後輩の納豆丸
レイジたちはネネに状況を報告するために外へと出た。そしてネネが待っていた場所まで向かい合流した。
「...どうだった?」
ネネにそう聞かれたレイジは今まで起きたことを説明した。そしてこれから幻獣を見つけようとしていることも伝えた。
「そう...村人たちが魔族にね...」
ネネはとても複雑そうな表情を浮かべた。
「大丈夫か?もし協力したくないならここで待っててもいいんだぞ?」
レイジはネネの心配をした。ネネは浮かない顔をしたまま首を横に振った。
「ううん。大丈夫。もうあの村がどうなろうとどうでもいいけど、私の姿が元に戻るかもしれないんだったら、私、やってみたい。」
ネネは顔を上げた。その目には復讐ではなく、希望の光が宿っていた。それを見てレイジは優しく微笑んだ。
「そうか。じゃあ一緒に戦おう!どこに幻獣がいるのかわからないけど...」
「困ってんねぇ!助けてやーるよー!」
突如声をかけてきたのは村の入り口に立っていた青い髪の謎の男だった。その男は黒いコートを羽織っており、顔だけしか見えなかった。
「...あんた、誰だ?」
姉御はグッと拳を握り警戒した。
「ういーっす!どーも!初めましてと久しぶり!覚えてるかなー?」
ノリノリでしゃべる男は身振り手振りも大きく、チャラそうな印象をレイジたちは受けた。
「お前は...納豆丸!!?」
彼のことを知っていたのはゴゴだった。
「せんぱーい!覚えててくれてマジサンキューなんだけど!ってか、先輩マジ変わりすぎっしょ!なんかキモくなっててマジ笑えるんだけど!」
納豆丸と呼ばれた男は手を叩いて笑った。
「納豆丸!?また変な名前だな。」
レイジは彼の名前を不思議がった。そしてレイジは彼のことをよく見た。髪型は前髪が長く右側に寄せて流していた。そしてサイドは刈りあげられており、後ろも刈りあげられていた。顔立ちは面長で目はぱっちりとしたタレ目、眉毛は吊り上がっており左の鼻に金色のピアスを開けていた。さらに舌にも銀色のピアスを開けていた。
「そのあだ名はゴゴ先輩がつけてくれたんすよね!俺は気に入ってんだけども、周りからは蔑称として扱われて、ひどい目にあったっすよ!」
納豆丸はケラケラと笑いながら言った。
「それで、何の用だ?パパに言われて俺を連れ戻しに来たのか?」
「いーや、違うっすよ!俺が受けた命令は...先輩を殺せって命令っすよ。」
納豆丸はコートを脱ぎ棄てて姿勢を低くし、脚に力をためて一直線にゴゴに向かって飛びかかった。その速度はレイジたちでも反応が遅れる程だった。
ドゴォッ!!
納豆丸の瞬速の膝蹴りをゴゴは手で受け止めた。しかし威力が大きく、ゴゴは地面をズザザザッとこすりあげながら後方へと動かされた。
「ゴゴ!!」
レイジは振り向いてゴゴを見た。自身も加勢しようかと刀に手を置いたところだった。それを見たゴゴは、
「来るな!これは俺の勝負だ!邪魔はさせない!」
といい納豆丸の膝を持ち上げて自身の後ろへと投げ飛ばした。納豆丸は空中で華麗に体制を整えて着地した。その着地の隙をゴゴは見逃さずにストレートパンチを浴びせた。
「ウハハハ!そんな見え見えの隙に飛び込むなんて、先輩やっぱとんでもなく弱いんすね!!」
納豆丸はゴゴのパンチをスルッと避けて反撃の回し蹴りをゴゴの首にぶち当てた。ゴゴはそのまま大きく飛ばされて木々をなぎ倒しながら吹っ飛んだ。
「ありゃまぁ、こーんなに弱っちいと、ホントに殺しちゃうかもなー。」
納豆丸はタンタンとステップを踏んで準備運動を始めた。姉御はそれを見て、
「...あの納豆丸ってやつ、強いね。」
と言った。レイジはうなずいた。
「確かに、あんなにも華麗に動ける上に回し蹴りの威力がすさまじい。無駄な動きが一切ないね。しかも彼はまだまだ全然本気じゃないよ。彼にしてみればほんのじゃれ合いみたいなものだったのかもしれない。」
レイジは納豆丸をじっくりと観察したが、彼の強さは計り知れなかった。
「うぐぐぐ!いてぇ!」
ゴゴは起き上がり、また直線的に近づき、パンチを繰り出した。納豆丸は上体を反らして回避し、地面に腕をつけて両足でゴゴのあごを蹴り上げた。ゴゴはまともに食らってしまい、口から血を流した。
「えっ...マジでこんなもんなんすか?先輩?弱いにもほどがあるでしょ?」
納豆丸は落胆した様子だった。
「うるせぇ!まだまだ全力はこれからなんだよ!」
ゴゴはそう言って納豆丸にラッシュ攻撃を繰り出した。納豆丸はその攻撃を全て華麗に避けた。
「まだまだぁ!!」
ゴゴのラッシュ攻撃はさらに速度を増していく。しかしそのすべてが空を切り裂くむなしい音しかならなかった。
「せんぱーい?これじゃ子供の喧嘩ごっこの方がまーだ緊張感あるって感じなんだけどー?」
納豆丸は戦いの最中に鼻をほじりながらからかった。ゴゴはさらにさらに速度を増して攻撃した。
「うおおおおおおおおおおおお!!!」
ゴゴは全力でラッシュ攻撃をした。しかしやはり納豆丸にはかすりもせず、さらにはあくびまでされていた。
「うっそぉ!それで全力って感じ?...ハァーーッ...とーーーーーんでもなくがっかりだよ。」
納豆丸はため息をついてゴゴのラッシュにカウンターの蹴りを顔面に食らわせた。ゴゴは吹き飛ばされてレイジたちの近くへと飛ばされた。
「ゴゴ!」
レイジが駆け寄るとゴゴは手を払いのけた。
「悪いなレイジ、この勝負は、誰の手も借りたくねーんだ!」
「そんなこと言ったって、このまま続けても勝ち目なんてありゃしないだろ?」
「そうだな!あと1000回戦っても勝てねーな。でもな、とんでもなく楽しいんだ!!つええ奴と戦うってのは、俺の全身が震えあがるほど最高なんだ!」
そう言ってゴゴは再び納豆丸にイノシシの様に飛びかかった。そしてまたしても吹っ飛ばされた。
「もう無理だよ!こっちには姉御っていう最強兵器もいるんだ!それに頼ってもいいじゃないか!死ぬくらいなら頼った方がましだろ!!」
レイジはゴゴの説得を試みたが、ゴゴは聞く耳を持たず再度飛びかかり、コテンパンに打ちのめされて吹っ飛ばされた。ゴゴの体からは大量のあざと、出血をしていた。
「もう無理だって!見ているこっちが痛々しくて見てらんねーよ!お前の戦い方がへたくそ過ぎてイライラしてくるよ!」
「そりゃ、悪かったな。俺、戦いは好きだけどよ、上手くはねーんだ。」
「だったら!代わりに俺が...」
「でもなぁ!!いくら死ぬかもしれないからって、勝てないからって、俺の人生から戦いがなくなったら、生きてる意味がねーーーーーーーんだよ!!!!」
ゴゴはそう吐き捨てて血だらけの体を動かして納豆丸に戦いを挑んだ。ゴゴの攻撃はラクラクかわされ、反撃の蹴りはゴゴの体を的確にとらえる。さすがにあんこも見ていられなくなった。
「ねえ!姉御ちゃん!このままじゃホントにゴゴ死んじゃうよ!助けなくていいの!?」
「あんこ、あんたの気持ちは十分わかるよ。でもね、ゴゴを見てみな。あんなにボロボロになってるのに、今までで一番生き生きしてるだろ?それを邪魔するのは、余計なお世話なんだよ。ゴゴの好きなようにやらせてあげな。たとえそれで死んだとしても、あいつにとっては本望だと思うよ。」
「うーーーーーーーー!!わかんないよ!生きてれば闘いよりももっと面白いものに出会えるかもしれないのに!死ぬまで闘うなんて、意味ないよ!」
姉御はそれを聞いてフフッと笑った。
「そうだね。それもまた真実だね。」
「じゃあ!助けに行くの!?」
「それも真実だけど、あたしは助けないよ。ゴゴの考えもまた真実だからね。」
「もう!!どういうことなの!?真実が2個もあるの!?いつも1つじゃないの?」
「真実は、生きている人の数だけあるって事よ。今はまだよくわからないと思うけど、でもね、『本当の答え』なんてないって事は頭の片隅に置いておいてね。」
姉御はあんこの頭を優しくなでてギュッと抱きしめた。あんこは理解できなかったが、とりあえず今は姉御に従うことにした。
「わかんないけど、今は何もしちゃいけないって事?」
「そうだね。それを決めるのはあんこだけど、今はあたしの言うとおりにしてね。」
「うん、わかった。でも、ゴゴが本当に死にそうになったら、助けてあげてね!見殺しなんて絶対やだよ!」
姉御とあんこが話し終わったときに、ゴゴと納豆丸はまだ闘っていた。
「せんぱい?先輩のお仲間さんがギャーギャーゆってんだけど、いーの?ほっといても?」
「今は...闘いに...集中しろ!!」
ゴゴは息を切らしながら言った。
「そんなこと言ったって、これ闘いどころの話じゃないっすよ。遊びにもなってないっすよ!暇っすよ!」
納豆丸は相変わらずゴゴをからかっていた。ゴゴは気にも留めずに闘いに集中していた。
『納豆丸は、目をこちらに向けすらしない。それほどまでに俺と奴との実力に差があるって事か。ハハハッ!燃え上がるじゃねーか!』
ゴゴは心の闘志を燃え上がらせていた。そしてそれが体に現れたのか、ゴゴの攻撃はさらに鋭さを増した。
『...?さっきまで全力だったはずなのに、また一段と速さが増した...?』
納豆丸はゴゴの変化にいち早く気付いた。さっきまでは目を閉じても避けられた攻撃が、少しだけ集中しないと完璧にはよけきれなくなってきた。
「なんですか先輩?さっきが全力じゃなかったんすか?」
「ああ!?なにを言ってるか...さっぱりだな!!俺は...さっきから...全力だぞ!!」
ゴゴは自身の変化に気づいておらず、納豆丸が言っていることが理解できなかった。
『ああ、なるほど。先輩は無自覚なのか...』
納豆丸はそう思いゴゴに反撃の蹴りを顔面にぶち当てた。
ドッッッゴオオオオッ
納豆丸は今までよりもさらに力を込めて蹴った。しかしゴゴはよろめいて数歩後ろに下がるだけで、大したダメージを受けてはいなかった。
「なんだぁ?さっきよりもずいぶんあまーい蹴りじゃねーか!」
ゴゴは再び納豆丸に攻撃を仕掛けた。
『なに!?今までよりも力を入れて蹴ったんだが、なんでさっきよりダメージ受けてないんだ?』
納豆丸は依然としてゴゴの攻撃を簡単に回避しているものの、得体のしれない違和感を覚えた。そして納豆丸は再度ゴゴを吹き飛ばそうと顔面に蹴りを入れた。
ドッッッゴオオオオッ
しかし今度のゴゴはよろめきすらせずに、攻撃を止めなかった。
「どうしたぁ!!こんなへなちょこキックじゃ、かゆいじゃねーか!!」
ゴゴは死にかけの人間とは思えないほど生き生きとしており、その体からは熱気を放っていた。
『この感じ...もしかして...』
納豆丸は心当たりがあった。それは、自分たちは当たり前のことだったが、まさかゴゴがそれを習得していなかったとは思わなかった。
「先輩。もしかして、魂の力を全身に張り巡らせていなかったんすか?」
「ああ?魂の力?なんだそれ?そんなもんあるのか?」
「やっぱり!どおりで弱いわけだわ!」
納豆丸は手を叩いて笑った。ゴゴは意味が分からずキョトンとしている。
「なーに意味わかんねーこと言ってんだ!!続きをやるぞ!!」
ゴゴは納豆丸に襲い掛かったが、納豆丸はサマーソルトキックをゴゴにお見舞いしてゴゴを吹っ飛ばした。
「まあ落ち着きなよ!先輩。とりあえず、今日のところは殺さないでおくよ。面白いもの見せてくれたしね。パパにはいい報告ができるしね。」
ゴゴは流石に体力が尽きたのか、座り込んで話を聞いていた。納豆丸は話をつづけた。
「そして、この村が幻獣によって変わったんじゃないかって推測だけど...ピンポンピンポーーーーン!!!大正解!!幻獣の仕業でしたー!」
納豆丸の発言にレイジは食いついた。
「なにっ!本当に幻獣の仕業なのか!なんでお前がそんなこと知ってるんだ?」
「だって俺がここに幻獣を誘導したんだもん。パパのちなみに!幻獣がどこにいるのかって話だけど、地下にいまーす!」
納豆丸はケタケタと笑いながら言った。
「地下だと?その証拠は?」
「ほい!これあげる!」
納豆丸は何かのスイッチをレイジに放り投げた。
「なんだこれ?」
「そのスイッチを押せば幻獣が目を覚まして地上に出てくるよー。そいつを倒せば村人は元通りになるからねー。」
納豆丸はそう言って手を振った。ゴゴはフラフラで立ち上がった。
「まてーーーー!!まだ...決着は...ついてねーーーーーーぞーーーーーーー!!!!」
「あーはいはい!先輩との決着はまーた今度ね!それまでには今の10倍強くなってて下さいよ!今のままじゃつまんないっすからね!じゃーね!」
そう言って納豆丸はシュッと姿を消した。
「逃げた!?どこへ?」
「とてつもなく速いスピードであっちに逃げて行ったよ。あたしでも追いつけないね。」
姉御はそう言って森の方を指さした。
「...そうか、逃げられたか。...ってかゴゴ!お前、あの納豆丸とはどういう関係だ?お前のこと先輩って呼んでたけど...」
「ああ、納豆丸とは同じ施設で育った仲間なんだ。俺は抜け出してきたけど、パパに言われて殺しに来たみてーだな。」
「それって、ゴゴがその武器を盗んで出てきたからって事か?」
「うーーーん、どうなんだろ?その辺は...ちょっと...よくわから...」
ゴゴは話の途中でばったりと横に倒れてしまった。それを心配したみんなはすぐに駆け寄った。
「ゴゴ!大丈夫か?」
「ああ、さすがに、もう一歩も動けねーや。悪いんだけどよ、幻獣退治はレイジたちでやってくれねーか?あああああああああ!!!やっぱり俺も幻獣退治がしたい!!!回復するまで待ってくれよ!」
レイジたちはゴゴのいつものバカ元気さをみてホッとした。そしてネネが口を開いた。
「まったく、そのうるさい口をふさいであげましょうか?」
ネネは無事でよかったと思ったが、照れ隠しで冗談を言った。
「全くでござるよ!ゴゴが死んだら、拙者は悲しいでござる!だから死んだらだめでござるよ!」
昆布は素直に自分の気持ちを表現した。
「とりあえず、生きててよかったね!ゴゴ!姉御ちゃんの言うとおりだったよ!ゴゴの戦いに手を出さなくてよかった!」
あんこは姉御に抱き着いて言った。姉御は片手でギュッと抱き返した。
「そうだね。今回はあたしの判断がいい方向に向かってよかったよ。ゴゴはとりあえず休んでな。あんたの傷が癒えるのを待てないから幻獣退治は参加できないよ。これは仕方がない事だからね!いうこと聞きなよ!」
姉御はムッとした表情でくぎを刺した。ゴゴは乾いた笑いで返した。