村に巣くう幻獣
「なあレイジ、魂の力ってなんだ?」
ゴゴは納豆丸に言われたことが理解できておらず、レイジに聞いた。レイジは驚いた。
「ゴゴ、お前、魂の力も理解してないまま戦ってたのか!?」
「ああ。幻獣の能力とは違うのか?」
「うーん、似てるけど違うって感じ?魂の力ってのは、人間が肉体の限界を超えて発揮することができる力なんだよ。魂の力が強ければそれだけ強い力が生まれるんだ。そして幻獣の能力は、その魂の力をエネルギーにして、様々な力を生み出すって事。例えば俺は炎の幻獣を宿しているから、俺の魂の力を肉体に使っても良いし、炎を生み出すために使ってもいいって事。」
「へー!そうだったのか!」
「おいゴゴ、お前いままでどうやって幻獣の能力を発揮していたんだよ。」
「まあ、ノリってやつ?出来ることは知ってたけど、なんでできるのかは知らなかったんだよ。だって知りたいと思ったこと無いし...」
ゴゴは目をそらしながら言った。レイジはやれやれとため息をついた。
「そんなんでよく今まで生きてこられたな。...もしかして今まで闘ってきた相手は魂の力を使って来なかったのか?」
「うーん、言われてみれば、俺よりも明らかに筋肉が無いのに俺と同じぐらい力があったやつがたくさん...いや、全員そうだったな...マジかよーーー!!!じゃあ俺!!もっともーーーーーーーっと強くなれるって事じゃねーか!??うっひゃあ!!さいこーーーーーーー!!!」
ゴゴは頭しか動かしていないくせに声でも動きでもうるさかった。
「まあ、とりあえずゴゴは動けないし、安全な場所に避難させようか。」
レイジは提案して、ゴゴを村の中に移動させた。そして村から出てまた元の場所に戻ってきた。そして納豆丸に渡されたスイッチを持ったままレイジは考え込んでいた。
「これ、押すべきか?いやもしかしたら罠か?まさか、爆弾のスイッチなんじゃ...!?」
レイジが押すべきか迷っているとあんこがそのスイッチを取って、「えい!」と言って押した。
「んなっ!?」
レイジが驚いて何かを言おうとしたが、それよりも早く異変は起きた。
グゴゴゴゴゴゴッ
地面がいきなり隆起し始め、中からとても大きくて蛇のような体が長ーい生き物が姿を現した。
「うわあ!ほんとにでた!」
あんこはビックリしてレイジの陰に隠れた。レイジはあんこを守るように幻獣との間に立って、勇者の刀ではなく、元から持っていた名刀『憤怒の魂』を抜刀した。
「痛たたたたたっ!全く、何者じゃ?わらわをこんな方法で呼び覚ます無礼者は!」
その蛇のような幻獣はしゃべり出した。レイジたちは予想外のことに全員が呆気に取られていた。そして昆布が目玉をビョーーーンと飛び出して、
「しゃ、しゃべったああああああ!?」
と驚いた。蛇の幻獣はその舌をシュルルルと出し入れしながらレイジたちを見た。
「そちらか!?わらわを無理やり起こしたのは!今何年じゃと思っておるのじゃ!無礼にもほどがあるぞよ!」
蛇の幻獣はプンプンと怒った。しかしレイジは呆気にとられ過ぎて開いた口がふさがらず、話すことすらできなかった。
「...?なんじゃ?なにをそんなに驚いておるのじゃ?わらわの姿がそんなに珍しいか?あっ!もしかして、わらわの可愛すぎる姿に惚れておるのか?そうかそうか!そんなに照れずともよいよい!わらわに惚れてしまうのは男女問わずそうなってしまうからのぉ!」
蛇の幻獣はひとりで盛り上がって上機嫌になった。その様子にレイジたちはまだ動けなかった。脳みその理解が追いついていなかった。
「まあ、わらわは可愛らしいし、その上美人じゃからの!その姿を一目見ようと無理やり起こしてしまうのは仕方のない話じゃ。...じゃが!たとえそうじゃったとしても!わらわはぐっすり眠っていたかったのじゃ!無理やり起こすのは酷いのじゃ!あんまりじゃ!眠いのじゃーーーー!」
蛇の幻獣は仰向けになり、おもちゃを買ってもらえない子供みたいに駄々をこね始めた。その様子にレイジは思わず謝った。
「ああ、その...ごめん。なんか、ごめん。」
レイジは止まりそうな脳みそをギリギリ動かして絞り出すように謝罪の言葉を述べた。すると蛇の幻獣はピタッと動きを止めて体を起こし、レイジの方を見た。レイジはまさに蛇に睨まれた蛙の様に体が動かなくなった。
「ほう...そなた...幻獣を魂に宿しておるな。」
蛇の幻獣はまじまじとレイジの体を見た。そして次にあんこの体を見た。
「おおお!これは!」
蛇の幻獣はスルスルと地面を這ってあんこに近づき、じっと見た。しかしそれをレイジが刀をブンブンと振って追い返した。
「おい!やめろ!あんこは美味しくないぞ!」
レイジの発言に蛇の幻獣は声をあげて笑った。
「美味しくないじゃと!アッハハハ!これはお笑いじゃな!」
「なに?どういう意味だ?」
「あんこちゃん...といったかえ?そなたはわらわたち幻獣が追い求めていた存在そのものじゃからな。この世の中で一番美味しいに決まっておろう!」
蛇の幻獣はよだれを垂らしてあんこを見つめた。あんこはヒエーー!と言ってさらにレイジの陰に隠れた。それを見ていた姉御は問答無用で蛇の幻獣に襲い掛かった。蛇の幻獣は姉御の攻撃をかわして、距離を取った。
「ほう...わらわに歯向かうか?小さき人間よ。」
「あたしの子供たちに手を出そうとするなら、本気でやるよ。」
姉御と蛇の幻獣は互いににらみ合い、一気に場の空気が変わった。そしてレイジは幻獣と会話が可能だと知ると、すぐさま行動に出た。
「待ってくれ!俺たちは村人が魔族に変わる病の原因を突き止めて元に戻すのが目的なんだ!もしお前がその原因ならそれを直してくれれば俺たちは争わなくて済むんだ。どうか答えを聞かせてくれないか?」
レイジは刀を納めて両手を振りながら敵意が無いことを示していった。蛇の幻獣は流し目でそちらを見て、数秒考えたのち、ため息をついて姉御とにらみ合うのを辞めた。
「そうじゃな...確かに、それはわらわの仕業じゃな。眠っていたからよく覚えていないのじゃが...」
「そうか!じゃあ、元に戻してくれないか?」
「ふむ...それはいいが...なら交換条件といこうかの。」
「交換条件?」
「うむ!そなたたちの魂の力をすこし吸い取らせてほしいのじゃ。わらわはお腹が空いてもーーーう我慢ならないのじゃ!そうしてくれたら、もうこの村には用事は無くなるのじゃ。だから元に戻してやってもよいぞ。」
「そうか!...でも、魂の力を吸い取るって?そんなことして俺たちは平気なのか?」
「うむ、お主たちは村人と比べると段違いに魂の力が強いからの!少し疲れが出るかもしれぬが、一晩寝ればまた元通りじゃ!それはその女が証明してくれるじゃろう。」
蛇の幻獣は姉御の方を見た。姉御は腕を組んでその話を聞いていた。
「本当なのか?姉御?」
「...どのぐらいの量かによるね。魂の力はまだわからないことが多いんだ。でも人間によっての差が一番大きい場所でもあるんだ。弱い人は強い人の1万分の1ももってない事もあるからね。とくに生まれたての赤ん坊なんか、ほとんど持ってないからね。」
その話を聞いて、蛇の幻獣はさらに提案した。
「ならばわらわがどれだけ吸うかはお主が決めればよかろう。これだけ強い魂を持ったものが5人もおるのじゃ。しかもその1人は幻獣の求めていたあの一族の末裔じゃ!ほんの少しでわらわは満足するじゃろう。」
蛇の幻獣はまたよだれを垂らしていた。
「いいさ。その条件に乗ろうじゃないか。ただし、あたしがこれ以上はダメだと判断したら、容赦なく叩きのめすからね。」
姉御は手をポキポキとならした。蛇の幻獣はフフンと鼻で笑った。
「契約成立じゃな。」
そう言うと蛇の幻獣はスゥ――ッと息を吸い始めた。レイジたちはその瞬間にちょっとの脱力感を覚えた。そして姉御が止めるよりも早くに蛇の幻獣は吸い終わった。
「うーーーーーん!!なんと美味な魂たちじゃろうか!!!これほどまでに濃厚な魂は初めてじゃ!」
蛇の幻獣はほっぺたが落っこちそうなほど満足した。
「よし、じゃあ約束だ、村人を元に戻してもらおうか。」
レイジがそういうと蛇の幻獣はフッと村に向けて息を吹きかけた。
「これで村人にかかった『姿を変える呪い』は解いておいたぞよ。」
そう言うと蛇の幻獣は地面に潜ろうとした。それをレイジが止めた。
「おい待ってくれ!まだネネの姿が戻ってないぞ?呪いが解かれてないんじゃないのか?」
そういうと蛇の幻獣は頭をぴょこっと地面から突き出してジトーっとした目でレイジを見た。
「なんじゃ?わらわはちゃんと約束は守ったぞよ?その娘はわらわの呪いで変わったわけじゃないのじゃ。だから元には戻っておらん。これで満足かの?」
「待ってくれ!あと一つだけ聞かせてくれ!」
「なんじゃ!まだあるのか?そんなにわらわと別れるのがイヤか?...もしやお主...ほ、本気でわらわに惚れたのか!?だ、ダメじゃぞ!わらわは幻獣、そなたは人間、どんなに愛し合っていても、種族の壁は簡単には超えられんのじゃ。」
蛇の幻獣が見当違いな妄想の冗談を言っても、レイジは気にもせず質問をした。
「お前たち幻獣は、なんで人間ばっかり狙うんだ?俺はてっきり人間に恨みがあるのかと思ったが、違うのか?」
鋭い質問に蛇の幻獣は「ほう...」と言って含みのある笑みを浮かべた。
「そうじゃな...それはまた会ったときに話すとするかの!お主がそれまでにもっと勇ましい者になっておれば、話してやるぞよ!」
そう言って幻獣は地面へと潜っていった。そして昆布がレイジに近づいてきた。
「兄貴!どうしてそんな質問したのでござるか?」
「それは、俺が知りたいって思ったからだな。」
「本当のことを教えてくれるとは限らないと思うでござるが...」
「それでも、知りたいんだ。この世界のこと。勇者の力のこと。幻獣のこと。魔族のこと。」
レイジはそう言って蛇の幻獣が呪いを解いたのか確かめるために村へと歩いて行った。
キャラクター紹介
「納豆丸」
青い長髪、ツーブロックの髪型、チャラい口調、細身の体、そしてとてつもなく速い男が納豆丸である。彼の扱う武器はナイフを7本と小道具を扱う。
その小道具はクナイ、手裏剣、針、閃光玉、音響球、爆弾、ワイヤー、電撃、火炎、氷結を扱う。普段は小さくして自身の体に埋め込まれており、必要に応じて魂の力を送り込み、巨大化させてから使う。
彼の性格は一言でいえばチャラい。意外にも仕事には真面目に取り組むが、やりたくない事にはバレないように手を抜く。
ゴゴのことを特別気に入っておりストーカーの様に付け回している。ゴゴからつけられたあだ名が、「納豆丸」であり、彼の本名ではない。
過去にゴゴと同じ施設で育っている。その時から納豆丸はゴゴにあこがれを抱いていた。