一方魔王城では...
「魔王様。勇者たちが必死になって魔王様討伐の準備をしていますよ。何か手は打たなくてもよろしいのでしょうか?」
ウィンドが玉座に座る魔王に向かって話しかけた。魔王はただ首を縦に振ってうなずいた。しかしファイアが反論した。
「そうだぜ?俺たちはこの世界を守るために闘ってんだ。なんもしねーってのは性にあわねーよ!」
ファイアは拳を握り、それを左手に当ててポキポキと鳴らした。それに対してアイスは冷めた目で見ていた。
「魔王様が必要ないと考えられたのだ。それに従うのが我ら四天王の重要な任務だ。言葉を慎め。」
「んなこたぁわかってんだよ!けどなぁ、せっかく今日という日まで鍛えてきたってのに、やってることは街を破壊して、雑魚の筋肉野郎を捕まえただけだぜ?もっと侵略してもいいだろぉ?人間たちは危機感ってもんが全くねーんだよ。」
ファイアは好戦的な意見を言った。アイスはそれを軽蔑の目で見た。
「そんなことをしてどうする?計画はじっくりと積み上げていかねば崩れてしまう。焦って人間側が降伏でもしたら元も子もないんだぞ?」
「そ、そんなこたぁわかってるって言ってんだろ!?俺が言いたいのはだなー、なんていうか...」
ファイアは言葉に詰まって次の言葉が出てこなかった。その喧嘩を見ていたウィンドはため息をついた。
「全く。子供じゃないんですから、そんな喧嘩は魔王様の前でしないで頂きたいですね。」
「なんだとー!?」
ファイアはウィンドをにらみつけた。ウィンドは気にもしない表情で目を合わせなかった。
「お前なー!俺に練習試合で勝ったこと無いくせに偉そうな口きいてんじゃねーぞ!?」
「それは一年も前の話でしょう?今全力でやりあったら、どうなるかわからないでしょう?」
「いいやがったなー?いいだろう。その勝負受けて立ってやるよ。」
「全力で挑むからには、なにか賭けた方が面白いでしょう。私が勝ったらあなたは一生私に対して敬語で接していただきます。」
「面白れぇ。なら俺が勝ったらてめぇは俺の舎弟だ。俺の命令に従ってもらうぞ?」
二人はバチバチとにらみ合っていた。アイスは無関心だったので何も言わずに白けた目で見ていた。そんな状況にとてつもなく場違いな人が現れた。
「ふぅー!きんもちぃよかったぁーーーー!!!」
全裸でちんちんをぶらぶらさせながら玉座に現れたのは黒髪の短髪で、濃い顔をしたイケメンだった。その体からは風呂上りと思われる湯気が立ち上り、身に着けているのは首にかけたタオルだけだった。
「おっ!いい所に来たなガイア!お前、審判をしろ!」
「えっ?何の?」
「俺とウィンドのガチンコ勝負だ!」
「えっ?チンコ勝負?言っとくけどチンコの硬さなら俺がぶっちぎりだぞ?なんたって俺のチンコはカッチンチンのコッチンチンだからな。」
ガイアは低いテンションで小学生みたいな下ネタを言っている。ファイアは流石に突っ込んだ。
「いや、ちげーよ。チンコ勝負じゃなくてガチンコ勝負だよ。」
「ああ。ガチンコ勝負か。詰まんないな。チンコ勝負が良かった。」
「詰まんないって...マジかよ。」
さすがのファイアもガイアの独特なテンションに巻き込まれて自身の闘志が静まってきた。ウィンドも同じで、ファイアのこと以上にガイアの奇行に目がいった。
「...で、なんで裸なんですか?ここは玉座の間ですよ。服を着てください。」
「風呂上り。」
ガイアのポツッと言った一言にウィンドは汗を流しながら聞いた。
「見ればわかりますよ。服を着ないのはなぜかって聞いているんです。」
「...癖?」
「羞恥心を持ってください!!」
「わかった。」
「わかればいいんですよ。」
ウィンドとガイアのとんちんかんなやり取りを見て魔王は思わず笑った。
「ま、魔王様!?なんで笑っていらっしゃるのですか?」
「少し、おかしかったもので、つい。」
魔王はフフッと笑った。そして深呼吸をして気持ちを落ち着け、ファイアに向かって言った。
「ファイア、お前に任務を与える。」
「おっ!俺だけ特別に?」
「うむ。レイジの現状を探り、その実力を測ってこい。そして負かした後に、『そんなに弱いとこの世界の秘密を知る前に死ぬかもね』と言ってこい。」
そう言われてファイアは嬉しそうに敬礼をして「かっしこまりましたぁー!」と言って玉座の間から飛び出していった。そのことに不満そうにアイスが魔王を見た。
「魔王様。なぜファイアにだけ行かせたのですか?あいつのヤンチャっぷりはご存じでしょう?」
「わかっている。だからアイス、お前も行ってこい。冷静なお前なら最初の話し合いでファイアとレイジの一騎打ちをさせることができるだろう。」
そう言われてアイスは深く頭を下げて「ハッ」と言ってその場をあとにしようとした。それを魔王が呼び止めた。
「アイス。」
「...なにか?」
「いつもファイアの世話をしてくれてありがとう。お前にはいつも助けられている。これからも頼らせてほしい。」
魔王はアイスに感謝の気持ちを伝えた。アイスはその表情を崩すことなく一礼をしてその場を後にした。
「それから、ウィンド。」
「いかがいたしましたか?魔王様。」
「お前はいつも我が側近としてわたしを支えてくれてありがとう。ほかの四天王の中ではお前が一番付き合いが長い。これからもその知恵を借りていきたいが、よいか?」
ウィンドは口角をニイッと上げて笑みを浮かべながら深々と頭を下げた。
「もちろんでございます魔王様。我が命は魔王様の為にお使いいただけることが何よりの幸せに御座います。」
ウィンドがそういうと魔王はウンとうなずいた。
「そして、ガイア!」
「はい。」
ガイアは相変わらずボケーッとしていて緊張感が全くなかった。
「服を着ろ。風邪をひくぞ?」
「大丈夫。寝れば治る。」
ガイアはボーっとした表情で言った。魔王はフフッと笑った。
___________________________________
サンシティに向けて歩き始めたレイジたちは昆布のはしゃぎように見ていて飽きなかった。
「うおおおおお!!!すっげぇーーーーーー!!!」
昆布は荒廃した世界を見て興奮していた。倒壊したビルに植物がその体を巻き付け、地面には割れたコンクリートの隙間から様々な雑草が生え、さび付いた車や、戦争で使われたボロボロの剣や槍などが地面に突き刺さっていた。
「外の世界って、こんなにも神秘的な場所なのかー!?すっごいなー!かっこいいなー!」
昆布は目を輝かせて景色を見ていた。レイジは不思議に思った。
「別に珍しい光景でもないだろ?」
「いやいや、拙者はヒノマルの国から外に出たことが無かったでござるから、こういう光景は初めてでござるよ!」
「そうなのか。それなのに一人で国を抜け出すなんて、根性あるなぁ。」
レイジは昆布の根性に感心した。昆布は「デヘヘ」と言って照れながら笑った。そしてネネの方を見ると、ネネも昆布の様に景色のとりこになっていた。
「あれ?ネネももしかして初めて見るのか?」
そう言われたネネはハッと気づき、恥ずかしそうに咳払いをして口をとんがらせた。
「ま、まあね。昆布ほどウキウキはしてないけど、でも、ちょっとだけウキウキしてるかなー?」
ネネはそう言った。レイジはそんな恥ずかしそうにしているネネの姿を見て可愛いと思った。そして心臓がドックンドックンと高鳴ってきた。それを振り払うように話題を変えた。
「そういえばゴゴ。お前傷は大丈夫なのか?」
レイジがゴゴの方を見るとゴゴは平気そうに歩いていた。
「ん?ああ。大丈夫だぞ。あんなのただの致命傷だったからな。助かったぞ。」
「致命傷なら死んでんじゃねーか...」
レイジは冷静に突っ込んだ。ゴゴはガッハッハと笑っていた。レイジはため息をついた。
「まあ、大丈夫ならいいけど。」
レイジはそう言って再び歩き始めた。
そして一週間の後にサンシティに到着した。サンシティは相変わらずわかりやすいお城が建っていた。そのお城に入って王様に報告をした。
「そうですか。ネネさんの故郷がそんなことに...」
そう言って王様はうなずいた。
「そうですね。残念ながら魔王軍につながる手がかりは得られませんでしたね。」
「おお!そうだ!その件ですがね。実はドナルドさんが手掛かりを見つけたらしいとの連絡があったのですよ。」
「本当ですか!?」
「はい!なんでも『助けがいるから手を貸せるものは貸せ』とおっしゃっておりました。」
「場所は?」
「ドナルドさんの生まれ育った町の、マフィアタウンだそうです。」
「マフィアタウン?姉御、知ってる?」
レイジが姉御に聞くと姉御はうなずいた。
「ああ。マフィアタウンはもともとは盗賊団の隠れ家だったそうだけど、魔族との戦争で行き場を失った人々が集まって作った街だそうだね。そのせいで街の治安は酷くて、暴力が支配する町になっているそうだよ。場所はここから北西の方角だね。」
「そうか。じゃあそこに行って、魔王軍の手掛かりを探して、魔王のいる場所を探そう。おそらくは魔王側の大陸のどこかだとは思うけど、そこを必死に探すよりかは手間が省けるしね。」
「そうだね。なにせ魔族はとんでもなく強いからね。今は比較的安全な人間側の大陸で情報を集めた方がいいね。あんたたちの戦闘の経験も稼げるし、死んじまうよりかはましだからね。」
「よーし!じゃあマフィアタウンに向けて行こう!」
レイジがそういうとあんこたちは「おー!」と言って賛成した。
「マフィアタウンかー!なんか戦いが大量に起こりそうな予感!!!うおおおおおおおおお!!!!早くいきたいぜーーーーーー!!!!!」
ゴゴはウッキウキでマフィアタウンに向かって歩いて行った。それを見てあんこは不安そうにした。
「えー!戦いが起きまくるのー?やだなー。戦うなら幻獣とか魔族とかの悪そうなやつと戦いたいよー。人間と戦うのは気が引けちゃうなー。」
あんこは自身の正義感としては人間と戦うよりも、怪物と戦って人間を守る方がいいなーと思った。それに対して昆布は、
「別に誰が相手だろうと、こっちには最強の姉御がいるでござる!負ける気がしないでござるなー!」
「ああ。あたしは基本的には闘わないよ。あんたたちが危ないときだけ戦うからね。そうじゃないとあんたたちの経験値が増えないだろう?イヤでも強くなってもらわないと、自分たちが困るからね。」
姉御は冷静にそういった。昆布は数秒固まった。しかしまたウキウキで動き始めた。
「だ、大丈夫でござるよ!こっちには勇者の力を持つ兄貴がいるのでござるから!兄貴がいればどんな相手だって簡単に倒してくれるでござるよ!」
「ああ。俺は闘うの嫌いだから、基本闘わないぞ。話し合いで解決できないときだけ戦うから。」
レイジは冷静にそういった。昆布は再び固まった。しかしまたウキウキで動き始めた。
「いやいや!まだ大丈夫でござるよ!こっちにはもう一人!勇者の力を持つネネがいるのでござるから!ネネがいればその魔族特有の強靭な肉体で蹴散らしてくれるでござるよ!」
「ああ。私も戦わないよ。普段はフードをかぶって魔族だってばれないようにしたいから。ばれたらめんどくさい事になるでしょ?」
ネネは冷静にそういった。昆布はまたまた固まった。しかしまたウキウキで動き始めた。
「いやいやいや!まだ、まーだ大丈夫でござるよ!こっちにはゴゴがいるでござる!ゴゴがいれば戦闘は絶対引き受けてくれるでござる!だから拙者は楽ができるはずでござるよ!」
「もちろんだぜ!!一緒にマフィアタウンの奴ら全員と戦って闘いの楽しさを全身で味わおうぜ!昆布!」
「いや...そこまでしなくても...」
昆布が言い終わるより前にゴゴは「うおおおおおおお!!!!」と叫んで城を出て行った。昆布はポカーンとその場に取り残された。そんな昆布の肩にレイジが手を置いた。
「なあ、あいつを放置しておくととんでもない厄介ごとが俺たちに降りかかるぞ?」
レイジがそういうと昆布は数秒固まったのちに猛ダッシュでゴゴを追いかけた。
「ゴゴ!!!待ってーーーー!!!!お前にマフィアタウンの土を踏ませるわけにはーーーーー!!!」
昆布はそう叫びながらゴゴの後を追った。
キャラクター紹介
「蛇の幻獣」
蛇の幻獣は今のところなぞが多い。能力も不明。年齢も不明。性別はメス。外見は真っ白の蛇。目が赤く光り、時折出す舌はピンク色をしている。
蛇の幻獣の一番の特徴は何といっても話すこと。いままで観測された幻獣の中にはしゃべるものなど一体もいなかった。しかし蛇の幻獣は普通に話すことができ、レイジたちの言葉の意味もきちんと理解をしている。インコやオウムのような意味を理解せずに言葉を発するわけではない。
さらに蛇の幻獣が住みかとする場所はこことは違う、色味が気持ち悪い場所にいて、そこにいた謎の幻獣のことを『幻獣の王』と呼んでいた。彼らはいったい何者なのだろうか?