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星の勇者  作者: アシラント
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ドナルドvs害鼠

ドナルドは地面に描かれた線に沿って歩いていた。そしてある程度歩いたら害鼠(がいそ)が腕を組んで待ち構えていた。


「ようやく来たッチュか。待ちくたびれたッチュよ。」


害鼠は不敵な笑みを浮かべて言った。ドナルドはそれに答えた。


「てっきり不意打ちを仕掛けてくるもんだと思ってたぜ。魔族ってやつにもプライドってのが一応あるもんなんだな。」


「それはこっちのセリフッチュよ。人間はいっつも卑怯な事しかしないッチュから、わざわざこんな面倒なことを準備したッチュよ。」


害鼠の言葉にドナルドはフッと鼻で笑った。


「そいつ誤解だな。お前ら魔族は頭が悪いから人間の悪知恵に勝てねーってだけだ。スラムタウンに住んでみりゃ分かるぞ?」


ドナルドは相手を挑発するように言った。害鼠は安い挑発には乗らなかった。


「チュッチュッチュ!ありがたいお誘いッチュけど、残念ながらパスするッチュよ。あいにく、オイラは人間が嫌いッチュからね。」


害鼠はそう言うとグッと姿勢を低くし、まとうオーラが変わった。ドナルドもそれに合わせて一瞬で戦闘態勢へと入った。そして害鼠はその目を赤く染めた。


「特に!勇者はこの世で最も憎むべき害悪!!!その力を継承したというのなら!たとえお前がどんなにいいやつでも!オイラは殺すッチュよ!!!」


害鼠はさっきまでの余裕の表情とは真逆の、怨念が乗り移ったような恐ろしい顔をしており、その発されるオーラはどす黒い感情に支配されていた。ドナルドはそれを見て『油断出来ねー相手だ』と悟った。


「さあ!!!ぶっ殺してやるッチュよ!!!」


害鼠はそう叫ぶと、4つの足に力を溜めて一気に開放してドナルドに襲い掛かった。ドナルドは目にも止まらない速さで突進してくる害鼠に一瞬驚いたが、すぐさま右へと飛び避けた。害鼠の鋭い爪による攻撃はギリギリのところで(かわ)された。


「っ!!?速い!?」


ドナルドは害鼠の瞬発力に驚いた。しかしドナルドは冷静に害鼠の通り過ぎて行った方向を見て反撃を開始しようとした。しかし害鼠は木に足をつけて再びドナルドに襲い掛かった。ドナルドはまた避けることしかできなかった。


「...反撃の隙がねえな。」


ドナルドは害鼠の驚くべき素早さに避けるのが精いっぱいだった。そんなドナルドをあざ笑うかのように害鼠は話し始めた。


「どうした?その程度ッチュか?期待外れもいいところッチュね!」


害鼠は木から木へと目にも止まらぬスピードで駆け回り、ドナルドを煽った。ドナルドは冷静に考えた。


『あのスピード、厄介だな。足を折れればいいんだが、それを警戒しねーほど甘い相手じゃねーだろうな。...長期戦に持ち込んでスタミナ切れを狙うか?いや、その前に俺がやられるな。相手がガイアじゃねーからって油断してたぜ。仕方ねえ。全力で行くか!』


ドナルドはそう思い、魂の力を解放した。ドナルドの全身を黒いオーラがまとう。その力に害鼠は驚いた。


「そ、その力!まさしく勇者の力!?やはりお前が本物の勇者ッチュか!?」


害鼠は足を止めてドナルドの発するオーラを全身で受けた。害鼠は全身に鋭い悪寒が走った。害鼠のすべての細胞が恐怖を感じていた。そしてドナルドは全身に黒いオーラがまとわりつく姿へと変身を遂げた。


「害鼠さんよぉ。こっからは俺も容赦しねーからな!!!」


ドナルドは威勢のいい啖呵(たんか)を切り、勇者の靴のブースターを起動させて近づいた。害鼠は再び動き出してドナルドとの距離を置こうとした。


『一旦冷静に見るべきッチュね!この形態変化は聞いてないッチュけど、恐れることは無いッチュ。オイラの走りに付いてこれるわけがないッチュよ!』


害鼠はそう確信していた。しかし予想とは裏腹に、ドナルドと害鼠の距離は近づいてきた。


『こいつ!この森の中でオイラの速さに付いてきてる!?な、なんて速さッチュか!?このままじゃ、追いつかれる...!?』


害鼠はそう思って軌道を変えて直角に曲がることで振り切ろうとした。しかしドナルドは器用に体勢を変えて木々の間をすり抜けながら追いかけてきた。


「待てよ。逃げるだけか?」


ドナルドは害鼠を煽った。害鼠は苛立った顔をした。


「今は様子見ッチュ!」


害鼠はそう言って逃げていたが、ドナルドはそれを許す気は無かった。


「いい加減にしろ!」


そう言うとドナルドは足を下から上に切り裂くように振った。すると黒い斬撃の様なものが出てきて害鼠を襲った。害鼠は間一髪避けたが、その後のドナルドの蹴りを腹にまともに食らい、吹っ飛ばされた。


「うぐぅ!」


害鼠は木々を何本もなぎ倒しながら吹っ飛ばされた。そして体勢を整えて木に足を乗せて止まった。


「な、なんてやつッチュか!?足で斬撃を飛ばしてきた...!?」


害鼠は斬撃の飛んで行った方向を見た。木々が縦に真っ二つに切り裂かれていた。その威力に害鼠は驚いた。そして驚いているところにドナルドはさらに追撃の黒い斬撃を放ってきた。


「食らえ!黒裂脚(こくれつきゃく)!」


ドナルドの放った黒裂脚は今度は横に放っていた。害鼠はそれを飛び越えて避けた。それをドナルドは予想していた。


「そりゃ飛ぶしかねーよなぁ!!?」


ドナルドは再び害鼠に蹴りをくらわした。しかし害鼠もその蹴りを両腕で受け止めた。


「そう来るのはもうわかってるッチュ―の!」


害鼠はドナルドの足を掴んでグルグルと回しだした。ドナルドは冷静にもう片方の足のブースターを起動させて上空へと害鼠を連れ去ろうとした。害鼠はそれに気づき、パッと手を離した。


「クソ、やっぱりタダもんじゃねーな。」


ドナルドは害鼠の判断力の速さを見て面倒くさそうに言った。害鼠は不敵な笑みを浮かべて笑い出した。


「チュッチュッチュ。さすがは勇者の力を受け継ぎし存在。オイラの速さに追いつくどころか、追い越すとは、恐れ入ったッチュよ。」


「なんだ?降参の言葉でも述べ始めたのか?」


「いやいや、それだけの実力を見て、オイラも本気を出せるって思っただけッチュよ!」


害鼠はググっと全身に力を入れ始めた。すると害鼠の姿が変わり始めた。筋肉がはち切れんばかりの膨れ方をした。


「...なんだ?ただ筋肉を増しただけか?」


ドナルドは予想よりもしょぼい変化にすこしがっかりした。しかし害鼠は気にしなかった。


「筋肉が増しただけ...その通りッチュよ?でも、それが一番恐ろしい事だと、思い知らせてやるッチュよ!」


害鼠はそう言って再びドナルドに突進を仕掛けた。その速さは先ほどよりも速く、ドナルドはとっさに避けたが、その爪がドナルドの脇腹を切り裂いた。


「っっ!!?」


ドナルドは声にならない音を出した。脇腹には3本の切り傷ができていた。その切り傷から血が流れ落ちる。


「うーん、浅かったッチュなぁ。本当は脇腹を貫通するぐらいの勢いでやったッチュけど、さすがに勇者候補の1人ッチュな。直前に魂の力を腹部に集めるなんて...闘いの経験値が豊富な証拠ッチュね。」


害鼠は自身の爪に付いた血を見ながら言った。ドナルドはフッと笑った。


「久しぶりだなぁ。俺が死の恐怖を感じたのは。そうだな、これが殺し合いだよな。」


ドナルドは久々に心に湧き上がる恐怖の感情に心が躍っていた。それは害鼠も同じだった。


「オイラもそう思うッチュよ。恐怖を感じるからこそ!全力で相手を殺せるッチュよ!!」


ドナルドと害鼠はお互いに距離を詰めて殺し合った。害鼠の両腕のひっかき攻撃を寸前のところで躱し、ドナルドの蹴り上げを寸前のところで躱す。そしてたまに躱しきれずに切り傷を作る。そしてお互いの攻撃の余波で周りの木々が紙のように切り崩れる。


「どうしたッチュかドナルド!両腕は全く使ってない様ッチュねぇ!」


お互いに油断が命取りの場面で害鼠は聞いた。ドナルドも額に汗をかきながら答えた。


「お前こそ、その尻尾は飾りかぁ?俺を刺せる場面で我慢してるじゃねーか?」


ドナルドの蹴りと害鼠の腕がぶつかり、辺りに衝撃波が生じた。そして害鼠とドナルドはお互いに距離を取った。


「まだ、お互いに隠してる実力がありそうッチュね!」


「ああ。そのようだな!」


ドナルドはそれを言い切ると同時に、黒裂脚を出した。それを害鼠は難なくかわした。そして害鼠は距離を詰めてきた。


「その攻撃はぁ!隙がある!」


害鼠はそう言って体勢の崩れたドナルドに右手でひっかきをしようとした。しかし後ろから近づく何かに気づいて後ろを見た。するとさっき躱した黒裂脚が戻って来ていた。害鼠は避けられないと悟り、自身の尻尾でその攻撃を受け流した。


「...あっぶないッチュねぇ。」


受け流された黒裂脚はドナルドの後ろの木々をスパスパと切り裂いて行った。ドナルドは害鼠の隙を逃さず、害鼠の腹に蹴りをぶちかました。害鼠は口から血を吐いて吹っ飛ばされた。


「グフッ!?」


害鼠は両足で地面をえぐりながらブレーキをかけた。そしてドナルドが言った。


「なるほどな。お前の尻尾はとんでもなく硬いんだな。俺の黒裂脚で切り裂けなかったものは指で数えるほどしかねぇ。爪の攻撃よりも、その尻尾の方が最終兵器って感じだな。」


害鼠はドナルドの的確な観察眼に苦しくも笑った。


「チュッチュッチュ。その通りッチュよ。オイラの尻尾は何でも貫く無敵の武器!でも、それを使う相手が今までほとんどいなかったッチュよ。だからオイラの尻尾を使わせたドナルドは今まで会った敵の中でもトップクラスにヤバい相手ッチュな。」


害鼠はドナルドの強さを認めた。そしてドナルドも同じ気持ちだった。


「俺もさ。黒裂脚には最高の自信があったんだが、それを受け流されるとはな。俺もお前の強さを認めようじゃないか。これからは、出し惜しみなしで行かせてもらう!」


ドナルドは全身に魂の力を100パーセントでまとわせた。


「望むところッチュよ!」


害鼠も尻尾をうねうねと動かして不敵な笑みを浮かべた。

キャラクター紹介


『害鼠』


灰色の毛皮をまとったネズミの魔族。ネズミの魔族の中では群を抜いて筋骨隆々の恵まれた体をしている。彼の武器はその鋭い爪と発達した前歯である。そのどちらも鋼鉄をいとも簡単に破壊できるほどの破壊力を持つ。


害鼠の名前は先の戦争の時に父親から受け継いだ名前である。ちなみに父親は勇者との対決で殺されており、害鼠は父を殺した勇者を頑張って憎んでいる。


害鼠はもともと誰よりも優しく、紳士的で、卑怯なことは嫌いなタイプだったが、それで人間に騙され殺されかけた経験があり、今では卑怯な悪事に自ら手を染めている。


彼の兄弟は4人いる。もともとは10人だったが戦争により死亡。さらにその処刑方法があまりにも無残なものだった。生きたまま腕や足の皮をはがされ、肉が丸出しになったところに消毒液をしみこませたタオルでこするという痛覚を思いっきり刺激するやり方をした。そして最後には10秒川に沈ませては3秒空気に触れさせ、また沈ませて空気を吸わせ...という繰り返しで痛みと呼吸困難の苦しみを味わせてから溺死させた。そのことで彼は人間を好きになれなくなった。

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