ゴゴvsファイア決着!
ゴゴはファイアの攻撃をその目で捉えられた。しかしその攻撃を避けることはできなかった。ファイアの攻撃の仕方がとてもテクニカルだった。速いパンチ遅いパンチを使い分けたり、右左の交互ではなく時折右右や左左とパンチを繰り出したり、ストレートかと思わせてフックだったりと、非常に避けづらいものになっていた。
『くそっ!せっかく奴の動きが見えているのに!もどかしいいいい!!!』
ゴゴはそう思った。そしてファイアの攻撃を避けられない最大の理由もわかった。
『俺の体、筋肉がありすぎて相手の攻撃が当たりやすいな!!!』
ゴゴは自分の異常なまでに膨れ上がった筋肉のせいで避けられないんだとわかった。なので避けることは諦めた。
『俺の筋肉を信じるんだ!力技拳の神髄はそこだったんだ!筋肉が俺を守ってくれる!』
ゴゴは初めて力技拳の強さを理解した。今まではなんとなくで筋肉を育てていたが、それこそが筋肉の最大の強みだと心の底から理解した。しかし理解ができたとしても、現状が変わるわけではない。ゴゴは圧倒的不利な状況から抜け出せずにいた。
「どうしたどうしたぁ!?まだ俺は本気じゃねーぞ?もうギブアップかぁ!?」
ファイアは手を休めることなく言った。ゴゴはその言葉にニヤリと笑みを浮かべた。
「とんでもなく痛いけど、俺はようやく俺の戦い方が分かった!!それを教えてくれてありがとよ!!」
ゴゴはそう言ってギューーンとファイアから距離を取った。ファイアはその逃げを許さずに追いかけてきた。
「なんだぁ!!?逃げんのかぁ!?」
「その通り!俺の筋肉は、小回りが利かない!だからボクシングはやらない!」
ゴゴは地面に脚をつけるとグッと力を込めて追ってきたファイアに向かって渾身の体当たりを繰り出した。ファイアは空中を泳ぐようにかわした。
「ボクシングはお気に召さないか?だったらどうする?どうやって俺に勝つっていうんだ!?」
「答えは、ひとつ!!!」
ゴゴは振り返り際に体を大きくそらして右手に持っていたハンマーをファイアに向かって思いっきりぶん投げた。ブンブンと回転するハンマーをファイアはまた空中で軽々と避けた。
「デカいの一発当ててKO目指す!!!」
ゴゴの脳筋的な考えにファイアは思わず笑いが込み上げてきた。
「ハッハァ!!それができねーからお前は負けるんだよ!俺はな、戦闘経験なら四天王の誰にも負けねーほどに経験してる。そんな戦闘のプロが、ただ丈夫で力しか取り柄のないバカに負けるはずねーだろ?状況理解してっか?」
ファイアは頭に人差し指を当ててゴゴの頭の悪さをバカにした。ゴゴは楽しそうに笑った。
「だって、それ以外で勝てる方法ねーんだもん。今のままお前の攻撃を受け続けたら俺は確実にミンチになって食われちまう。」
「いや、食わねーよ。」
「だから俺は、俺にできることをやるだけだ!俺の得意をぶつける!!!それだけだ!」
ゴゴはそう言って右手をグイィッと引っ張った。するとファイアの後ろに飛ばしてあったハンマーが戻ってきた。ファイアはそれに気が付き、再びそれを避けた。しかしその隙を逃さまいとゴゴはファイアの上へとジャンプし、そこで渾身の右ストレートを放った。さすがのファイアもそれはよけきれないと判断して自身の顔の前に腕をクロスさせてガードした。
ズドオオオオオン
ゴゴの放った一撃はファイアを捉え、ファイアはそのまま地面に衝突し、地面を突き破り大きな土煙を上げた。
「いいいいいいいやったああああああああああ!!!最高の一撃をくらわせてやったぜ!!!!」
ゴゴは喜び、地面に着地した。そしてファイアの様子を見に行こうとしたところ、突如としてゴゴの体は動かなくなり、そのまま地面へと寝そべった。
「あ、あれ?体が、動かねぇ?」
ゴゴは自身に起こった異変を理解できずにそのまま倒れたままだった。そしてその頭上に人影が現れた。それはファイアだった。
「あーあ。魂の力をほとんど使い切っちまいやがった。」
「え?」
「知らなかったのか?魂の力を使い過ぎると体が動かなくなる。いわばとてつもなく疲れた状態だ。さっきのハンマーを引き寄せる技、あれはお前の幻獣の能力を使ったんだろ?そのせいで大量に魂の力を消費したんだろうな。」
「確かに、あの技はめっちゃ疲れる...この感覚、俺がくっつく能力で遊び過ぎた時と似てるなー。」
「まあ、どっちも魂の力を使ってるからな。普通の人間は肉体の強化にしか使えねーが、幻獣を宿すと魂の力を燃料として様々な能力が使えるからな。」
「...って事は、俺の負けか?」
「ああ。ここから俺を倒す秘策でもありゃ別だがな。」
「ハッハッハ!!ない!!」
ゴゴは顔だけを動かして笑いながらそう言った。ファイアはそれを聞いて少し残念そうだった。
「そうか...もうないのか。まあ、なんていうか、意外と楽しめたぜ?お前との勝負。実力に差がありすぎたが、俺も危ないと思う場面が結構あったからな。いい勝負だった。」
ファイアはそう言ってゴゴの肩をポンッと叩いた。それは対戦相手に対する称賛の表れだった。ゴゴはヘラヘラと笑っていた。
「くっそーーー!!!!今度は負けないからな!!」
「ああ。今度があるかどうかは、そこの勇者君次第だな。」
ファイアはゴゴを担いでアイスにぽいーっと投げた。アイスは無表情のままゴゴを受け取り地面に寝かした。
「さあ!!!勇者君、俺との一騎打ち、受けてくれるよな?」
ファイアはゴゴとの闘いで傷を負うことなく勝利し、レイジとの一騎打ちを申し出た。レイジはまだ迷っていた。勝ち目のない戦いに身を投じる程レイジはバカでは無かった。しかしゴゴを助けたいという気持ちも本物だった。
「おいレイジ!たすけて?」
ゴゴは緊張感もプライドもない言葉を発した。レイジはため息をついた。
『まったく、こっちはこんだけ悩んでんのにゴゴの奴はプライドのかけらも無く俺に助けを求めてやがる...自由な奴だよ。自分からファイアと戦って負けて捕まったら俺にその尻拭いをさせようだなんて...でも、そんな自分勝手なお前が羨ましいよ。俺もそんな風にゴゴを見捨てられたら、どれだけ楽だろうか。』
レイジは心の中でそう思った。そして覚悟を決めた。
「ああ。分かった。その一騎打ち、受けようじゃないか。ただし、俺が勝っても負けても、ゴゴは開放してもらうぞ!」
その言葉にファイアはニイィッと悪そうな笑みを浮かべた。
「いいぜぇ!その提案、受けてやろうじゃねーか!」
ファイアはグッと拳を握り、戦闘態勢に入った。レイジは刀を抜刀した。まずは勇者の刀ではなく、憤怒の魂のほうの刀を抜いて一本で様子を見ることにした。それを見たファイアは眉をひそめた。
「ああ?なんで勇者の刀を抜かねーんだ?」
「まあ、色々理由があってね。」
レイジは勇者の刀を使うと著しく体力を消耗することをゴゴとの練習で分かっていたため、まだ使わなかった。
「ふーん、そんなら、まずはそいつを使わせるところから始めるか。」
ファイアは冷静に言って一気にレイジに近づいた。レイジは先ほどの戦いを見ていたため、ファイアの行動のパターンをだいたい把握していた。
『初めの行動は、距離を詰めてからの右手が7割!そして奴は足技は使わない!』
レイジの予想は当たり、ファイアは右手でのストレートを繰り出した。それを首で避け、レイジはカウンターの斬撃をファイアの腹に入れた。しかしファイアはそれを左のすねでガードした。
「お!俺のパンチを避けるとは、なかなかやるねぇ!」
ファイアはそう言ってレイジの右手に左足を乗っけてジャンプして後ろへと飛んだ。レイジは着地の隙を逃さまいと勢いよく踏み込み、着地のタイミングに合わせて剣を横へと薙ぎ払った。その攻撃はファイアの華麗な動きで避けられてしまったが、レイジの次の蹴り飛ばしはファイアの体を捉えてファイアは後方へと飛ばされた。
「おお!?ちゃんと隙をついてくるねぇ!こりゃゴゴとは真逆の戦い方だわ。」
ファイアは地面を削りながら足でブレーキをかけた。そして再び間合いを取った。
「まあね、俺はゴゴの様なワイルドさは持ってないんだ。あくまでも人間として闘ってるからね。」
「そうかいそうかい!そりゃ好都合だ。なにせ俺たちは人間を殺すために今まで戦闘を繰り返してきたからな。人間相手の方がやりやすくて助かるよ!」
ファイアは挑発的な顔で言った。レイジはそれが自身の動揺を誘うものだとわかっていたためなにも反応を示さなかった。ファイアはそんな冷静な対応にすこしめんどくさそうにした。
「なんだよ。結構冷静なんだな。炎の幻獣を取り込んでるって聞いてたから、もっと熱い奴なのかと思ってたぜ。」
「よく言われるよ。」
レイジは冷静にそう言った。ファイアは「ふーん」と興味なさそうに相槌を打って再びレイジへと距離を詰めた。
『次は、俺に両手を使わせようとしてくるはず...この勇者の刀を抜かせるために。だから、一転突破!』
レイジの予想はまたまたあたり、ファイアは右足の回し蹴りと左手につけている銃を撃った。レイジはしゃがみ、回し蹴りと銃弾を避けてファイアの顔面目掛けて切り込んだ。ファイアはとっさに回し蹴りを止めて右手で刀をガードした。
「っっ!!?こいつ!?」
ファイアは驚いた。自身の行動が完全に読まれていた。そんなことができる相手は他にはいなかった。
『なんて奴だ。スピードもパワーもテクニックも俺よりも圧倒的に低いはずなのに、俺の行動をすべて読んできやがる。なるほど、たしかにこいつはつええ。ゴゴみたいな死を恐れない精神と筋肉があったとしたら俺はすでに切られていたかもな。』
ファイアはそう思った。だがそれと同時に惜しいと感じた。
「惜しいなぁ。そのチャンスに自身のすべての魂の力を乗せていれば、俺を斬り殺すことも可能だったかもしれないのにな。お前は勇者って言われてんのに勇気が足りねーな。」
「...そんなことわかってる。」
レイジはファイアの言葉に反論できなかった。自分でもそう思ったからだ。もし全力を出していたら勝てたかもしれない。しかしレイジはそういう無謀な賭けは出来なかった。『もし失敗したら?』そんな言葉が頭の片隅にいるせいでリスクのある行動がとれなかった。
「まあ、お前の戦い方だから俺にはかんけーねーけどよ、お前、もしこのままだったら、確実に死ぬぞ?死を恐れて戦う奴は、どんなに強くても勝てねーんだ。負けはしないが、勝てもしねー。そんなつまんねー奴になっちまうぞ?」
「そんなことは分かってる。でも、死にたくないって思って、何が悪いんだ?死にさえしなければ、俺の知的好奇心を満たすものなんていくらでも出てくるだろ?」
「甘いなー。甘々だなー。激アマだなぁ!!俺が言いてーのはそういう事じゃねー。本当に生死をかけた戦いってのが人生で必ずやってくる。そん時にそんな生半可な覚悟じゃ、その戦いを生き残れねーぞ?」
ファイアは正論を言った。レイジはその言葉の意味が分からなかった。
「その戦いが、今って事か?」
その問いにファイアは思わず笑ってしまった。
「ちげーよバーカ!俺が本気でお前を殺すんだったら、一騎打ちなんかしねーよ。...って、これ言っちゃいけねーんだっけか?」
ファイアは頭を掻きながら言った。レイジはその言葉の意味も分からなかった。
『俺を本気で殺す気じゃない?どういうことだ?魔王軍は人間との戦争で勝利するためなら、勇者候補の俺は優先的に殺す対象じゃないのか?』
レイジは不思議に思い、直接ファイアに聞いた。
「おい、どういうことだ?俺を殺すのが目的じゃないのか?」
「いや、なんつーか、そのー、わりぃ!今の無しな!」
ファイアはヘラヘラと笑って謝った。その態度にレイジはさらに困惑した。
「どういうことだ?お前たち魔王軍の目的はなんだ?人類の抹殺じゃないのか?」
「もちろんそれが目的だぜ。ただまあ、いろいろ事情があんだよ!それ以上聞くな!ってか聞きたいことがあんなら俺を倒して聞き出せって!そのための一騎打ちだろ?」
ファイアは濁すように言った。レイジは本当に訳が分からなくなった。
『なんだ?なんでこいつはこんなに動揺してるんだ?人類抹殺のほかになにか理由があるのか?それとも、俺を強くすることでなにか魔族にとってメリットがあるのか?なんなんだ?意味が分かんねーぞ!!!』
レイジは頭の中が疑問でいっぱいになった。そしてその状況をぶち壊すように、それは現れた。
グゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!
突如として地面が揺れ始めた。アイスは冷静にファイアに言った。
「時間切れだ。」
「時間切れって、例のなんかが来るのか?」
「ああ。どうやら目的地はここらしいな。」
アイスはそう言って近づいてくる謎の存在を確認しようとした。それは地面から姿を現した。緑色の甲羅を持った巨大なカメだった。
「ブゴオオオオオオオオ!!!」
その巨大なカメは叫び声を上げながらレイジたちに近づいた。
「げ、幻獣でござるよーーーー!!!」
昆布はそう叫んであたふたとした。カメの幻獣はその大きな瞳でレイジたちを見下ろし、ため息をついた。
「やっと...見つけたよー。探しました...」
カメの幻獣は低くやる気のない声でしゃべった。昆布は驚いた。
「ま、またしゃべる幻獣でござるかーーーーー!!?だ、大ピンチでござるよぉ。」
昆布は半泣きになりながら言った。姉御とネネとあんこは構えた。そしてレイジが聞いた。
「お前、しゃべれるのか?」
「はいぃ。しゃべれますよー。...ああ。喉乾いた。」
カメの幻獣は舌をダルーンとだして倒れた。その緊張感のなさにレイジたちも闘っていいのか動揺した。