スラムタウンからマフィアタウンへ
姉御に殴られたほっぺたが赤く腫れあがっているゴゴを連れてレイジたちは中央の門まで来た。
「とまれ。お前たちが報告にあった勇者候補の者たちだな。」
門番はレイジたちを止めてまじまじと見た。レイジは落ち着いて目的を話した。
「はい。ドナルドに会いに来ました。」
「そうか、ならば身体検査をさせてもらうぞ。」
「身体検査...ですか?」
レイジは頭の中をある考えがよぎった。それは身体検査でネネの正体がばれて面倒なことになるのではという考えだった。
「ああ。それが俺たちの仕事だからな。武器はここで預からせてもらう。分かったら一人ずつ中に入って服を脱げ。」
門番の言葉にあんこが嬉しそうに反応した。
「え!?服脱いでもいいの!!?」
あんこはそう言った瞬間ほほを赤らめながら色気のある動きをして服を脱ぎ始めた。それに姉御が焦った。
「ああ!ああ!まだ脱ぐときじゃないよ!ほら、危ないから服を着なさい。」
姉御がなんとかあんこを説得して下着姿までで止めた。しかしその姿ですら刺激が強く、下町の女に飢えた住人は目玉をギラギラに輝かせてあんこを見ていた。その中には「おほぉーー!!」と言いながらあんこの素肌をまじまじと見る昆布の姿もあった。
「せ、拙者、これほど刺激の強いものには耐えられないでござるよー!」
昆布はくらくらとする頭を押さえてなんとか理性を保とうとした。そしてレイジが昆布の頭にチョップを入れた。
「昆布、あんこに手を出したらダメだからな。あんこは可愛い妹なんだ。お前にはやれねーよ。」
レイジの真剣な声色に昆布はへへへッと乾いた笑いを出した。
「そ、そりゃもちろん!兄貴がダメだって言ったことには全力で従うでござるよ!...でも、とりあえず、女の子の裸は刺激が強すぎるので服を着てくれでござる!」
昆布は心の底からお願いするようにあんこに言った。あんこはニヤッと悪い笑みを浮かべた。
「なになにー?昆布、もしかしてあたしの裸に興奮してるのー?...エッチ!」
あんこはサキュバスの様に妖艶な声色で言った。昆布は顔を真っ赤にして目を閉じながら恥ずかしそうに答えた。
「んもーう!からかわないでくれでござるよ!拙者、女の子の裸なんて見たこと無いのでござるから!」
昆布は恥ずかしさと本能を抑えるために顔を手で覆い隠した。そしてあんこがエヘヘッと楽しそうに笑った。
「ごめんごめんって!昆布は可愛いねぇ。わかったよ。これからはあんまり脱がないようにするから!」
「...それはそれで残念でござるが...」
昆布はボソッとつぶやいた。そしてレイジがそれを見届けて安心するとネネの方に近づいて小声で話した。
「どうする?このままだとネネの姿に連中が驚いて何するかわかったもんじゃないぞ?」
「そうね...私はここで待っていようか?」
「それはそれで危ないからやめておいて欲しいけど...」
「え?...心配してくれているの?」
「当たり前だろ?その...大事な人なんだから...」
レイジは恥ずかしそうに口をとんがらせながら言った。ネネも恥ずかしそうにさらにフードを深くかぶった。
「え!?...えっと...その...あ、ありがと...」
ネネはほほを赤らめて言った。レイジはそれがキュンと来た。
「お...おう!」
レイジの鼓動は速まった。そして二人の間に独特な空気が生まれた。それは互いに異性として意識し始めた男女の空気だった。その恋模様に姉御はキュンキュンした。
「レイジとネネの恋模様!ああ、ああ!...いい!すごぉくいい!!」
姉御は恍惚な表情を浮かべながらうっとりとした声で言った。レイジとネネの空気に乙女としての心がビンビンに反応していた。その様子を見たレイジは照れくさそうに言った。
「でたよ!姉御の乙女モード。恋愛ドラマの見過ぎで恋愛に脳を破壊された女の子になっちゃってるって!」
レイジは気を紛らわすために姉御にツッコミを入れた。
「ああ!ごめんごめん!つい興奮しちまったよ。」
姉御は流れ出るよだれを拭いて言った。そして咳払いをして冷静さを取り戻し、話を本題へと進めた。
「それで、どうしようかね。あの警備に金でも握らせて通してもらうかい?」
「俺はそれでいいと思うが、それが通用するだろうか?ドナルドはこの下町の憧れなんだろ?そんな人物に武器を持たせたまま入れてくれるとは思えねーんだ。」
レイジは自身の考えを言った。姉御はうーんと悩んで一つの解決策を言った。
「じゃあ、女の子はここで待ってるから、レイジと昆布とバカの三人で行ってきてもらえるかい?それならこっちは安全だし、そっちはレイジが守ってやれるだろ?」
姉御の提案にレイジとネネは同意した。
「確かに、それが一番いいかもな。武器なしで戦うなら俺の火の幻獣使いの能力が一番必要だと思うし、ゴゴも武器なくてもある程度は闘えるし、昆布は...わかんねーけど逃げ足だけは速いからな。」
「そうね...私も姉御とあんこが一緒なら安心でこの門をくぐらなくてもいいし。身体検査も受けなくていいし。」
三人の意見が合致したところでレイジはそれをみんなに伝えてレイジ、昆布、ゴゴの三人でドナルドに会いに行くことにした。
「じゃあ、行ってくる!」
「そうだレイジ!何かあったらこの無線機を使うんだよ。覚えてるかい?」
そう言って姉御は無線機を取り出して指をさした。
「ああ。ネネにスイッチをあげたやつだな。」
「そうね。これで助けを求めてきたら、あたしがそっちに行くから。」
「ああ分かった!そうならない事を祈る!」
レイジはそう言って検問所へと入っていった。するとすぐに受付の警備兵がレイジたちを呼んだ。
「こちらで武器を預からせて頂きます。持っている武器をそちらの机においてください」
レイジたちは指定された机に武器を置いた。レイジは勇者の刀と憤怒の魂を。昆布は右手につけた蛇腹剣のようなもの。そしてゴゴは何も置かなかった。そしてそれぞれ武器の確認をされた。
「こちらの刀は、勇者の刀で間違いないでしょうか?」
「ああ。そうだが?盗んだりしたらお前の首を切り落とすからな。」
レイジは一応くぎを刺した。警備の人はそんな脅し文句に慣れているのか、全く気にせず次に質問をした。
「こちらの刀は?」
「それは勇者の刀を持つ前から持っている刀だ。」
「これはいつ手に入れたものですか?」
「その質問に答える必要あるのか?」
「盗品ではないかを確認させていただいてます。そういう犯罪をするものを中に入れるわけにはいきませんので。」
レイジは面倒くさがりながらも答えた。
「それは俺が赤子の時に捨てられた場所で姉御が拾ったものだよ。戦場で拾ったんだ。よくある話だろ?」
「そうですか...『憤怒の魂』?と掘られているようですが?」
警備の人は刀の根元の方に掘られた文字を発見した。
「ああ。それがその刀の名前なのかはわからないけど、それしか名前が無かったからそう呼んでる。」
「そうですか、まあ、ここ最近の刀ではないという事ですかね?それにしてはずいぶんと綺麗ですね。刃こぼれもしていない。錆も付いていない。...本当にそんな昔の物なのですか?」
警備の人はその刀の美しさに怪しんだ。レイジはこれまためんどくさそうに言った。
「普段は使わねーからな。人と戦ったことなんてそんなに無いんだよ。姉御とのトレーニングでも、真剣なんて使わねーし、狩りでも罠使うし、敵が現れても斬り殺すのはあんこが嫌がるから素手でノックダウンさせるし」
レイジはきちんと真実を話した。警備の人はまだ怪しんではいたが、一応納得した。
「わかりました。一応合格としますが、こちらが盗品だと発覚した場合、あなたには手配書が発行されることになります。ご了承ください」
「ああ。分かったよ。」
レイジはようやく検査を終えて次の身体検査のために奥へと進んでいった。そして次に昆布が質問をされた。
「こちらの武器は...見たことも無いものですね。どこの物ですか?」
「それは拙者の故郷のヒノマルの国の物でござる!」
「ヒノマルの国?なるほど、あの独特の文化を持つ国ですね。この鎧もその国の物ですか?」
「その通りでござる!...この鎧も脱がねばダメでござるか?」
「防具は装着して頂いても大丈夫ですが、身体検査の為に一度脱いでいただきますね。」
「なるほど!了解でござる!」
ゴゴは敬礼をして笑顔で答えた。そして警備の人は別の質問をした。
「こちらの武器は右手だけですか?」
「ん?そうでござるが?」
昆布は意味の分からない質問に困惑した。
「いえ、左手にもあったらバランスがいいなーと思いまして、ただの感想ですよ。」
警備の人は謎の茶目っ気を出してきた。昆布は苦笑いをした。
「そ、そうでござるか...まあ、片手しかないのは仕方ないでござるよ。だってこれしかなかったでござるから!」
そう言って昆布はそっぽを向いた。
「そうですか。残念です。そして他には武器を所持していないということで、先へお進みください」
警備の人は昆布を先へと通した。そして最後にゴゴが来た。
「あなたは...武器を所持していないということでよろしいですか?」
「ああ!もってねえ!」
ゴゴはにっこりとほほ笑んで答えた。警備の人は怪しんでゴゴの体をじっくりと見た。そしてゴゴの腰につけているものに気づいた。
「この腰につけている銀色の物は何ですか?小さいハンマーやランスの様なものが様々付いていますが...」
「ああ、これか?これは...アクセサリーだ!」
ゴゴはうそをついた。それはゴゴの使っていた魂の力を籠めると大きくなる武器だった。
「アクセサリー?武器ではないのですか?」
「あのなぁ、こんな小さいハンマーでどうやって闘えっていうんだよ!素手で殴った方が武器になるだろ!」
「...それもそうですね、わかりました。こちらは武器ではないということで処理しておきます。ではこの先で服を脱いで身体検査をしますのでお進みください。」
ゴゴは口笛を吹きながら先へと進んでいった。そしてレイジがパンツ一丁で身体検査を受けていた。
「よし、通っていいぞ。」
レイジは別の警備の人にそう言われて服を着て上流階級の町、『マフィアタウン』に入っていった。
「ならば拙者も頑張らねば!」
そう言って昆布は準備体操をし始めてから身体検査を受けた。
「...体動かす必要あったのか?」
ゴゴは昆布の謎行動に疑問を持った。昆布は気にせずに身体検査を受けて合格した。
「よし!通っていいぞ。」
昆布は服を着て鎧をまとい、レイジの後を追った。そして最後にゴゴの番になった。
「よし!最後はお前だ!服を脱いでこっちにこい!」
「えええええ!!?服を脱げだってえええええええ!!?」
ゴゴは目玉を飛び出させて驚いた。
「そうだ!早くしろ!」
「そ、そんなぁ。人前で服を脱ぐなんて...恥ずかしいわ!」
「乙女か!いいからさっさとしろ!」
ゴゴと警備の人は軽い漫才のようなやり取りをした。そして警備の人はため息をついた。
「俺だってなぁ、お前らみたいな野郎の相手なんかしたくねーよ。可愛い女の子の裸が見たかったよ。」
「そうか、じゃあ俺の裸なんて見ても嬉しくないのか...」
「ああ。だからさっさと脱げ!」
ゴゴはしぶしぶ脱ぎ始めた。そして警備の人は驚いた。
「お前!その体!」
「ああ。だから見せたくなかったんだよ。怖いだろ?」
警備の人は後ずさりをして驚いた。
「な、なるほど。だから見せたくなかったのか。よし分かった。お前の通行を許可しよう!」
警備の人はそう言ってゴゴを通した。ゴゴは急いで服を着てレイジたちのもとへと駆けて行った。