一方あんこたちは②
あんこたちはダンたちに誘われて森の中まで来た。
「ねえ!お姉ちゃんたち!俺に修行をつけてくれるんだよね!」
ダンの質問に姉御は疑問を持った。
「うーん、そうだけど、大人の人はいないの?」
「居ないよ。俺たちはみんな親がいないんだ。」
ダンは少し寂しそうに言った。
「そう...じゃあ今日まで三人で生きてきたの?」
「うん!俺たちはこの森の中で食べ物を探して生きてきたんだ!大人たちはみんなこの森のことを『死の森』って呼んでる。だから誰も来ないんだよ。」
「死の森?」
姉御はその言葉に聞き覚えがあった。
「それって確か、恐ろしい怪物が住む森って言われてる所よね?足を踏み入れたものは生きて帰ることができないって言われていたはず。」
「うん!だいたいそんな感じだよ。」
ダンに言われて姉御は辺りを見渡した。改めてこの森を見ると違和感に気づいた。
「...この森、動物の気配がない?」
姉御は耳を澄ませてみたが、鳥の鳴き声も動物の足音も聞こえず、ただ巨大な樹木たちの葉がこすれる音だけが鳴り響いていた。
「そうだよ!だから寝る時も誰かに襲われる心配はいらないんだ!すっごくいい所でしょ!?」
ダンは笑顔で言った。だが姉御は心配になった。
「いいや、ここにはあまり来ない方がいいと思う。」
「えー!なんでー?」
「なにか...嫌な予感がするんだよ。あたしの勘ってやつ?とにかく、ここじゃ修行はつけてやれない。ほかの場所を探そう。」
姉御はこの森を出ようとしたが、ダンは不満そうにした。
「ええーー!せっかく秘密の場所まで教えたのに、修行してくれないのー?やだやだ!そんなの卑怯じゃん!」
駄々をこねるダンにジャックが声をかけた。
「ダン。やっぱりこの人たちもほかの大人と同じなんだよ。諦めなって。」
「そ、そうだよダン君。私たちだけで生きていくしかないんだよ。」
ジャックとルーシーはダンを説得した。ダンはうつむいた。
「...わかったよ。じゃあね。お姉ちゃんたち。」
「まてまて、ほかの場所でなら修行をつけるって言っただろ?」
「...ダメなんだよ。ほかの場所は野盗たちの縄張りだから。そんなところで修行なんてしたら野盗に目をつけられるよ。そうなったら俺たちはひどい目にあわされちゃう。」
「...そっか。だからこの森に住んでいるのか。」
姉御は納得した。そして悩んだ。その様子にあんことネネは声をかけた。
「ねえ姉御ちゃん。ここでもいいんじゃないかな?確かにこの森はなんかイヤーな空気が漂ってるけど、あたしらがいれば大丈夫だと思うんだ!ね?」
「そうね。それに森の中なら私は得意よ。12年も森にいたものね。」
あんことネネに言われて姉御は決断した。
「わかった。じゃあここで修行をつけるよ。ただし!あたしが危険だと判断したらすぐにこの森から出ること!いいね?」
姉御に言われてダンは飛び上がって喜んだ。ジャックとルーシーは若干戸惑っていたが、否定的では無かった。
「やったーーー!!ありがと!お姉ちゃんたち!よーーし、これで俺もドナルドみたいに強くなれるぞー!」
「まあ、修行をつけてくれるんだったら、いいけど...でもどうして急に?」
ジャックは少し不安だった。姉御はジャックの不安を取り除くように言った。
「まあ、このままあんたたちだけをこの森に放置しておく方が危ないからね。レイジたちが帰ってくるまでは修行をつけるよ。」
「ふーん。そう。」
ジャックは姉御の言葉を半信半疑で受け止めた。そしてダンがフォローを入れた。
「許してやってよー。ジャックはろくな大人と出会ってないからなー。大人は信用できないんだって。」
「...まあ、そうだね。優しい大人にも騙されたんだ。もう大人は信用できないね。」
「ちなみにルーシーもそうだよ。ルーシーのパパは毎日ルーシーに酷いことしてたんだ。叩いたり蹴ったり、それで俺とジャックがルーシーを連れ出したんだ。」
ルーシーはジャックの背中に隠れながらうなずいた。その話を聞いてあんこは怒った。
「ええー!なにそれー!ひどい話!そんなことする親がいるのー!?」
「ここじゃ普通のことだよ。大人たちは鉱山で働いてて、死ぬかもしれない怖さから誰かに八つ当たりするんだって。教会のシスターが言ってたよ。」
「鉱山?」
姉御はダンに聞いた。ダンは頷いた。
「うん。昔盗賊がアジトとして使ってた洞くつに金とか銀とかが掘れるから、たくさんの人たちが集まってできたのが今のマフィアタウンとスラムタウンなんだってー。これもシスターが言ってたよ」
「そうなんだ。...というか、シスターって、この町に教会があるの?」
姉御は再びダンに聞いた。ダンは頷いた。
「うん!俺、そこの孤児だったんだー。でも、お金が足りないからヤバいって話を盗み聞いて、俺だけ出て行ったんだー。でもたまに顔出してるよ?この森でとれた木の実とかあげに言ってるんだー」
ダンは頭の後ろで手を組んで得意げに話した。姉御は「そう...」と悲しげに返事をした。
「それじゃ、修行をつけようか?まずは三人の強さがどれくらいのものかを見せてもらうよ。」
姉御は気を取り直して言った。ダンは元気よく返事をした。ジャックとルーシーは不安そうに返事をした。
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「全く、姉御たちはどこに行ったんだ?」
マフィアタウンから帰ってきたレイジは門の前にいたはずの姉御たちがいない事に気づいた。
「まさか、なにか事件に巻き込まれたでござるか!?た、大変でござるよー!」
昆布はあたふたとした。ゴゴは辺りを見渡した。
「なに!?事件だと!?俺も混ぜろーーーー!!!」
ゴゴは姉御たちの心配ではなく、闘いが起きていたら自分も闘いたいという欲求で探していた。レイジはそんな二人の様子にため息が出た。
「はぁ、俺一人だとこの二人を連れて歩くのだけで疲れるなー。二人とも!もっと冷静になって考えろ!姉御たちが事件に巻き込まれたとして、俺たちになんも連絡がないわけないだろ?きっとあんこがフラフラと散歩でもして、それを追いかけてるみたいなことだろう。」
レイジの冷静な仮説に昆布は落ち着きを取り戻した。
「な、なんだ。そうでござるか...兄貴がそういうなら安心でござるな!」
「なんだ、闘いじゃねーのか...そいつはやべーな!!俺はこのままだとつまらなくて死んじまうぞ!!!」
ゴゴは闘えないというストレスで頭がおかしくなりそうだった。それを見たレイジはまたため息をついた。
「いや、全然ヤバくねーだろ。我慢しろよ。明日には魔王軍が攻めてくるかもしれねーんだから。今は休んで体調を整えておけよ。」
「フッフッフ。レイジは分かってないなー。」
ゴゴは不敵に笑った。レイジは疑問を持った。
「...なにがわかってないんだ?」
「それは...俺は!闘う前に闘わねーと闘いに支障が出るってことだ!」
ゴゴは得意げに笑った。レイジは意味が分からなかった。
「いや、意味わかんねーぞ?闘う前に闘わねーとダメ?どういう理屈?」
「理屈か...フフ...俺もわからん!!!」
ゴゴは自信満々に答えた。その答えがレイジの疑問をさらに加速させた。
「いやどういうこと?なんでわかんねーんだ?しかもなんでそれを自信満々に答えたんだ?本当にわかんねーんだけど?」
レイジが困惑しているときに、脇から腕を組んで不敵に笑う昆布が現れた。
「フッフッフ、つまりは、ウォーミングアップが必要って事でござるよ!」
「そうそう!それが言いたかったんだよ!!さすがはヒノマルの国の侍。貴様の理解力には恐れを覚えるぞ!」
「フッフッフ!そうでござろう?ゴゴの言いたいことぐらい、拙者にはお見通しでござるよ!覚悟するでござる!」
そう言って昆布はゴゴの体をペチペチと叩き始めた。
「グワ――――――――――――ッッッ!!?な、なんというペチペチ!グガガッ!やられてしまうーーーーー!!?」
二人は小学生男子のような頭の悪いやり取りを繰り返していた。レイジはそのノリについていけず、ただ呆然と眺めていた。すると昆布がレイジに聞いてきた。
「ムムッ!?そこにおられるのは、拙者の兄貴ではござらんか!この無礼な筋肉男にぜひとも制裁を与えて頂きたいでござる!」
昆布はそう言って膝をついてお願いをした。ゴゴは「ぐわっはっは!!」と悪い笑い声を上げながらレイジに近づいてきた。レイジは無言のままゴゴと昆布にゲンコツをくらわした。
「バカなことやってねーで、あんこたちを探すぞ!!」
レイジはさすがに二人を叱った。昆布は「はーい...」と反省したがゴゴは違った。
「ぐわっはっは!!!やるではないか!勇者候補の者よ!ならばこちらも本気を出さねば無礼というものよ!うおおおおおおお!!」
ゴゴは魂の力を解放し始めた。ゴゴの周りから強烈な風が巻き起こり、レイジと昆布は顔を押さえた。
「うおおおおおお!!マックス100パーセントだああああああ!!」
ゴゴが暴走し始めたところでレイジがゴゴの頭をはたいた。ゴゴはキョトンとした顔になって魂の力を収めた。
「何やってんだよ。今使ったら明日に響くだろ。遊びで使うもんじゃねーんだよ。魂の力ってのは」
「ああ。そうなんだ。知らなかった。」
ゴゴは本当に知らなかったらしく、普通に謝った。
「しかも、全身に100パーセントの魂を使ってんじゃん。それじゃダメだろ。」
「え?どういうこと?」
「知らないのか?魂の力はコントロールできるんだ。0から100パーセント、全身から体の一部、そういう使い分けをして闘うのが普通なんだぞ?」
「マジかよ!そんなことができたのか...ちょっとやってみてくれよ!レイジ!」
「ええ?...今はそれよりも姉御たちを探さないと...」
レイジはゴゴの要求を拒否しようとしたが、ゴゴは駄々をこね始めた。
「やだやだやだ!!見せてくれなきゃやーだ!やってやってやって―――!」
ゴゴの駄々をこねる姿はレイジには見るに堪えず、やることにした。
「わかったわかった!やったら姉御たちの捜索をするって約束するなら見せてやるよ。」
「うんうん!約束する!」
ゴゴは目をキラキラと輝かせてレイジのことを見た。レイジは右手に集中して右手だけ魂の力を解放した。
「こんな感じだ。これで相手を殴れば魂の力を節約しながら、最大限の力をぶつけることができる。さあ、やってみな。」
レイジはなんだかんだ言いながらも、ゴゴの指導をちゃんとした。ゴゴは一生懸命に拳に力を集中させたが無理だった。
「むずかしーーー!!こんなことできんのか―!?やっぱレイジはすげーな!!!」
「まあ、俺も最初っからできてたわけじゃない。姉御に指導されてできるようになったからな。ゴゴも毎日練習してればいつかは出来ると思うぞ?」
レイジはゴゴに憧れの眼差しで見られることにまんざらでもない様子だった。そしてゴゴにアドバイスをした。
「まあ、コツとしては右手だけ開放するんじゃなくて、魂の力を右手に集めるイメージかな?」
レイジに言われてゴゴはそういう風にイメージをした。しかし、全身から魂の力があふれてきた。
「だ、だめだー!できる気がしねーよ!」
「まあ、最初はそんなもん...なのかな?俺もあんこも全然苦労しなかったけど...」
レイジの言葉に昆布は驚いた。
「ええ!?そうなのでござるか?拙者は苦労したでござるよー。自由に操作できるまで一年はかかったでござるよー。」
「そうなのか?俺は難しくなかったが...そうだ!それともう一つ。ゴゴは100パーセントを出してるけど、そんなに使っていたらすぐに使い果たしてしまう。だから全身に30パーセントほどを出すと長期戦も出来るぞ。」
レイジに言われてゴゴは抑えながら魂の力を出そうとした。しかし、0か、100パーセントしか出せなかった。
「だめだー!全部出しきっちまうよ!どうやら俺は魂の力の扱い方が絶望的にヘタらしいな!!」
ゴゴはガッハッハと笑っていた。レイジは頭を抱えた。
「そうか...まあ、じっくりと練習していればできるようになると思うぞ。それより、魂の力を教えたから姉御を探しに行くぞ。」
レイジはそう言って姉御たちを探しに行った。昆布とゴゴは「おー!」と言ってレイジについて行った。