一難去ってまた一難②
セイリュウはネネに質問をした。
「わらわの言葉をそのまま飲み込まないとは、お主は厄介な存在じゃのう。」
「まあね。私はあなたたちを信用していないから。」
「はっきりと言いおるのう!そういう所、わらわは好きじゃぞ。」
セイリュウはかわいくウィンクをした。ネネは警戒心をむき出しにした。その反応が可愛らしくてセイリュウは笑った。
「そなたとは気が合いそうじゃな。どうじゃ?わらわの仲間にならぬか?」
「お断りするわ。」
ネネの回答にセイリュウは楽しそうに笑った。
「ノリが悪いのう!」
「ノリとかの問題じゃないでしょ...」
ネネはセイリュウのテンションにあきれた声で言った。ゲンブはその途中で話に割り込んできた。
「あのぉ...僕の頼みをぉ聞いてもらってもぉいいですかぁ?」
ゲンブはその巨体をズリズリと動かしながら言った。レイジたちは距離を取った。
「な、なんだ?なにが目的なんだ?」
レイジは聞いた。ゲンブはだるそうに話した。
「僕のぉ復活の為にぃ、みなさんの魂をぉ吸わせてほしいなぁって、思いましたぁ。」
「ちなみにそれを断るとどうなるの?」
「殺してから取りますぅ。」
ゲンブはあくびをしながら言った。その殺すことが特別ではない感じで話す態度にレイジたちは恐怖した。
『この幻獣は俺たちを殺すことを何一つためらうことは無いんだ。それが今の言葉と態度で理解してしまった。俺たちとあの魔王軍四天王の二人がいたにもかかわらずこうして姿を現すって事はそれだけの実力を持っているという事か?どうする?逃げるだけなら簡単そうだが、セイリュウの方がそれを見逃してくれるだろうか?』
レイジは頭の中を思考が駆け巡った。しかしそんな考えをせずとも事態は急変した。
「おやおや!?幻獣が二体もいるじゃーん!これはマジやばって感じ?」
そんなチャラい口調で話したのは納豆丸だった。それを確認したレイジは驚いた。
「納豆丸!?なぜここに!?」
「おやおや!先輩はダウンしている途中っすか。なっさけねーっすねぇ!十代のガキどもにおもりされるだなんて!はっはは!!ウケるわーまじ!」
納豆丸は地べたに寝転がるゴゴを見て手を叩いて笑った。ゴゴは納豆丸の方を向いた。
「うるせー!魂の力を使うのは初めてだったんだよ!それにここにいる十代のガキたちは俺よりも全然つえーんだから俺が守られるのは仕方ねーんだよ!お前と違って俺が守る必要ねーから!」
「あー!先輩!その話はしないって約束したじゃないっすかー!恥ずかしいからやめてくださいよー!」
ゴゴと納豆丸は互いに憎まれ口をたたき合った。そしてそれを聞いたレイジはゴゴと納豆丸に疑問を投げかけた。
「え?前はゴゴが納豆丸を守ってたのか?」
「ああ。納豆丸が俺よりも弱かった時にな。あの時はこんな奴になるなんて思いもしなかったなー」
「それを言うなら先輩の方っすよ!先輩の方が変わりすぎっすよ!前の方がずっとかっこよかったっすよ!」
ゴゴと納豆丸がギャーギャー騒いでいるところを幻獣たちは割り込んだ。
「あのぉ、僕のこと無視しないでくれませんかぁ?」
「そうじゃ!そやつは何者じゃ?」
「おおっと!申し遅れました!わたくしは納豆丸。そこに寝っ転がっている筋肉に用がありまして」
納豆丸は丁寧にお辞儀をして言った。ゴゴは不思議に思った。
「え?また俺?」
「ああ。どうせ先輩は魂の力を使い過ぎて死ぬだろうって思って、パパから助けろって命令が出たよ!おかげでまーた先輩に会いに行かなきゃいけなくなったってわけ!まったく!手間のかかる先輩だねぇ!優秀な後輩に感謝してくださいよ?」
納豆丸はそう言うとゴゴに向かって瞬速で近づき、何かの注射をゴゴに打った。すると見る見るうちにゴゴの体は活気を取り戻し、動けるようになるまで回復した。
「うおおおおお!!?力があふれてくるぞおおおおおおおお!!!なんなんだそれは!??」
「これはうちのパパが開発した魂の力を復活させるおクスリ。製造方法は企業秘密!」
「...おい、これってまさか...」
ゴゴは何かに気づいたようで、納豆丸の方を恐る恐る見た。納豆丸はニイッと含みのある笑みを浮かべた。
「そう!先輩の思った通りの作り方っすよ!まあ、有効活用ってやつ?」
「...そうか...パパは相変わらずなんだな...」
「まあね、結局俺たちはパパからは逃げられないんすよ。先輩も意地張ってないで帰ってきたらどうっすか?」
「俺が帰ったら確実に殺されるだろ。」
「まあ、そうっすね。」
「むしろなんでまだ俺を生かしているんだ?」
「さあ?パパの考えてることは俺にはわかんねーっすよ。」
ゴゴと納豆丸は仲のいい先輩後輩の会話をしていた。ゲンブはまた割り込んだ。
「おぉい。無視しないでってぇ、いってるでしょぉ。」
「ああ!わりぃわりぃ!...なんだっけ?」
納豆丸はゲンブに聞いた。ゲンブはため息をついた。
「もう、いいですよぉ。」
そう言ってゲンブはその巨体をレイジたちにたたきつけた。レイジたちは全員とっさに後ろへと飛びかわした。レイジはすさまじく巻き上がる土煙に顔を押さえた。
「うおぉ!結局闘うのかよ!」
レイジは残念そうに言った。
『正直言って今幻獣を二体も相手にするのはヤバそうじゃないか?まだ復活はしていないとは言っていたが、それでもセイリュウの方は姉御と同じくらい強かったっぽいぞ?しかも納豆丸まで来ているし、どうすればこの状況を切り抜けられる?』
レイジは考えた。そして賭けに出てみた。
「なあ、セイリュウ!このゲンブくんを何とかしてくれないか?」
レイジはセイリュウに助けを求めた。その行為に昆布とネネは驚いた。
「ええ!?マジでござるか?こんな得体のしれない幻獣に助けを求めるなんて...」
「そうよ!幻獣が私たちを助けてくれるわけ...」
「ふむ、仕方がないのう。」
そう言ってセイリュウはゲンブの頭をバチンと尻尾で叩いた。
「こりゃ!カメ!ヤンチャはやめんか!」
「いたいぃ。どうしてですかぁ?」
「わらわたちは傷つくわけにはいかんじゃろ?そしたらまた長い事眠る必要がある!そんなことになったら幻獣の王に怒られてしまうのじゃ!それは嫌なのじゃ!おぬしもそうじゃろう?」
『幻獣の王?』
レイジはその言葉が引っかかった。
「確かにぃ。でも、お腹空いたよぉ。」
「ほーら!これやるからとっとと帰れー!」
納豆丸はゴゴに打った注射と同じものをゲンブとセイリュウに投げつけた。二人はそれを口にして満足そうに笑った。
「んんー!これはまた美味じゃな!力があふれてくるのじゃ!」
「うぅまぁいぃぞぉ!」
「だろだろ?こいつはうちの新製品でね!今日のところはこれで勘弁してくれや!」
納豆丸はへへへと笑った。幻獣たちは妥協した。
「まあ、今日のところは引き返そうかのう。わらわたちもこれ以上いると戦いに発展しそうじゃからな。行くぞカメ。」
「はぁい。」
そう言って幻獣たちは地面へと潜り帰っていった。
「いやー、なんとかなってよかったっすね!先輩!」
「納豆丸、あれ使っちゃっても良かったのか?」
「いいんすよ!パパはそのために俺に持たせたんすから。」
「そうか...」
ゴゴと納豆丸は二人にしかわからない会話をしていた。そこに割って入ったのはレイジだった。
「なあゴゴ、あの小瓶の中身ってなんなんだ?」
「ん?ああー、これ、言ってもいいのか?」
ゴゴは納豆丸に聞いた。納豆丸は『自分にはわかんないっすよー』と言わんばかりにとぼけた。そしてゴゴは頭を掻いて悩んだ挙句に言うことにした。
「あれは、人だ。」
「え?」
「施設で死んだ人間の魂を抽出して瓶に詰めたんだよ。あの施設はよく人が死ぬからなー。」
ゴゴの言葉にレイジは絶句した。レイジは今までそんな非人道的な行為を知らなかったために、ショックを受けた。それはあんこも同じだった。
「人間を材料にしているの...?そんなひどい事してるの!?」
あんこは真剣な剣幕でゴゴに問い詰めた。ゴゴはいまいち理解していなかった。
「あー、ひどい事なのか?」
ゴゴは納豆丸に聞いた。納豆丸は肩をすくめた。
「さあ?」
ゴゴと納豆丸は道徳を知らないので、それが悪いことだとは思っていなかった。
「まあ、死んだ人間を使ってんだからいいでしょ?別に生きてる人間を殺してるわけじゃないんだし。それにお前たちだって狩りで動物を殺して食ってるだろ?それとおんなじよ。」
「それは、そうかもしれないけど...でも人間でしょ!?それをこんな小瓶に入れて...ゴゴたちは何も感じないの?」
「あー、どうなんだ?納豆丸?」
「さあ?人が死ぬのは当たり前じゃない?」
あんこはその行為を非道だと思った。そしてそれに心を痛めない二人もひどいと思った。しかし姉御はあんこの肩に手を置いて首を横に振った。
「こいつらに道徳を説いても無駄だよ。そういう風に育てられたんだ。こいつらもパパとかいう奴の被害者なんだ。その辺にしてやりな。」
「姉御ちゃん...」
あんこはガックリと肩を落とした。ゴゴは不思議に思った。
「なんであんこが悲しんでるんだ?」
その疑問に姉御が答えた。
「それは、この子は感受性が高いの。そして正義感もある。だから非人道的な行為は許せないんだね。そしてそれをゴゴにもわかって欲しかったのよ。」
「そうか...そういう事だったのか...感受性ってのがなんなのかわかんねーけど、理解できるよう努力するぜ!」
ゴゴは白い歯をむき出しにして笑った。その無邪気な笑顔にあんこはさらに心を痛めた。
「ゴゴ...そんな風に笑えるうちはまだ時間がかかりそうだね...」
あんこは半分あきらめの気持ちで言った。そのあんこの気持ちもゴゴにはわからなかった。そしてゴゴは納豆丸の方を向いた。
「そーだ!納豆丸。お前がなんでここに来たかわかんねーけどよ!俺の前に現れたからには、勝負師よーぜ!前よりもあんまり変わってねーけどよ!」
ゴゴははつらつとした顔で納豆丸に戦いを挑んだ。しかし納豆丸はそれを拒否した。
「悪いけど今日はパスっすよ!別の用事できたんで。」
「なに!?別の用事だと...?」
「レイジ...だったっけ?パパからのプレゼントだそうだ。受け取ってくれるかな?」
納豆丸はピンク色のプレゼントボックスを手に持ってレイジに渡そうとした。レイジは怪しんだ。
「なんだこれ?...信用できないな。」
「あらそう?じゃあこれは持ち帰ろっかなー。」
納豆丸はわざとらしく言った。レイジは自身の好奇心に勝てなかった。
「いや待て!...やっぱり受け取る。」
その言葉を聞いて納豆丸はニヤァッと笑った。
「そうかそうか!そりゃありがたいねぇ!」
納豆丸はプレゼントをレイジに手渡した。
「じゃあ、渡したから!そういうことでね!」
「おい待てえええええ!!俺と闘ええええええ!!!」
ゴゴは走り去ろうとする納豆丸を追いかけたが全く追いつけなかった。
「先輩との勝負は後っすよ!それじゃ!」
そう言い残して納豆丸はさらに加速して走り去った。ゴゴはゼーゼーと息を切らして追跡をやめた。そしてレイジたちのところへと戻ってきた。
「...んで?納豆丸が渡したプレゼントの中身ってなんなんだ?」
ゴゴが聞くとレイジは恐る恐るプレゼントの中身を開いた。その中に入っていたのは写真と手紙だった。
「写真と...手紙?」
レイジはまず写真の方から見てみた。その写真にはとても大きな体をした牛の魔族が映っていた。その皮は真っ黒で、いかつい角が2本生えており、その手には大きな両刃の斧を携えていた。防具はほとんど身に着けておらず、最低限の急所を守るものだけだった。
「こいつは...なんか強そうだな...」
レイジがそういうとあんこもその写真を見て、
「うわあ!怖そう!」
といった。ネネは
「これが本物の魔族...筋肉がパンパンに膨れ上がっているわね。」
といった。昆布は
「うひゃあ!こんなのが相手にいるでござるか!こんなのによく勇者は立ち向かえたでござるなぁ」
といった。そしてゴゴは
「こいつ、強い、おれ、たたかいたい!」
といった。そして最後に姉御が見た。
「こ、こいつは!」
姉御はその写真を見た瞬間に驚愕した。そしてレイジが聞いた。
「姉御?何か知ってるのか?」
レイジが聞くと姉御は少し深呼吸をして冷静さを取り戻した。
「ああ。こいつは昔あたしたちのチームが戦った相手だよ。名前は『牛鬼』とてつもない強さでその当時のあたしは全く歯が立たなかったよ。それを勇者が倒したと聞いていたけど、まさか生きていたの?」
姉御は額に汗を流しながら言った。そしてレイジはその写真の意味を知りたくて手紙を読んだ。手紙にはこう書かれていた。
『この者、すでに人間界に潜んでいる可能性あり。十分注意されたし。』
手紙にはその一文だけが書かれていた。
「もう、俺たちの大陸にいるのか?この牛鬼ってやつが...」
レイジたちはさらなる強敵の存在を知らされて重たい空気になった。
「姉御でも歯が立たなかった相手って、そんなのが相手なのか...」
「おっほほぉ!!たーのしみだなぁ!レイジ!!!」
そんな重い空気の中でゴゴがただ一人だけワクワクしていた。そのゴゴのバカさ加減にレイジは少し笑った。