選択の代償
レイジたちは魔族から人間に戻っていく村人を見守る中、最後の一人が息を引き取ったところを見ていた。
「...ああ...結局誰一人救えなかったな...」
レイジは彼らに死んでほしいと思っていたが、いざ本当に死ぬと少しだけ悲しかった。そしてちょっとだけざまあみろという気持ちも芽生えてた。その気持ちが芽生えてしまうのがイヤだった。ゴゴのようなクズ人間にはなりたくないと思ってしまった。
「そうだね...彼らを埋葬してあげよう。それがせめてもの情けってやつさ。」
姉御はそう言ってその村人を村の外の地面に埋めた。
「俺の選択のせいでこの人たちは死んだんだな...」
レイジはいまだに自分を責め続けていた。それにあきれたのか姉御は頭を抱えてため息をついた。
「レイジ...もうその話はいいって。元はと言えば幻獣のせいでしょ?レイジはレイジのできることをすべてやりつくした結果なんだから、もうこれ以上責めないでいいんだって。」
「...うん...」
レイジは心ここにあらずといった空返事をした。姉御は再びため息をついた。
「なあ、ネネはどう思うんだ?自分をひどい目に合わせた村人が全員死んじゃったけど...」
レイジはネネに聞いた。ネネはすこし考えてから言った。
「そうね...正直言って、わからないわ。私のパパとママを殺したのは絶対に許せない。けど、だからといって死んでほしかったわけじゃないわ。なんていうか...なんていうんだろう......よく、わからない...わね。」
そう言ってネネは悲しそうに笑った。レイジはその表情を見て胸が苦しくなった。
「ああ、悪い。嫌なこと聞いちゃったな...」
「いいの。私も、言葉にしないままだとモヤモヤしてたと思うから...よくわからないって事がわかって、よかったわ。」
レイジとネネは互いに気を遣いながら話した。その様子を昆布はからかった。
「あれあれー!?兄貴ぃ、顔赤くなってるでござるよー?も・し・か・し・て、ネネに気遣われて嬉しいのでござるかぁー!?」
昆布はわざとらしく体を左右にリズムよく振りながら言った。レイジは顔をさらに赤くして否定した。
「そ、そんなわけないだろ!俺はただ、ネネと喋れて嬉しいなーって思っただけだ!」
レイジは必死に否定したが、その言葉を聞いたネネも頬を赤らめた。
「えっ!?私と喋れて、嬉しい...?」
「あっ!いや、違う!そのー、なんていうか...あーもう!おい昆布!人をからかうんじゃない!」
レイジは昆布のことを追いかけた。昆布はキャッキャとはしゃぎながら逃げ回った。ネネはその間も頬に両手を当てて恥ずかしそうに考えていた。
『レ、レイジが私と話せて嬉しいって...つまりそういうことだよね?レ、レイジが、私に興味を持っているって事でいいのよね?ど、どうしよう。私、どうしたらいいんだろう?確かにレイジは私に対して優しいし、結構気を遣ってくれるけど...私みたいな魔族の姿の人間にまさか恋なんてしてないよね?きっとそうよね?私が魔族の見た目だからレイジはそこに興味を持っているだけよね?うん。たぶんそうよ!』
ネネはそう思って顔をブンブンと振った。
「そうよね...私の姿は珍しいものね。そこに惹かれただけよね?」
ネネは誰にも聞こえないほど小さな声で独り言を言った。そしてそんな様子を見て姉御は「青春だねー。」と楽しそうに言った。そして逃げ回っている昆布を捕まえて耳もとでささやいた。
「ありがとね昆布。レイジに元気がないから茶化してくれたんだろ?」
「うーん?何のことでござるかねー?さっぱりわかんないでござるよ?」
昆布は照れ隠しで知らないふりをした。姉御はそれもわかったうえで再びお礼を言った。
「で、これからどこへ行くんだ?もう手掛かりなんて何にもないぞ?」
レイジは冷静になってそういった。すると全員が考え始めた。そして姉御が先に口を開いた。
「そうね...一旦サンシティに戻ってもいいんじゃないかしらね?もしかしたら他の勇者候補の人が重要な情報を手に入れたかもしれないじゃない?」
そう言われて一同はうなずいた。そしてレイジが行き先を決めた。
「よーし!じゃあサンシティに戻るか!」
そう言って一行はサンシティに戻ることにした。
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「いやー!やっぱり先輩は面白かったわー!あんなに弱くなってるのにお笑いのセンスは抜群だったね!最高すぎっしょ!」
ワープ装置から出てきたのは納豆丸だった。納豆丸が出てきた場所は薄暗く、とても無機質な壁や床に囲まれた部屋の中だった。
「お帰り。報告はパパに直接頼むね。ゴゴのことを今一番知りたがっているから。」
その部屋の扉に設置されていたモニターにはその施設の人間が映し出されていた。そしてその人がそういうと扉は開かれた。納豆丸はそのまま進み、トンネルの様に丸い通路をくぐり抜けてその先にある建物へと入った。そして目の前にあるエレベーターに入り、最上階へと行った。
最上階の部屋はただただ広く、赤いじゅうたんに茶色いデスクと椅子があり、その椅子に誰かが座っていた。そしてそれ以外の家具は一切なく、そのせいで余計にだだっ広く見えた。
「ただいま!パパ。言われたとおりに先輩の...ああいや、ゴゴのことを見てきたよ。信じられないくらい弱くなってたよ!魂の力すら覚えてなかったよ!俺のことは覚えてくれてたってのにね!ちょっと嬉しいし!」
納豆丸はペラペラと無駄なことを言った。それをパパと呼ばれたものはただ無言で聞いていた。
「でさー!パパの命令通りに、闘ってきたよー!いやー、あこがれの先輩が引退してブランクがあるとはいえ、あんだけ弱ぇーとさすがに失望しちゃうっつーか?もはやあれ別人っしょー!?顔以外ぜーんぶ違ったし!脳みそまで筋肉に毒されてたって感じ?あんなのが切り札でいいわけー?どう考えても1から作り直した方が絶対早いって!」
納豆丸はさらに加速して言った。
「そうそう!面白いものをたっくさん見たよ!宙にプカプカ浮いてる可愛らしい女の子!とてつもなく強そうな姉御って呼ばれてた女性!ヒノマルの国の鎧着てたおっさん顔の青年!そして一番重要なのは、勇者の力を受け継いだ見た目は魔族、中身は女の子!と、火の幻獣使いプラス勇者の力を持ったハイブリッド赤髪少年のレイジくん!ヤバくね?ヤバくね!?どうすんのよこの状況!最高に楽しくなってきたじゃーん!?」
納豆丸はキャッキャとはしゃいでいる。そしてパパは全く口を開くことなくただ聞いていた。
「例の作戦、いつ決行すんのよ?早めにやっといた方がいーんじゃねーの?」
そう言われてパパはようやく納豆丸の方を向いた。
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「お!やっとお目覚めかな。」
蛇の幻獣はとてつもなくおかしな場所に来ていた。そこは紫色の空に黒色の雲、真っ赤な草原に透き通った赤色の水が流れる川があった。その形はちゃんとした木々や川の形をしているのに色だけが反転しているような不気味な場所だった。そしてそこで声をかけてきたのは蛇の幻獣ほどの大きさのなにかだった。その正体は黒いオーラに包まれており、よく見えなかった。
「うむ。まだ眠いのじゃが、ある集団にたたき起こされてのう。まったく、今思い出しても腹が立つのじゃ!」
「その割にはずいぶんと元気そうだね。」
「ふっふっふ!その通りじゃ!なにせその集団の魂の力をほんの少し吸い取ってきたのじゃ!さらに!デザートとして村人全員を死の恐怖にさらしてから魂をいただいてきたのじゃ!まあ、集団の魂に比べたら米粒のようなものじゃったがな。」
「へぇ。それはよかったね。」
その正体不明の幻獣は余裕のある態度で蛇の幻獣と話していた。
「うむ!その中にはわらわたちが探し求めていたあの血筋のものがおったぞ!そのおかげで、わらわも幻獣としての能力が一段階進化を遂げたのじゃ!」
「へえ!あの一族の末裔がまだいたんだ!?それはいい報告だね。」
なぞの幻獣は余裕のある態度を崩さない姿勢ではあったが、興奮した様子を抑えきれていなかった。
「...ところで、わらわの他には誰が目覚めたのじゃ?」
「今のところ、目覚めたのは君とカメ君だけだね。」
「カメの奴目覚めておったのか!?あの寝坊助が!?」
「うん。今は力を取り戻すためにいろんな所を旅してるんじゃないかな?いずれ帰ってくると思うから、待っててもいいんだよ?」
「いやじゃいやじゃ!カメの奴に意地悪しに行くのじゃ!ヒッヒッヒ!今度はどんな手で驚かせてやろうかのう!」
蛇の幻獣は悪い笑い方をしながら言った。
「彼にはもう会ってきたのかい?君の体からは彼の匂いが少しするよ。」
「エッチ!」
「はいはい。否定はしないよ。」
なぞの幻獣は蛇の幻獣のテンションに慣れた様子で適当にあしらった。
「...じゃあ本当にあやつは取り込まれおったのか?」
「うん。そうみたいだね。」
「あのバカ者。よりによってこんな大事な時にいなくなるとは...」
「まあでも大丈夫だよ。彼はとてつもなく強いんだ。そんな彼の魂を完全に従わせることなんて不可能だからね。あと50年ほど待てば戻ってくるんじゃないかな?」
「50年かー。ならもうすぐじゃな!よし!わらわが発破をかけに行ってこようかのう!面白い事になりそうじゃ!」
蛇の幻獣はまた悪ーい顔で笑った。それをとがめることなく謎の幻獣は優しく見守った。
「じゃあ、そういうわけでの、わらわはカメの奴にいたずらして、あやつに発破をかけに行ってくるのじゃ!留守番を頼んだぞ!幻獣の王よ!」
幻獣の王と呼ばれたものは優しくうなずいて見送った。