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星の勇者  作者: アシラント
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ゴゴvsファイア

ゴゴは勢いよくファイアへと突進し、ファイアはそれを難なくかわした。


「イノシシじゃないんだから。バカな行動はやめてくれよ?」


そう言ってファイアはクルッとゴゴの方を向いて腕につけたデカい銃を撃った。それをゴゴは視界の端っこでとらえてギリギリのところで顔をそらして避けた。そして銃弾は後ろの倒壊したビルに当たり、大爆発を起こした。


「うお!!あぶねぇ!!」


ゴゴは爆風を全身で感じながらファイアの方から目を離さなかった。


「よく避けたな!一発でケリつける予定だったのによ。最初にあったころよりかは成長したのか?それともただのまぐれか?どっちにしろそんな銃弾をギリギリでしか(かわ)せないお前には、俺を倒すことなんてできねーけどな!」


ファイアは余裕の挑発を行った。ゴゴはその挑発がとてもうれしかった。ゴゴにとってそれは強敵特有の行動であり、彼の闘争本能を盛り上げてくれたからだ。


「いいねえいいねえ!!!そう来なくっちゃ!!!」


ゴゴはそう言って再び直線的に近づき、担いでいたハンマーを横へと薙ぎ払った。それをファイアはジャンプして躱して上を向いたゴゴの顔を思いっきり踏みつけた。


「ブフッ!?」


ゴゴは変な声が出た。そして顔にはファイアの靴の跡が付いた。


「お前、見た目よりも華やかに動くな!」


ゴゴはファイアを褒めた。ファイアはチッチッチと口を鳴らして言った。


「違う違う。お前との闘いがあまりにも実力差があるから、遊んでおかねーと退屈で死んじまうだけさ。もっと俺を楽しませてくれよ?これじゃ眠気に勝つことも出来ねーぞ?」


と言ってファイアは大きなあくびをした。ゴゴはさらにワクワクした。


「いいぞぉ!いいぞぉ!この感覚!!!この感覚なんだ!!!」


ゴゴは自身の内側から湧き上がる戦闘による快感に興奮した。そして狂気を感じる笑みを浮かべて再び近づきハンマーを薙ぎ払った。そのスピードは徐々に加速していき、ファイアもその変化に気づいた。


『だんだんとハンマーの振りが速くなっている?魂の力を使い始めたのか?...そりゃまずいな。』


ファイアはそう思い早めに決着をつけようと、ゴゴのイノシシ戦法をジャンプでかわし、ゴゴが確実に避けられないタイミングで背中に向けて銃を撃った。


『これで終わり。』


ファイアは撃った瞬間にそう確信した。しかしゴゴはその銃弾を軽々と避けた。その避けるスピードはファイアが一瞬ゴゴの姿を見失うほどの速さだった。


「なにっ!?」


ファイアは辺りに気を張り巡らせ、ゴゴの居場所を探った。そして自身の真後ろにいることを悟り、背中から炎を噴出した。


「ぐおおお!!?あっっっっつ!!?」


ゴゴは必死に手で顔を守りながらその炎の威力ではるか後方へと吹き飛ばされた。その様子を見たアイスは不思議に思った。


『あの筋肉バカ、とてつもない速さで動いたな。誰かから教わった技か?』


アイスはそう考えた。アイスの考えはおおむねあっていた。ゴゴは納豆丸との戦闘で彼のとてつもないスピードを目の当たりにし、彼との戦闘後やここまでの移動中にずっとそのスピードをものにしようと努力を重ねていたのだ。それはレイジたちからすると、ただ遊んでいるように見えた電柱を投げて乗るということも、ゴゴにとってはスピードを鍛える訓練だったのだ。


「まさか、本当に炎がでるとは...名前通りだな!」


ゴゴは少し焦げた顔を見せながら笑った。ファイアは戦闘開始前の余裕はすでになかった。ゴゴという人物の実力をなめきっていた彼にとってそのスピードは全くの予想外だった。


『まさか、この俺があんなごみを相手に炎を出すことになるとは...屈辱だな!!』


ファイアはそう思って顔をゆがめた。思わず拳を握りしめて今度はファイアの方から仕掛けた。ファイアはゴゴに向かって走り出し、その拳をゴゴの顔面に繰り出した。ゴゴはあまりのファイアの速さにとらえきれず、もろに食らった。ゴゴの体はその衝撃に耐えきれず、顔面が地面へと大きく叩きつけられた。地面のコンクリートに亀裂が入り、大地が裂けるほどの衝撃だった。


「ちょっとイライラしたかな。お前ごときが俺の手を(わずら)わせやがって!」


ファイアはそう言ってその場を去ろうとした。が、ゴゴは何事も無かったかのように起き上がり、口から垂れた血を手で(ぬぐ)った。その平然とした様子にファイアは驚いた。


『マジかよ?今のパンチは50パーセントほどの威力で殴ったんだぜ?それを顔面に受けたのに平然としてるだと...どんな耐久性能してんだよ!』


ファイアは心の中でそうツッコんだ。そして少しだけ驚いているファイアを見てゴゴは不思議そうに思った。


「なんで驚いてんだ?お前がまだまだ格上なのはわかりきってることだろ?...それとも、俺を今の一撃で倒せなくて残念だとでも思ってるのか?ハッハッハ!!そう思ってくれるのなら、それほど光栄なことは無いな!なにせ俺は丈夫過ぎることが取り柄だからな!筋肉がありすぎるから攻撃型に思われるかも知んねーけど、実は防御型なんだよおれ!」


ゴゴは高笑いをしながら言った。ファイアは迷った。


『どうする?このまま魂の力を解放せずに戦うべきか?もちろんそれでも十分勝てるだろうが、これは時間がかかりそうだ。奥の手の炎も見せちまったし、次に闘う勇者のやろうに俺の情報は与えたくねーしな...』


ファイアはそう思い、なかなか動けずにいた。そこでアイスが腕につけた時計の様なもので通信をし、助言した。


「ファイア、楽に勝とうとするな。どうやらそこの筋肉バカは我々の想像以上に厄介だ。全力で叩きのめせ。」


「け、けどよ!それじゃ俺たちの実力がばれちまうぞ?」


「構わん。圧倒的な強さを持つ我々が相手だということを知らしめるためだろう?だったら問題はない。それに、そいつに時間をかけている暇はなさそうだ。」


「ああ?それってどういうことだ?」


「何者かが近づいてきている。それも、とてつもない魂を持ったものだ。」


「とてつもない魂を持ったもの?幻獣か?勇者か?」


「わからん。だが、ゆっくりとだが確実にこちらへと近づいてきている。接触まであと10分程度だ。わかったらもったいぶらずにさっさと使え。魂の力をな。」


「ああ、わかったよ。」


ファイアはそう言って通信を切った。ゴゴはそれを律儀に待っていた。


「終わったぁ?まったく!戦闘中におしゃべりなんて悠長な奴だなあ!その間に俺は何もしなかったぞ!どうだ!偉いだろ!」


「...よくわからんが、お前こそ余裕じゃないか。俺の隙をつかないなんてな。」


「そりゃそうだ!隙をついて勝つなんて、楽しくないからな!」


「なるほど...負けてもいいわけには使うなよ?」


そう言うとファイアは腕につけていた銃を外して、魂の力を使った。その瞬間、ファイアからあふれ出るオーラにゴゴは突風を受けたように気圧(けお)された。そして一瞬ファイアの足が光を放ったかと思った次の瞬間、ゴゴは全身を数十回殴られた。あまりの速さにその場にいた誰もがファイアの動きを捉えられなかった。ゴゴは衝撃で空中に飛べされ、ゴゴの体のいたるところから血が噴き出していた。


「ゴゴ!!!?」


レイジがそう叫んだが、ゴゴからの反応は無く、真っ逆さまに地面へと叩きつけられた。その衝撃で土煙が舞い上がった。ファイアの足からはプシューという音とともに白い蒸気が立ち上っていた。


「これでこいつはもう動けない。久しぶりに魂の力を四天王以外に使ったぜ。やっぱ気持ちいいな!生きてるって感じがするぜ!」


ファイアは息一つ乱さずに肩に着いた埃を払った。


「さあ、どうする?勇者君が闘わないんだったら、この筋肉はここでぶっ殺すことになるけど?」


ファイアは挑発するように笑った。レイジは苦しい表情を浮かべた。


『そりゃ、闘うしかないのはわかってるけど...勝てないだろ!どう考えても!まさかここまで実力に差があったなんて...』


レイジは今まで自分よりも強い相手なんて姉御ぐらいしかあったことが無かった。だからどんな相手が来ても結局は勝てるんだと勘違いをしていた。しかしファイアはそんなレイジの自信を粉々に打ち壊した。


「ど、どうしたらいいんだ?姉御?」


レイジは姉御に助けを求めたが、姉御もまたレイジと同じく苦しい表情を浮かべていた。姉御もまた慢心していたのだ。人間が相手ならば誰が相手であろうとレイジたちを守り抜けると思っていた。しかしファイアの実力を見て自身と同じかそれ以上の実力を持っていることが明らかだった。そんな存在が4人もいることに姉御は絶望した。


「レイジ...あたしがバカだったよ。魔族はとんでもなく強い。でも、あたしはそんな連中が相手でもなんとかなると思ってた。だけどそうじゃなかった。あいつらは強い!このあたしよりも!」


「姉御...」


レイジは姉御が初めて言ったセリフに驚きを隠せなかった。アイスはそれを聞いてフッと笑った。


「それは当然だ。我々はそのために今日まで訓練してきたのだ。あなたがどれだけ強かったとしても、17年も戦場から離れて子守をしていれば、その実力は衰える。そしてその時間の分だけ我々は強くなった。ただそれだけだ。」


アイスは冷静に言った。姉御は正論を言われて耳が痛くなった。


「ま、俺はどっちでもいいんだぜ?お前が闘っても闘わなくてもよ!お前らに俺たちとの実力の差を見せつけることができてよかったからな!」


ファイアはズボンに手を突っ込んでこちらを見下すように言った。そしてレイジは考えた。どうあがいても勝てない勝負に挑むのか、それとも逃げ出すのか?答えは分からないまま悩んでいたところにファイアは地面から奇襲を食らった。


「ガフッ!?な、なんだ?」


ファイアはとっさに後ろへと下がり、地面からせり出したドリルの様に回転する謎の物体に目を奪われた。それはなんとゴゴだった。


「いよっっっっっしゃあああああああああ!!!!!初めて攻撃が当たったぜええええええ!!!」


ゴゴは回転を止めて立ち上がり、嬉しさのあまりガッツポーズをして全身で喜びを表現した。


「ゴゴ!!?」


レイジはやられたとおもっていたゴゴの登場にとても驚いた。


「おうレイジ!!今の見たか!?俺がこんなツええ奴に髪の毛ドリルをお見舞いしてやったぜ!!!これは俺の歴史に刻まれる最高の瞬間の一つだぜ!!!」


ゴゴはレイジに向かって親指を立ててニコーッと笑った。レイジはそんなゴゴの無事とバカみたいな明るさに安堵と喜びを感じた。


「なんだよゴゴ!無事ならそうだって教えてくれよ!」


「いやーー、まさか頭から地面に突き刺さって抜けなくなったから、自分を回転させてドリルにしてから脱出しようとしたら、ちょうどそこにファイアがいてよ!なんかラッキーな攻撃になったぜ!」


ゴゴは頭を掻きながらへらへらと笑った。ファイアはそれに驚いた。


「え?なんでお前まだ動けるの?あんなに本気でぶん殴ったのに...」


「ああ!痛かったぞ!!死ぬかと思った!でも死んでなかった!ラッキー!」


ゴゴは満面の笑みで答えた。これにはファイアもアイスも驚いていた。


「まさか、ファイアのあの攻撃を食らっても立ち上がるとは...もしかしたら、我々にとってもっとも邪魔な存在は、彼なのか?魔王様は彼は放っておいても大丈夫だと言っていたが、本当にそうなのか?」


「なんでもいいさ!立ち上がったからなんだってんだ。俺の攻撃をかわせるわけでもあるまいしな!」


そう言ってファイアは再び足を光らせてゴゴに攻撃を与えた。ゴゴは再びその攻撃をもろに食らい、空中へと吹っ飛ばされた。そして血をまき散らして地面へと激突した。その衝撃で大きな土煙が舞った。


「な?俺の言ったとおりだろ?」


「確かに!俺はお前の攻撃が避けられない!」


土煙の中からゴゴは立ち上がった。


「でもな!全部受けきっても、大丈夫だって事に気づいたんだよ!俺の体は丈夫だからな!俺の体が朽ち果てるのが先か、お前の魂の力が無くなるのが先か、男らしいバカげた勝負をしようじゃねーか!!!」


ゴゴは全身のいたるところから打撲や出血をしていたが、とても楽しそうにしていた。その姿にファイアもヒートアップしてきた。


「おもしれぇ!俺はまだまだ1パーセントも魂の力を使っちゃいねーんだが、それでもやろうってのか?」


「ああ!!!俺に残された勝ち筋はそれしかねーからな!」


ゴゴは迷いなくそう言った。ファイアは一瞬キョトンとして、次に笑いが込み上げてきた。


「か、勝ち筋なんか考えてんのかよおめー!?これだけ実力差がはっきりと出ている相手に、まーだ勝つ気でいんのかよ!」


「あったり前だろ?闘ってるのに勝つ気がないなんてそんなバカなことできねーからな!!!」


ゴゴはグググッと全身に力をためて、集中した。


『思い出せ。あの時、納豆丸と戦った時の感覚。あいつは俺に魂の力がどうとか言ってた。あれを引き出せれば、この状況を打破できるかもしれん!そうだ!あの時俺が魂の奥底で願っていたことは...』


「...勝ちたい!!!!!」


そう願った瞬間、ゴゴの体からはファイアと同様に全身をオーラがまといはじめ、ただでさえデカい筋肉がさらに一回り大きくなった。


「ハッハァ!!まーだ魂の力を解放してなかったのか!?こりゃほんとにおもしろいなぁ!!?」


ファイアはゴゴに呼応するように自身の魂の力を徐々に開放していき、二人のオーラは衝突をし始め、イナズマが走り、火花が散った。


「さあ!!!かかってこおおおおおおい!!!」


「いくぞおおおおおおおおお!!!」


ゴゴとファイアは互いに叫び、全身に力をためた。そしてファイアはゴゴに向かって今までにないスピードで近づき、音速すら超えた連続のパンチをゴゴにお見舞いした。ゴゴはそれを目で追うことができた。それはゴゴにとっても不思議な事だった。これよりも遅いスピードのパンチは見えなかったのに、今のパンチは目に映っている。


『どういうことだ?もしかして、これが魂の力ってやつなのか?』


ゴゴはそう思った。その考えは正しかった。ゴゴは今までにないほどに全身の感覚が研ぎ澄まされていた。世界のスピードがゆっくりと流れ、周りの音は敏感に聞こえているが、ファイアにだけ集中すると、ほかの音は一切頭に入らなかった。自身の体を垂れる血液ですらそのすべてを感じることができた。そして自身の痛みも敏感に感じた。ファイアに殴られるたびに鋭い痛みが的確に脳内へと送られる。だが、そのすべてがゴゴにとっては最高の心地よさだった。


『俺は、まだまだ強くなれる!!!』


その確信がゴゴの魂をさらに喜ばせた。


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