マフィアタウン(朝)
レイジたちはルドラータファミリーの家に泊めさせてもらい、一晩を明かした。
「うーん!いい朝だな。」
レイジはカーテンを開けて朝日を全身に浴びながら言った。そしてその朝日にまぶしそうにする昆布が眠たい目をこすりながら起きた。
「あ、あにきぃ。はやいでござるねぇ。」
昆布はフニャフニャな声で眠たそうに言った。レイジは軽くストレッチをして体をほぐして気合を入れた。
「ああ。今日はネズミの魔族が来るんだろ?俺の出番はないかもしれないが、用心するに越したことは無いだろ?」
「そうで、ござるねぇ。」
昆布はレイジの話を理解しているのか微妙なほどにフニャフニャな返事だった。そしてレイジは異変に気付く。
「あれ?ゴゴはどこだ?昨日連れ帰ったはずなんだが...?」
ゴゴは部屋に連れ帰ったはずのゴゴの姿が見えずに辺りを見渡したが、ゴゴはどこにもいなかった。
「ゴゴなら兄貴が寝た後に『明日に向けて星空と闘いだー!』って意味のわかんないこと言って出て行ったでござるよ?拙者が後を追ったらゴゴは星に向かって正拳突きを繰り返してて、気合が入ってたでござるからほっといたでござる。」
「なに?それは本当か?」
「うん。本当でござるよ?まあ、真夜中だったし、拙者もトラブルは起こすなよー!って言っておいたから、何もしてないと思うでござるよ?」
昆布はムニャムニャと眠たいオーラを出しながら説明した。レイジは少し心配だったが、とりあえずドナルド達に会うことにした。
「まあ、いいか。とりあえずリビングに行こう。」
レイジはそう言ってリビングに行った。昆布は眠たそうにしながらも服を着替えて鎧を着てレイジに付いて行った。
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リビングに着くとそこにはドナルドが机に足を乗っけて座っていた。ドナルドはタバコを吸っていた。そしてレイジたちに気が付くと軽く挨拶をした。
「よう。準備万端って感じだな。」
ドナルドのあいさつにレイジは返事をした。
「ドナルドこそ、こんな朝早くからばっちりしてんじゃん。」
「まあな、俺は一応勇者だからな。魔族との対決なんて、気合が入って当然って感じだろ?」
ドナルドは灰皿にタバコを押し当てて火を消し、立ち上がった。そしてレイジたちに言った。
「お前らちょっとついてこい。一応作戦を話す。ここじゃ話しにくい内容なんだ。」
そう言ってドナルドはスタスタと玄関へと向かい歩いて行った。レイジたちもそれに付いて行った。そして玄関を出ると見張りをしていたアルバーニに出会った。
「おうドナルド!散歩か?」
護衛隊長のアルバーニはドナルドに声をかけた。ドナルドは答えた。
「ああ。ちょっとレイジと話があってな。今日の作戦でも話しておこうと思ってな。家の中だと面倒なことになるだろ?そういうの。」
ドナルドは少しイヤな顔をして言った。アルバーニも同じような顔をした。
「ああ。そういう事か。確かにボスはそういうの嫌うよな。あの人はその場の判断力でこの地位まで上り詰めた人だからな。腕っぷしは最高なんだが、頭使うのはからっきしだしな。」
アルバーニはボスのダメなところにうんざりした様子だった。ドナルドは頷いた。
「そういう事よ。ま、すぐ戻ってくるから、ボスが聞いてきたら適当に言っといてくれ。」
「おうよ!任せときな!」
そう言ってアルバーニはニッコリと笑ってドナルド達を見送った。ドナルドはそのまま歩き続けて公園のベンチに座り、レイジたちもそこに座った。そしてレイジがドナルドに聞いた。
「さっきの話って、ボスが作戦を嫌いだって事か?」
「まあ、そういうことだな。ボスは自分の腕前だけで物事を進めようとするんだ。あの人曰く、『己の力だけが世界を変えると信じている。だから頭なんかよりも体を鍛えるべし!』って言って、俺たちが作戦を立てるのを嫌ってるって感じよ。」
「なるほど、だからゴゴとは気が合うのか...」
レイジは納得した。そしてドナルドは少し悲しそうに言った。
「あの人のことは心から尊敬してるし感謝してる。俺に力をつけてくれたのもあの人だし、生きる場所をくれたのもあの人だ。あの人がいなかったら俺はとっくに死んでただろうな。だからこそあの人の教えを守りたいが、現実はそんなに甘くねーからな。作戦はあったほうがいいに決まってるだろ?そのうえで個々の判断を尊重するならいいんだが、ボスの場合は作戦を立てないですべて自己責任で動けっていうからな。さすがにそれに従ってちゃ、生き残れねーって感じよ。」
「まあ、そうだろうな。俺たち人類がここまで発展したのは知能が発達したからだしな。」
レイジは冷静にそう言った。それにドナルドは頷いた。
「そうだよな。まあ、ボスは圧倒的なフィジカルがあるから獣の様に闘っても勝てるんだろうけど、全員がそうなれるわけじゃねー。だからあの人のプライドを傷つけないためにこんなところまで来てもらったって感じよ。」
「なるほどなー。納得したよ。それで、作戦ってのはなんなんだ?」
レイジは本題を聞いた。ドナルドは話し始めた。
「まず、魔王軍がどれくらいの戦力でどこに現れるのかも分からない。だから俺は昨日のうちに俺の部隊にこの町の周辺を調べさせた。だが、周りには何一つ魔王軍に関する情報が得られなかった。だから俺は魔王軍四天王が使っていたワープのようなものを使ってくると予想した。」
「なるほど。確かに、俺が魔王だったらわざわざ見つかる危険を冒して陸地を渡らせないだろうし、そのワープ技術を使えば防御不可能の奇襲になるな。だがそうなると問題は俺たちがどう対策するかって事になるな。」
レイジはそう言った。ドナルドもうなずいた。
「そうだ。正直これの対策は全くわからん。だが、どうやらあの技術は一度に多くの者を運べないらしい。」
「そうなのか?」
「ああ。俺がガイアっていう四天王の一人と闘った後にあいつが言ってたんだ。『先に使ってるやつがいる...もうちょっと待つか...』って言ってたんだ。」
「なるほど。確かにあれだけの技術だ。本当に完成していたのなら問答無用で連日送ってくるはずだもんな。それができない何かしらの理由があるって事か。」
レイジはドナルドの仮説に納得した。
「ああ。だから対策としてはとても単純だが、現れる場所をさがして、一人一人現れたところを全員で叩いて殺す。これしか考えつかなかったって感じだ。」
ドナルドはタバコに火をつけるためにライターを擦っていたがなかなか火が付かなかった。そこにレイジが指から小さな火を出してドナルドのタバコに火をつけた。
「俺もその作戦に賛成だ。ワープなんてトンデモ技術に対抗するにはそれしか無いと思うぞ。」
レイジがそう言って昆布もニコニコと笑いながら言った。
「拙者も賛成でござる!」
「おれも、そう思う。」
昆布の後に聞きなれない声が聞こえ、レイジは振り返った。そこには葉っぱでできたパンツだけを着用した筋肉質の黒髪単発の男がいた。その姿に見覚えのあったドナルドは思わず立ち上がった。
「お前は!ガイア!」
ドナルドは姿勢を低くして戦闘態勢に入った。レイジと昆布も飛び上がってガイアから距離を取った。そしてそんな三人の様子を見たガイアは無表情のまま話し始めた。
「まあ、そんなに見つめるなよ。闘いの場所を教えに来ただけだ。」
「なに?」
ドナルドは警戒しながらもガイアの話を聞いた。ガイアは淡々としゃべり始めた。
「言ってなかったらしいから、直接言いに来た。場所は死の森。時間は午前10時。魔王軍十二支獣が1柱、ネズミの魔族の害鼠が相手だ。」
ガイアの言葉にレイジは疑問に思った。
「害鼠...あの写真に写ってたあいつか?」
「そう...だけど...もしかして、君がレイジか?」
ガイアはレイジの姿を見て言った。レイジは頷いた。
「ああ。そうだけど?」
「そうか...面倒だな。よかった。先に処理しといて。」
ガイアは意味深な発言をした。レイジはそれを不思議に思った。
「処理?いったい何のことだ?」
「これだよ。」
ガイアはそう言って公園の木の陰から何かを取り出して持ち上げた。それはボコボコにされたゴゴの姿だった。
「ゴゴ!!?」
レイジは思わず叫んだ。ゴゴの顔はボッコボコにはれ上がっており、体のいたるところから出血していた。そして全身に力が入っていないようで、ダルーンと腕や足がぶら下がったようになっていた。昆布はそれを見て頭を抱えて慌てふためいた。
「ギャー――!!!ゴゴが死にかけてるーーーー!!!」
「お前!ゴゴに何をした!?」
レイジは名刀『憤怒の魂』を抜いた。昆布もギャーギャー騒ぎながらも腕につけた武器を取り出した。そしてガイアは冷静に話し始めた。
「別に、こいつがいきなり殴りかかってきたから闘った。それだけ。」
それを聞いたレイジは一言ぼそっと言った
「...ゴゴらしい。」
それを聞いた昆布とドナルドもうんうんとうなずいた。そしてレイジがガイアに言った。
「ゴゴを返してくれないか?」
「それは出来ない。」
「なぜ?」
「魔王様に確認した。そしたらこいつを人質にレイジたちにも闘ってもらうって言ってた。だから、お前たちも死の森に来い。闘って勝ったら返す。」
「...俺の対戦相手は誰だ?まさか害鼠と闘えっていうのか?」
「いいや、闘うのは害鼠の妹と弟たちだ。あいつは家族がたくさんいる。害鼠ほど強くはないが、エリートではある。」
「...じゃあ、もう一つ聞かせてくれ。魔王軍十二支獣ってなんだ?それは魔王軍四天王よりも強いのか?弱いのか?」
レイジの質問にガイアは少し考えて答えた。
「...どっちでもない。四天王は魔族に与する人間の頂点の四人。十二支獣は魔族の頂点12体。そんな感じ。」
「なるほど。」
レイジは納得したが、また新たな謎が浮かび上がってきた。
「じゃあ、なんで四天王の四人は人間なのに魔族の味方をするんだ?」
「...魔族が好きだから。それだけ。」
「自分が人間なのに?」
レイジの質問にガイアはコクリとうなずいた。そして愚痴っぽく独り言を言った。
「まあ、十二支獣の大半が先の戦争で死んだけど...」
「先の戦争?それって勇者と魔王の戦いのことか?」
「うん。そうだけど...これ以上は時間がないみたい。」
ガイアはそう言って腕時計を見た。ピピピッと鳴っていた。レイジはそれを聞いた。
「なんだ?その音?」
「魔王様からの指令。死の森に集合だって。」
ガイアはそう言うとゴゴを肩に背負って足にグググッと力をためるとそのまま飛び上がって壁を越えて死の森の方角へと飛び去った。それを見て昆布はあたふたした。
「あああ!!!ゴゴが連れ去られたーーーー!!!」
「待ちやがれ!」
ドナルドはブーツに魂の力を溜めて変形させてブースターを出して飛ぼうとしたが、レイジがそれを止めた。
「待ってくれドナルド!今追ってもお前ひとりじゃ奴には勝てないだろ?それに、待ち伏せの可能性もある。だから今は冷静になってファミリーに伝えるべきじゃないか?」
レイジに言われてドナルドは落ち着きを取り戻した。
「...わかったよ。とりあえずファミリーに戻るぞ。」
「ああ。だがその前に今起きたことを姉御たちに知らせてもいいか?」
レイジはそう言って無線機を取り出した。ドナルドは「ああ。」と返事をして焦る気持ちを抑えるためにタバコを吸い始めた。そしてレイジは無線機で姉御に連絡をした。