ネネ奪還戦③
レイジはユダの助太刀を受けて、姉御と共にネネを乗せた飛行車を追いかけることに成功した。そしてレイジはユダの行動に頭を悩ませながらもいったん置いておいてネネの救出を最優先させることにした。
そしてその道の先で飛行車の姿を目でとらえた。
「いた!飛行車だ!このままなら追いつける!」
レイジはそう言って見失わないように気を付けながら逃げる飛行車を追いかけて行った。そしてレイジの姿に気づいたファイアはアイスに言った。
「おいおいおい!!あのレイジってやつ!なんか来てるんだけど!?はぁ!?牛鬼は何やってんだ!?」
ファイアは牛鬼が仕事をミスしたと思い、そう言った。アイスはゆったりと目を開けて言った。
「...これは、予想外だ。恐らく、牛鬼にとっても予想外の出来事が起きたに違いない。あいつは仕事を放棄するような適当な男ではない。...仕方がない。ここは俺が行こう。」
「...待て。」
アイスの提案に対してまるで機械音声のような低い声が聞こえた。そして車内に黒く丸いゲートのようなものが出現し、その中から銀色の仮面をつけた魔王が現れた。魔王の姿にアイスとファイアと運転していたガイアは驚いて同じことを同じタイミングで言った。
「「「魔王様!!?」」」
魔王は少しうなずいてから言った。
「アイス。ここは私が行こう。あなたたちは作戦通り回収ポイントへ向かって。」
魔王の提案にアイスは言った。
「...しかし魔王様、あなたが来たのならすぐにこのネネという小娘を連れて行った方がよいのでは?」
「...フッ。確かにな。だが、私は、今のレイジと姉御と戦ってみたい。それに、私が来た以上、この作戦は盤石のものとなった。だから、少し私が遊んでもかまわないだろう?」
魔王の言葉にアイスは少し考えてからうなずいた。
「...確かに、あなたが来てくだされば作戦は完璧です。わかりました。あなたの提案を受けましょう。」
アイスはそう言って膝をつき、頭を下げた。そしてそれを見た魔王はうなずいて言った。
「すまない。ありがとう。」
そう言って魔王は車を降りてレイジと姉御の前に立ちふさがった。レイジと姉御は立ち止まって相手を見た。今まで見たことのない相手に警戒心を高めながら相手の動きをうかがった。
「...お前は?いったい何者だ?」
レイジは魔王に聞いた。魔王はフッと笑って答えた。
「私は...『魔王』。人類に対し、宣戦布告を行った魔族側の者だ。」
その魔王の回答にレイジと姉御は驚いて目を見開いた。そして記憶の中にある魔王を思い出していた。
「...確かに!その姿!!謎の空中に浮かぶ映像で見た!魔王の姿だ...!!」
レイジはそう言ってその魔王が本物であるかもしれないと思ったが、それと同時にもう一つ思ったことがあった。
『...魔王って言う割には、なんか、意外と小さいな。身長が。俺より低い...いや、それどころかあんことかヤミナとか、そこら辺と同じくらいの身長だな...。本当にこいつが魔王なのか?』
レイジはそう思った。魔王の見た目は身長が小さく、全身を銀色の鎧で身を包み、その上に白いマントを羽織っていた。そしてレイジはその疑問を直接投げかけた。
「...お前が本当に魔王なのか?意外と小さいんだな。正直言って、全然本物だと思えないんだが?」
レイジの言葉に魔王は何やら嬉しそうにフッと笑った。
「レイジ。そう言うと思ったよ。」
魔王の言葉にレイジは思った。
『俺の名前を知っている...。まあ、俺は勇者候補のひとりだし知っていても不思議ではないが...なんだ?なんなんだ?この気持ちは...?なんというか...少し親近感を覚える...?なぜだろう?あまり敵対心を抱けないぞ?これは...魔王の力か何かか...?』
レイジは魔王に対して敵意をむき出しにすることが出来ずにいた。それは姉御も同様だった。
「レイジ、この魔王に対して、何か不思議な気持ちは抱かないかい?あたしはさっきから警戒心を解かないようにしているんだけれど、なぜだか不思議と解いてしまってもいいって思っちまうんだ。」
姉御の言葉にレイジはうなずいた。
「ああ。俺もそう思っちまう。...おそらく、魔王の力だと思う。でなけりゃ俺がこんなにも心を許すわけがない。」
「...だよね。」
そう言ってレイジと姉御は武器を取り出して戦闘態勢に入った。それを見て魔王はフッと笑った。
「戦う気か?...フフッ。フフフフッ。...なるほど。ではお相手しよう。」
そう言って魔王はこぶしを握り、戦闘態勢に入り、レイジと姉御に言った。
「先に言っておく。私はそんなに強くはない。幻獣の王に勝てなかったレベルだ。しかし...私は...あなたたち二人の戦い方を、すべて知っている。そう。本当に...すべて知っているんだよ。」
魔王の発言にレイジは思った。
『幻獣の王に勝てなかった...?こいつ幻獣の王と戦ったことがあるのか...?それに、俺たちの戦い方をすべて知っているだって?何を言っているんだ?俺たちはこれが初対面なんだぞ?たとえ何かの能力で俺たちの戦いを見ていたとしても、その発言は傲慢が過ぎるな。』
レイジはそう思って姉御をチラッと見た。姉御はうなずいてレイジに共に戦うことを決意したと知らせた。そしてレイジもうなずき返して名刀『憤怒の魂』を握りしめて魔王に襲い掛かった。
「すべてを知っているっていうなら!俺と姉御の連携攻撃を避けてみろ!!」
レイジは一瞬で距離を詰めて右上から袈裟切りを繰り出した。その攻撃を魔王はいとも容易く避け、背後に回った姉御の右から左への薙ぎ払いもくるっとジャンプをして華麗に避け、その後のレイジのつばめ返しも空中で身をねじって避け、背後の姉御の蹴りも姉御の足を掴んで後方へと大きくジャンプすることで避けた。
その避け方を見てレイジは思った。
『本当に躱した...。いや、驚くべきはそこじゃない!!あの避け方は、完全に俺たちがどの技をどのタイミングで攻撃するか、完全にわかっていた動きだ!俺が振りかぶった時にはあいつはすでに避けていた!...信じられない。』
「まるで、未来でも見ているかのようだな。」
レイジはそう呟いた。姉御も冷や汗を流しながらうなずいた。
「ああ。そうだね。あれは確実にあたしらのコンビネーション攻撃を知っている人間の避け方だった。...なんて恐ろしいんだい。今まで数々の強敵と戦った経験があるあたしだけど、ここまで不気味に感じる相手はあいつが初めてだよ。」
レイジと姉御は不気味な魔王を相手に底知れぬ恐怖を感じた。そして魔王はゆったりと、優雅に着地してから言った。
「...フフッ。やっぱりまだまだ弱いね。レイジ。あなたは本当に筋肉が足りていない。筋トレでもしたらどうなの?そして姉御。あなたは強いのにレイジを守ることばかり考えている。だから私に全ての意識を集中できない。」
魔王の言葉にレイジは眉をひそめた。
『なんでこいつ敵なのにアドバイスしてくるんだ?しかも結構的確なこと言ってくるし。マジでこいつは何者なんだ?本当にわからない。...それに、こいつの相手をしているとネネを乗せた飛行車を見失っちまう!早く何とかしないと...!!』
レイジは魔王を名乗る者への分からなさと、ネネを救えなくなるという考えで焦っており、姉御に提案した。
「姉御!!もうこうなったらあれをやるしかない!!実戦でやるのは初めてだが、やるしかないぞ!!」
レイジはそう言って姉御を見た。姉御は少し考えてからうなずいた。
「ああ。そうみたいだね。それに...あの技は今まで誰にも見せたことがない。避けられる心配もないはず...。」
そう言ってレイジと姉御は魔王を対角線に挟むように立ってレイジは考えた。
『このまま俺と姉御が距離を詰めてお互いに全力の波動拳をぶっ放す!それで理論上は相手を圧殺しつつ、俺と姉御は波動拳の相殺でダメージを受けない。これが俺たちの考えた最強のコンビネーション攻撃。これが決まればたとえこの謎の相手であろうとも倒せるはず!』
そうレイジは思い、そして刀を構えながらも相手に気づかれないように拳にじわじわと魂の力を集中させた。そしてレイジは魔王へと一気に距離を詰めた。それに合わせて姉御も距離を詰めた。そんな二人の動きを見て魔王はフッと笑った。
「言ったでしょう?あなたたちのことはすべて知っているの。」
そう言って魔王は近づいてくる二人に対して落ち着いた様子で冷静に両手を左右に突き出した。その行動にレイジと姉御は何をするか分からないことに少し悩みながらも波動拳を放つしかないと思い、右手を突き出して放った。
「「波動拳!!!」」
放たれた波動拳は魔王の突き出した両腕に命中するかと思われた。しかし魔王はその攻撃が当たる直前で思いもよらぬ技を繰り出した。
「波動拳!」
魔王の両手から放たれた波動拳はレイジと姉御の波動拳を打ち消し、さらに二人を弾き飛ばした。
「ぐおっ!?」
「うぅ!?」
レイジと姉御は吹き飛ばされながらも魔王が波動拳を放ったという衝撃で驚きを隠せなかった。そしてレイジと姉御はズサーッと地面に足でブレーキをかけながら態勢を整えた。そしてレイジは思った。
『今のは...波動拳!!?間違いない、あれは波動拳だ!?ど、どういうことだ???なぜ、魔王が波動拳を...??そ、それに、魔王の動き、あれも、俺たちが何をするかを確実にわかっていた!そして俺たちの波動拳に合わせて波動拳を放ってきた!な、なんなんだ!?こいつは!!?』
レイジは魔王に対する圧倒的な底知れなさに恐怖で鼓動が速くなり、冷や汗が吹き出て、呼吸が荒くなった。それは姉御も同じだった。
『な、なんてことだい。今まで実戦で見せたことがなかった連携技も、あいつは知っていた...?こ、こんなの、未来でも見えていない限りあり得ないじゃないかい!?』
姉御はそう思い、恐怖を感じながらも魔王の次の動きに必死の集中をしていた。そして魔王はゆっくりとレイジと姉御の顔を見ながらフッと笑って言った。
「なぜ、自分たちの攻撃をすべて知っているのか、理解できない顔をしているね。...その答えは、レイジ。あなたが魔王城に来られた時に教えてあげる。今は、悪いけれどネネを連れ去らさせてもらう。」
魔王の言葉にレイジはハッとした。
『そ、そうだ!このままじゃ、ネネが連れ去られちまう!!俺は、何を呆けていたんだ!!こいつをどうにかしないと!!どうにかしないと!!!』
レイジの心に焦りが生まれたその時、飛行車が去って行った奥の森の中で突然、大きな音と共に何かが空へと打ちあがった。
「な、なんだぁ!?」
レイジは驚いて上を見上げた。そこには飛行車が天高く舞い上がっており、そしてその飛行車をおそらく吹っ飛ばしたであろう、アッパーをしているゴゴの姿が見えた。
「ご、ゴゴォ!!??」
レイジは目玉を飛び出しながら驚いて言った。ゴゴはレイジの声は聞こえていなかったが、バカでかい大声で言った。
「ガーッハッハッハ!!!!交渉決裂だぜ!!!」
ゴゴはニッコニコでそう言っていた。それを見たレイジはいろいろと思った。
「な、なんでゴゴがあんな所にいるんだ!?...いや、それはまあ、後で考えればいいとして、あそこで飛行車が打ちあがったってことは、あそこにネネがいる!!そして、ゴゴが魔王軍の飛行車を攻撃しているってことは、あいつがあそこで戦ってるってことだ!!」
レイジはわずかな希望を感じ、冷静さを取り戻した。そして魔王はその光景を見て言った。
「...あの筋肉野郎めぇ。本当に、本当に邪魔なことばっかりしてぇ!!!」
今までずっと冷静だった魔王が初めて感情をはっきりと表に出して言った。