一方あんこたちは③
レイジたちはあんこたちを探すためにスラムタウンの住人に話を聞いた。そして食べ物を与える代わりに情報を得た。
「どうやらあんこたちは死の森ってところに行ったらしいな。」
レイジがそういうと、昆布は少し怖がった。
「死の森ぃ!?な、何でござるかぁ、その怖そうな場所は」
昆布は歯をガクガクと震わせた。逆にゴゴは楽しそうにした。
「死の森ぃ!?なんだその楽しそうな場所は!!今すぐ行こう!」
ゴゴの発言にレイジは頷いた。
「ああ。今すぐに行こう。どうやらその森はスラムタウンの住人が誰一人近づかない場所らしい。なんでもその森に入ったものは必ず行方不明になるらしい。だから恐れを知らないマフィアたちですら近づかない場所らしい。」
「そ、そんな話を聞いて、行くんでござるかぁ!?拙者は怖いでござるよぉ」
昆布は足をブルブルと震わせた。そしてレイジの袖をつかんで止めようとした。しかしゴゴがノリノリで歩き出していた。
「よーーーーーーし!!!なんか闘いが起きそうな予感がするぜ!!!レッツゴー―――!!!」
ゴゴは後ろを振り返ることもせずにルンルンと歩いて行った。そしてレイジが昆布に話しかけた。
「まあ、無理についてこなくても、ここで待ってればいい。あんこたちを連れ戻したらここに帰ってくるから。」
そう言ってレイジは昆布の手を放して歩き出した。昆布は涙目になった。
「ひ、一人はもっと嫌でござるぅ――――!!!」
昆布は叫んで二人の後を追った。
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あんこたちはダンたちに修行をつけていた。その内容はいたってシンプルで、闘いの基本を教えていた。
「闘いの基本はとにかく相手のことをよく知る事!そして自分のことをよく知る事!そのふたつができていれば同じ実力を持った相手にも勝つことができる!」
「うーん。」
姉御の言葉にダンはあまり響いていない様子だった。
「なにか不満かい?」
「そんな勉強よりも、もっと体を動かした訓練とかがしたいよ!」
「フフッ、まあ、そうだろうねぇ。でも肉体を鍛えたところで今のあんた達じゃ大人の筋力には勝てないだろう?だから格上相手にも勝てるように、まずは闘いの考え方から学ぶ必要があるんだよ。」
姉御の説明にもダンは納得していなかった。それを見た姉御はフフっと笑った。
「まあ、ダンには習うより慣れろって感じかな。よし、じゃあかかって来な。あたしに一撃でもくらわしたらあんたの勝ちでいいよ。」
「そうそう!そういうのを待ってたんだよ!」
ダンはウキウキし始めた。姉御は続けて言った。
「ダン、あんただけじゃないよ。ジャックとルーシーも一緒にかかって来な。」
「えっ、俺たちも?」
「うぅ...ジャック君...怖いよぉ」
ジャックは自分も参加するとは思っておらず動揺した。そしてルーシーは戦闘が苦手の様で、ジャックの背中に隠れていた。そんな二人を見てダンは励ました。
「大丈夫だよ!たった一撃食らわせるだけなんだから!三人でやれば余裕だよ!」
ダンはそう言って二人を鼓舞した。二人はまだ怖さは残っていたものの、ダンの言葉に決意を固めた。そして三人とも姉御と闘う準備ができた。
「よし、じゃあ三人とも。どんな手を使ってもいいから、あたしに攻撃を当ててみな。そしたらお勉強はやめて実践訓練に入るよ。」
姉御は軽く体を動かして準備を整えた。そんな姉御にあんこが声をかけた。
「あんまりいじめないでね!訓練になると姉御ちゃんは容赦ないんだから!」
「わかってるよ!これはあくまでも勉強をさせるための実践だからね。」
そう言ったところでダンが勢いよく姉御にとびかかった。それを姉御は簡単にかわした。
「勢いがあっていいね!でも、無策で相手の懐に飛び込むのはとっても危険だよ?」
姉御はそう言ってダンの背中をポンと押した。ダンは体勢を崩して床に手を付けて転んだ。そして姉御の左右からジャックとルーシーが飛びかかった。それを姉御はしゃがんで避けて二人を上空へと弾き飛ばした。
「タイミングはばっちりだったけど、当たらなかった時のことを考えてないねぇ。だからこんなにも簡単にやられるんだよ。」
姉御がそう言っている最中にダンが振り返って殴りかかろうとした。しかし姉御は振り返ったダンのおでこに人差し指を当てた。
「はい。おしまい。あんたが振り返るよりも速く、あんたの頭を弾き飛ばせたよ?」
姉御がそう言っているときに空からジャックとルーシーが降ってきた。それを姉御はキャッチした。
「す、すっげえ!お姉ちゃん、そんなに強かったんだ!?」
ダンは負けた事よりも姉御の強さに感動した。姉御は得意げに言った。
「ああ。あんたたちもこんぐらい強くなりたいだろ?だったらあたしの言うことを聞きな。そうすりゃ強くなれるから。」
「ちぇー。分かったよ。」
ダンは仕方なく姉御の言うことに従うことにした。ジャックとルーシーも姉御の強さに触れて素直に聞くようになった。
「う、うん。分かった。」
「あたしも...わかった...」
「よし!それじゃ闘いのお勉強を再開しようか?」
姉御が勉強を再開しようとしたところにレイジたちが合流した。
「ああ!いたいた!おーーーーい!」
レイジはあんこたちに向かって手を振って呼んだ。あんこは「おーーーい!」と笑顔で手を振り返した。
「いやー、良かった良かった。急にいなくなってたから探したぞ。」
レイジはあんこにそう言った。あんこはテヘヘと照れた。
「実は、この子たちが強くなりたいって言ってたから訓練してたんだー。」
「まあ、私たちは何にもしてないけどね。」
あんこの発言にネネは冷静にツッコんだ。そしてレイジは疑問に思った。
「え?どうして姉御たちがあの子に訓練を行ってんだ?誰かの知り合いか?」
「ううん!全然知らないよ!けどね、この子たちドナルドみたいになってこの町をいい町にするんだー!って言ってたから、つい助けたくなっちゃったんだー。」
あんこは体をフリフリと左右に振りながら楽しそうに言った。レイジはそれを聞いて理解した。
「ああ、そう言う事ね。つまりあんこが助けたくなったってやつか。」
「そうだよー!人助けはいい事だもんね!それに、この子たちの夢はあたしもすっごく思ってたことだったから、ついね!」
あんこの発言にネネと昆布はうんうんとうなずいた。
「そうね、この最低な町を変えられるのは、希望を失ってない子供たちだけかもしれないものね。それに手助けしたくなるのは当然のことだと思うわ。」
「そうでござるなぁ。子供はどの時代でも大切な宝でござるからなぁ!子供を大切に出来なくなった国は緩やかに滅んでいくでござるからなぁ」
ネネと昆布の言葉にレイジは確かにと思った。
「なあ、ゴゴもそう思うか?」
レイジがゴゴへと振り向いたらそこにゴゴの姿は無く、辺りを見渡すと、ゴゴはすでに姉御の勉強に集中して聞いていた。
「こんな時、どうしたらいいか分かるかなー?」
姉御は敵との遭遇の場面を描いた絵を見せてダンたちに聞いた。しかし勢い良く手を上げたのはゴゴだった。
「はい!正面!出る!殴る!蹴る!」
ゴゴは頭が筋肉でできた答えを言った。姉御は「ブブー!」と答えた。
「正解は、まず相手に自分の姿を悟られないように行動する!でしたー!」
「えええええええ!!?どうしてえええええ!?」
ゴゴは誰よりも大きな声で姉御に聞いた。姉御はまるで幼稚園児に聞かせるように言った。
「なぜなら、相手がこちらに気づいてないときっていうのは、相手のことをよく知るチャンスだから!例えばその人物が男か女かとか、どんな武器を持っているのかとか、警戒心はどんなものかとか、その他いろいろなことが分かるようになるの。」
「でもせんせー!そんな情報が何の役に立つのー?」
ゴゴは幼稚園児の様に舌ったらずなしゃべり方で聞いた。姉御は笑顔で答えた。
「それはね、闘うときに相手がとって来そうな行動を予測できるの。予測できるって事は、相手の未来を知ることになるの。もし未来に何が起こるのかわかったら、その人は絶対負けないでしょ?だから相手の情報を知ることはとっても重要なの。わかったかな?」
「はぇー!そうだったんだー。だから俺はいっつも攻撃を避けられるのか。」
ゴゴは普通に勉強していた。しかもダンたちと気が合うようで、楽しく会話をしながら勉強していた。
「ゴゴの奴、いつの間にあの子たちと仲良くなったんだ?」
レイジは疑問に思った。それに対してネネが辛辣な言葉を言った。
「頭の中身が同じレベルなんじゃない?ゴゴってバカだし。」
「ああ。確かにそうかもな...」
レイジは納得した。そして昆布も辛らつな言葉を言った。
「...ゴゴって、闘いが大好きって言ってる割りには弱いでござるよねー。こんな基本中の基本も知らないみたいでござるし...ゴゴっていったい何者なんでござるか?」
昆布の疑問に答えられる人はひとりもいなかった。
「さあ?ゴゴは突然俺たちのチームに入ってきたからなー。過去とかも話してくれないし...」
レイジはそう言った。するとネネも自身が疑問に感じていたことを話し始めた。
「それに、ゴゴって本当に寝ないのよね。私が夜の見張りの時も一晩中ずっと変な踊りを踊ってたわ。その踊りなんなの?って聞いたら『太陽乞いの踊り』って言ってたわ。頭大丈夫なの?って心配になったわ。」
「それは...やばいな。もうあいつの思考が全く分からないよ。」
レイジとネネと昆布はゴゴという謎多き男に頭を抱えた。