ネネ奪還戦⑤
レイジたちが魔王と対峙しているころ、アルバートとフォルキットは色兎とエロマとの戦いも佳境に差し掛かっていた。
「はぁ、はぁ、フォルキット!!もう時間がねぇ!!」
アルバートは顔や体中に傷を負い、血を流しながら色兎の攻撃を受けて言った。フォルキットも同じように傷だらけになりながらエロマと戦っていた。
「ええ!!わかっています!!しかし、これは、予想以上ですよ。」
フォルキットは自身の持っている神のへそくりの、ハサミ型の武器を二刀流にして扱いながらエロマと戦っていた。そして色兎とエロマは二人ともアルバートとフォルキットを吹っ飛ばして二人隣同士に立った。
「うふふふふ!なーんだ!全然大したことないじゃん!」
色兎はクスクスと笑いながら言った。エロマも頷きながら言った。
「そうねぇ。てっきり私たちの相手はあのゴゴになると思っていたものねぇ。それに比べると、少し力不足を感じるわねぇ。」
エロマは乳首と局部だけを謎の霧で隠された裸の状態で、顎に手を添えながら言った。そして色兎とエロマはアルバートとフォルキットを吹き飛ばして二人で隣同士に立った。フォルキットとアルバートは吹き飛ばされた場所から少し移動して合流した。
「おいフォルキット。正直言って、俺たちに勝ち目はないんじゃないか?」
アルバートの言葉にフォルキットは苦しそうにうなずいた。
「...そうですね。新兵器である神のへそくりを手に入れたので何とかなると思っていましたが、明らかに実力不足ですね。勝てる気がしません。こんな強い相手にゴゴは一体どうやって立ち回ったのでしょうか?」
「...確かにな。俺、正直ゴゴのこと舐めてたな。...っと、反省会は後だ!今はこの絶望的状況を何とかしねぇと!」
アルバートは弱気になりそうな気持ちをブンブンと頭を振って振り払い、考えた。フォルキットも頷いて答えた。
「そうですね!とりあえず、作戦は戦う前と同じ、エロマから倒してこの霧を何とかする。それしか、今の私たちが勝つ道はありませんね。」
「ああ。そうだな。だが、俺が色兎を抑えている間にお前が何とかするって言っていたが、その作戦はダメそうか?」
「...正直に言えば難しい...いえ、多分無理ですね。色兎は明らかに強いのは分かりますが、エロマの方はひたすらに受け流すのがうまいですね。」
「...そうか。じゃあ、やっぱり、作戦を変えるしかねーってことか。」
「...ええ。私たちでは彼女らを倒すことはできません。ですので、時間を稼ぐ。それだけに徹底しましょう。」
「...ああ。そうだな。仕方ない。二本目を使うしかないか...。こいつの重ね掛けはしたくなかった...。使うと一日は魂の力を扱えなくなるからな。」
「...そうですね。神のへそくりを過剰摂取したせいで体だけでなく魂にまで影響が出てしまいますからね。しかしアルバート。あなたの力がなければ私はすぐにあの二人に殺されてしまいます。」
「フッ。言わなくてもわかってる。」
そう言ってアルバートは二本目の煙草型の神のへそくりを吸い始めた。
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あんこと昆布は裂虎と戦っていた。
「はぁはぁ、虎ちゃん、強いね!」
あんこは少し息を切らしながら昆布に言った。昆布も息を切らしながら答えた。
「はぁ、はぁ、そうでござるねぇ。パワーはもちろんのこと、あの鋭い爪が厄介でござるよ。当たったら肉どころか骨まで切り裂かれそうでござるね。」
二人の会話を聞いていた裂虎はフッと笑った。
「いや、お前たちの実力も予想以上だったぞ。もっと楽に、闘えるかと思っていたんだが...。」
裂虎の言葉にあんこはムッとした。
「どうする?昆布?あんなこと言われてるよ?」
「そうでござるねぇ...。じゃあ、いっそのこと、拙者ひとりで裂虎と戦うってのはどうでござるか?」
「ええ!?ひとりで!!?そ、そんなの、ダメに決まってるでしょ!」
あんこは驚いて大声でそう言った。しかし昆布はヘラヘラと笑って答えた。
「いやー!意外といけると思うんでござるよね!...正直、あの面頬を装備して戦えば、勝てずとも負けることはないと思うんでござるよ。」
「ええ?あのー、悪魔が宿ってるとか何とかっていうアレ?」
「...ああ!そうでござる!!そうでござる!それなら何とか一人でも戦えそうでござるよ!...それに、さっきあんこは言っていたでござろう?『兄貴たちの向かった方向に何かとんでもないものが現れた気がする』って。拙者としては、いち早くそれを追ってほしいんでござるよ。」
昆布はいつもの笑みを含んだ表情ではなく、真面目な表情でそう言った。あんこはとても悩んだ。
「それは、あたしも追いたいけど...。でも、ここに昆布を置いて行って、それで昆布が死んだりしたら、あたし...。」
あんこは昆布にもしもがあったらと思い、決断できずにいた。しかし昆布はニコッと笑った。
「大丈夫でござる!これは裂虎に聞かれたくないから小声で言うでござるけど、多分、もうすぐドナルドがここに来ると思うんでござるよ。それまでのちょっとだけを耐えればいいだけの話でござる!それなら拙者ひとりでも大丈夫でござるよ!」
昆布はあんこに耳打ちをして言った。あんこはパァッと明るい表情になって言った。
「そっか!そうだね!!それなら確かにいけるかも!!...うん。わかったよ!あたし、姉御ちゃん達を追うよ!!」
あんこはそう決断して強くうなずいた。昆布も同じように強くうなずいた。
「こっちは任せて大丈夫でござる!だから、兄貴たちのこと、任せたでござるよ!!」
「うん!!!」
昆布の言葉にあんこは大声で返事をしてふわふわと浮きながらレイジたちを追った。その様子をただ静観していた裂虎は昆布に言った。
「...あの子を、行かせたのか?」
「そうでござるよ?」
昆布は少し警戒しながら答えた。裂虎はフッと笑った。
「...そうか。止めた方が...良かったんだろうか...?いや、いずれ相まみえる運命。今会っても、問題ではないのか?」
「うん?何の話でござるか?」
昆布は首を傾げた。裂虎は首を振って答えた。
「いいや。こちらの話だ。それより、一人でいいのか?『一人なら殺せ。二人なら足止めしろ。』そう言われていたから、今まではゆっくりと相手してやっていたのだ。今なら、殺すぞ?」
裂虎は淡々とそう言った。昆布はその言葉に物怖じすることもなく、ただうなずいた。
「それで結構でござるよ!何せ拙者も、まだまだ本気を出していなかったんでござるからね!!」
そう言って昆布は懐から真っ赤に染まった鬼の面頬を取り出して、装着した。そしてまさに人が変わったかのように、はしゃぎだした。
「ギャッハハハ!!ぶっ殺してやるよぉ!!!てめぇもよぉ!!!」
昆布は高らかに両手を広げながら天を仰いで笑い出した。その変貌ぶりに裂虎はギョッとした。
「な、なんだ?急に、性格が変わった...?」
「イッヒヒヒ!!殺すよぉ?殺すしかないよぉ?お前邪魔だから殺すしかないんだよぉ??」
昆布はまるで悪魔に取りつかれたかのようにフラフラと千鳥足で裂虎に近づきながら全身から殺意があふれ出ていた。裂虎はその変貌具合に警戒心を抱き、念のために距離をとった。
「な、なんなんだ?こいつ?今までののらりくらりとした戦い方じゃなく、明らかに殺す気でこっちに向かってきている...。底知れぬ恐怖を感じる...!」
裂虎は昆布に対して恐怖心を抱き、そして昆布は狂ったように笑い続けていた。




