公式戦 レイジvsドナルド その後
ユダの奇襲を退けた昆布とドナルドとレイジは、お互いに話し合いながらもドナルドが昆布に聞いた。
「...しかし、どうやってユダの透明化を見つけたんだ?俺もまあ、一応は気を付けていたつもりだったが、目の前でお前が刀を振ってぶつかる音が聞こえてから気づいたぞ?」
「え!?ああ、それはー。まあ、実は、拙者、えっと、目がいいんでござるよ。」
「目?」
ドナルドは聞き返した。昆布は少しあたふたしながらも答えた。
「あ、ああ!別に、目って言っても、視力とかのことじゃないでござるよ?なんというか、気配が見えるっていうか、何となく、感じるものがあるっていうか...。...まあ、昔から人の顔色を窺って生きてきたでござるから、何となく、相手の感情が見えるって感じでござるよ。特に、殺気の方は。」
ドナルドは嫌な思い出を思い出し、苦しそうな表情を浮かべて言った。それを見たドナルドはうなずいた。
「...そうか。辛い思いをしてきたんだな。それを思い出させて、すまなかったな。」
ドナルドは昆布に謝罪をした。昆布は少し慌てた様子で言った。
「いやいやいや!別に謝ることじゃないでござるよ!ただちょっと複雑な家庭で育っただけでござるからね!それに、何よりも兄貴とドナルドに怪我がなくてよかったでござるよ!」
昆布はへらへらと笑いながらそう言った。その時、レイジの通信端末にヤミナから連絡が入った。
「も、もしもし!!レイジ君!?た、大変!!」
レイジは通信機を手に取った。
「どうした?ヤミナ?」
「ネネちゃんが攫われちゃった!!!」
「な、なんだって!??」
レイジはその報告に心底驚き、ネネとヤミナがいた場所の観客席を見た。そこには必死な表情でこちらに手を振るヤミナの様子があった。レイジは思いっきりジャンプをしてヤミナの場所まで飛んで行った。そしてその通信を聞いていた昆布たちもレイジの後を追った。
「ヤミナ!どういうことだ?ネネが、攫われたって...!?」
「う、うん!今さっき、昆布がステージに上がって行った時だよ!その時の混乱に乗じて急にネネちゃんが眠っちゃったの!!何だろうと思ってよく見てみたら首の後ろに針見たいなのが刺さってて!多分麻酔針!!そして、ウチがネネちゃんの体を揺さぶっていたら魔王軍四天王のアイスがネネちゃんを攫って行ったの!!!」
ヤミナは焦った様子で早口に言った。それを聞いたレイジは質問した。
「アイスが!?...どっちに行った!?」
レイジの質問にヤミナは指をさした。
「あっち!すぐ後ろの外に出る階段の方に行った!今すぐ追いかけて!!!」
レイジはヤミナの言葉に返答することもなく、急いで後ろの階段に向かい周囲を見渡した。するとそこにはネネを抱えながら家の屋根を伝い、バトルマスタータウンの出口へと向かうアイスの姿が見えた。
「あれか...!!!」
レイジは内から湧き上がる怒りの感情をエネルギーに目一杯背中から噴射してアイスの背中を追いかけた。それを見た姉御はヤミナに指示を出した。
「ヤミナ!あんたはここで待ってな。あたしらでネネは取り返す。」
そう言ってレイジの後を追おうとする姉御をヤミナは止めた。
「待って!せ、せめてウチの偵察用ドローンも一緒に連れて行って!そうすればウチがここにいてもそっちの状況がわかるから!それに、空からの偵察ができる方が何かと便利でしょう?」
ヤミナの提案に姉御はフッと笑った。
「さすがだね。ヤミナ。あんたの提案、乗らせてもらうよ!じゃあそのドローンをもらっていくね。」
そう言って姉御はヤミナに手渡されたドローンを手にもってレイジの後を追った。その後ろにあんこ、昆布、ドナルドが続いた。そしてドナルドが付いてくることに昆布が驚いた。
「ドナルド!?ドナルドも来るんでござるか!?せっかく兄貴に勝ってバトルマスタータウンの優勝が狙えたっていうでござるのに。」
昆布の言葉にドナルドはフッと笑って答えた。
「優勝の名誉と、未来のルドラータファミリーの幹部の命、比べるまでもないだろう?それに、俺が行かなくても、どうせアルバートとフォルキットが行くだろうからな。」
ドナルドの言葉に反応するように、後ろからアルバートとフォルキットが話しかけてきた。
「ああ!当たり前だろう。俺たちだって、レイジに大恩ある身。そのレイジの女のピンチに、出向かねぇわけねぇだろう。」
「ふっふっふ。本当に、そうですね。それに、強くなったのはドナルドだけではありませんからね。私たちも、新たな力を得ましたからね。」
二人の発言にドナルドは満足そうにフッと笑った。
「だろ?ルドラータファミリーってのはな、義理人情に厚い連中なのさ。ファーザーがそうだったようにな。」
「な、なるほど。いいマフィア...ってことでござるか?まあ、拙者は兄貴の助けになってくれる人なら大歓迎でござるよ!」
そう言って昆布たちはレイジの後を追った。そして追っている途中で姉御がとあることに気づいた。
「...そういえば、ゴゴは?あいつ、いなくないかい?」
姉御の言葉にあんこたちはお互いにキョロキョロと顔を見合わせて情報を知っている人を探した。しかし誰一人としてゴゴの所在を知る人はいなかった。それを確認した姉御はため息をついた。
「はぁ、全く、どこで油売ってるんだろうねぇ。仕方ない。とりあえずゴゴのことは放っておこうか。」
姉御の意見に皆はうなずいて納得した。そしてレイジはアイスがバトルマスタータウンの出口から外に出て行くのを見ていた。
『ハニーを連れ去るだなんて、そんなことは許さない。絶対に、絶対にだ!!!』
レイジはそう思い、全速力で後を追って出口から外に出た。するとそこには飛行機と車が合体したような、ジェットエンジンが搭載された浮遊する車を発見した。その銀色の素材や所々に走る緑色の光が、その飛行車が神のへそくり製のものであることをレイジは直感した。
そしてレイジはその飛行車の中に乗っている者を確認した。中にはアイスとファイアと牛鬼ともう一人黄色い毛皮で体が牛鬼ほどある大きな魔族の男がいた。その姿は虎そっくりだった。そして牛鬼がレイジに気づいて声をかけた。
「おお、意外と早く追いついてきたなぁ。おめぇさん、なかなか成長してるんでねーの?わっしの見立てじゃ、おめぇさんが勇者候補ん中で一番弱ぇと思ってたけど、速さに関しちゃ、いい速さだねぇ!」
牛鬼は訛った言い方でそういった。レイジはそんなのお構いなしに車内に乗り込もうとジャンプした。しかしその飛行車は後ろについていたジェットエンジンを起動させ、ギュンッという音と共にものすごいスピードでその飛行車は走って行った。レイジはジェットエンジンの風圧に前へと進むことが出来ず、走り去った後でしか動けなかった。
「ネネ!!!」
レイジはそう叫んでまた目一杯の力を出してその車を追いかけた。しかし車の方が速く、段々と距離を離されていく。焦るレイジはただひたすらに追いかけることしかできなかった。するとそこで思わぬ事態に遭遇した。
「ふんんん!!!!!」
レイジの後ろから放たれたものすごいスピードの何かが、飛行車のジェットエンジンを貫いて故障させた。飛行車はスピードが明らかに落ちた。そしてレイジは後ろを振り返った。そこにはマスターブラックの姿があった。
「ほっほっほ!!レイジよ!!わしはバトルマスタータウンから外に出るわけにはいかぬ!!じゃから、これしか出来んが、お前さん!!がんばれよ!!!!」
マスターブラックは大きく手を振りながらそう言った。レイジはマスターブラックの姿を見てようやく理解した。
『そうか!さっき俺の後ろから放たれたものは、マスターブラックの殺意の波動拳だ!!!』
そうレイジは理解してマスターブラックに大きな声で言った。
「ありがとう!!!師匠!!!あんたは街を守っていてくれ!!俺は必ず!!ネネを取り戻して見せるから!!!」
レイジの言葉を聞いてマスターブラックは嬉しそうにその長いひげをなでながら言った。
「ほっほっほ。頑張るのじゃぞ。レイジ。どれだけ強大な敵が待ち構えていようとも、そこから逃げず、立ち向かってこそ、輝かしい未来が待っておるのじゃから。」
マスターブラックはそう言ってレイジたちの行く背中を見つめていた。
そして飛行車のエンジンの一つがやられたことに気づいた魔王軍たちは話し合っていた。
「どうやら、ジェットエンジンがやられたみたいじゃのう?」
牛鬼はほかのメンバーに言った。ファイアがムッとした表情で答えた。
「バカな!神のへそくり製だぞ?それを超遠距離からぶっ壊すだって?冗談じゃねーよ?」
ファイアの発言に虎の魔族が答えた。
「...確かにな。どうやら敵の中に、とてつもない手練れがいるようだ。このまま車を走らせていてもいいのか?」
虎の魔族は運転席を見ながら言った。運転席にはガイアが座って運転をしており、その質問に答えた。
「さあな。だがワープポイントまで行かなければ、どのみち俺らは帰れないからな。車残して走って逃げるなんて、魔王様からどんなお叱りの言葉を受けるかわかったもんじゃないぞ。」
ガイアはそう言ってほほを指でかきながら言った。それを聞いて牛鬼はため息をついた。
「はぁ、そんじゃあ、あれか?誰かが殿を務めにゃいかんと?はぁー。そげな面倒なこと、わっしにやらせんだってくれよ?こん中じゃ、わっしが一番ジジイだっけなー!」
牛鬼の言葉にアイスは冷たい表情のまま答えた。
「いや、そうする必要はない。この先に色兎とエロマが罠を張っている。」
それを聞いた牛鬼は驚きながら言った。
「なんじゃて!?あの若ぇ娘っ子け!?わっしそれ知らんかったべ?」
牛鬼の言葉にアイスは答えた。
「牛鬼は否定するからだ。」
「あったりめぇだて!あんなわっけぇもんが、こげな危ない任務に就かせるなんて、賛成なん、できるわけねーべさ!」
牛鬼の言葉にアイスはフゥーっとため息をついてから答えた。
「だから言っただろう?否定するから言わなかった。それは魔王様のご意志だ。魔王様は牛鬼のやさしさを一番わかっていらっしゃる。だから牛鬼には伝えるなとご命令があった。」
「ま、魔王様の命令じゃと!?...まあ、確かにわっしは必ず意見するじゃろうからな。しっかし、大丈夫なんけ?殿務めるって、半端じゃねぇ辛さだて?」
牛鬼の質問にアイスは冷静に答えた。
「気にするな。どうせ、俺たちも殿を務める。色兎とエロマがすべての敵を足止めできるとは考えていない。一人ずつ、この車から降りて戦うことになる。」
「...確かにそうじゃが、それなら色兎とエロマ、呼ばんだってもよかったんじゃねーんけ?」
「いいや、あのエロマの能力は足止めにはうってつけだ。」
アイスの言葉にファイアは笑いながら言った。
「そうだな!それに、魔王様からの命令は、『レイジパーティーの中から女の子を連れてくること』だしな!一番はあんことかいう浮いている少女と姉御とかいう女性を連れ去るのがいいって言ってたし、そいつらが追ってくるんだったら逆に返り討ちにして連れ帰ってもいいわけだしな!そうする余裕が生まれるってのも、エロマたちがいてくれたおかげってことなんじゃないの?」
ファイアは頭の後ろで手を組んで得意げにそう言った。そしてアイスはうなずいた。
「そういうことだ。」
牛鬼はそれを聞いてうなずいてから聞いた。
「なるほどのう。んで、色兎とエロマの帰り道はちゃんと確保しとるんか?」
牛鬼の質問にアイスは答えた。
「ああ。あの二人は時間制限付きだ。それを超えたら強制的にワープさせると魔王様がおっしゃっていた。」
「なるほどのう。それならわっしは安心じゃ。」
そう言って牛鬼は腕を組んでどっしりと座りなおした。そしてガイアが言った。
「...色兎とエロマだ。」
飛行車の道の先で手を振っている色兎とエロマがいた。ガイアは手を上げて挨拶した。そして飛行車は色兎とエロマを横切ってそのまま走って行った。その数秒後、エロマは幻獣使いの能力を使って巨大なピンク色の霧を発生させた。