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星の勇者  作者: アシラント
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マフィアタウンに到着

レイジは自身の疑問を姉御に聞いた。


「なあ姉御、あいつら幻獣の王って言ってたけど何か知ってるか?」


姉御は顎に手を当てて考えた。


「いや、聞いたことも無いね。そもそも幻獣は野生動物のように、知性は無くただ人を食べる生き物だと思っていたからね。幻獣たちが魔族や人間の様に社会性を身に着けているとは思ってもいなかったよ。あれは本当に幻獣なのかい?あたしにはそうは思えないよ。」


「まあ、幻獣については知らないことが多すぎるからなー。魔族のことですら手一杯なのに幻獣まで考えてらんないな。」


レイジは自身の思っていることを言った。しかし姉御はレイジの性格を読んで質問をした。


「でも謎が増えて嬉しいんじゃないの?」


そう言われてレイジはニヤリと笑った。姉御は「やっぱり!」と楽しそうに笑った。


「そんで、この牛鬼についてだけど、そんなに強いのか?」


レイジがそう聞くと姉御の顔からは笑みが消えて苦しそうに話し始めた。


「ああ。あたしが記憶している中では魔族の中で一番強かったね。」


「具体的にどういう所が強いんだ?」


「そうだねぇ、パワーもスピードもテクニックも一級品で戦闘の経験も豊富。単純な強さを極めたって感じだね。もしこいつと出会ったら真っ先に逃げることだけを考えな。間違っても闘おうなんて思っちゃいけないよ。」


姉御は真剣な眼差しでレイジたちに言った。レイジはそんな姉御を見たのは久しぶりだった。


「姉御がそんなこと言うなんて、よっぽどなんだな。よし分かった!こいつにあったら逃げよう!」


レイジがそういうとみんなは頷いた。しかしゴゴだけは違った。


「えええええ!?強い奴から逃げるなんてもったいねーよ!とりあえず闘ってから決めよーぜ?」


「ゴゴ...お前死ぬかもしれないんだぞ?...って、そういやゴゴは死んでもいいから戦いたいんだっけか。」


レイジは諦めの眼差しでゴゴを見た。ゴゴは嬉しそうにうなずいた。


「そうそう!俺は闘ってる時だけが人生で唯一の楽しみなんだよ!それもただ闘うだけじゃなくてつええ奴と闘ってる時が最高なんだ!」


ゴゴは遠足前の小学生の様にはしゃいだ。レイジたちは諦めてほっといた。


「とにかく、マフィアタウンに行ってドナルドに会おう。魔族の情報を掴んだらしいから、それを聞きに行って、今あった出来事も報告しよう。それでいいか?」


レイジはみんなに聞いた。みんなは頷いた。


「よし!それじゃマフィアタウンに出発!」





__________________________





レイジたちは何日かかけてマフィアタウンに着いた。そこは木の柵で囲われただけの簡単な防壁しか無かった。中を少し覗くと、地面は舗装(ほそう)されておらず薄茶色の土と雑草で覆われていた。門の警備兵はターバンとフードで頭と口を隠し、まさに盗賊の姿をしていた。


「きさまら、何者だ?」


門番の一人が警戒心をむき出しにしながら聞いてきた。レイジは両手を上げて敵意が無いことを示した。


「俺たちは勇者候補の者です。同じ勇者候補であるドナルドが魔族の情報を掴んだとの連絡があったのでこちらまで来ました。」


「なに!?勇者だと!?」


門番はレイジの顔をまじまじと見た。


「...確かにテレビで放送していた顔と同じだな...よし、今確認してくるから少し待っていろ。」


そう言って門番は街へと入っていき、20分ほどで帰ってきた。


「ドナルドさんに聞いたところ、入ってもいいとのことだ。くれぐれも問題は起こすなよ?今この町はピリついているんだ。最悪命を奪われるからな。気を付けていくんだぞ?」


門番はレイジたちに忠告をしてくれた。レイジは一礼をして門の中へと入っていった。


街の中は木でできた一階建ての家が多く並んでおり、町に住む住人もボロボロの布の服を着ている人が多かった。レイジたちの服装を見て物乞いたちがわらわらと集まってきた。


「旅のお方、どうか食べ物を分けては下さらぬか?」


物乞いたちはレイジたちに群がってきた。


「うわぁ!なんか群がってきたんだけど!」


レイジたちが困っているときに門番の人が「こらぁーーー!!」と怒鳴って物乞いたちを退散させた。


「この町は治安が悪いから物乞いたちが門の前で待ち構えているんだ。旅人から何かをもらおうとね。そんな連中は無視していいから、はやく中央にある門へと行きな。その先がドナルド様が待っている上流階級の街、通称『マフィアタウン』だ。こっちの下町は『スラムタウン』スリや詐欺、クスリに窃盗が横行している無法地帯だ。あんたらも気をつけな。」


門番は丁寧に説明をしてくれた。その親切にレイジは感謝した。


「ありがとう!」


「ああ。その代わり、ドナルド様に会えたら俺が手助けしてたって伝えてくれないか?そして俺がドナルド様が所属するルドラータファミリーに参加したがっているって言ってくれ。」


「ルドラータファミリー?」


「なんだ、知らないのか?ルドラータファミリーはマフィアタウンにある三大ファミリーのひとつさ。ほかのファミリー以上に戦闘に特化した武闘派集団さ。力で解決するってのが彼らの信条で、街でのいざこざもほかの村からの略奪もファミリー同士の戦争も全部力で解決するのさ。」


「へえ!なんだか本格的なマフィアって感じだな。」


「ああそうさ。その中でもドナルド様はこの下町の住民たちのあこがれさ!なんたって彼もこの下町出身で今はルドラータファミリーの戦闘隊長にまで上り詰めた人さ!」


「ドナルドも下町の出身だったのか...どうりで口が悪いと思った。」


レイジはドナルドの性格や言動がこの町のせいだと納得した。


「ああ、ほかの街から来た人はそう感じるだろうな。だがこの町では相手を威嚇するなんて当たり前の行為なんだ。人を疑って来なければ生き残れないからな。」


「そうか...ありがとな!門番の人!ドナルドにもちゃんと伝えとくよ!」


「ああ!気をつけてな!」


レイジは門番の人に手を振って下町を歩いて行った。そしてレイジは下町の様子をまじまじと見た。そこに住む人々は皆みすぼらしい恰好をしていて、いたるところで人の悪意を見ることができた。暴力による支配、金で釣られる女、クスリでダラーッと地面に転がった男、さらには子供たちだけのグループで店の食べ物を万引きなど、その治安の悪さは一目でわかる者だった。


「ひどい所だな...警察とかはいないのか?」


レイジは疑問を口にした。姉御はそれに答えた。


「居るよ。けど、これだけ犯罪が横行しているんだ。きっと警察もろくな仕事をしてないんだろうね。」


「それってどんなこと?」


「おそらくあの中央にある壁の警備だろうね。そこを超えようとするものがいないかを見張っているんだ。」


「じゃあ、下町の犯罪は?」


「見て見ぬふりって感じだろうね。あの警備の人たちに与えられた任務は下町の治安維持じゃなくて、下町の人間が上へと上がってこないようにすることだね。いわば上流階級の人たちを守るためにここで見張ってるんだ。だから下町の人間がどうなろうと知った事じゃないんだろうね。」


姉御は自身が見てきた経験をもとに仮説を言った。その仮説はおおよそ当たっていた。警備の人の前でスリを追う女性がいてもまるで興味なくあくびをしている。そんな現実にあんこは(いきどお)りを感じた。


「そんな!正義の味方の警察がそんなことしちゃダメでしょ!」


「そうだね。でもこの町はそれで回っているから、誰も口出しできないのよ。」


「そんなのおかしいよ!街の人たちが苦しんでるのに、上の人は自分たちの安全を確保できればそれでいいって思ってるって事?」


「そうだね。あんこの思っている通りだと思うよ。この町は人間の悪い部分が上から下まですべてを覆っているんだね。だからこの町をマフィアタウンって呼んでいるんだろうね。」


あんこは珍しく怒っていた。


「そんなのって、おかしいよ。私たちはみんな、産まれた時から平等で、死んでもいい人なんて一人もいないんだよ。それなのにこの町は、人の命を何とも思ってなくて...そんなの絶対に許せないよ!」


あんこは自身の胸の中にある怒りを吐き出した。その言葉に昆布とネネは共感した。


「そうでござるよ!この町は好きになれないでござる!」


「そうね。私も同感だわ。この町に住むぐらいなら一人で生活した方がましよ。」


昆布とネネとあんこは互いに共感しあった。そしてあんこはレイジに聞いた。


「レイジはどう思う?」


「俺?俺は...まあ、嫌なところだとは思うけど、そんなに怒っても無いかな。」


「え?どうして?」


「まあ、なんというか、俺には関係ない場所だし、ドナルドに会って話をしたら帰るんだから、ちょっとぐらい我慢しよっかなーって感じ?それよりも俺はさっきのスリの仕方!あれが気になるね!あれほどの手際の良さ、知りたいなーって思う!」


レイジは自身の道徳心よりも好奇心が勝った。その発言にあんこは肩を落とした。


「レイジ、ネネの村ではあんなに悲しんでいたのに...」


「あれは、俺の選択のせいでああなったって思ったから悔しかっただけで、俺が干渉してないところで死んだんならどうでもよかったっていうか...」


レイジの発言に三人はため息をついた。そして昆布が言った。


「兄貴、自分に責任がある時だけ感情的になれるのでござるかぁ?それは冷たい!冷たいでござるよ!」


次にネネが言った。


「そうね。私には優しくしてくれたのに、ほかの人は死んでもいいなんて、ちょっとひどいわね。」


最後にあんこが言った。


「レイジー。あたしは悲しいよ。あの時は優しい心をついに手に入れたんだって思ったのに...」


三人の言葉にレイジは困った。


「まあ、言いたいことは分かるよ。俺だってこの町を変えられるなら変えたいとは思うけど、現実的に考えて無理じゃん。だから諦めた。」


レイジの言い分に対して三人は不満そうだった。そして姉御がフォローを入れた。


「あんこたちが言いたいことも分かるよ。それにレイジだって心を痛めてないわけじゃないさ。でも今やることはこの町の革命を起こすことじゃなくて、魔王を倒すことでしょ?だから今あたしたちにできる最大のいい事は魔王を倒すために力をつけて、情報を掴んで、一日でも早く魔王を倒す!でしょ?」


そう言われて三人はしぶしぶ頷いた。


「姉御、ありがとな。」


レイジは姉御にお礼を言った。姉御はフフッと笑った。


「レイジも、そろそろ論理的な思考だけじゃなくて、感情的な思考を学ぶ必要があるかもね。」


「感情的な思考?」


「ああ。人の感情を読み取る力ってやつ。」


「それなら、ゴゴの方ができてないだろ。あいつは自分に感情がある事すら知らなさそーだぞ?」


レイジはゴゴについての皮肉を言った。そしてゴゴの方を向いた。


「...あれ?ゴゴはどこ行った?」


後ろにいたはずのゴゴがいなくなり、レイジは周りを探した。


「いえええええええええい!!!さあ!もっとかかって来おおおおおい!!!」


ゴゴのバカでかい声が聞こえてそっちを見ると、四方八方を下町の住人に囲まれたゴゴを見つけた。


「ゴゴ!?なにやってるんだ!」


レイジは呼びかけたがゴゴは全く聞こえていなかった。


「俺を倒したら、この袋に入ってる金をぜーーーーーんぶやるよ!!!さあ!何人でもかかって来おおおおおおおい!!!」


ゴゴはジャラジャラとお金の入った袋を鳴らして下町の人たちを煽った。そのあおりに乗って住人たちはいっせいにゴゴに襲い掛かった。ゴゴはそれを華麗に避けながら殴って反撃をして暴れていた。それを見た姉御はイライラとした。


「あのバカ!戦う相手ぐらい考えて戦いなさいよ!」


姉御は住人の中をかき分けてゴゴの横顔に思いっきり殴りかかりぶっ飛ばした。ゴゴは空へと飛んで行った。





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