰かに見せるのは始めてだ。なにせ、威力がありすぎて使う場面が無かったからな。」
「なるほど。オイラならそれが必要なほどだって事ッチュね?」
「ああ。その通りさ。」
ドナルドはそう言うとグググッと右足に力を込めた。すると右足の裏から金色の光があふれだした。そしてドナルドは走り出した。右足が踏みつけた大地はすべて枯れ果てていた。
「いくぞおおおおおおおお!!!」
ドナルドはそう叫んでジャンプして右足を突き出して害鼠に襲い掛かった。
「おおおおおおおおおう!!!」
害鼠も叫んでドナルドに焦点を当てて尻尾を解放した。
「これが!!!オイラの最後の技!!!万物を貫通する力!!!天地貫裁!!!」
害鼠の尻尾は誰の目にも見えないほど一瞬でドナルドの脚を突き刺した。しかしドナルドの脚はそれを受け止めた。
「俺の、必殺技...黒!死!無!双!」
ドナルドは害鼠の尻尾を全て破壊して害鼠の体を貫通した。
「がはぁ!!!...な、なるほど。その力、まさしく、勇者のもの...お前が、本物の....」
害鼠はそう言いかけて倒れた。そして最後の力を振り絞って言った。
「魔王様...もうしわけ...ありません...」
そう言って害鼠は音も無く崩れ去った。ドナルドは膝をついて倒れた。
「さ、さすがに、魂の力を全て使ったら、立っていられねーな。」
ドナルドはそう言って地面へと寝っ転がり、煙草をくわえて火をつけようとしたところで意識を失い眠りについた。