ネネ奪還戦④
レイジたちが飛行車を追っている途中、ゴゴは昨日から一緒に過ごしていたサライヤンとネリィの家の目の前の開けた森で遊んでいた。
「ガーッハッハッハ!!筋肉が襲ってくるぞぉ!?」
「キャー!こわーい!」
ゴゴは両腕を振り上げた状態でネリィを追いかけまわしていた。それを微笑みながらサライヤンは見ていた。
「おいおい、あんまり遠くへ行くなよ?」
サライヤンは外に置いてある椅子に座り、テーブルに肘をついて頬杖をつきながら言った。ネリィは手を振って答えた。
「うん!遠くには行かないよ!」
「ガッハッハ!いい暇つぶしだな!...しかし、サライヤンよ。本当にここで待っていれば面白いものが見られるんだろうな?俺は姉御に何も言わずに遠くに出るのは禁じられているんだぞ?帰ったら怒られることが確実なんだ。頼むから最高に面白いもの見せてくれよ?」
ゴゴの言葉にサライヤンはフッと笑った。
「大丈夫だ。もうすぐ、来るはずだ。」
そう言ってサライヤンは立ち上がり、森の奥を見つめた。するとそこに何か光るものが現れた。それは飛行車に当たった光が反射したものだった。
「ん?なんだ?あれ?」
ゴゴは目を凝らしてその光を見た。そして数秒後に飛行車はサライヤンたちの前へと現れ、停車した。そして中からアイスが現れた。
「...来たぞ。」
アイスはその一言だけを発し、サライヤンは歩いて近づいた。ゴゴは突然のアイスの登場に驚いて戦闘態勢に入った。
「ええ!?アイス!?な、なんでアイスがこんなところに!?」
「ゴゴ。俺は亡命するって言ったよな?」
驚くゴゴにサライヤンは話しかけた。ゴゴはサライヤンの方を向いてうなずいた。
「ああ。昨日聞いたな。」
「...それが、今ってわけだ。」
「ええ!?早いなぁ。」
「...それでだ、ゴゴ。最終確認だが、お前、俺と一緒に来る気はねぇのか?」
「ん?ないな!」
「...フッ。そうか。相変わらずきっぱりと言いやがるやつだな。それじゃあ仕方がない。」
そう言ってサライヤンはパチンと指を鳴らした。すると森の木々から何かがゴゴの前に現れた。それは納豆丸だった。
「な、納豆丸!!?なんでお前がこんなところに?」
「へへへ。せんぱぁい。来ちゃった♡」
納豆丸はウィンクをしながら甘えた声で言った。ゴゴはうげぇっという表情を浮かべた。
「な、なんだその言い方?なんかキモイな!」
「うへへへ!まあ冗談は置いといて、俺が来たのはあんたを魔族側に連れ去る手伝いのためっすよ。」
「俺を、連れ去る?」
ゴゴがそう言い、サライヤンが話した。
「そういうことだ。俺が亡命するための手土産にネネを諦めた代わりに、お前を連れて行こうって魔族側に提案したんだ。そしたらその提案を受け入れて、魔王が手助けのために納豆丸のボスの『パパ』に依頼して納豆丸を派遣してもらったってわけだ。」
「...な、なるほど。つまりお前たちは無理やり俺を連れ去ろうってことか?」
「そういうことっすね。先輩。実際俺もそう思うっすよ。先輩はあんなパーティーにいるべきじゃないっすよ。それに、先輩自身も別に主義主張があって人間側にいるわけじゃないんでしょう?あの姉御とかいう小娘のためにいるだけっすからね。」
「そりゃあ、そうだけどよぉ。」
「それを!俺たちが救い出してあげようって話っすよ!大人しくついてきてくれるっすよね?」
納豆丸の言葉にゴゴはうーんと悩んでから答えた。
「いや!俺は行かない!」
ゴゴの返答にサライヤンと納豆丸はムッとした表情を浮かべ、納豆丸が言った。
「えぇ?なんでっすか?」
「めんどくせーし、それにレイジたちのところにいるのは姉御の命令ってのもあるが、それ以上にあいつらと一緒にいるとなんか、楽しいって感じだな。ぼんやりとだが、そういう感情が芽生えてきてるって感じがするんだよ。」
「ダメダメダメダメ!!!先輩がこれ以上あんな俗人どもと一緒にいて感情が芽生えるなんて絶対ダメっす!!!先輩はもっとこう...クールに生きていかないと!!!」
納豆丸の発言にサライヤンは首を傾げた。
「ん?クールに生きる...?ゴゴが?...何を言っているんだ?ゴゴはクールとはかけ離れた存在だろう?こいつは戦いのことしか頭にない筋肉バカだ。」
サライヤンの言葉に納豆丸はあきれた表情を浮かべた。
「...はぁー。サライヤンさん。あなたは先輩のことを結構気に入っていると仰っていましたが、先輩のことを何も知らないんですね。」
納豆丸のその言い方にサライヤンはムッとした。
「なんだと?」
納豆丸はやれやれと首を振りながらため息をついた。
「先輩が、こんな筋肉バカだと思ったら大間違いっすよ。昔の先輩は今とは比べ物にならないほど細くて無口でかっこいい先輩だったんすよ。そのころの先輩の戦い方は信じられないほど強くてねー!俺は心の底から憧れちゃったんすよ!」
「...な、なんだと?このゴゴが?」
サライヤンは信じられないといった表情を浮かべてゴゴのことを見た。ゴゴは少しばつが悪そうに言った。
「...まあ、昔の話ってやつだな。あの頃の俺は、最悪な人間だった。戦いをただの殺しの手段として使っていたからな。...思い出したくもねーよ。」
ゴゴの言葉に納豆丸はムッとした。
「なんでっすかー!?あんなに強かったのに!」
ゴゴとサライヤンと納豆丸の雑談に、アイスは少し威圧するように言った。
「...お前たち。時間がないんだ。早く乗れ。」
アイスの言葉にサライヤンと納豆丸はハッとした。
「おっと!そうだったな。ゴゴ!!一緒に来ないっていうなら、お前を極限まで痛めつけてから連れて行ってやる!!さすがのお前も、俺と納豆丸と魔王軍四天王の三人がいるこの場でバカなことする勇気はねーんじゃねーのか?」
サライヤンの言葉にゴゴはうつむいて怪しげに笑い始めた。
「くっくっく!確かになぁ。バカな俺でも分かるぜ。今抵抗しても、戦いを楽しむ前に一瞬で制圧されちまうってな。」
「だったら...!」
サライヤンは少し嬉しそうにそう言った。ゴゴはうなずいた。
「ああ。俺はお前らと一緒に行くことにするぞ!」
ゴゴはそう言って心の中で思った。
『まあ、今は抵抗しない方がいいな。だが、いつか隙を見て逃げ出そう。』
ゴゴが心の中でそう思っているとは知らず、サライヤンと納豆丸は嬉しそうに笑った。
「...フッ。やけに素直じゃねーか。」
「うん。先輩にしては怖いほど素直っすねぇ。なにか企んでるんじゃないっすか?」
「ガッハッハ!俺は何かを企むほどの脳みそがねーんだ!安心しろ!!」
ゴゴは豪快に笑いながら噓をついた。そしてゴゴは自ら飛行車の後ろへと行き乗り込もうとした。しかしそこにネネが眠った状態でいることを発見したゴゴは目をかっぴらいて驚いた。
「えええええ!!?ネネがいるううう!!???ど、どういうことだ?どうなってんだぁ?」
驚いたゴゴと同時にサライヤンも驚いた。
「えええええええ!!?それはどういうことだああ!??」
サライヤンはまるで吹きすさぶ風のようなスピードでゴゴの隣に行き、ネネの姿を確認した。そしてネリィもサライヤンの隣に行って確認した。
「えええええええ!!?ネネちゃん!??しかも眠ってる!!!」
三人が同じ顔で驚いているとき、アイスが言った。
「ネネは魔王様が連れて来いと仰った人のひとりだ。サライヤン、貴様を回収することはその任務のついでだ。」
「な、なんだと?聞いてねぇぞ。そんなこと...。俺はもうネネを攫うことはしないってレイジたちに言ったのに...なんで、こんなことに...。」
サライヤンはこの状況に困惑していた。そしてネリィがアイスに訊いた。
「ねぇ、それってつまり、ネネちゃんは無理やり攫われてここにいるってことなの?」
「...ああ。そうだ。しかし、安心しろ。別に悪いように扱おうというわけではない。むしろ全くの逆だ。ネネは客人として丁重に扱う予定だ。」
「...でも、眠ってるってことは無理やりってことなんでしょ?」
「...そうだな。やり方は少し強引かもしれないな。だが、それでも連れていく価値がある。我らにとっても、この娘にとってもな。」
「...あたしには、わからないな。」
ネリィはアイスの言葉に首を横に振った。そしてゴゴは腕を組んでうーんとうなった。
「なるほどな。つまり、ネネは攫われてここにいるのか。じゃあ、俺がやることは一つだけだな!」
ゴゴはそう言うと肩を回し、手をポキポキと鳴らし、グッとこぶしを握った。
「ネネが連れ去られたら、姉御との約束の『レイジたちを守る』って約束が、守れないことになるからな!!」
ゴゴはゆったりと飛行車に近づいた。それを見た納豆丸は嫌な予感を感じた。
「え、先輩?ま、まさか...?」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
納豆丸の言葉を気にも留めず、ゴゴは全身の筋肉に力を込めてその飛行車を下から上へと思いっきりアッパーをかました。飛行車とゴゴはそのまま森の木々を圧倒的に超えるほどの高さまで吹っ飛んでいった。
「ガーッハッハッハ!!!交渉決裂だぜえええええええええええええ!!!!」
そう言ってゴゴは飛行車をぶっ飛ばし、中から出てきた眠ったネネを抱えた。