ネネ奪還戦⑥
ゴゴは必死に逃げていた。鬼の形相で追ってくるファイア、アイス、ガイアの三人。そして笑顔だが確実に怒っている納豆丸。そしてゴゴの馬鹿なやり方に呆れつつも満足げな表情を浮かべているサライヤンから、逃げていた。
「ひぃぃぃぃ!!!捕まったら確実に死んじまうぞ!!!命削ってでも逃げるぞおおおおおお!!!!」
ゴゴは今まで感じたことのない殺気を背後に感じながらネネを担いでレイジたちのところまで逃げようとしていた。そんなゴゴにサライヤンが声をかけた。
「フッ。さすがだな。ゴゴ。あの状況で俺たちにケンカを売るとは。やはりお前は正気じゃないな。」
サライヤンは少し嬉しそうにそう言った。それに対してファイアはサライヤンを睨みつけながら言った。
「おいサライヤン!!おめぇ余裕そうに言ってるけどよぉ!てめぇにも責任があんだぞぉ!?それわかってんのかぁ??」
ファイアはイライラした声色で言った。サライヤンはじっとファイアを見てからフンッとそっぽを向いて言った。
「ゴゴの奇行を全然察知できなかった奴に言われても反省なんかできないな。俺は分かっていた。ゴゴは何かやらかす気だと、気付いていた。だが、お前たちのやり方に賛同できなかったから、放っておいた。俺はネネを狙わないと言ったからな。約束を反故にするのは俺のポリシーに反するからな。」
「はぁ!?何言ってんだてめぇ!?それが亡命させてもらう人間の言うことか!?」
ファイアはサライヤンの態度に怒りをあらわにした。サライヤンはフフッと笑った。
「俺様の信念を捻じ曲げてまで亡命しようとは思ってないのでな。」
「なんだとぉ!!?」
ファイアとサライヤンはお互いににらみ合っていた。その真ん中を突っ切って行ったのはアイスだった。
「全く、無駄なことをするな。ファイア。我々の目的はなんだ?あの小娘を連れ去ることだろう?」
そう言ってアイスは自身の両手を凍らせて地面に突き刺した。すると地面がゴゴめがけて凍り始め、ゴゴの両足を捉えた。
「ぐおぉ!??あ、足が凍っちまった!!?」
ゴゴは抜け出そうと思いっきり足を引っ張ったが、抜け出すことが出来なかった。そしてファイアたちはゴゴのすぐ後ろまで迫ってきた。
「全く、逃げ足はめっちゃ速ぇのなんなんだよ。クッソだるいな!!」
ファイアはイライラしながらゆっくりとゴゴに近づいて行った。ゴゴはこのままではまずいと思った。
「くっそー!!このままじゃ確実に殺されるな!!...仕方ない。覚悟を決めたぞおおおお!!!」
そう言ってゴゴは深く息を吸って歯を食いしばり、力ずくで凍った足を両腕で引っ張った。するとブチブチとゴゴの足の皮膚が剥がれ落ち、肉が丸見えになりながらも何とか脱出することに成功した。
「ぐおおおおおおおおおお!!!い、いてぇぇぇ!!!...けど!!何とか逃げ出せたぞお!!」
ゴゴは走るたびに地面に自身の足の裏の肉が触れ、まるで針の山を走っているかのような痛みを感じながらも必死に走った。その姿にさすがのファイアも驚いて戸惑っていた。
「えぇ??あ、あいつ、ほんとに正気じゃねーな。あんな、ひでぇ足になりながらも、どんどん加速してねーか?...こわ。」
ファイアはゴゴの恐ろしい行動に引いていた。そしてサライヤンが得意げに言った。
「全く!ゴゴに半端にダメージを与えるなんて、お前らは本当にゴゴのことを何も知らないんだな。中途半端な攻撃は、逆にゴゴの戦闘エンジンに火をつけるみてぇなもんだぞ?はぁ、ゴゴのことを理解しているのは俺だけか...。」
サライヤンは少し嬉しそうに首を振りながら言った。ファイアはイライラした表情で言った。
「なんだとぉ?てめぇ?」
またサライヤンとファイアがケンカしそうになり、アイスが言った。
「いいから行くぞ。これ以上あんな奴に逃げられるのは、あまりにも失態過ぎる。魔王様に失望されるかもしれんぞ。」
アイスの言葉にファイアはドキッとした。
「うっ、失望されんのはぜってぇ嫌だな。くそ!!今は追うことに集中するか。」
ファイアは湧き上がるイライラを何とか抑え込んで任務に集中することにした。そしてファイアたちはすぐにゴゴに追いつくことが出来た。ゴゴはチラッと後ろを見てファイアたちの姿を確認した。
「ひえぇぇ!!もう追いついてきたのか!?うぅ、これは逃げきれねーな。かくなる上は...!」
ゴゴはそう言ってどっしりと地面に足をつけて力を込め、ネネを両腕で持ち上げてから勢いよくネネを放り投げた。
「うおおおおおおおおおおおおお!!!飛んでけええええええええええ!!!!」
ゴゴはおそらく誰もいないであろう場所にネネをぶん投げた。それを見たファイアたちは「あっ!」っと同時に言った。
「な、なんてことしやがる!」
ファイアはすぐさま足から炎を出して空を飛んでネネを追いかけようとした。しかしそれを空中から誰かが蹴りを喰らわせて地面に叩き落とした。
「ぐあっ!?...誰だ!?俺を蹴り落した奴は!!?」
ファイアはガバッと起き上がってその人物を見た。それはドナルドだった。
「フッ。悪いな。お前らを逃がすわけにはいかねーんだ。」
ドナルドの登場にゴゴはテンションが上がった。
「うおおおおおおおおおお!!!!ドナルドおおおおお!!!来てくれたかあああああ!!!」
ゴゴの嬉しそうな声を背に聞いてドナルドはフッと笑った。
「ああ!あのピンク色の霧を上空から迂回したはいいものの、どこで戦闘が起こっているのか、森の木々に囲まれていてよくわからなくてな。どうしたもんかと思っていた時、遠くであの飛行車が打ちあがるのが見えて、一直線でここまで来たってわけだ。」
「うおおおおお!!!ドナルドが来てくれたなら、この100%死ぬしかない場面も何とかなりそうだぞ!!!」
ゴゴはドナルドの隣に立ち、ファイアたちと対面してこぶしを握って戦う姿勢を見せた。ドナルドもゴゴの姿を見てフッと笑い、ゴゴと同じく戦闘態勢に入った。ファイアは眉間にしわを寄せてゴゴたちをにらみつけた。
「おいおいおい。なんか、これから反撃開始って雰囲気出してるけどよぉ、この戦力を相手にてめぇらがどう戦えるってんだぁ?」
ファイアの周りにはアイス、ガイア、納豆丸、そしてサライヤンがいた。その戦力を改めて見て、ゴゴはドナルドに言った。
「...確かに。なあドナルド。お前が来てくれたからテンション上がったけどよー、これ勝てなくねーか?」
ドナルドは少し考えてから答えた。
「...あー、そうだな。逃げるか?」
ドナルドはゴゴを見て言った。ゴゴはガッハッハと笑った。
「そうだな!逃げた方がいい気がするぞ!!!」
ゴゴはそう言って後ろへと振り返って逃げようとした。しかしそのゴゴに声をかける人物がいた。
「いやいや、逃げるのはまだ早いんじゃなーい?」
森の木々の陰から現れたのはなんとタイダイだった。
「た、タイダイ!?なぜこんな場所に!?」
ゴゴは現れたタイダイにそう言った。タイダイはキョロキョロとその場にいる人物たちを見まわして言った。
「...なんだ。わが愛しのアネッサさんはここにはいないのか。...じゃあ、帰る。」
タイダイはそう言ってくるっと後ろを向いて歩きだした。それをゴゴが止めた。
「おいおいおいおい!!!せっかく来たんだからよぉ!!手伝っていってくれよ!?」
「えええ?ヤダ。百歩譲ってアネッサさんがいないのはいいとして、なんでむさくるしい筋肉男たちを俺が助けなきゃいけないの?美人なお姉さんなら全然加勢できるんだけどなー。」
タイダイの言葉にゴゴは少し悩んでから言った。
「なに!?...そうか、仕方ない...。今度俺がドレスを着てやる!!それでどうだ!?」
「あぁ全然無理。本当にやめてほしい。何一つメリットがない。というか目玉が腐る。」
「むむむ、そうか...。なら、投げキッスも追加してやる!!それでどうだ!?」
「次おぞましいこと言ったらお前から殺すぞ?」
「くそぅ!これでもダメなのか...。かくなるうえは...!!」
ゴゴはさらに何かを言おうとしたが、それをファイアが止めた。
「おいおい!いつまでてめぇらのコントを見なきゃいけねーんだよ?こっちは急いでんだよ!特に筋肉のてめぇ!てめぇは魔王様から抹殺命令が出て...!!!」
「ファイア!!」
ファイアの失言にアイスは名前を呼んで止めようとしたが、すでに遅く、サライヤンと納豆丸がファイアの言葉に反応した。
「...ゴゴを、抹殺するだと...?」
「...先輩を、抹殺するって...?」
二人の殺意はファイアに向いた。ファイアは「あっ...!」と言って自信の失言に気づいた。アイスは深いため息をついた。
「...今のは...ファイアの冗談だ。」
アイスの弁明にサライヤンはすぐさまツッコんだ。
「嘘つけ!明らかに失言してたじゃねーか!」
「そーっすよ!せっかく魔王軍とは協力しようと思っていたのに、そんなこと言われちゃあ素直に協力できねーっすよ!」
サライヤンと納豆丸はガミガミとアイスたちに文句を言った。そしてサライヤンがあることに気づいた。
「...ん?そういえば、もう一人の四天王はどこ行った?」
サライヤンはガイアの姿がないことに気づいた。そしてアイスは答えた。
「...トイレだ。」
「嘘が下手すぎるだろ!!大体見当はついてるわ!どうせゴゴがぶん投げたネネを回収しに行ったとかそういうことだろ!?」
サライヤンの言葉にアイスは少し沈黙してから口を開いた。
「...トイレだ...!」
「あぁもうバカバカしいな!そんな大した作戦じゃねーんだから、別にバレたってどうってことねーだろ!?」
サライヤンはアイスの頑固さに呆れて手をあげ首を振った。そしてアイスはサライヤンと納豆丸に言った。
「...そうだな。まあ、いろいろと、不具合は発生したが、今、作戦を決めた。サライヤン、納豆丸。貴様らはそこの筋肉の相手をしろ。私とファイアでドナルドとそこの男の相手をする。」
アイスの作戦にサライヤンは少し考えてから答えた。
「...なるほどな。ゴゴを抹殺されたくなかったら、俺たちでボコボコにして連れて帰れってことか。...まあ、俺もその方がまだ納得できるかもな。お前らにゴゴの相手は絶対任せられねーからな。」
サライヤンの言葉に納豆丸も頷いた。
「...そうっすねぇ。俺もその作戦なら文句は無いっすよ。」
そう言って納豆丸は一瞬にしてゴゴの目の前まで近づいた。
「ってことで先輩。ちょっと遠くへ行きましょ♡」
そう言って納豆丸はゴゴの腹を蹴り飛ばしてゴゴを吹っ飛ばした。ドナルドは納豆丸の速さに驚いた。
「...速いな。俺よりも。まあ、ゴゴは大丈夫だろう。問題は...なあ、お前は味方...でいいんだよな?」
ドナルドは取り残されたタイダイに言った。タイダイはだるそうに答えた。
「...うーん、まあ、今は味方かなー。ああぁ、ただアネッサさんを助けに来て好感度を上げようと思ってきただけなのに、とんでもない面倒なことに巻き込まれちゃったよ...。」
タイダイはズーンと気分が沈んだ状態で言った。




