ネネ奪還戦⑦
納豆丸にぶっ飛ばされたゴゴは木々をなぎ倒しながら吹き飛んでいき、ズサァーッと地面に体を擦りながら止まった。
「うぅぅ、いてててて!かなり遠くまで吹き飛ばされたな。」
ゴゴはむくっと起き上がり、周囲を確認しながら言った。そしてすぐに納豆丸とサライヤンが到着した。
「あれ?意外と飛ばなかったっすねぇ。...先輩、まーた太ったんすかぁ?」
「ガーッハッハッハ!!まあな!俺の筋肉は無限大だからな!!!」
ゴゴは高笑いしながら言った。 サライヤンはフッと笑った。
「俺様との戦いでさらに筋肉を増したか。」
「ああ!!やっぱり実践の方が筋肉が喜ぶぜ!!」
ゴゴはキラリと光る白い歯を見せながら笑った。そして納豆丸がサライヤンに聞いた。
「...ところで、先輩と戦うのは、二人でってことっすか?それだと一瞬で決着つきそうっすねぇ。」
「...確かにな。じゃあ、一対一で戦うことにするか?」
「おっ!いいっすねぇ!じゃあどっちが先輩と戦うか、じゃんけんでもしますか!」
「ああ!」
そう言って納豆丸とサライヤンはじゃんけんをして、納豆丸が勝った。
「イエーイ!!じゃあ先輩とはタイマンで行かせていただきますねー!」
納豆丸は嬉しそうに少しお辞儀をして言った。サライヤンは少し不服そうに「ああ。」と言って腕を組んで木に寄りかかった。そしてその間ゴゴは入念に準備運動をして待っていた。
「よーし!!行くぞ!!!納豆丸!!!!」
「へへへ!見せてくださいよ。強い先輩を...!」
そう言って両者は互いに地面を蹴り勢いよく近づき、拳と拳をぶつけて戦いを開始した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
レイジと姉御はいまだに魔王と戦っていた。
「はぁ、はぁ、クソッ!」
レイジは息を切らして魔王と一定の間合いを保っていた。姉御は少しだけ息を切らしながらジッと魔王の動きを観察していた。
「この動き...あたしに似ている...?」
姉御はそうつぶやいた。そしていったいどう攻めようかと悩んでいたところにあんこが現れた。
「姉御ちゃん!!レイジ!!...良かった!無事なんだね!」
姉御の背中側からフワフワと浮きながらあんこは登場した。その姿を見て姉御とレイジは驚き、姉御が言った。
「あんこ!?なんでここに...?」
「あたし、ここに強い何かを感じたの。そして姉御ちゃん達が心配になって...そしたら昆布が裂虎を足止めするから行けって!だから来たの!」
そう言ってあんこは姉御の隣に立った。そして魔王はあんこの姿を見ると少し驚いたように見つめ、つぶやいた。
「...そう...だよね。そりゃあ、行くよね。」
魔王はそう言ってフッと、微笑むような恥じらうような残念がるような、そんな複雑な感情の詰まった笑いをした。そして魔王はフゥーっと息を吐いて言った。
「...三対一か。さすがにこのままでは分が悪い。私も、武器を使わせてもらおう。」
魔王はそう言って自信の右手に力を込め、バッと右に手を突き出した。すると右手の先から謎の黒く丸い穴のようなものが空中に現れた。魔王はそこに手を突っ込み、何かを掴み、勢いよく引っ張り出した。それは薙刀だった。
その薙刀を見た瞬間、姉御、あんこ、レイジは目を疑うほどの衝撃を受けた。
「そ、その薙刀は...!!?」
レイジは驚き、そう言った。何故なら、その薙刀は自身が生まれてからずっと見てきた、姉御の薙刀とそっくりだったからだ。そしてレイジは驚きながらもその薙刀を注意深く見た。
『姉御の薙刀とそっくりだ...!!色も形も長さも彫刻の模様も同じ...!...いや、だが、姉御の物と比べて明らかに傷が多い。...どういうことなんだ?本当に、どういうことなんだよ?』
レイジは魔王という自身から一番遠いと思っていた存在が姉御と同じ武器を持っていることにひどく困惑していた。そして魔王は姉御と同じ薙刀の構えをとって言った。
「...これなら、多人数相手でもやりやすい。」
魔王が姉御と同じ構えをとったことに、レイジたちは驚き、そしてあんこは嫌悪感を示した。
「な、なんで、この人が姉御ちゃんと同じ構えをしてるの...!?やめてよ!!あなたは敵なんでしょ!?姉御ちゃんのマネしないでよ!?」
あんこの発言に魔王はフッと笑った。
「...真似ね。フフッ。それにしても、恥ずかしい。私はあなたを見たくない。恥ずかしくて死にそうになるわ。」
魔王はあんこに向かってそう言った。その言葉の意味はあんこたちにはわからなかったが、何故かあんこは罵倒されたとはあまり感じず、むしろ悲しさを感じた。
『な、なに!?この人の言葉。な、なんだか、悲しんでる気がする...?ど、どういうこと...!?それに、この人が現れた時のあの悪い予感が今は逆。この人からはなんだか、懐かしいような、不思議な感じがする...?』
あんこは魔王に対して不思議な気持ちを覚えたことに困惑した。そして魔王はあんこたちに言った。
「さあ、闘いましょうか。」
魔王はそう言ってレイジたちの反応を見た。レイジは魔王の存在について考えていたが、その言葉を聞いてハッと我に返り、名刀『憤怒の魂』を構えた。
そして姉御は珍しく動揺し、額に汗をにじませながら魔王の正体について考えながら武器を構えた。
あんこはブンブンと頭を振って雑念を払い、戦闘に集中した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ネネは目が覚めた。映る光景は草木の緑に覆われた地面に、自身の右手からポタポタと流れる赤い血だった。
ネネはぼんやりとする頭でゆっくりと今の状況を考えていた。
『...あれ?私、何でこんなところにいるのかしら...?...眠たい...。けど、手から血が出てる。確認しないと...。』
ネネはそう思い、いまだ夢心地の状態でゆっくりと上体を起こした。そして違和感に気づいた。
『...あれ?手足の感覚が、ない...?』
ネネはしっかりと地面に手足をつけて起き上がったのにもかかわらず、自身の手足からは何一つ感覚を感じられなかった。痛みも地面の触感も感じられなかった。その違和感の原因を探った時、ネネはハッと頭の中でつながるものがあった。
『そうだ!私は闘技場で観戦していた時、急に眠気に襲われて...ってことはもしかして、これが麻酔というものかしら...?打たれたことが無いから確信は持てないけれど、でも、それなら何となくわかるわ。麻酔で眠らせて知らない場所まで運んだ...。犯人は...サライヤン...?やっぱり私を亡命の手土産に...?』
ネネはようやくエンジンがかかってきた脳みそをフル回転させて今の状況を把握しようとした。その時、ネネの近くに誰かが現れた。
「...起きてる...。」
木々の間から出てきたのはガイアだった。ネネはガイアの姿を確認した瞬間、バッと飛び起きてガイアから距離をとった。ガイアは面倒くさそうにほほを掻いて言った。
「...寝ててよ。」
「...あなたが、私を連れ去ったの...?」
「...答えない。お前は連れていく。それが魔王様からの命令。」
「...そう。」
ネネはこれ以上の問答は意味がないと思い、戦闘態勢に入った。




