そういえば...
村へと歩いている途中でレイジは姉御に聞いた。
「なあ姉御、幻獣ってしゃべるのか?」
「あたしも、しゃべる幻獣は初めて会ったよ。幻獣はその巨大な体と肉体の強さを持ち合わせていながら、知性は犬レベルだって聞いてたからね。あたしが会ってきた幻獣もすべてが知性が無く、ただ人間を食べようとするだけだったからね。正直驚いているよ。」
「そうだよな。俺が初めて見たあの消える幻獣も正直賢いとは思わなかったもんな。見た目もあほそうだったし...でもさっきの蛇の幻獣は明らかに知性を感じたな。佇まいからして気品を感じたし、なによりあの言葉遣い、品性を感じるよ。」
「ああ。だがもし幻獣に知性があったとすると、とんでもなく厄介だね。」
「確かに。今まではこちらが知恵で優っていたから被害も少なく勝てていたけれど、もしあの巨体で、しかも幻獣の能力を持っていながら、さらに知性まで兼ね備えていたとすると...これ俺たち人間はいずれ絶滅するんじゃないか?魔族にすら勝てないほど弱い種族の俺たちだぞ?知性を持った幻獣に勝てるのか?」
レイジは考え込んだ。いくら考えても答えの出ることのない絶望的状況に未来を感じることができなかった。そんなネガティブなオーラを察して、昆布が言った。
「じゃあ全部やっつけようでござる!」
「いや、それができたら苦労はしねえよ。」
「大丈夫でござるよ!前の戦争では人類の9割が死んだ後に勇者が現れて、その勇者の一行が絶望的状況から一気に巻き返したでござる!そんな勇者が今回は5人も!いるでござるよ!楽勝過ぎてあくびが出るでござるよ!きっと!」
昆布のとても前向きな発言にレイジは少しだけ不安を解消できた。
「確かにな。勇者の力がどれだけ素晴らしいものなのかはまだ分からないけど、それでも俺は勇者の力を授かったわけだからな。何とかなるのかもしれないな。」
「そうでござるよ兄貴!兄貴が居れば百人力でござる!そのうえ兄貴よりも強い姉御が付いてるでござる!幻獣でも魔族でもなんでも来やがれー!でござるよ!」
昆布はニコーっと笑ってレイジを励ました。だがレイジはまたネガティブな想像をしてしまった。
「待てよ...勇者が5人もいるって事は、先の戦争の5倍は厄介なことが起ころうとしているんじゃないのか?今までは魔王を倒すために1人でよかったが、今回はその強さの人間が5人は必要になるほどのヤバい事が起きるのか?もしそうだとしたら、幻獣が知性を持ったことなんて前座レベルって事か?」
レイジは悪い方へと考えてしまった。昆布はそれでもレイジを励ました。
「大丈夫でござるよ兄貴!悪い予感は案外当たらないものでござるよ!拙者も故郷を飛び出してここまで逃げてきたでござるが、逃げ出す前は死ぬかもしれないって思ってなかなか行動できなかったでござるが、いざ逃げたしてみたら案外何とかなってるでござるよ!だから大丈夫でござるよ!」
昆布は精いっぱい励ましたが、レイジの不安を全て吹き飛ばすことはできなかった。
「そうかなー。俺はこの世界のことそんなに詳しくないから分からないけど、まず勇者ってそんなに強かったのかなーって最近思うんだ。もしかしたら勇者が強いんじゃなくて、勇者の武器が強かったんじゃないのかって思い始めてきたんだ。」
「へえー!なんでそう思ったのでござるか?」
「なんというか、俺が勇者だってわかったのはこの刀を手にしてからなんだよ。だからもしかしたら俺が特別なんじゃなくて、この刀が特別なんじゃないかって思ってきたんだ。ネネだってそうなんだろ?その勇者のマントを手に入れてから勇者の記憶がちょっとだけ溢れてきたんだろ?」
レイジがネネの方を向くと、ネネはコックリとうなずいた。
「そうね。私が勇者だって言われた記憶はこのマントを手にしたときよ。生まれた時から自分が勇者だってわかっていたわけではないわ。...まあ、こんな姿だったし、自分が勇者だなんて考えてもいなかったわね。」
「だろ?だから俺たちは本当は勇者の力をもって生まれてきたんじゃなくて、この武器に何かしらの秘密があったんだよ。そのせいで先代の勇者はただの人間だったにもかかわらず、強い武器を持ったおかげで魔族たちに勝ててたんじゃないのかって思うんだ。」
「ええ。私もそう思うわ。だって、私が勇者の力をもって生まれたのだとしたらこの姿に説明がつけられないじゃない。勇者だっていうのなら、魔族の姿で生まれるなんておかしいもの。」
ネネはそう言った。それに対して昆布は自身の意見を言った。
「拙者はそうは思わないでござるよ!確かに神のへそくりは謎が多い武器でござる。でも、神のへそくりは幻獣に有効なだけであって、魔族には有効じゃないでござる。隠された力でもあれば別でござるが...今のところそんな情報は出ていないでござるよ!だから勇者は特別な人間だったと思うのでござる!」
「確かにそんな話は聞いてないけど...でももしかしたら神のへそくりの中でも勇者の装備は特別なんじゃないのか?だってよ!俺は火の幻獣を魂に宿している幻獣使いだぜ?そんな俺が神のへそくりである勇者の刀を平気で扱えるんだ。これだけでも特別だろ?」
その一言に場は静まり返った。みんながその意見を聞いてハッと気づかされたからである。そして一番に口を開いたのは昆布だった。
「え?兄貴って幻獣使いだったのでござるか?拙者知らなかったでござるよ!もーう!そういうことは早くいってくれでござるよー!それならその勇者の装備が特別って仮説が一番そうっぽいでござるよ!」
昆布が賛同して、ネネが次に賛同した。
「そういえば...そうね。あんた、幻獣使いだったわね。それなのに神のへそくりが使えるなんて、おかしいわね。」
そしてあんこも賛同した。
「あー!たしかにー!レイジはわたしのヒシちゃんに当たるととっても痛がるのに、その刀は大丈夫だったねー!すごーい!」
最後に姉御が言った。
「...まあそんなことは置いといて、村の確認に行くよ。あたしは今それが一番心配だね。人類の敵である幻獣が本当に約束を果たしてくれるのか、確かめないと。」
姉御がそういうとレイジはうなずいた。
「よーし!とりあえず村に戻ろう。ネネはまたここで待っててくれないか?さすがに村には入りたくないだろ?」
「そうね...ここで待っているわ。何かあったらこのスイッチを押して助けを呼ぶわね。」
ネネはフッと口角を緩ませて笑った。それを見てレイジは強くうなずいた。
「ああ!いつでも呼んでくれ!どこにいても必ず駆けつけるからさ。」
レイジはそう言うと、ネネに手を振りながら村へと向かった。
村の中に入ると、ゴゴが寝っ転がっていた。
「んお!レイジ!!もーう戻ってきたのか!?やっぱ強えなーー!!瞬殺じゃん!なあなあ!今度俺にもその強さの秘訣を教えてくれよ!俺さー、納豆丸にボコボコにされて気づいたんだけど...」
ゴゴが興奮気味にレイジに話しかけてきたが、レイジは軽くあしらった。
「待て待てゴゴ!俺たちは幻獣と会ったが、幻獣を倒してないんだ。」
「えええええええええ!!!!!!どういうことおおおおおおお!!??」
ゴゴは目玉を飛び出して驚いた。レイジは今まであったことをゴゴに説明した。
「はぇーーー、話し合いで解決したのかー。もったいねーなー!せっかく強そうな相手と闘えるチャンスだったってのに!」
ゴゴはやっぱり闘いのことだけを気にしていた。幻獣がしゃべることなどどうでもいいようだった。
「まあ、ゴゴならそう思うだろね。でも俺は本当に話し合えるのか確かめてみたかったんだ。好奇心ってやつかな?」
レイジは自身の行動の動機を話したが、ゴゴには全く響いていなかった。
「ふーん。よくわかんね。でもよ!レイジは俺とは違う考え方をするんだなーってことはだいたいわかってきたぞ!闘わないっていう信じられない行動をする人間って事だな!」
ゴゴの当たらずとも遠からずな微妙な理解にレイジは苦笑いをした。
「ハハ...ちょっと違うけど...まあ、そんな感じだな。俺は闘うと強いけど闘いは嫌いだからね。争わなくてもいいならその方がいいって思うし。」
「へえー!闘い以外で楽しくなることなんてあるんだ?俺は闘ってる時しか心がワクワクしねーけどな!」
ゴゴはガッハッハと笑いながら言った。レイジは何も言い返す気力もわかず、「はいはい」と流した。
「って、そんなことより。ゴゴ!この村の呪いを解かれたらしいんだけど、なにか変化はあったか?」
「ああ!それならさっき、村の中心の方でめっちゃ叫んでる声が聞こえてきたなー。なんかあったっぽいな。」
「それは本当か!?よし、すぐに確認に行こう!」
レイジはゴゴの言葉を聞いて妙な胸騒ぎがした。それは姉御も同様だった。
「レイジ、なんか嫌な予感がしないかい?歓喜の叫びなら、今も聞こえてきていいはずだ...それなのに今は静まり返っている。早く行った方が良さそうだね。」
姉御の言葉にレイジの心は不安のモヤがかかった。それを一刻も早く振り払いたいと思い、レイジは集会所に走った。