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星の勇者  作者: アシラント
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こわきのこんぶ

「それで、昆布はなんでこんなところにいるんだ?」


レイジは純粋な疑問を投げかけた。昆布は「うむ!」とうなずいてから話し始めた。


拙者(せっしゃ)、ヒノマルの街から逃げ出してきたのでござる。」


「逃げ出した?なんかあったのか?」


「うむ、実は......。」


昆布は少し暗い表情になりながら話した。


「仕事がいやになって逃げだしてきたのでござる。」


昆布は苦しい表情を浮かべて語り出した。


「毎日毎日おんなじ仕事をひたすら繰り返して、嫌いな上司にガミガミ言われて、武士ゆえに休みの日でも何かあったら職場に向かわなければいけない、挙句の果てに給料が安い!不満ばかりだったゆえ、勢いで飛び出してきたのでござるよ!」


昆布はすっきりした表情で言った。レイジはポカーンとしていた。


『仕事って、そんなにつらいものなのか?』


レイジは今まで自給自足の生活しかしてこなかったので、仕事の悩みが理解できなかった。しかし姉御はうんうんと深くうなずいた。


「昆布って言ったっけか?あたしにはよーーーーく分かるよ!あんたのその悩みっていうのが!そうよね!やりたくない仕事を続けるのは苦しいわよね!」


姉御は昆布の肩に両手を置いてうんうんとうなずいた。昆布は理解された喜びに目をウルウルさせて手で押さえた。


「......まあいいや。それで、なんでここに倒れてたんだ?」


「ああ、それは勢いで飛び出したせいで何にも持っていなかったから食べ物が無くて死にかけたのでござるよ。」


昆布はニコニコしながら明るく答えた。その様子にあんこは驚きつつも感心した。


「死にかけてたっていうのにすっごく明るいんだね!すごいね!」


あんこは昆布の周りをふわふわ飛び回りながら言った。昆布は照れて頭の後ろをかいた。


「そんなに褒められたのは生まれて初めてでござるよ!いやはや、嬉しいものでござるなぁ!」


「...それで、なんでここに逃げてきたんだ?それも勢いってやつか?」


「いえいえ!それにはちゃんとした理由があるでござる!」


「へぇ!ちゃんと考えてたんだ!じゃあ聞くけど、その理由は?」


「海沿いに移動したら見つけたでござる!」


昆布はニッコニコで答えた。レイジはその間抜けすぎる発言にあきれてしまい「あっ、そう。」と軽く返事をするだけだった。姉御はすこし考えた後に昆布に聞いた。


「海沿いに......確かにヒノマルの街は海沿いに行けばあるけど、かなりの距離があるはずよね。まさか歩いてきたなんて言うわけじゃ......。」


「歩いてきたでござる!」


昆布はにっこりとほほ笑んだ。その回答に姉御は絶句した。


「......じゃあどうしてここに来たんだ?」


「別に理由なんてないでござる。海沿いにひたすら歩いてただけでござるよ。そしたらたまたまここについただけでござる。」


「ああ、そうなのか。じゃあ最後に聞きたいんだけどよ、その腕に()けている丸い筒状の奴は何だ?」


レイジは昆布の右腕の方を指をさして聞いた。その腕には赤い色をした筒状の物があった。


「ああ、これでござるか。これは拙者の武器でござる!」


昆布はそう言うと筒状の中から勢いよく何かが飛び出した。


「うお!」


レイジは驚いてとっさに後ろへと飛んだ。筒から出てきたのはとても長ーい足のついていないムカデの様なものだった。色は黒く、形は矢印(➡)が何枚も重なって(つら)なったような形をしていた。ナイフのように薄く、横幅は昆布の腕くらいあった。


「なんだそのかっこいい武器!蛇腹剣(じゃばらけん)みたいだな!かなりでかいけど!」


レイジは興奮しながら言った。昆布はフフーンと自慢げに鼻を鳴らしながら答えた。


「まあ、蛇腹剣に似ているけれど、こいつの強さは自由自在なところでござるよ!こいつには中心のアンカー部分に筋肉の様なものを仕込ませているからまるで生き物のように動くでござる!」


そう言って昆布はその武器を自在にくねらせた。地面を這うムカデのように動かしたり、天を上る龍の様に動かしたり、敵をにらみつける蛇の様に動かしたり、水を泳ぐウナギの様に動かした。その変幻自在な様子にレイジ、あんこ、姉御はくぎ付けとなり、まるでサーカスを見ているような気分になった。


「うおーー!!すげえ!!」


「わぁー!!かわいい!!欲しいなぁ!」


「これは、見たことも無いねえ。」


レイジ、あんこ、姉御の三人はそれぞれ驚きと感心の声を上げた。


「ゴゴ!お前も見てみろよ!」


レイジはゴゴに振り向きながらそう言った。ゴゴは不敵に笑いながら舌を出して口からよだれを垂らし、目玉が飛び出るくらい周りの様子をうかがっていた。その口から漏れ出る声は「てきぃぃ、てきはどこだぁ?」とまるで獲物を探す腹ペコの野犬のような姿をしていた。


「お、おいゴゴ。敵はいないっぽいぞ?」


レイジはゴゴの肩に恐る恐る触れて言った。ゴゴは狂った笑みを浮かべながらギュルンとこちらに顔だけを向けると、だんだんとその笑顔が薄れていき次第に悲しそうな顔を浮かべた。


「てき......いない......?」


ゴゴは子供みたいな声を出して聞いてきた。レイジは戸惑いながら首を縦に振った。するとゴゴは顔をうつむけて落ち込み、体育座りをしていじけた。


「てき......たたかいたかった。」


ゴゴは今にも泣きだしそうな声で言った。レイジは『なんだこの気持ちの悪いおっさん』と内心思った。その様子にあんこはあたふたしながら言った。


「だ、大丈夫だよ!ゴゴ!敵ならまたいっぱい出てくるから!......たぶん。」


あんこは精いっぱいゴゴを慰めた。するとゴゴの表情はパァっと明るくなり「ほんとか!!?」と聞いてきた。あんこは額に汗を流しながらうなずいた。その様子を見ていたレイジはあんこに近づき耳元でささやいた。


「そんなこと言って大丈夫か?何の根拠もない嘘は、すぐ見破られて逆に落ち込ませるぞ?」


あんこはその言葉がグサッと心に刺さって表情がこわばった。そして困った顔で「だって~......」と言った。しかしそんな二人の心配をよそにゴゴはテンションを上げていった。


「よぉぉぉぉぉぉっし!!!それならやる気がわき出てくるぜ!!!」


ゴゴは両手を握りバンザイのポーズをとり叫んだ。そして昆布の方を向いて驚いた。


「うお!?蛇みたいなムカデみたいな生き物がいるぅぅぅ!!?」


『今気づいたのかよ。』とレイジ、あんこ、姉御は心の中で思った。昆布も少し唖然としていた。


「あ、ああ。君はまだ見ていなかったのでござるか。」


昆布はゴゴの為にもう一度その武器の説明をした。そして自身のいきさつも話した。


「なるほど。勢いでここまで来たって事か。」


ゴゴは昆布の話を理解した。


「そうでござる。だからこの村の入り口まで来たのでござるが、どれだけ門をたたいても誰も反応してくれなかったゆえ、ここで待っていたら飢え死にしかけたでござる。」


「ここで待ってたって、どのくらい?」


レイジは聞いた。


「だいたい二日ほどでござる。この門を通る者が居たらその者から食べ物を分けて頂こうと思ったのでござる。しかしずっと待っていたのに誰一人ここの門を通らないのでござるよ。」


「それはおかしいわ。」


昆布の言葉をさえぎるように言ったのはネネだった。


「私が居た頃のこの村は活気にあふれててほかの村との交流も盛んに行っていたわ。村の入り口から誰一人出てこないなんてあの頃は一日も無かったことよ。」


ネネは昔のことを思い出して苦い表情を浮かべながら言った。その表情を見てレイジは聞いた。


「あの頃って、ネネの両親がなんかあったって言ってた頃のやつ?」


レイジの質問にネネはグッと胸を押さえた。苦しい記憶を思い出して胸が痛くなっているからだった。そして深呼吸をして頭をブンブンと振り払い、冷静さを取り戻して答えた。


「......ええ。私が魔族として生まれたことを呪いだといって、私のことをいじめ、(さげす)み、拷問して、殺そうとした村よ。そして私を愛してくれたパパとママも魔族に洗脳されたって言われて、地下牢に連れていかれて酷い拷問を受けたわ。そしてそこから抜け出そうとしてパパが(おとり)になって......」


ネネの発した言葉はだんだんと震えていき、最後には言葉を発せなくなっていた。それを見たレイジたちは言葉を無くした。あまりにも悲惨な過去に心を痛めていた。そしてあんこはネネに近づきそっと抱きしめた。


「ネネちゃん。なんてかわいそうなの。」


あんこは涙を流した。しかしネネはそれを振り払った。そしてとても気まずそうに言った。


「ご、ごめんなさい。わたし、近づかれるのが怖いの。その、昔の記憶を思い出してしまって......」


ネネはうつむいて謝った。あんこは首を横に振って「私の方こそごめんね。いきなり抱きしめちゃって。」と言って謝った。その様子を見ていた姉御はあんこの肩に手を置いて話した。


「ま、大丈夫よ。これから一緒に旅をして、少しづつ私たちを知っていけばね。」


姉御は慈しみの笑顔を浮かべながらネネを見た。ネネはまだ気まずそうにしていたが、ゆっくりとうなずいた。


「よーーーーし!なんか話もまとまったみたいだし、さっさと村の中に入ろうぜ!」


ゴゴはデリカシーのかけらもないほど大きな声と笑顔で言った。レイジたちはため息をついて一発ずつ殴った。


「いてっ!なんだ?俺と戦いたいのか!?」


ゴゴは二カーッと笑って拳を握って構えた。レイジはあきれてまたため息をついた。


「ゴゴー、お前少しは空気を読めよな。今はそんなふざけてる場合じゃないんだよ。重たい話をしてたんだぞ?全く。お前の頭の中は戦いしかないバカなのか?」


「おいおい!そんなに褒めるなよー!照れるじゃねーか!」


ゴゴは戦いバカと言われたことが嬉しかったらしく、笑顔を見せている。


「褒めてない!全く褒めてない!」


レイジは眉間にしわを寄せて怒った。そんなばかばかしいやり取りにネネはクスッと笑った。それをあんこは見逃さなかった。


「あー!ネネちゃん笑ったね!少しは気分転換になったのかな?よかったー!」


あんこもにっこりと笑った。そういわれたネネはハッとして恥ずかしそうにマントのフードをかぶった。






キャラクター紹介


「子分昆布」


いつも明るく場を盛り上げるムードメーカーのような存在。バカっぽく見えるが意外にも頭の回転は速く、いざというときには頼れる存在。


その姿はまさに武士!といった姿をしており、かなり顔が老けている。赤い色が好きなようで、髪も鎧も兜も赤い。彼の武器は右手の下面に付けられた、鞭のように長くワイヤーのように巻き取ることも可能。


形は薄っぺらく、矢印の先っぽの方が何枚も繋がったようになっており、まさにムカデのような形をしている。相手をのこぎりの様に切りつけて攻撃をする。


形をロックすれば、伸ばさずに扱うことも可能。さらに一つ一つの節に筋肉の様なものが備わっており、一直線に伸ばすだけでなく、伸びている最中に軌道を曲げることも可能である。


また、傷つけないように両端を折りたたんで一本のワイヤーにすることも可能で、見た目以上に使い勝手がいい。


昆布自身の戦闘能力も高く、弱い相手なら大勢で来ても返り討ちにできる。強い相手には彼の武器を駆使してトリッキーな戦いを挑んだりできる。


しかし彼の性格はあまり戦いを望む方ではない。ただし、相手がこちらに危害を加えてきたのなら容赦なくその命を奪う。

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