夜がやってきた
レイジたちはダンたちと遊んだり、勉強をしたりして時間が過ぎていき日が暮れてきた。
「もう夕方か、早いな。」
レイジは夢中になって遊んでいたので時間が過ぎるのが速く感じていた。姉御はそれを聞いて言った。
「じゃあ、とりあえずテントでも張って野営しようか?」
しかしレイジはそれに対して言った。
「待ってくれ姉御!そういえば俺たちはドナルドの所属しているルドラータファミリーに招待されてたんだ。」
「ああ、そうだったの。それじゃ、どうしようか?」
姉御はレイジに聞いた。レイジは腕を組んで考えた。
「そうだなー、ネネはマフィアタウンの門を通れないからなー。ここに野営する方がいいかもしれないな。」
レイジはネネの方を見た。ネネは静かにうなずいた。
「そうね。私も森の中で眠る方が誰かの家で眠るよりも慣れているわ。だから今夜はここで眠ることにするわ。」
「とすると、ネネだけをここに置いておくわけにはいかないから...」
レイジが言いかけたときに姉御が手を上げた。
「あたしとあんこが残るよ。あんた達三人はドナルドのところに行きな。ドナルド達のファミリーを紹介してもらえてないんだろ?だったらまずは自己紹介を済ませてきな。」
「そうだな、それがいいな。じゃあ何かあったら無線で連絡を入れるからな。」
レイジがそういうと昆布が疑問に思った。
「無線があるなら、昼間はなんで姉御たちの場所を聞いたんでござるか?それ使えば楽勝だったでござろう?」
「ああ、この無線はどういうわけか俺からの一方通行にしかならないんだよ。俺は姉御たちに話しかけられるけど、姉御とあんこは話しかけられないんだ。たぶん壊れてんだろうね。まあ、専用のスイッチがあれば無線機を鳴らすことだけはできるが...それもネネにあげた一つしかないしな。」
「そうなのでござるか?そりゃまた不便でござるなー!買い替えたりはしないのでござるか?」
「まあ、確かにそうしたいのは山々なんだが、なにせ売ってるところが少ないからなー。しかもとんでもなく高いし!」
「そうなのでござるか?」
「ああ。なにせ無線機なんて旧時代の代物だろ?そんな骨董品は普通の店には置いてないからなー。連絡手段としては空中に映像を投影するスカイシアターが主流だろ?だけどあれめっちゃ高いからなー。そんなお金無いし。」
「確かに、スカイシアターは国のお偉いさんが連絡する手段でござるからなぁ。一般人には手が届かないでござるねぇ。」
「だろ?だから俺たちの船にあったこの無線機を使うしかねーんだ。」
レイジの言葉に昆布は「ん?」と言って眉をひそめた。
「『俺たちの船』?兄貴たちは船をお持ちでござるか?」
「ああ。そういえば言ったこと無かったっけ?俺たちは船の修理のために素材を探して旅をしていたんだ。俺たちが魔王軍四天王と闘った街でシールドを持っていたのもそのためなんだ。って言っても昆布はその時いなかったけどな。」
「はえー。そうだったのでござるねー。街を覆うほどのシールドなんてスカイシアターよりも高価でござるよね?よくそんなもの手に入れたでござるねー!」
「ああ。旅をする中でいろんな遺跡を調査したときに偶然手に入ったんだよ。」
「はえー!それはロマンがありそうでワクワクするでござるね!」
昆布は体を震わしてはしゃいでいた。そして姉御がレイジに言った。
「じゃあ、あたしたちはここで寝るから、明日になったらドナルド達と一緒にネズミの魔族と闘おうかね。相手は一対一を希望しているから、一人で来てくれれば楽なんだけどね。」
姉御は軽口を言った。レイジはそれに乗った。
「まあ、それだけバカだったら俺たちは闘わなくていいからラッキーだけどね。わざわざ予告状を出しているから、相当な準備をしているはず。明日に備えて今日は速く寝よう。」
レイジの提案にダンが不満を漏らした。
「ええー!まだ遊び足りないよー!」
駄々をこねるダンにレイジは面倒くさくなって返事をせずにスラムタウンへと向かった。そして姉御がダンに言った。
「あんたたちは木の上にある秘密基地で寝泊まりしてんの?」
姉御に聞かれてダンは元気よく返事をした。
「うん!そうだよー!でもいくらせんせーでも教えないよ?三人しか入れないぐらいちっちゃいし!」
ダンはそう言ってにっこりと笑った。姉御はダンの頭を撫でた。
「そうかい。それは残念だねえ。でも、どの辺にいるのかぐらいは教えてくれないかな?それを聞いておいた方が何かあったときに守りに行けるからね。」
姉御はそう言った。ダンはジャックとルーシーに話に行ってから答えた。
「まあ、だいたいの場所なら教えるよ。あっちの方向にあるよ。」
姉御はダンが指をさした方向を見た。
「あっちの方向ね。分かった。じゃああたしたちはテントを張るから、あんたたちも手伝いな。」
「ええー!?なんで俺たちが手伝わなきゃいけないの?」
「そりゃ、あたしはあんた達に勉強を教えたからね。そのお礼ぐらいはしてもいいんじゃないかい?」
「ちぇー。しょーがねーなー。」
ダンたちはしぶしぶテントづくりを手伝った。
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「おお!よく来たな。レイジと昆布とゴゴ!待っておったぞ。」
レイジたちはルドラータファミリーの家へと入ったときにファーザーから歓迎された。リビングには食事が並んでいた。どうやら今から夕飯だったらしい。
「ああ、どうも。夜分遅くに失礼いたします。」
レイジは礼儀よく一礼をした。そしてリビングに座っている人たちを見た。一人はドナルド、もう一人は昼間に家の前に立っていた男、そしてあとの一人は知らない人だった。
「丁寧なあいさつありがとう。とりあえず座りなさい。今食事を持ってこさせる。」
ファーザーはそう言って呼び鈴を鳴らしてシェフを呼んだ。そしてシェフに要件を言ってレイジたちの前に食事を運ばせた。皿にはおしゃれな魚料理があった。昆布は喜んだ。
「うほぉ!上手そうでござる!」
「そうだろう?なにせうちのシェフは...って、そんな話はいいか。とりあえず、明日の魔族との闘いに手を貸してくれると聞いて、今晩のディナーに招待させてもらった。ワインは飲めるか?」
ファーザーの質問にレイジたちは答えた。
「俺は苦手ですね。酒は喉が痛くなるので。」
「拙者も嫌いでござる。苦いのは嫌でござるよぉ」
「俺は何でも飲めるぞー!」
三人のうちゴゴだけがワイングラスに注いでもらった。二人はオレンジジュースを注いでもらった。そして全員の用意ができたところでファーザーが言った。
「では、明日の決戦に手助けしてくれるレイジたちに感謝をして、乾杯!」
ファーザーがそう言うと全員がグラスに注がれたワインを飲みほした。それを見てレイジたちも飲みほした。そして自己紹介が始まった。
「俺とは昼の家の前で会ったな。俺の名はアルバーニ。役職は護衛部隊隊長だ。」
アルバーニと名乗った男は黒いスーツに黒いサングラスをかけていた。金髪の長髪をオールバックにしており、たばこを服用していた。その体格はとてもマッチョで、理想的な逆三角形のような、胸筋が発達した姿をしていた。
レイジは一礼をした。
「どうも、勇者候補のレイジです。こっちは仲間の昆布とゴゴです。よろしくお願いします。」
レイジは手短に挨拶を済ませた。そしてもう一人の初めて出会う男が自己紹介を始めた。
「ああ!あなたがドナルドと同じ勇者候補の方ですか!それはさぞお強いのでしょうねー。っと!申し遅れました。わたくし、フォルキットと申します。役職は特殊部隊隊長でございます。」
フォルキットと名乗る男は他のファミリーと違い、緑色のオーバーオールを着ていた。髪の毛は赤いくせっけで短髪だった。その顔は常に笑みを浮かべていた。その笑みがレイジたちには逆に不気味に見えてしまった。そしてレイジはフォルキットに聞いた。
「特殊部隊?それってどういう役職なんですか?」
フォルキットは頷いた。
「ええ。わたくしの所属する特殊部隊は、様々なジャンルに挑戦しております。主な活動内容といたしましては、拷問、見せしめのための残虐な殺し、マフィアタウンに住む方々に集金に行ったり、スラムタウンの住人に鉱山で働かせたりなど、その活動内容は地味なものばかりでございますね。」
フォルキットは終始仮面の様に張り付いた笑顔で語った。レイジは底知れない恐ろしさを感じた。
「そ、そうですか。わざわざありがとうございます。」
レイジは苦笑いをしながら言った。そして昆布とゴゴは普通に料理を美味しくいただいていた。
「こ、これ美味いでござるな!ゴゴ!」
「ああ!こんなにうまいもんは生まれて初めてだぜ!これが料理のすばらしさか!」
二人の食いっぷりを見てレイジは不安になった。そして昆布とゴゴに小さな声で話しかけた。
「おい二人とも!相手はマフィアだぞ?失礼なことしたら殺されるかもしれねーんだぞ?もう少し礼儀ってものをなぁ...」
レイジがそう語りかけたところでゴゴは席を立った。
「ごちそうさん!ファーザーさん、俺は食後の運動をしに外へ出かけてくるぜ!もし戻らなくても明日の朝までにはこの家まで戻ってると思う!だから心配しないでくれよ!」
そう言ってゴゴはレイジが止める隙も無く夜のマフィアタウンへと出かけて行った。ファーザーは「アッハッハ」と声を上げて笑った。
「ゴゴ!あいつはやっぱり昔のわたしにそっくりだなー!面白い!」
ファーザーの懐のデカさにレイジは胸をなでおろした。
「全く、ゴゴのやつ、どこ行ったんだ?...まさか、闘いに行ったりしてねーだろうな?」
レイジは心配になり、ゴゴを追いかけることにした。
「すいません!俺、ゴゴのこと追いかけに行きます!」
「ああああ!兄貴ぃ!置いてかないでくれでござる―!」
レイジが出て行ったのを追いかけて昆布も出て行った。ファーザーは再び笑った。
「アッハッハ!全く、本当に私好みの連中だな!気に入った!今後もレイジたちと手を組んでいきたいな!」
ファーザーはそう言って食事をつづけた。