ネネ奪還戦
レイジたちはネネを連れ去った飛行車を追いかけている途中で、いきなり目の前にピンク色の霧が発生し、一旦止まった。
「くそ!!なんだこれ!?...いや、これはエロマとかいうやつの能力じゃないか?くそぉ!!こんな時に!...どうしたらいい?突っ切っていくべきか?いや、直線で行かないとあの車には追いつけないか!?だが、あの霧はマジで厄介だからな。うぅぅ!どうすれば!?」
レイジはこのまま突っ切っていくか、それとも遠回りするべきか、悩んでいた。そこで姉御がレイジの肩をポンと叩いて言った。
「このまま突っ切るよ!?中にどれだけの罠があったとしても、迂回するのは得策じゃないね。ゴゴの話なら、エロマの位置次第で霧も移動するんだろう?だったら、迂回するだけ無駄さ!」
「...確かにな。だが、ゴゴみたいに出られなくなったら...いや、そういえば出られない奴は性の味を知ったものだって言っていたか。...俺は大丈夫なのか?結構イチャイチャしてるけど...。」
「まあ、大丈夫なんじゃないかい?だって、本番はしていないんだろう?」
「...まあ、そうだけど。」
「なら、行けるだろうさ。あたしもそんなもんだったからね。」
「...そうか。」
そう言ってレイジたちは覚悟を決めて突っ切ろうとしたが、ドナルドがそれを止めた。
「待て。その話だと俺とアルバートとフォルキットは通り抜けられねーぞ?」
ドナルドの言葉に姉御はうーんと悩んでから答えた。
「...なら、あんたらが色兎とエロマを倒してくれないかい?どのみち、色兎とエロマを無視して行けないんだ。だから頼むよ。」
姉御の提案にドナルドは意見した。
「...なら、それはアルバートとフォルキットに任せよう。俺は上空を飛んで霧を回避しながら行く。お前らよりも遅くなるだろうがそれでもいいか?」
ドナルドの意見に姉御は少し眉をひそめた。
「...本当に大丈夫かい?あの霧はとてつもない催淫効果だ。理性でどうにかって範疇を超えているんだよ?」
「だから、作戦があるんだよ。アルバートの新しい神のへそくりなら、おそらくそれに耐えられる。それにフォルキットはゴゴと同じで玉無しだ。昔に受けた拷問で失ったらしいからな。」
ドナルドの言葉にアルバートとフォルキットが反応した。
「ああ。確かに俺の神のへそくりならいけそうだな。」
「ええ。性欲はからっきしですね。」
その言葉を聞いて姉御は少しの不安を感じており決断しかねていた。それをレイジが決断した。
「...わかった。じゃあ頼んだ!」
「レイジ!?」
姉御はレイジの決断に驚いた。レイジは諭すように言った。
「姉御、今は色兎とエロマを倒すことが目的じゃない。それに、ドナルドが信頼している二人だ。死ぬようなヘマはしないだろう。...それに、ゴゴ一人でも戦えた相手だ。二人いれば大丈夫だと思う。」
レイジの意見に姉御は少し悩みながらもうなずいた。
「...確かにね。あたしはあんたらの実力を見ていないからイマイチ信頼できていないけれど、それでもルドラータファミリーで幹部を務めるくらいの実力の持ち主だものね。わかった。ここはあんたたちに任せるよ。」
姉御がそう言うとアルバートとフォルキットはうなずいてニッと笑った。そしてレイジは全員に言った。
「よし、それじゃ、俺たちは息止めて霧を吸わないようにして一気に走り抜ける!」
レイジがそう言うと全員がうなずいて息を止め始めた。そしてアルバートはそれを見て胸ポケットから銀色の煙草のケースを取り出して一服し始めた。その様子にレイジは息を止めるのをやめて言った。
「いや、今タバコ吸うのかよ。後でにしてくれよ。」
レイジの言葉にアルバートはフッと笑った。
「タバコじゃねーよ。これは、俺の神のへそくりだ。」
「それが、神のへそくり...だって?」
レイジはアルバートの言葉に驚いた。そしてアルバートはうなずいた。
「ああ。こいつを吸うと、俺は変身するんだ。変身していられる時間は大体10分ほどってところだな。だから切り札のような使い方をしようと思っていたんだが、霧が相当にヤバいって話だからな。先に吸わせてもらうぜ。」
アルバートはそう言って煙草を吸い終わるとアルバートは肌が段々と緑色のうろこに覆われはじめ、顔や体形が変わり、大きなトカゲのような姿に変わった。
「ふぅぅぅぅ。これが、俺の新たな力だ。この状態の俺はほとんどすべての毒が効かない。神のへそくりの成分が体中を駆け巡っていて毒素をすべて殺してしまうからだ。そしてもちろんパワーも段違いだ。これならたとえ霧の中であっても戦えるのさ。」
アルバートはいつも以上に低い声になってそう言った。そしてそれを見て驚きながらもレイジは答えた。
「あ、ああ。そうだな。時間が限られているんだっけか。じゃあ、速くいこう!」
レイジがそう言うと全員が息を止めてうなずいた。それを見てレイジも息を止めて一番に霧に乗り込んだ。それに皆も続いた。レイジが霧の中に入り少し進むと色兎とエロマがこちらを待ち構えていた。それを確認したレイジはアルバートとフォルキットに目線を送り、頼むという意思でうなずいた。それを見た二人もうなずいた。色兎とエロマはレイジの前に立ちふさがったがそれをアルバートとフォルキットが阻止した。そしてレイジは色兎とエロマを無視してその場を突っ切って行った。
「あらら。すぐ行っちゃうんだから。もう、せっかちさんね。」
エロマはレイジたちの姿を見て少し残念そうにそう言った。アルバートはフッと笑った。
「悪いね。美人さん。お前たちは俺らが相手になるよ。」
アルバートの言葉にエロマはフッと笑った。
「あらー。それはうれしいお誘いね。ハンサムさん。だけれど、あなたで私の相手になるのかしら?」
「ああ。信じられないほどの満足を与えてやるよ。」
アルバートはそう言って右手の爪をとがらせて切り裂くように攻撃した。エロマはその攻撃をバク転しながら避けた。そして色兎はフォルキットと話した。
「あれれ?あなたは、どうしてエッチな気分になっていないの?成長したエロマちゃんの霧はこの前の戦いよりもはるかに強力なのに?」
「フフフ。申し訳ないのですが、私はもう玉がなくてですね。エッチな気分は一生味わえない体なのですよ。」
そう言ってフォルキットは自身の背中から銀色の巨大なハサミを取り出した。そしてそのハサミを分断して両手に持ち、二刀流になった。それを見た色兎はフフッと笑った。
「おしゃれな武器だね。それは、神のへそくりかな?」
「その通りです。私専用かと思うほど素晴らしいデザインでしょう?甘く見てはいけませんよ?私は何よりもハサミで人を痛めつけてきた人間です。油断のないように。」
フォルキットはそう言って刃をブンブンと振り回した。色兎はそれをピョーンと跳ねて距離をとった。そして色兎とエロマはお互いに同じ場所に立って、エロマが言った。
「まずは自己紹介からって思っていたけれど、どうやらそういう気分じゃないみたいねぇ。仕方ない。それなら私たちも自己紹介しないで一気に倒させてもらうわね。」
そう言って色兎とエロマはアルバートとフォルキットに攻撃を仕掛けていった。
そしてレイジたちは一息の呼吸もせずに霧を抜けることに成功し、思いっきり息を吸った。
「ぷはぁ!!!はぁ、はぁ。...よし、霧を抜けられたな。じゃあ、急いでいくぞ!」
レイジはそう言って息を整えることもせずに走り出した。皆もその背中を追って走り出した。そしてレイジは目線の先にネネを乗せた飛行車を捉えた。
「あった!!速度は変わっていないようだ。修理はできないみたいだな。だったら好都合!一気に近づこう!」
レイジは後ろを振り返ってそう言い確認した。みんなは覚悟が決まった表情でうなずいた。そしてレイジたちの接近に虎の魔族が気付いた。
「...来たな。意外と、早かったか。」
虎の魔族の言葉に牛鬼がチラッとレイジたちの方を見た。
「おお。本当に来おったな。そいじゃ、誰が殿を務めるんじゃ?」
牛鬼の言葉にアイスは閉じていた眼を開いて言った。
「...裂虎。お前が行け。」
裂虎と呼ばれた虎の魔族はチラッとアイスの方を見てからうなずいた。
「...了解だ。何人抑えればいい?」
「...何人でも構わない。一人ならすぐに殺せ。二人なら足止めしろ。それ以上なら生き残ることを考えろ。」
「...了解だ。」
裂虎はそう言って飛行車から降りてレイジたちの前へと現れた。レイジたちはいったん足を止めて様子を見、話しかけた。
「...お前は、誰だ?魔王軍のやつら...だよな?」
レイジの問いかけに裂虎はうなずいて答えた。
「いかにも。俺は魔王軍十二支獣が一柱、裂虎という者だ。貴様らの仲間である魔族の娘は連れ去らせてもらう。」
裂虎の言葉にレイジは怒りの感情を込めながら言った。
「...それは、阻止させてもらう!」
そう言ってレイジは名刀『憤怒の魂』を抜刀した。しかしそれを姉御が止めた。
「いいや、レイジ、あんたは戦うな。あの飛行車を追うんだ。ネネが待っているだろう?」
姉御の言葉にレイジは少し悩みながらもうなずいた。
「...わかった。でも、誰がこの裂虎と戦うんだ?」
その問いに姉御は少し悩んでから言った。
「ここは...あんこと昆布に任せよう。」
自分の名前を呼ばれてあんこは少し驚きながらも強くうなずき、昆布は驚きの表情のまま姉御を見た。
「えぇ!?せ、拙者とあんこでござるか!?こんなに強そうなのを...二人だけで...!?」
昆布の疑問に姉御は答えた。
「ああ。二人なら多分大丈夫さ。それに、あんこ、いざとなったらあの力を開放して昆布の魂の力の上限を引き出してあげな。それなら絶対に勝てるから。」
「姉御ちゃん...うん!わかった!!」
そう言ってあんこはヒシちゃん達を出して戦闘態勢に入り、昆布はいまだに不安そうな表情でしぶしぶうなずいた。
「わ、わかったでござるよぅ。でも、拙者たちが倒せると思わないでほしいでござるぅ。精一杯足止めぐらいは頑張るでござるからぁ。」
昆布の発言に姉御はフッと笑った。
「ああ。それでいい。」
そう言って姉御は走り出した。そしてレイジは少し心配そうに二人を見ながら言った。
「あんこ、昆布、無茶するなよ。」
レイジはそう言って姉御を追って走り出した。そして裂虎はその二人が自身の横を走り去るのを見送ってあんこと昆布の方を見た。
「お前たちが、俺の相手か。まあ、落ち着け。俺はそこまで強くない。牛鬼の方が圧倒的に強い。」
「え?ああ、そうでござるか。それは...ちょっと安心...?」
昆布は裂虎がなぜかこちらを気遣うような発言をしたことに疑問を持ちながらもそう答えた。そして裂虎はあんこの方をじっと見た。
「そして...あなたが、あんこか。...フッ。なるほど。やはり似ているな。」
「えっ?似ているって、なんの話?」
あんこは首を傾げた。裂虎はさらにフフッと笑った。
「...いいや。こちらの話さ。しかし、まだ、絶望を味わってはいないようだな。だから、根本が少し違うと感じるのだろうな。」
「んんん???なにー?なんの話ー?全然わかんないんだけど?」
裂虎はあんこから目をそらしながらフッと笑い、言った。
「...さあ、そろそろ始めようか。できれば、あんこは、ネネと一緒に我らが魔王軍へと持ち帰りたい。」
裂虎はそう言ってゆっくりと戦闘態勢に入った。