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星の勇者  作者: アシラント
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村に入る

「とりあえず、この村に入ろうか」


レイジは黒く頑丈そうな門を指さして言った。姉御はうなずいて答えた。


「そうね。この村に魔王の手掛かりがあればいいのだけど」


「そういえばそれを探すためにここまで来たんだったな。すっかり忘れてたぞ!」


ゴゴはガッハッハと豪快に笑いながら言った。そして笑い終わった後に少し考えた。


「......ってか、魔王を探すんなら魔族の住む大陸に行った方が速いだろ?強い奴もたくさんいそうだし」


ゴゴはなかなか鋭い意見を言った。それに対して姉御は被せるように言った。


「駄目に決まってんでしょ!......あんたは魔族をあんまり知らないから、そんなのんきな事言ってられんのよ。魔族っていうのは、人間と同じぐらいの知能があって、人間以上に筋力があって、何よりも魔王を頂点とした結束力はとんでもないのよ!」


「ああ。知ってるよ。」


「知ってて行きたがってんの!?あんたどういう神経してんのよ!」


「強い奴!戦う!楽しい!」


姉御はゴゴのバカさ加減にあきれてしまった。そしてムッとした表情でゴゴに言い放った。


「あのねぇ!!魔族っていうのは、今のあんたよりも強い奴が一般兵として大量にいるのよ!あんたも人間の中じゃ相当強い方だけど、魔族にとってみれば5歳の子供みたいなもんなの!」


「そうだろうなー」


ゴゴはうんうんとうなずいた。その素直な態度が余計に姉御を怒らせた。


「17年前の戦争だって!勇者が現れなかったら、人類は今頃絶滅していたのよ!そんな化け物たちと戦うなんてあたしは絶対に許さないからね!」


「でもあっちから戦争を仕掛けてきたんだから、いずれ戦争になるでしょ?」


「だとしても!今はこの人類の大陸でじっくりと力を蓄えていくから!」


「えええええええええ!?」


「問答無用!」


姉御は腕を組みキッとゴゴをにらみつけた。ゴゴはしぶしぶ頷いた。それを見ていたレイジはハハハッと笑いながら姉御に話しかけた。


「まあ、俺たちは魔族がどんだけ強いかなんてわかんないけど、姉御がそこまで言うんだったら相当強いんだろうな。俺は力を蓄えるっていう考えに賛成するぞ。」


「あ!あたしも!」


「拙者も!」


あんこに続くように自然と名乗り出た昆布に一同は思わず目を向けた。昆布は驚き戸惑いながらレイジたちをきょろきょろと見渡した。


「......な、何でござるか?」


「もしかして、昆布、お前も付いてくる気なのか?」


レイジは昆布の顔を覗き見るように聞いた。昆布はキョトンとした顔をして答えた。


「そりゃあ、もちろんそのつもりでござるが......もしかして、迷惑でござるか?」


「迷惑っていうか、そんな話してなかったから......」


「じゃあ、今お願い致すでござる!拙者をレイジ殿たちと一緒にその旅へと連れて行って欲しいでござる!」


昆布はあぐらの姿勢のまま、両手と頭を地面に当てて土下座の姿勢で頼んだ。その様子にレイジは姉御の方を見た。姉御は少し考えこんでジッと昆布を見た。そしてフウッとため息をつくと昆布に話しかけた。


「しょうがないねぇ。いいよ。」


「姉御!?本当にいいのかよ?こんな初対面同然の奴を仲間にするなんて......」


「別に仲間にするわけじゃないのよ。旅に同行させるだけ。仲間にするかどうかは、その旅の中で決めさせてもらうわ」


「うーん、だとしても不安だな。もしかしたら昆布は魔王軍が送り込んだスパイだったりするんじゃないのか?」


「もしそうだったとしたら、あたしが責任をもって殺すよ。」


姉御はゴゴの時と同じように覚悟の決まった笑顔で言った。その笑顔を見せられたら、レイジは何を言っても無駄だということが分かるので渋い顔だけした。


「姉御が、そういうなら、まあ、仕方ないけど......」


レイジはしぶしぶ了承した。


「殺すだなんて、恐ろしいでござるなー。拙者は魔王軍のスパイなんかじゃないでござるよー!」


昆布はへらへらと笑いながら言った。その緊張感の無さにレイジは『スパイって感じじゃねーな』と思った。


「まあいいや。とりあえずこの分厚い門を開けてもらわねえとだしな。誰かなんかいい作戦とか持ってない?」


レイジはみんなに聞いた。すると姉御が答えた。


「そうだねぇ、まずは普通にインターホンでも鳴らして正面から挑んでみたらいいんじゃないの?」


姉御は常識的な答えを言った。次にあんこが答えた。


「あたしが飛び回って入れそうな穴が無いか見てくるよ!大丈夫!前みたいに煙突に挟まって動けなくなったりしないから!」


あんこは自身の飛べる能力を使おうと言った。次にゴゴが答えた。


「扉を殴って壊す!!」


ゴゴは脳筋的な解決策を言った。次に昆布が答えた。


「3日待っても無駄でござった!待つのはダメだと思うでござる!」


昆布は選択肢の一つを消した。そして最後にネネが答えた。


「...私が脱出に使ったトンネルがまだ残ってるかも。それを使えば侵入できるかも。」


ネネは最適な案を出した。


「よし!それ採用!」


レイジは即決した。その様子にネネは少し不安そうだった。


「でも、まだそこが使えるかどうかわからないし、それに、あのトンネルは......」


ネネは言い(よど)んだ。レイジはその様子を疑問に思った。


「そのトンネルがどうかしたのか?」


「......下水道なの。それも人がギリギリ通れるような狭い所なの。だから...できればそこは使いたくないなーって...」


ネネはものすごくイヤそーーーな顔をして答えた。その答えを知ってレイジもイヤそーーーな顔をした。


「うげっ!それは嫌だなぁ!」


「でしょ?だからほかの案の方がいいかもって思ったの。」


レイジはうーんと考えてから答えた。


「じゃあ、一旦ゴゴ以外の案をやってみよう。それでどうしても見つからなかったらネネの案をやろう。...やりたくないけど。」


レイジは苦い顔をした。その答えに対してみんなは「了解!」と答えて各自で取り組んだ。そしてゴゴはレイジに聞いた。


「なあレイジ、なんで俺の案だけ却下なんだ?手っ取り早いだろ?」


「そりゃあ、門を破壊して侵入したら敵だと思われるだろ?そしたら魔王軍についての情報が聞けなくなるだろ?」


「だから門を破るんだよ!相手が俺たちを敵だと思えば攻撃してきて戦いになるだろ?俺は戦いがこの世の中で一番好きなんだ!そうなりゃ最高だろ!!!」


ゴゴは体をウッキウキさせながら言った。レイジは苦笑いをした。


「ゴゴ、お前って本っ当に戦いしか頭にないんだな。」


「わっはっは!そんなに褒めないでくれよ!照れるじゃねえか!」


「別に褒めてねーよ!」


ゴゴとレイジが漫才をしている間に調査を終えたみんなが帰ってきた。そして姉御から報告をした。


「インターホン鳴らしたら村長が出て、事情を話したら門を開けてくれるって。」


「「「「えっ?」」」」


レイジ、あんこ、ネネ、昆布は口をそろえて言った。ゴゴは「なんだよー!たたかえないのかよー!」と愚痴を言っていた。


「ちょっと待て。昆布の時は3日待ってもダメだったんだよな?なんで今はいいんだよ?」


レイジは姉御に聞いた。


「あたしたちが勇者候補のうちの一人だって言ったら長い沈黙の後に『ならば仕方ありませんなぁ。』って言って開けてくれることになったわ。」


それを聞いた昆布は嫌悪感丸出しの顔をした。


「...勇者に選ばれた人限定か。腹が立つでござる!」


昆布がムカついていると門は大きな音を立てて開かれた。ネネは反射的にフードをかぶった。それを見たレイジはネネに話しかけた。


「ネネ。お前は外で待っていてくれ。もし不安なら誰か付き添いをつけようか?」


レイジは思いやりのある言葉を言った。そんなレイジを見てネネは少し落ち着いて言葉を返した。


「ううん。大丈夫。ごめんね、気を遣わせちゃって。」


ネネはレイジに対する感謝と申し訳ない気持ちが両方湧いてきた。それをレイジは汲み取って、笑顔で返した。


「そうか?なら、付き添いは付けないけど...じゃあさ!もしも俺たちの助けが欲しいときは、これを使ってくれよ!」


レイジは小型のスイッチを手渡した。ネネはそのスイッチをまじまじと見た。


「これは?」


「これは俺たちの通信機に非常事態を知らせるスイッチさ。あいにく通信機は俺とあんこと姉御しか持ってないからその3人しかわからないけど、そのスイッチを押せば俺たちが駆けつけるからな。俺たちの助けが欲しかったらいつでも押してくれよ!」


レイジはそう伝えてネネに手を振って開かれた門の中へと入って行った。ネネはそのスイッチを握りしめてフフッと笑った。ネネが人間のやさしさに触れたのは両親以外だとレイジが初めてだった。ネネは少しだけレイジたちに対する警戒心を解いた。







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