害鼠戦、決戦準備②
レイジたちは死の森へと向かい、姉御たちと合流した。
「姉御!状況は無線で言ったとおりだ。ゴゴがさらわれた。助けるために俺も闘うことになった」
それを聞いて姉御はため息をついた。
「まったく、面倒なことになったね。てっきりドナルドの一騎打ちを見るだけだと思ってたのに...」
姉御のぼやきにネネはうなずいた。
「そうね。私は全く闘う気なんてなかったけど、四天王が現れたって聞いたら闘わざるを得ないものね。」
ネネは姉御と同じくため息をついた。そしてドナルドが困惑気味に聞いた。
「...お前ら、ゴゴに厳しくないか?一応仲間なんだろ?それに相手は四天王の1人だ。負けても仕方ないんじゃないか?」
ドナルドはここにいるメンバーの中で一番ゴゴに対して優しい発言をした。それを聞いてあんこは頷いた。
「そうだね!仲間だからゴゴがどんなにバカでも助けるんだよ!」
あんこは助けることにやる気を出していた。姉御はフフッと笑った。
「誰も助けないなんて言ってないだろう?今のはただの文句。たったひとりで四天王に闘いを挑んだゴゴに対する文句って事よ。」
その言葉にレイジは同意した。
「同感だ。四天王の強さはゴゴが身に染みて分かっていたはずなのに、あいつは勝ち目のない戦いに挑んだ。その結果ボロボロに負けて捕虜になった。その軽率な判断に俺たちは怒っているだけだ。見捨てようって言ってんじゃないからな。」
レイジの説明にドナルドはだいたい納得したが、それでも少し疑問に思っていた。
「まあ、それは分かってるけどよ、にしたって冷てぇと思うぜ?格上に戦いを挑む精神は評価してやってもいいだろ。それは強くなればなるほど失われていくものだからな。」
ドナルドの言葉に昆布がボソッとつぶやいた。
「...ゴゴが弱いってだけの話じゃ...?」
その声を聞き逃さなかったドナルドは昆布に聞いた。
「ああ?ゴゴが弱いだと?それは聞き捨てならねーな!」
ドナルドは昆布に威嚇するように言った。昆布は「ひえー!」と言ってしゃがみこんだ。そしてドナルドはしゃがみこんだ昆布に対して話をつづけた。
「あいつは弱くなんかねーだろ。死を恐れない無敵の精神を持ってる。それが何よりも恐ろしい事だってのはおめえらもよくわかってんじゃねーのか?」
そう聞かれたレイジたちは考えた。しかしレイジたちは心当たりがなく、頭に『?』を生やした。その中で姉御だけが理解していた。
「まあね。ドナルド、あんたの言うとおりだよ。戦いってのは実力だけがものをいうわけじゃない。格下相手にだって精神で負けていれば不覚をとることもある。そういうことを言いたいんだろう?」
「そういうことだ。あいつの強さは肉体のことじゃねー。あいつの精神力のことだ。俺はお前らよりも人間相手の殺し合いは経験してる方だから分かるが、ああいうタイプが一番厄介なんだ。信念があれば自分の命すら捨てられる覚悟。それを持っていられるのは常人じゃ無理なんだよ。だから俺はゴゴのことをマフィアに誘ったって感じよ。」
ドナルドの言葉にレイジはいまいち実感できていなかった。
「闘いって精神でどうにかなる問題か?実力がすべてじゃないのか?俺はそう思うけどな。」
レイジの発言にドナルドは頷いた。
「ああ。確かにその通りだ。実力がなけりゃ勝てねー。だが、ゴゴは伸びるぞ?」
「伸びる?」
レイジは聞き返した。ドナルドは得意げに話し始めた。
「ああ。ああいう戦闘狂は今は弱くても驚くべきスピードで伸びていくんだ。四六時中闘いのことしか頭にないからな。闘い以外の全ての才能を投げ出しているからメチャクチャ伸びるって感じだ。そういうのは感じたことは無いのか?」
ドナルドに言われてレイジはハッと気づいた。
「そういえばゴゴの奴、いつの間にか高速で移動できる技を身につけてたな...」
「だろ?そういう所があいつのスゲーところって感じよ。だから一度の敗北くらいでギャーギャー言ってんじゃねえ。死ななかっただけで称賛されるべきだと俺は思うって感じよ。」
ドナルドの言ったことに対してレイジは疑問を投げつけた。
「でもあいつもう38歳だぞ?将来性ってあんのか?」
「そ、そうなのか?そんなに老けてるようには見えなかったがな...」
ドナルドは衝撃の事実にたじろいだ。そしてレイジは話題を変えた。
「まあ、そんなことはどうでもよくて!大事なのはこれからどうするかって事だろ?」
レイジがそう言うとみんなは頷いた。そして姉御が言った。
「まずはゴゴを取り戻す。そして害鼠って十二支獣を倒す!それから四天王のガイアを倒す!この三つが主な目的ってところかな?」
姉御が言ったことにレイジは深くうなずいた。
「そうだね。そのために、俺たちは10時にこの死の森で一騎打ちをする。まあ、勝てば全部オッケーってところだな。相手の人数や戦力が分からない以上、作戦の立てようもないが、とりあえず害鼠の相手はドナルドにやってもらう。もともとそのために呼ばれただけだったからな。」
レイジはドナルドの方を見て言った。ドナルドは黒いマフィア帽子を深くかぶり戦闘に対する気合を入れた。
「ああ。任せろ。」
ドナルドの気合と言葉を聞いてレイジは安心した表情で頷いた。
「次に、俺も害鼠の兄弟との一騎打ちをあちらから提案された。乗らなければゴゴが死ぬから乗るしかない。そして四天王の相手だが...姉御に任せたい。」
レイジは姉御の方を見た。姉御はパキパキと腕を鳴らした。
「そうだね。今のメンバーの中で一番強いのはあたしだからね。仕方ないね。」
姉御は久々に本気で闘う覚悟をした。それを見たレイジは真剣な表情を見せた。
「姉御がやられるところは全く想像できないな。ただ、四天王はパッと見た印象からすると、姉御と同等以上の実力の持ち主だと断言できる。相手が格上だと認識したうえで闘ってくれよ?」
「レイジ。あんたもわかってるじゃないか。四天王はあたしよりも強いよ。今まであんたたちを育てるために前線から離脱していたブランクがあるからね。...でも、そんなのは闘っているうちに取り戻して見せるさ。だから安心してみていなよ?」
姉御の言葉にレイジたちは強くうなずいた。
「そして、あんこ、ネネ、昆布の3人はもしかしたら害鼠の兄弟と闘うかもしれない。兄弟がたくさんいるってガイアが言ってたんだ。だから覚悟しておいてくれよ?」
あんこはうんうんとうなずいた。
「もっちろん!どんな相手が来ても、ゴゴを助けるために頑張っちゃうよ!」
ネネもうなずいた。
「そうね。本当は闘いなんてしたくないけど、助ける為なら仕方ないわね。」
昆布はキョトンとしていた。そして目玉を飛び出させて驚いた。
「ええええ!!?せ、拙者も闘うんでござるかぁー!!?」
昆布の反応にレイジは冷静に言った。
「まあ、あくまでも闘うことになったらって話だ。もし相手の人数がこちらより少なかったら無理に戦わなくてもいいぞ?」
「ほ、ほんとでござるかぁ!じゃあ拙者は相手が少ない事を祈っておくでござる!そしてその祈りが通じたらみんなの応援をするでござるよ!」
昆布は闘わなくていい可能性を感じてテンションが上がった。レイジは少し不思議に感じた。
「昆布、お前そんなに闘いたくないのか?そんなにも立派な鎧をまとっているのに?」
「そりゃそうでござるよ!どんなに立派な鎧をまとっても、拙者は臆病者でござるからね!絶対に死にたくないでござるよ!もし死ぬんだとしたら、大好きな人の為に死にたいでござるよ!ゴゴは好きでござるが、大好きではないでござる!...でも、ゴゴが死ぬのは悲しいでござるー!だから、闘うことになったら、ううう、恐ろしいでござるが、頑張って闘うでござるよぉ」
昆布は情けない声を出しながら言った。レイジはそんな感情豊かな昆布を見て笑った。
「まあ、そんなにも感情が出てるうちはまだ大丈夫そうだな。」
レイジはそう言ったところであんこはハッと思い出した。
「あ!そうだった!そういえばね、レイジ!」
「ん?どうした?」
「ダンたちがまだ起きてこないの。もうすぐ10時になるって時なのに...」
「そうなのか?...なんか、妙な胸騒ぎがするな...」
「でしょ?あたしもこの森に入ってからずっと胸騒ぎがするなーって思ってたけど、それがだんだんと大きくなってきてるの。もしかしてダンたちに何かあったんじゃないかなーって...」
「ダンたちの様子を見てきたのか?」
「うん。あそこの木に秘密基地があって、レイジたちが来る前にあたしが飛んで見に行ったの。そしたらまだ眠ったままだったから、お寝坊さんだなーって思ってたけど、あたしの直感が不安だって思ってるの。何でもなかったらいいんだけど...」
あんこはとても不安そうに眉をひそめて言った。レイジも不安に思ったが、逆に好都合だと捉えた。
「...確かに不安だが、それは逆に良かった。ダンたちが眠ったままなら今おいておこう。起こしてどこかに移動させるのもいいが、ダンたちが興味本位で死の森に入ってくることが一番の面倒だからな。眠らせたまま死の森の外に出すのも野党の餌食になりそうだし、ダンたちのおもりの為に人数が減るのも良くない。不安なのはわかるが、こっち側で闘わなければ大丈夫だろう?」
レイジの冷静な判断にあんこはまだ不安そうだったが、一応納得した。
「...うん。そうだね。じゃあ!もしものことがあったら、あたしがダンたちを守るために動いてもいい?」
「それはもちろん!そうしてくれると助かるよ。姉御は四天王の相手をしたとしたら守ってる余裕は無いし、それにあんこの実力なら俺もよくわかってる。あんこの空を浮く能力とその神のへそくりである『ミュージカル』の武器を持ってればダンたちを守るなんて余裕だもんな。」
「うん!そうだね!ありがと!レイジ!」
あんこはパアッと表情を明るくさせた。レイジはその表情を見て心が安らいだ。
「よし!それじゃ、そろそろ10時だ。みんな、闘いの準備はいいか?」
レイジがそう聞くと全員の目つきが変わった。みんな闘いの覚悟を決めた顔になった。すると空からガイアが飛んできた。全員が戦闘態勢に入るとガイアは腕を上げて丸腰であることを証明してから言った。
「...みんな集まってる。こっち。」
ガイアはそっけない態度で言うと森の奥へと歩き出した。レイジたちは警戒しながら歩いて行った。そしてレイジは疑問に思った。
『...なんで俺たちの場所が分かったんだろう?昨日の時点でどこかから見られてたのか?』
レイジの疑問が晴れるのはもっと後に起こる事件の時だった。