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星の勇者  作者: アシラント
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魔族になる奇病

村長に集会所まで案内されている最中もレイジはゴゴのことを見ていた。


『まさかゴゴが姉御の両親の仇だったなんて...でもゴゴって組手した時から思ってたけど、そんなに強くなかったよな?確かにパワーに関していえばこのチームの誰よりもあるとは思うけど、戦いの強さで言えば無駄な動きが多すぎるし、それに相手がどう動いてくるかを全く予想できてないみたいだったし...』


レイジは心の中で疑問が浮かび上がった。姉御はとても強い。レイジとあんこが束になってもかすり傷一つ付けられないほどに。そんな姉御の両親がレイジよりも弱いゴゴにやられるとはどうしても思えなかった。


『まさか、このなりで卑怯な手を使ったのか?母親を誘拐するし、ありえない話ではないと思うが...そんなに悪知恵が働くのなら今だってその片鱗を見せてもいいはずだが、かけらも感じられない。むしろ知性を捨てて筋肉にすべてをささげているみたいに感じるぞ。いや、それすらもゴゴの演技なのか?本当は賢いのか?』


レイジは考えが堂々巡りになっていた。そんなレイジを気にかけたのは昆布だった。


「兄貴?なんか難しい顔してるけど、何かあったのでござるか?」


「ああ昆布か...」


レイジは自身の考えていることを話そうとしたが、まだ内面をよく知らない者にこの秘密を話しても良いものかどうかを考えた。そして出して結論はまだ言わない事だった。


「...いや、なんでもないさ。」


「ふーん、そうでござるか。」


「なあ、昆布はどうして俺たちについて来ようと思ったんだ?俺が勇者だからか?」


レイジは単刀直入に聞いた。


「そりゃ、兄貴たちしか頼れる人がいなかったでござるし、それに食べ物をくれた恩人でもあるでござるからね!なにかしら恩返しをしたいと思ってついてきたでござるよ。...もしかして、信用できないでござるか?」


「まあ、今のところは怪しい所しか見えてないからなー。姉御は昆布のことを認めているらしいけど、俺はやっぱりちょっと怖いよ。もしかしたら姉御やあんこに危害を加えるんじゃないかって思うからさ。」


レイジは正直に話した。昆布はケラケラと笑った。


「だーいじょうぶでござるよ!兄貴!拙者は恩義を忘れない男でござる!」


昆布は胸を張って言った。


「...そういう自信満々なところが怪しいんだよなぁ。」


レイジは昆布に聞こえないほど小さい声で呟いた。




そんな話をしていたら集会所についた。集会所は大きな建物だった。ほかの一軒家に比べて3倍近くあり、4階建てとなっていてさらに屋上があった。そして屋上には金色に輝く大きな鐘があった。


「ここが残された者たちが住む場所でございます。」


「へえ、思ったよりもずいぶんと大きいな。ここには何人くらいの人が集まっているんだ?」


「だいたい50人程度です。ほかにも村人はおりますが、その者たちは自身の住んでいた家におります。」


レイジたちは早速中に入った。中には様々な種類の魔族が居た。羊の様にもこもこした毛が全身に生えている魔族や、こうもりの様に天井にぶら下がっている黒い魔族や、トラ模様の毛皮をして鋭い牙を生やした魔族などが居た。彼らはレイジたちに出会うたびにギョッとした表情を浮かべた。


「うわぁ!に、人間!?」


「落ち着くのじゃ。このお方は先日テレビで報道されとった勇者様の一人じゃ。わしらのことはもう伝えておる。この奇病の原因を探るために手を貸してくれるそうじゃ。」


村長が説明すると、その全員が両ひざをついて祈るようにレイジたちを見上げた。


「ああ!勇者様!どうか我らをお救い下さい!」


「この村はもうおしまいです!魔族の子の呪いであたしたちはみんな殺されてしまいます!」


「どうか原因を突き止めてください!もう私たちだけではどうする事も出来ないのです!」


「どうかお力添えを!!」


魔族になった村人はそれぞれの思いを口に出し、目に涙を浮かべながら言った。あんこはその村人ひとりひとりの手を取って「大丈夫だよ!」「わたしが助けるから!」「もう安心して!」と全員に言った。


「どうか私に強い敵と戦わせてください!もうあなたしか頼れる人はいないのです!」


「大丈夫!安心して...って、ゴゴ!?なにやってるの?」


ゴゴはあんこに懇願した。


「なにって、なんかみんな自分の願い事をかなえてもらおうとしてんだろ?だったら俺も乗っかろうかなってさ!!」


「うーん、ゴゴの願いはかなえてあげられないかもなー。だってわたし強い人なんて姉御ちゃんしか知らないもん。ごめんね。」


「うわあああああああん!!そんなあああああああああ!!」


ゴゴはこの中にいる人物の中で一番泣いていた。姉御はやれやれと首を振り、


「あんこ!こんなバカは相手にしなくていいよ。それよりも、あんたたちが調べた限りの情報が欲しいね。」


姉御がそういうと、村人の一人が立ち上がり奥の部屋へと行き、カルテを持ってきた。


「これが無くなった医師が原因を探していた時に書いていたカルテです。こちらを読めばだいたいは分かるかと...」


姉御は礼を言ってからそのカルテを読んだが、書かれている内容は初めは患者の容態を記していたが、後半からは原因を突き止められない事による医師の焦燥(しょうそう)と、次々に死んでいく村人に対しての懺悔(ざんげ)の気持ちと、誰一人救えない医師としての自分の力不足に絶望していることを書いていた。


そして最後のページには『私も体中が痛んできた。これは医師として力不足な私に対する(ばつ)だろう。それに、10数年前に魔族として生まれてきたあの子の呪いだろう。そうだ!呪いに違いない!私が医師として救えないのは当たり前なんだ!私は悪くない!呪術なんてどうする事も出来ないだろ!私は悪くない!私は...死ぬべき無力で無価値な人間だ。』と書かれていた。


「ふーん。なるほどねぇ。」


姉御はそれを読み終わり、ちょっとだけ考えた。


「なにか分かったのか?姉御?ってか俺にも見せてくれよ。」


レイジは姉御からカルテを渡されて読んだ。そしてレイジが感想を言う前に姉御が口を開いた。


「これはおそらく病じゃないねぇ。」


姉御がそういうとレイジは頭の上に『?』をだした。


「なんでそう言い切れるんだ?だんだんと姿が変わっていくのなら病だって思った方が自然じゃないのか?」


「まあ、普通ならそう感じるだろうけどね。でもあたしにはわかるのよ。これは病じゃなくて、幻獣による攻撃なんだってね。」


姉御はドヤァとした表情でレイジに言った。


「幻獣の攻撃だって!?」


「ああ。あたしはこれによく似た事例を知ってるんだよ。その村では人間がブタに変わっていってそして死んでいく村があったんだ。その正体は幻獣の仕業だったんだ。」


「そうなのか。...でも、なんで幻獣は人々の姿を変える必要があったんだ?殺すならもっと直接的に殺せばいいんじゃないのか?」


「それは...よくわからないけど...でも幻獣はそういう回りくどい事をするんだよね。あたしも詳しくは知らないけど。」


姉御がそういうと村人の顔色はパァっと明るくなった。


「ま、まさかこんなにも早く原因がわかるとは!お願いします!その幻獣を退治してください!」


村人たちはレイジたちに膝をつき、頭を地面につけてお願いした。レイジの心にはあまり響いていなかった。


「別にお願いなんかされなくても倒しに行くけどな。お前らがどうなろうと知ったこっちゃないし。むしろネネにひどいことしてたお前らなんか死ねっておもうよ。」


レイジの非道な発言にあんこはプンプンと怒った。


「こら!レイジ!人に向かって死ねなんて言っちゃダメなんだよ!ヒーローはいつでも弱い者の味方なんだからね!」


あんこは両手を腰に当ててほっぺを膨らませながら怒った。それに便乗するように姉御も言った。


「そうだよレイジ。いくら心の中でそう思っていたとしても、言ってはいけない事はあるもんだよ。どうしても我慢できなくなったらせめて彼らのいないところで言いなさい。あたしはあんたの味方だからね。何でも聞いてやるさ。」


「...悪かったよ。ちょっと感情的になっちまった。普段は感情的になる事なんてないから、抑えきれなかったよ。...まだまだ子供だなー。俺って。」


レイジは反省して頭を下げた。


「そうだな!レイジは子供っぽい所があるな!なあ昆布!」


「そうでござるねぇ。自分の感情を自由に表現できるなんて、羨ましいでござる。」


ゴゴと昆布はコウモリの魔族と同じように天井に足の裏を張り付けながら言った。レイジは流石に突っ込まざるを得なかった。


「おいゴゴ!昆布!お前ら二人にだけは言われたくないな!ってかどうやって天井に張り付いてんだよ!?なんで?何のために?お前らの行動はマジで意味わからんぞ!」


「どうやってって...おいおいレイジ!この俺の最強の幻獣の能力を忘れちまったのかぁ?くっつく能力だぞ!これで足の裏と天井をくっつけてんの!!」


「拙者はこの右手につけた『這いずる恐怖』を天井に刺して逆さになっているでござる!」


「昆布の武器の名前って、そんな名前だったのか...じゃなくて!なんで天井に逆さづりになってんだよ!」


「なぜ?...なんでなんだ?昆布?」


「さあ?暇だったから...でござるか?」


二人は顔を見合わせてお互いに首をかしげた。二人ともなぜそうなったのかよくわかっていなかった。その意味のない行為にレイジは理解ができなかった。


「なん...だと?能力のトレーニングとか、武器の扱いがうまくなる為とかそういう理由はないのか?」


「ああ!その理由はかっこいいな!じゃあそれで!」


「拙者もそれがいいでござる!」


二人はイエーイ!とハイタッチをしてニッコニコで降りてきた。


「おい昆布!どうだ?俺、強くなったか!?」


「うおおお!見違えたでござるよゴゴ!いいトレーニングだったでござるよ!」


二人はキャッキャと騒ぎながらお互いを褒めまくった。実際には一ミリも強くなっていないのだが、二人はノリと勢いだけで会話していた。


「...なんなの?この二人の中身のない会話。」


レイジは困惑していた。しかし、心の奥底では少しだけ羨ましいという感情が芽生えていた。


「ええーー!!それで強くなれるの!?じゃあわたしもやるーーー!!」


あんこは彼らの言動に騙されて天井に張り付いた。


「なに!?あんなにもラクラクと天井に張り付くだと!?グググッ、負けてらんないな!昆布!」


「ああ!そうでござるね!こんなにも早く、天上張り付き選手権にライバルが登場するとは...頑張るしかないでござるよ!」


二人は「「うおおおおおおおおおおおお!!!」」と言い、再び天井に張り付いた。そして姉御は思った。


『この三人、混ぜると危険だな...』


姉御は冷静に分析した。しかし、あんこの嬉しそうな顔を見て、姉御は安堵(あんど)した。


『あんこがあんなにも嬉しそうにしている...たしかにあの子には難しい話よりも、こういうバカを一緒にやれる友達が必要だったのかもね。』


と姉御は思った。




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