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星の勇者  作者: アシラント
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マフィアタウン

マフィアタウンに入ったレイジたちはその綺麗さに驚いた。街は白を基調とした石畳で道が作られ、目の前にある広場には透き通るほど美しい水が沸き上がる噴水があった。その噴水には鳥たちが水浴びに来ていたり、子供たちが水遊びをしていた。

 そして建物は三階建てほどの大きさの白い石造りのものがきれいに立ち並んでおり、窓から見える部屋はそのどれもが優雅さを感じる家具が見えた。


「すっげぇ。マフィアタウンってこんなにきれいなのか!?下町のスラムタウンとは大違いだな!」


レイジはその景色のきれいさに圧巻としていた。それは昆布も同じだった。


「そうでござるねぇ!スラムタウンの人たちがここへ上がりたいと思うのも納得でござるよ。」


昆布は街を歩く住人の服装にも注目した。その服装はまさに貴族といった、男性は白いシャツに派手な柄の上着とズボン、おしゃれな杖を持ち、頭にはシルクハットをかぶっている人が大勢いた。女性は様々な色のドレスを着て、日傘をさして歩いていた。子供は元気に駆け回るが、はしたないという注意をされていた。


「見てくれでござるよ兄貴!ここの住人はまとっている服装ですら上品でござる!」


「おお!ほんとだ!しかも子供を叱るほどの道徳心も持っているぞ!スラムタウンとは壁一枚しか(へだ)てていないのにこれほどの差があるとは!興味深いなぁ」


レイジが住人の道徳に感心しているとゴゴはとても暇そうにしていた。


「ああ、暇な街だなぁ。マフィアタウンっていうから、もっと地獄のような場所を想像してたのに、闘いのひとつも起きてやしねぇ。ほーんとつまらん!」


ゴゴはだるそーに言った。それにレイジは反応せずにドナルドのいるルドラータファミリーの本部へと進もうとしていた。


「確か、この町の左側がルドラータファミリーで、奥がマルテーゼファミリー、右側がニッコリーニファミリーの縄張りだったかな?警備の人はそう言ってたな。」


「ニッコリーニファミリーって、なんだか楽しそうな名前でござるな!もしファミリーに入るなら拙者はニッコリーニファミリーがいいでござる!」


「俺はマルテーゼかな。それぞれの特徴を聞いたんだけど、ルドラータは武闘派。マルテーゼは主に頭脳を使って動いている集団らしい。例えばスパイを使って情報を集めたり、政府に金を渡して犯罪をもみ消したり、この町で店を立てた住人にほかのマフィアから守る代わりに毎月いくらかのお金をもらったりしているらしい。」


「はぇー!ほんとにマフィアって感じの仕事でござるねぇ」


「ああ。そしてニッコリーニは名前とは裏腹に非常にあくどい事で有名らしい。主な収入はクスリと女だってね。上流階級の人にクスリと女を紹介してお金を稼ぎ、下町には金の代わりにヤバい仕事を引き受けさせるって話だ。つまり力はないが、いなくなるとこの街が崩壊するから政府も黙認してるらしい」


「うへぇ。そう聞くとニッコリーニは怖いでござるなぁ。名前は好きでござるが...」


レイジと昆布は雑談をしながらルドラータファミリーの本部へと向かった。ゴゴは魂を抜かれたように死んだ顔で二人の後ろを歩いていた。


「戦い、ぜんぜんない。俺、暇で、死ぬ」


「死にはしねーだろ。もうちょっとで着くから、それまでおとなしくしていてくれよ」


レイジの呼びかけにも反応が無かった。ただぽつぽつと独り言を発していた。その様子に昆布は心配になった。


「兄貴。ゴゴのやつ、大丈夫でござるか?このままだとほんとに死にそうなくらい生気がないでござるよ?」


「まあ、大丈夫だろ。いざとなったらじゃんけんでもして遊べばいいだろ」


レイジは適当に言った。レイジはそこまで心配していなかった。ゴゴは大げさに感情を表現するタイプだと理解していたからだ。そのことを知らなかった昆布はツッコんだ。


「じゃんけんで収まるレベルの問題じゃない気がするでござるが...」


三人はそんなことを言いながらルドラータファミリーの本部まで到着した。本部は他の建物とほとんど同じだった。しかしそこには黒のスーツを着た、いかついおじさんが立っていた。


「とまれ。お前ら、何の用だ?」


そのおじさんは胸のポケットに手を突っ込んで聞いた。レイジは手を上げた。


「俺たちはドナルドに会いに来た勇者候補の者だ。ドナルドが魔族の情報を掴んだって聞いてここまで来たんだ。」


「ああ、お前らがそうなのか。赤い髪、後ろでまとめて前髪中央分け、そして筋肉がデカすぎる男、ヒノマルの鎧をまとった男。確かに報告にあったとおりだが、ほかの空中に浮く少女と金髪ヤンキーの女と、謎のフードをまとった人物はどうした?」


「ああ。その人たちはスラムタウンで待たせてる。」


「待たせてる?なぜだ?」


「それは、身体検査がイヤだって言っててな。人に裸を見せるなら死んだほうがましだって言って、ここまで来てくれなかったんだよ。」


レイジは頭の回転が速く、その場でそれなりの嘘を言った。おじさんは少し不審に思ったが、納得した。


「ふーん。まあ、赤髪の男と筋肉の男がドナルドの会いたがっていた奴だしな。いいだろう。入れ」


おじさんは親指で扉を指して言った。レイジたちは少し緊張しながらルドラータファミリーの本部へと入っていった。内装は赤のカーペットが廊下にも()き詰められ、左右に部屋があり、奥にリビングがあった。レイジたちは恐る恐るリビングへと足を踏み入れた。

 リビングは一階と二階が一緒になっており、一階には長方形のテーブルがあり、白いクロスを敷かれていた。そして天井にはシャンデリアがつるされていた。右奥と左奥には階段があり、二階へと上がれるようになっていた。


「おお。来たな。」


聞き覚えのある声を発したのは階段を下りてくるドナルドだった。


「ドナルド!久しぶりだな!」


レイジはようやく会えたドナルドに安堵した。もしかしたら罠なんじゃないのかという考えが頭の中にあったからだ。


「ああ。...ほかの勇者を名乗る嘘つきどもはどこだ?」


「いや、来たのは俺とあとスラムタウンで待ってるネネだけだけど...」


「なんだと?来てねーのかよ。クソどもが。」


ドナルドはイライラした表情で言った。そして舌打ちをした後に話をつづけた。


「まあいい。ほかの連中のことは知らん。とりあえずてめぇらには話しておく。」


ドナルドはレイジたちをリビングのテーブルの椅子に座らせた。


「ああ。魔族の情報を掴んだって聞いてるが?」


「ああ。俺はお前らとサンシティで別れた後に、マフィアタウンに戻って魔族の情報を捜索してたんだ。そん時にだ。魔王軍四天王を名乗るガイアってやつが現れた。」


「ガイア?初めて聞く名だな。」


「そのガイアってやつ、めちゃくちゃ強くてよ、1時間ほど戦闘しても決着がつかなくて、結局引き分けで終わったんだ。」


「四天王相手に引き分け!?ドナルド、お前めっちゃ強いんだな!」


レイジはファイアの実力を身をもって実感したからドナルドのすごさに驚いた。ドナルドは素直に喜べなかった。


「まあ、相手は全力じゃなかったからな。俺も防戦一方だった。あと10分でも戦いが続いてたら俺は死んでただろうな。」


ドナルドは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべて拳を握った。


「クソが!あんなにつえー奴は初めて会ったぜ。俺はあいつに勝つためにもっともっと力をつけなきゃなんねー!」


ドナルドは拳を左手に当てて怒った。レイジは冷静に聞いた。


「それで、その後どうなったの?」


「ん?ああ、そのあとにこいつを渡されよ。」


ドナルドが取り出したのは一通の封筒だった。


「封筒?開けてもいいか?」


「ああ。」


レイジは封筒を開けた。中には一枚の写真と手紙が入っていた。その写真にはネズミの魔族の姿が映し出されていた。そのネズミは体毛は灰色で尻尾は肌色、目玉が赤く光り、口を大きく開けて威嚇をしていた。さらにそのネズミの四本の脚は、ネズミとは思えないほどに筋肉が膨れ上がっていた。


「うわ!怖!」


レイジは思わずそう言った。そして手紙を読んだ。そこには『この魔族が10日後にマフィアタウン近くの森に現れる。そいつと一対一で闘ってもらう。勝てば魔王城の場所を教える。逃げてもいい』と書かれていた。


「逃げてもいいのかよ」


レイジは最後の一文に驚いた。しかし少し考えればこれを書いた理由が分かった。ドナルドの性格上そう言われたら逃げるわけにはいかないと思うからだ。そしてレイジは疑問に思った。


「このやり方、納豆丸と同じだな」


「納豆丸?なんだその臭そうな名前は?」


ドナルドがレイジに質問した。


「ああ、ゴゴの後輩...らしいんだけど」


「おうよ!納豆丸は俺の後輩だぜ!」


ゴゴはにっこりと笑った。


「その納豆丸がとんでもなく強くて、その上に俺にも手紙と写真を渡してきたんだ。」


レイジはドナルドに牛鬼の写真と手紙を見せた。


「なんだ?納豆丸ってのは魔王軍なのか?」


ドナルドはゴゴに聞いた。ゴゴは首を横に振った。


「いいや、魔王軍じゃないぞ。」


「じゃあなんなんだよ?」


ドナルドはゴゴに聞いた。ゴゴは渋い顔をした。


「なんなんだろうな?...家族?」


「家族...?」


「ああ。その言葉が一番しっくりくるな。パパがいて、そのパパに育てられたのが俺たちだ。」


「...まあ、複雑な事情がありそうだな。俺はそういう事は気にしねータイプだからな。これ以上は聞かねーよ。それより、お前らも面倒なことに巻き込まれたんだな。牛鬼か...俺も気を付けることにするか。」


ドナルドはそう言ってタバコを吸い始めた。



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