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星の勇者  作者: アシラント
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マフィアタウン②

レイジは意外と冷静なドナルドに驚いた。


「驚いたな。てっきりそれも偽物だっていうのかと思ってたよ。」


レイジは牛鬼の話を信じるドナルドに驚いた。ドナルドはフッと鼻で笑った。


「まあ、ここまで来た奴だからな。すべてを信じるわけじゃないが、まあ、頭の片隅には入れておこうかなって感じだな。」


「そうか、サンシティで会ったときは全員に睨みまくってて怖かったけど、意外と常識はある方なんだな。」


「まあな。俺たちは舐められたら終わりなんだ。だから威嚇は挨拶みたいなもんさ。それに、マフィアで上に上がるには常識も必要だったからな。それ以上に圧倒的な力が必要だが...」


「そうなのか、俺はドナルドのことを誤解していたよ。もっと話の通じないイカれた奴かと思ってたよ。」


「まあ、ガキの頃はそんなだったが、マフィアに上がった時から常識やマナーは叩き込まれたからな。って、んな話はどーでもいいんだよ!とにかく、おめえらには手伝ってもらいてぇ。ネズミの魔族がここに来るのは明日なんだ。だから俺たちルドラータファミリーは戦闘準備に取り掛かっている。お前たちにも参加してもらいてえ。」


「俺たちも参加するのかぁ?」


レイジは戦闘が嫌いなので少しイヤそうにした。ドナルドはそれを無視して話をつづけた。


「ああ。魔族との闘いなら勇者の出番って訳だろ?それに、報酬はファーザーに頼んである。金なら出せるぞ?」


「まあ、報酬が出るならやってもいいけど...」


レイジは乗り気でない様子だがゴゴはウッキウキで了承した。


「いいいいいいいいやったああああああ!!!!ようやく戦えるじゃねーか!もーうほんとに待ってたんだぜ!?闘いたくてうずうずしてたんだ!待っていた甲斐があるじゃねーか!」


ゴゴは全身で喜びを表現しながら言った。その様子にドナルドは口角を上げて笑った。


「やっぱり俺の思ったとおりだな!おめーは闘いが大好きなバカだと思ってたぜ。そういう連中を俺は探してたんだ。どうだ?俺と一緒にルドラータファミリーを最強のマフィアにしねーか?」


「ああ!いいぞ!...と言いたいところだが、あいにく俺は姉御との約束があるからな。とっても残念だが、断るしかねーんだ。」


ゴゴはあからさまに残念がった。ドナルドも「そうか...」と言って残念そうにしていた。そしてレイジは思い出した。


「ああ!そういえば、スラムタウンで門番してる人がルドラータファミリーに入りたいって言ってたぞ?なんか親切にしてくれた人だったな。」


レイジがそういうとドナルドは興味なさそうな顔をした。


「ああはいはい。いつものやつね。わかったからもう言わなくてもいいぞ。」


「いつものやつ?」


「ああ。スラムの奴らは何かにつけて俺に取り入ろうとすんだよ。もう聞き飽きたんだよ。」


ドナルドはうんざりした様子だった。レイジはそれを見て『有名になるのも面倒なんだなー』と思った。


「それによ、力がある奴はスラムでストリートファイトでもして金稼いでいけば、おのずとマフィアの方から声がかかるってもんだ。俺はそれでマフィアになったからな。」


「なるほど...そんな過去があったんだな。」


レイジは感心した。ただのチンピラだと思っていたが、ドナルドはこの腐った街で力をつけてのし上がっていった男だったのだ。


「そうだ、お前らがこの仕事を受けるってんなら、ファーザーに紹介しとくぜ。こっちだ。」


ドナルドは席を立ち、二階へと上がって奥の扉にノックをした。


「誰だ?」


中から聞こえた声は重みがある野太い声だった。


「ドナルドです。」


「おお!ドナルドか!入れ。」


ドナルドは扉を開けた。中には豪華な机とフカフカな黒い椅子に座ったラグビー選手の様な筋肉をした、禿のおじさんが座っていた。黒いスーツと白いシャツ、黒いネクタイをつけていた。


「ファーザー、この者たちが明日の決戦に参加する勇者の仲間たちです。」


ドナルドはすこし頭を下げて言った。レイジたちも軽く頭を下げて挨拶をした。


「そうか!君たちがドナルドと同じ勇者の装備を持つ者たちか。遠い所からよく来てくれたな。」


ファーザーは立ち上がり、レイジたちに握手を求めた。そしてレイジ、昆布は軽く手を握り挨拶をした。そしてゴゴはギュッと握り、相手の握力を測ろうとした。ファーザーもそれに気づき、ギュッと握り返した。そしてお互いにだんだんと握る力が強くなり、最終的にファーザーがギブアップをした。


「はっはっは!生きのいいやつも連れて来てくれたな!これはいい戦力アップになりそうだな!」


ファーザーはゴゴの無礼に怒ることなく、その器の大きさを表した。


「...おいおいおい!!!ファーザーさん!あんた本気じゃなかっただろ?」


ゴゴはさっきの握りあいでファーザーがわざと負けたことに不満を抱いた。


「...何を言っているんだ?わたしは本気だったさ。」


ファーザーは余裕の表情で言った。ゴゴは楽しくなってきた。


「その表情!つえぇ奴から感じられるオーラ!心の余裕!!!へっへっへ!ファーザーさん!俺はあんたと戦いてぇなぁ!!」


ゴゴはファーザーの強さを全身で感じ取った。ファーザーは依然として余裕そうに笑った。


「ドナルド!この面白い者をぜひともルドラータファミリーに加えたいと思うぞ!この者はわたし好みの性格をしているな!喧嘩が大好きで、闘うことでしか生きていることを実感できないタイプだな。若いころのわたしにそっくりだな!」


ファーザーはゴゴのことを気に入った。それに対してドナルドもウンウンとうなずいた。


「そうでしょう?ファーザーも気に入るっって、俺の言ったとおりでしょ?」


「ああ。こんなイカれた戦闘好きがまだこの世界にいたとはな!面白い!」


「でも残念ながらゴゴは約束があってファミリーになれないとのことです。」


「む?そうか、それは残念だな。」


ドナルドとファーザーはあからさまに落ち込んだ。


「まあいい。もしその約束を果たしたらいつでもルドラータファミリーに来なさい。歓迎するぞ。」


ファーザーはゴゴの肩をポンと叩いて言った。ゴゴは親指を立ててにっこりと笑った。そしてレイジと昆布は不思議に思った。


「兄貴!武闘派の親分って聞いたからもっと怖いのかと思ったら、意外と普通でござるね?」


昆布は小声でレイジに言った。レイジも小声で返した。


「ああ。俺もてっきりゴゴみたいな戦闘バカかと思ったが、全然違ったな。なんというかマフィアっぽい恐ろしさを感じないし。本当に武闘派集団なのか?」


レイジと昆布がひそひそと話しているとファーザーがレイジに話しかけた。


「時に、レイジ君?」


「は、はい!なんでしょうか!?」


レイジは突然の指名に背筋がピンと張った。


「君が勇者だと言っていたが、それは本当かね?」


「まあ、たぶんそうじゃないかと思いますが...」


レイジは自信なさげに言った。ファーザーはその態度に不思議に思った。


「たぶん?どういう意味だね?」


「そのー、実は勇者の記憶が目覚めたのは勇者の刀を手にしたときなんです。だから俺は自分が勇者なのか、それともこの刀が特別なのか、わからないんです。実際、この刀を持って変わったところは記憶だけで、あとは変わってないですから。」


「ふむ。それは面白いはなしだな。」


「え?」


「実はうちのドナルドもそうなんだ。なあ?」


「ああ。俺もこの勇者の靴を手に入れたときに記憶が目覚めた。それ以外はなにも変わってねーな。」


レイジは自身の仮説にさらに信ぴょう性が増してきた。


「やっぱり、俺たちが特別なんじゃなくて、この勇者の装備が特別なんだよ!」


「へえ、まあ、どっちでもいいけどよ。」


ドナルドは全く興味が無かった。


「どっちでもいいって...どうしてそう思うんだ?知りたいとは思わないのか?」


「別に...知っても知らなくてもいいだろ。このブーツは強い。それだけが重要だ。俺にとってはな」


ドナルドは強さ以外に興味がない様子だった。レイジは自分と似ていると感じた。レイジにとって重要なのは知識欲を満たすことで、人類が滅びようが魔族が滅びようがどっちでもいい事だと思っていた。それがドナルドの場合は強いか弱いかが重要だと考え、ほかのことはどうでもいいと思うのだろうとレイジは理解した。


「そうか。俺が謎の解明を求めているのと同じで、ドナルドは強さを求めているのか...」


「そういうことだな。」


「でも、なんでドナルドはそこまで強さを求めてるんだ?」


レイジが質問するとその場が一気に静まり返った。


「...あれ?聞いちゃまずかったか?」


「いや、まあ、聞いてもいいが、それを話せるのはもっとお前を信用してからだな。あまり自分の過去をペラペラしゃべるタイプじゃねーんだ。俺は。」


ドナルドはそう言って部屋から出て行った。そしてファーザーがレイジに言った。


「ドナルドには、力を追い求めることになったきっかけがある。そのきっかけがあるからこそ、わたしはドナルドをうちのファミリーに誘ったんだが...本人が話したくない以上、わたしからは何も言えん。」


「ファーザーは知っているんですか?」


レイジは聞いた。ファーザーは静かにうなずいた。


「わたしは知っている。そしてそれがドナルドにとって誰にも聞かれたくない事だというのも知っている。だからわたしは言わない。ファミリーは血よりも固い絆で結ばれているのだ。わたしはそう思っている。」


「なるほど...わかりました。その時が来るまではこちらからは聞かないでおきます。」


「そうか。そうしてもらえると助かるよ。それに、魔族との闘いは明日だ!今日はこの家で休んでおきなさい。作戦は何もない!個々の判断で動くこと!それがルドラータファミリーのやり方だからな!」


ファーザーは優しく微笑んだ。レイジは頷いて部屋を後にした。


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