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星の勇者  作者: アシラント
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マフィアタウン道中

マフィアタウンに向かう最中、レイジたちは雑談をしながら進んでいた。


「昆布は強いのか?」


ゴゴは昆布に聞いた。昆布はフッフッフと不敵な笑みを浮かべて、


「弱い。」


といった。


「弱いのか?俺にはそうは見えねーけどな?」


「それはゴゴも弱いから拙者が弱く見えないだけでござるよ。この前の納豆丸との闘いを見て拙者は思ったのでござる。ゴゴはすべての攻撃が直線的すぎるでござる!戦いが好きならもっとからめ手をうまく使わないと!」


「そういうもんなのか?相手は殴り続ければ倒せるって聞いてたぞ?俺の力技拳(りきぎけん)の師匠はいつもそうやって勝ってきたって言ってたぞ?」


「それはそうかもしれないけど...って、力技拳ってなんでござるか?」


「力技拳!?」


その言葉に反応したのは姉御だった。そしてレイジが姉御に聞いた。


「知ってるのか?」


そう聞くと姉御は汗を垂らしながら苦虫を噛み潰したような表情で話し始めた。


「ああ...昔あたしが一緒に旅をしていた連中の中に力技拳の使い手がいたんだよ。その頃のあたしはまだほんの子供で、全然よわっちかったんだよ。それなのにあいつは毎日あたしが気絶するまでいたぶって無理やり修行をつけてきたんだよ。そのころのトラウマが蘇っちゃってねぇ...」


姉御は変な汗をかきながらそう言った。


「姉御がそんなに汗をかいてる姿は初めて見たな。よっぽど嫌な事だったんだろうなー。」


「ああ。正直あの頃は地獄のような日々だったよ。なにせ魔族との戦争の最中で、強くならなきゃ死ぬ環境だったからね。文字通り死ぬ気で頑張ったよ。まあそのおかげで今はだいぶ強くなれたけど、あいつへの恨みはいまだに忘れたことは無いからね。」


姉御は苦笑いをしながらそう言った。あんこはとても驚いた。


「へえー!姉御ちゃんってそんな環境で育ったんだー!なんか意外ー!すっごく優しいから優しい人に育てられてたのかと思ってたよー!」


「ああ。俺も今までそう思ってた。」


あんことレイジは二人とも互いに顔を見合わせて驚いていた。姉御はバツが悪そうな表情をした。


「まあ、ね。あたしも思い出したくない思い出だったし、今まで話してこなかったけど、さすがに力技拳の使い手がここに現れたら嫌でも思い出しちまうよ。」


「ああ!なんか悪い!誰のことで怒ってんのか知らねーけどとりあえず謝っておくわ!」


ゴゴはケラケラと笑いながら謝った。そしてレイジが本題に戻した。


「んで、力技拳ってなんなんだ?どういう拳法なんだ?」


「お!よくぞ聞いてくれたなレイジ!力技拳ってのは、つまり...なんなんだろうな?」


「お前自身がよくわかってねーのかよ!」


レイジはそう突っ込んだ。ゴゴはまたケラケラと笑った。


「俺もよくわかんねーんだよ。なんかあいつらノリで力技拳って名乗ってるだけで、実際やってることはただのゴリ押しだったからなー。俺は成績超優秀な弟子として奥義習得までしたけど、結局中身まではよくわからなかったしなー。」


「わからないまま奥義習得したのかよ!順序がメチャクチャじゃねーか!」


「そうなんだよ!誰も力技拳が何なのかって説明してくれなかったんだよ!ただ毎日言われたのが『筋肉を信じよ!筋肉こそ生物の持つ最強の力なり!!!』って言われ続けたんだよ。ただのジムトレーナーかと思ったぜ!」


ゴゴの珍しく的確なツッコミにレイジは思わず笑ってしまった。


「ま、まさかゴゴがそんな風に的確なツッコミをするなんて、面白いな!」


「え?面白い?なにが面白かったのか全然わかんねー!けど、ありがとよ!褒められると嬉しい気がするぜ!」


ゴゴは親指を立ててレイジにお礼を言った。レイジもゴゴと同じ行動をして互いに笑いあった。そんなバカげたやり取りを見てネネ達も笑った。


「なにそれ?結局力技拳に関してなんにもわからなかったんだけど。すごくバカみたいね。」


ネネはクスクスと笑いながらそう言った。そして次は昆布が


「確かに!肝心の力技拳について使っている本人よりも、姉御の話の方が有意義だったでござるよ!」


と言ってへへへと笑った。そしてあんこが


「ほんとゴゴって大事なところ知らないんだねー!ノリと勢いだけで生きてるじゃん!」


と言った。そしてレイジが笑い終わるとゴゴに質問をした。


「なあゴゴ。そういえば奥義を習得したって言ってたけど、その奥義ってどんなやつなんだ?俺たちに見せてくれないか?」


その質問にゴゴは珍しく考えた。


「そうだなー。見せるのは構わねーけどよ!この奥義使ったら俺の片腕が破裂して無くなるかもしれねーけどいいか?」


ゴゴは冷静にそういった。レイジは眉をひそめて聞き返した。


「え?片腕が破裂する?」


「ああ。破裂するかも。」


「...ゴゴ。その奥義は二度と使わねー方がいい。お前騙されてるんじゃないのか?そんな危険な技が奥義なわけないだろ。」


レイジはゴゴの身を心配してそう言った。ゴゴはケタケタと笑った。


「だーいじょうぶだって!俺の師匠もこの奥義を使って死んだけどよ!大丈夫だって!」


「全く大丈夫じゃないんだが!??」


レイジは思わずツッコんだ。しかしゴゴはいまだにケタケタと笑っている。


「心配すんなって!ただ片腕が吹っ飛ぶだけなんだから!死ぬわけじゃないんだからよ!」


「お前の師匠はそれで死んだんじゃねーか!」


「そりゃそうだけどよ。...じゃあ、俺も死ぬのか!?」


「最初っからそう言ってんじゃねーか!」


「...まあ、別にどうでもいいけどな。」


ゴゴは本当にどうでもよさそうに顔を掻きながら言った。レイジはその態度に驚き、少し恐怖した。


「ゴゴ、お前本当に自分が死んでもいいのか?俺には理解できないよ。戦うこと以外の楽しい事なんていくらでもあるだろ?俺は何かを知るために仕方なく戦うだけであって、闘うこと自体は好きじゃないんだ。お前は違うのか?」


そう言われたゴゴは少し考えた。


「うーん。違うなー。俺は闘うことでしか生きていることを実感出来ねーんだ。こうしてしゃべっている時ですら闘いたくてしょうがねーんだ!もしかしたら人間ってのは闘うこと以外の楽しみを見つけて、それで死んでいくのがフツウってやつなのかもしれねーな。」


「ああ。だいたいの人はそうだろうな。魔族との戦争がまた始まるかもしれないのに、サンシティの人はこのまま平和が続くと思っているようだった。きっと勇者が何とかしてくれるって思ってんだろうな。」


「へえー!彼らは何をして幸せを感じてんだ?ただ緩やかに死ぬことが幸せなのか?俺にはとても信じられねーけどな。命を燃やしてこその人生じゃねーのか?」


ゴゴは素直な疑問を言った。レイジはその言葉に自身の意見を返した。


「それは人それぞれってやつだ。穏やかな平和があればそれだけでいいってやつもいれば、ゴゴみたいに死ぬかもしれないことに興奮する変態もいる。」


「じゃあ、レイジはどうなんだ?レイジもゆるーく生きてれば幸せなのか?」


「俺?俺は...」


と言いかけてレイジは口を閉じた。そのあとに続く言葉が見つからなかったのだ。


『そういえば考えたことも無かったな。俺は何をしている時が幸せなんだろう?』


そう考え始めるとレイジは答えが見つからず、言葉が詰まった。それを見た姉御はレイジに聞いた。


「レイジは自分の知的好奇心を満たすことが幸せなんじゃないの?」


「まあ、たしかにそうだけど...それだけじゃないんだと思う。なんていうか...うまく言えないけど...」


レイジがそういうとゴゴがレイジに聞き返した。


「まあそんなことはどうだっていいけどよ!とりあえずマフィアタウンって場所までさっさと行こうぜ!闘いたくてうずうずするぜ!」


ゴゴはそう言ってシャドーボクシングのようなことを始めた。それを見て昆布が対戦相手になって二人でキャッキャと楽しそうにじゃれ合った。さらにそれを見たあんこが加わった。


「あっ!面白そう!あたしもやるー!」


ゴゴと昆布とあんこは互いにじゃれ合って遊んでいた。姉御はそれを穏やかな目で見守った。


「まあ、こんな世の中じゃ自分のことを知るのは後回しになっていくからね。レイジはゆったりと自分のことを知ればいいと思うよ。」


「うん。ありがと。姉御。」


レイジは答えの出ない謎に少々ムカついていた。レイジは今までそんな謎に出会ったことが無かった。いつも答えのある謎にしか出会わなかった。だからすべての物事には原因と理由があるのだと思い込んでいた。それはネネも同じだった。


「私も、自分の幸せなんて考えたこと無かったなー。毎日人間に見つかることを恐れてて、誰もいない山の洞くつで生きてきたから...幸せって、何なんだろうね。」


ネネは自身の考えを話した。


「私は、なんで生まれたんだろう?人間と人間の間に魔族が生まれるなんて、今まで一度も無かったことなのに...生きたいと思うけど、こんなにも辛い人生なら無理に生きなくてもいいんじゃないかって、そういう風にも思うの。」


「それは...」


レイジが言おうとしたところをネネは遮った。


「いいの。何も言わなくて。分かってるから。でもね、本当に自殺まで考えたの。毎日怯えながら暮らすくらいならいっそのこと楽になりたいって、そう思ってたの。でも、勇者のマントを見つけて、レイジたちに出会ってからその考えは少しだけ変わったの。」


ネネはうつむいていた顔を上げて空を見た。


「私はね、誰かとただ話したかった。お母さんが死んでから一人ぼっちで生きてきた。それが今は面白い人たちと一緒に世界を救おうとしてる。今までなら考えられないほど、私の人生は変わったわ。」


そしてネネはもじもじと照れくさそうにして、頬を赤らめてレイジの方をチラチラと見た。


「だからね、その...こんな旅も悪くないっていうか...」


ネネはいまいち素直になり切れず、本当に言いたい『ありがとう』は言えないままだった。それをレイジはなんとなく汲み取った。


「そっか。そう思ってくれるのなら、良かった。本当は俺たちと旅をするのは仕方なくやってるんじゃないかって心配だったんだ。そうじゃないならよかったよ。」


レイジはニコっと笑ってネネに言葉を返した。ネネは恥ずかしくて目をそらした。そしてツーンとした態度をした。


「ま、まあ、ゴゴは子供みたいにうるさいし、昆布はそれに乗っかる悪い所はあるし、あんこはすぐ服を脱ごうとするし、姉御は私との距離をすぐ詰めようとするし、レイジは冷静過ぎて子供っぽく見えないけど...でも、まあ、そういうのも、わるくはないかしらね。」


ネネはそう言ってプイッと顔をそらした。そんなネネの仕草にレイジは胸がときめいた。


キャラクター紹介


「ガイア」


基本的に無口。何を考えているかわからない、つかみどころのない人物。よく下ネタを言う。


黒髪短髪の濃い顔をしたイケメンで、体つきはガッチリとした筋肉がついており、そのうえでしなやかさも持ち合わせている。その体には数多くの傷跡があり、本人は名誉の傷跡だと言っている。


魔王軍四天王の中でも群を抜いて魔族との交流が盛んな人物でもあり、魔族という種にあこがれを抱いている。そのため、ほとんど裸同然の姿でいることが多い。


彼の実力に関しては未知の部分が多く、好戦的ではないため、ほかの四天王でもその実力を計り知れない。彼はこの星を愛しているゆえに、ポイ捨てや環境破壊をとても嫌っており、それをするととんでもない眼光でにらみつける。


魔王軍四天王の中でも異色の経歴を持つ彼だが、魔王のスカウトにより四天王の地位まで上り詰めた。

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