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星の勇者  作者: アシラント
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公式戦 レイジvsドナルド

レイジとドナルドはお互いに戦闘態勢に入った。場の空気が一瞬でぴりついた空気に変わる。そしてドナルドはレイジに言った。


「行くぜ?レイジ。」


「ああ。」


その短い問答の後、ドナルドは姿勢を低くして勢いよくレイジに向かって飛んで行った。レイジは両手で名刀『憤怒の魂』を握り、タイミングを見計らって反撃しようと構えた。


「はぁぁ!!!」


ドナルドは空中でクルッと一回転してレイジの脳天めがけてかかと落としを繰り出した。レイジはその攻撃を左へと回避して避けながら、反撃の横薙ぎの斬り返しを右から左へと放った。それをドナルドは足を自身の前に出してブースターを点火して後ろへとギュンッと移動して回避した。


「...フッ!やっぱり強いな。レイジ。今の動きだけでそれがわかるぞ。」


「褒めてくれてありがと。でも、まだまだドナルドも全力じゃないことは分かってるよ。正直、このウォーミングアップはあんまり好きじゃないね。ゆったりと相手の手札を見極めようとする感じ、本当の殺し合いなら俺もするけど、今はそうじゃないだろう?面倒だから俺はいきなり本気を出させてもらうよ!」


レイジはそう言って精神を集中させて深く息を吸い、自身の魂の力を最大限引き出しながら、炎の力を引き出した。


「バーニングレイジ。」


レイジがそうつぶやくと体の周りから灼熱の炎が湧き上がり、レイジの体を包み込んだ。そしてその炎を振り払った時、黒く焦げひび割れた肌の隙間からマグマのような赤いエネルギーを見せるバーニングレイジ状態へと変身した。それを見たドナルドは驚きながらも少し興奮した状態で見ていた。


「おお、それが、バーニングレイジってやつか。昆布との戦いを見ていた時もシールド越しに見ていたが、やっぱり恐ろしいな!俺が恐怖を感じるほどとはな!」


ドナルドは恐怖を感じ、それでいてワクワクが止まらなかった。レイジはそんなドナルドを見てフッと笑った。


「さあ、俺は全力を出したぞ?お前も出せよ。ドナルド。どうせまだ何か隠しているんだろう?」


レイジに言われてドナルドもフッと笑った。


「...仕方ねぇな。本当はウォーミングアップをしながらゆっくりと出す予定だったが、そこまでの圧のある姿に変わられちゃ、俺も本気を出さざるを得ないな。見せてやるよ。俺の本気を!!!」


そう言ってドナルドは右手を強く握り、顔の前までもっていき、力を溜めた。するとドナルドに体から黒いオーラのようなものが湧き出してきた。


「この能力は、本当は全身に(まと)うのは効率が悪いんだがな、バーニングレイジに対抗するにはこうでもしないとダメっぽいからな。」


そう言ってドナルドはその黒いオーラがドナルドの全身を(おお)いつくし、黒い(まゆ)のような状態になり、そしてそれを内側から(やぶ)るようにドナルドが出てきた。その姿はまるで漆黒の騎士の甲冑(かっちゅう)を身にまとったような姿であり、頭にはトカゲやドラゴンといった爬虫類のような顔をした兜をまとっていた。その姿にレイジは驚き、圧倒された。


「な、なんだ...!?その姿...!?」


『あ、あれは...!!?』


レイジが驚くと同時に頭の中にスザクの驚いた声が響いた。レイジはスザクに聞いた。


『知っているのか?スザク?』


レイジの質問にスザクは答えようか迷った挙句に話し始めた。


『...ああ。あれは、先代の勇者が生み出した、勇者の力を全身に(まと)った最強の(よろい)だ。』


『最強の...鎧...?確かに、勇者の装備には肝心の鎧が無いなーとは思っていたが、それがあれだってことか?』


『いかにも。先代勇者は鎧を嫌っていたらしい。理由は重たくて動きにくいからとのことだ。そんな先代勇者が発案したのが自身の能力を使って鎧を生み出すことだったらしい。そうすれば鎧を装備したり外したりの手間がなくなるからとのことらしい。』


『...なるほどな。で、なんでドナルドがその能力を持っているんだ?』


『...それは...わからん。』


スザクの反応にレイジは意外に思った。


『珍しいな。スザクが言葉に詰まるなんて。』


『...ああ。我もすべてを知っているわけではない。しかし、ドナルドが確実に勇者の力を受け継いでいることだけは確かだ。』


『...そうだな。』


レイジはそう言って意識を現実の方へと持ってきた。そしてドナルドがレイジに話しかけた。


「どうだ?この姿。お前にしか見せたことないだろう。まあ、それもそうだ。これはお前が波動拳を学んでいる3か月の間に編み出した技だ。さあ、本気でやろうか。」


ドナルドはそう言うと地面に足を力強く打ち付け、力を溜めた後、一気にレイジへと急接近した。レイジはすぐさま刀を構え、迎撃の態勢に移った。そしてドナルドは珍しく、腕での攻撃を繰り出した。レイジはそれを避けながら距離をとるために後ろへと下がった。


「どうした?レイジ?珍しいか?俺の腕での攻撃が。まあ、基本俺は足でしか攻撃してねーからな。」


ドナルドはレイジを逃がさないように、下がるレイジに追撃を加えながらそう言った。レイジは答えた。


「まあな。ドナルドは足で攻撃するのが基本だと思ってたからな。なんで腕で攻撃してんだ?」


「まあ、教えようか。この鎧を纏うとな、足での攻撃はやりにくくなるんだよ。まあ、当たり前だが、鎧が重いんだ。自分で生み出したのにもかかわらず、正直使いにくくてな。」


「...まさか、そんな単純な理由だったのか。」


「まあな。だが、俺がそんな初歩的な問題を野放しにすると思うか?」


「...思わないな。何か、作戦があるんだろう?」


レイジに言われてドナルドはニッと笑った。


「ああ。この鎧はな?」


そう言ってドナルドは今まで腕で攻撃していたのに急に右足でレイジの腹を蹴った。レイジはその蹴りの速度について行けず、もろに喰らってしまった。


「ぐはぁ!!?」


レイジは吹き飛ばされ、シールドに背中をたたきつけられた。そしてレイジは痛みに顔をゆがませながらドナルドの方を見た。するとドナルドの足は鎧が無くなっていることに気づいた。


「...一瞬で元に戻せるんだよ。そして、発現するのも一瞬だ。」


ドナルドはそう言って足を持ち上げて、一瞬で黒い鎧を纏ったり解除したりを見せた。そしてドナルドは話をつづけた。


「つまり、俺のこの黒い鎧は、鎧という重さの問題を解消してしまったというわけだ。危険を感じたら鎧を発動し、機動力が欲しいときは鎧を解除すればいい。しかも、再展開にそれほど魂の力を消費しないんだ。便利な能力だぜ。」


ドナルドの説明を聞いてレイジはフッと笑いながら立ち上がろうとした。そこでスザクの声が頭に響いた。


『...勝てんな。』


『...まあね。ドナルドには勝てそうにないね。』


レイジはそう答えたが、スザクは首を振ってそれを否定した。


『違う。そうじゃない。我が言っているのは、今の貴様では勝てないと言っている。』


『...。』


レイジはスザクの言葉に何も反論できずにいた。自分でも分かっていたからである。


『レイジ。貴様も気付いているだろうが、貴様の今のバーニングレイジはあまりにも弱弱(よわよわ)しい。昆布と戦った時の半分ほどの火力しか出ていない。』


『...わかってるよ。それくらい。』


『なぜか、を、理解しているのか?』


『...感情の爆発が足りないって言うんだろう?』


『そうだ。まあ、今の試合で感情を爆発させるのは難しいのは我も理解している。だがな、これだけは覚えておけ。命をかけねば魂は腐る。安全、安心、安定。それを求め、それに()かっていると、人は腐ってしまう。魂の力はどんどんと小さくなってしまうのだ。』


『...ああ、わかってるよ。』


『...ならいい。それならば、今の貴様の全力をやつに叩きこめ。そして実感しろ。感情の爆発の無いバーニングレイジがどれだけ弱いのかを。』


スザクはそう言ってレイジとの会話をやめた。レイジは再び現実に意識を戻し、ため息をついた。


「はぁ。わかってるんだって。...でも、やれって言うんだろう?わかってるよ。」


そう言ってレイジは昆布の時と同じように自身の魂の波動斬と炎の波動斬を合わせた波動斬を作り始めた。それを見てドナルドは嬉しそうにフッと笑った。


「もう、終わらせるってことか?レイジ?」


「ああ。これ以上長引いても勝ちの目は全くない。それなら、俺の全力を叩き込むだけだ!!それが通用しないなら、俺の負けだ!!!」


レイジはそう言って炎と魂の波動斬を全力で作り出した。そしてその出来に心底驚いた。


『こ、これが、俺の今の最大なのか...?炎の威力も魂の大きさも、何もかもあの時の半分以下だ。昆布の時が火炎放射器だとすれば、こっちは松明(たいまつ)程度の圧しか感じない。...予想以上に、ひどい出来だ。』


レイジはそう思った。そしてドナルドもそれと似たことを思っており、それをレイジに聞いた。


「レイジ、それが、本気なのか?俺相手に遠慮しているのか?あの時、昆布を殺しかけたからか?」


ドナルドの質問に、レイジは少し苦しそうに首を振ってこたえた。


「...いいや。これが、今の、俺の本気なんだ。この程度の炎が、俺の本気なんだ...。」


レイジは悲しそうに微笑みながらそう答えた。ドナルドはその表情を見てレイジが嘘を言っているわけではないことを理解した。


「...そうか。...まあ、魂の力は感情に左右されやすいって聞くからな。あの時は昆布の暴走を止めるために頑張っていたもんな。...まあ、こんな命の取り合いでもないただの試合で、そこまで本気は出せないか。」


ドナルドはそう言ってレイジを(なぐさ)めた。レイジはその慰めが自身の(あわ)れさを感じ、フッと笑ってその炎と魂の波動斬ですら(はな)たずに消した。


「...こんなもの。撃っても意味はないね。俺の負けだ。降参する...!!?」


レイジはそう宣言しようとした瞬間に、氷のように冷たい手が心臓を掴んできたかのような恐ろしい違和感に驚いた。


『な、なんだ!?この胸を掴まれる感じは!?』


レイジの異変にいち早く気付いたのはスザクだった。


『馬鹿者!!今すぐにバーニングレイジを解除しろ!!!勇者の力に支配されるぞ!!!』


スザクは慌てた様子でそう怒鳴るように言った。レイジはその言葉を聞いてすぐにバーニングレイジを解除した。すると先ほど感じていた冷たさはなくなり、そしてフゥーッと安堵(あんど)の息をつくスザクの声が聞こえた。そしてレイジは聞いた。


『い、今のは...?』


『今のが、勇者の力だ。...それのせいで...貴様は...意識を失った...。』


スザクは段々と声が遠のきながらもレイジの質問に答えた。そしてレイジは思った。


『今のが...勇者の力...なんか、恐ろしいものを感じたな。』


『...そうだな。...我は...また...眠る...。』


スザクはそう言って目を閉じた。そしてレイジは現実に引き戻された。そこは試合が終わり、シールドが解除され、ドナルドが心配をしてレイジに駆けつけてきているのが見えた。


「レイジ!...大丈夫か?」


「ドナルド...。ああ。大丈夫だ。なんか、勇者の力に支配されかけたらしい。」


「勇者の力に...?俺は、今まで力を使っていたが、そんなことにはならなかったけどな。まあ、人それぞれってことかもな。」


ドナルドがそう言って四つん這いになっているレイジに手を差し伸べた。レイジはその手を掴もうとした。その瞬間に昆布の声が聞こえた。


「危ない!!!!!」


声のする方をレイジとドナルドは見た。そこには昆布が必死の表情でステージに上がり、こちらへと走ってくる様子が見えた。


「...昆布...?」


レイジの声も聞こえないほどに必死な昆布は、ドナルドの背中側の空間に向けてホワイトの蛇腹剣(じゃばらけん)を勢いよく放った。蛇腹剣は何にも当たることなく、そのままステージの地面に突き刺さった。昆布の行動がレイジとドナルドは理解できず、眉をひそめた。


「昆布?いったい、どうしたんだ?」


「兄貴!!ちょっと借りる!!!!」


昆布はレイジの質問に答える余裕もなく、レイジの手元に落ちていた名刀『憤怒の魂』を拾い、またドナルドの背中の方に刀を振った。すると何もない空間のはずなのに、金属同士がぶつかる音が響いた。その状況にドナルドはさらに眉をひそめた。


「な、なんだ!?...!!!まさか!?」


ドナルドはある一つの可能性に気づいて一瞬で黒い鎧を全身に纏った。その二人を見てレイジはまだわからず、考えた。


『なんだ?何が起こっている?何もない空間に刀を振ったはずなのに、金属音...?何もない...何もない...?まさか!?透明化...!?』


「ユダか!!?」


レイジはユダが襲ってきたという可能性に気づき、二人に答え合わせを求めるようにそう叫んだ。二人は静かにうなずいた。そして、聞き覚えのある不気味な笑い声が聞こえてきた。


「ケッケッケ!!...まさか、完璧な不意打ちが見破られるとは...。何なんでしょうかねぇ?この老け顔の武士は...?」


その声を聞いてドナルドは腹の底から煮えたぎるような怒りが込み上げてきた。


「ユダアアアアアアアアアアアアア!!!!!」


ドナルドはそう叫んで目を凝らしてユダの存在を探した。昆布も同じように血眼になってユダを探した。


「ユダ...今、ドナルドと一緒に兄貴すらも殺そうとしたでござるよね?君の目的は知らないけれど、兄貴を殺そうとするものは、誰であろうがぶっ殺す。」


昆布は静かなる殺気を腹のうちに燃え上がらせながらそう言った。それを聞いて姿の見えないユダは笑いながら言った。


「ケッケッケ!!残念ですが、失敗ですねぇ。また今度、お会いしましょう。」


そう言ってユダは一度も姿を見せることなくその気配を消した。ドナルドと昆布は最大限警戒しながらも完全に人の気配が無くなったことを確認してゆっくりとその殺気を抑えた。そして昆布はレイジに言った。


「だ、大丈夫でござるか!?兄貴!!」


「昆布...お前、もう動いても大丈夫なのか?」


「え?ああ、まだ少し痛いでござるけどね!拙者が兄貴の戦いを見たくてしょうがないから医療室から抜け出してきたでござるよ!そしてちょうど見たら試合が終わってて、そしたらユダの気配を感じてでござるね、急いで駆け付けたって感じでござるよ!」


昆布はうなずきながらそう言った。レイジはそれを聞いて微笑んだ。


「...そうか。助かった。昆布。お前が来てくれてよかったよ。」


レイジに褒められて昆布は照れながら言った。


「でへ、でへへへへ!兄貴に褒められちゃった!!最高にうれしいでござるよー!!」


そう言って昆布はニッコニコでうれしがった。

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