公式戦 ブレイブvsあんこ
レイジと昆布の試合が終わり、Bブロック初めの試合で姉御がらくらく勝利し、そしてブレイブとあんこの試合が始まった。外はすっかり夕焼け色に染まり、本日最後の試合が開始されようとしていた。
「それでは!次の試合に行きましょう!ブレイブ選手vsあんこ選手!!!両選手はステージにお上がりくださーい!」
マイクマンに言われてあんこは少し緊張した様子で姉御に言った。
「うわー!ついにあたしの出番だよ!!なんか、ハラハラ?ドキドキ?そんな感じする!心臓がふわふわしてるよ!」
あんこは落ち着きのない様子であたふたと動き回りながらそういった。姉御はフッと笑ってポンとあんこの頭に手を置いた。
「大丈夫だよ。あんこ。落ち着きな。ゆっくり深呼吸して。あんたの全力をぶつければそれでいいんだから。修行の成果を試すには最高の相手だろう?」
「姉御ちゃん...!そうだね!あたしが本気を出してもブレイブぐらい強い人なら絶対大丈夫そうだもんね!うんわかった!!あたし、全力ぶつけてくる!!!」
あんこは落ち着きを取り戻して笑顔を姉御に向けながらステージへと上がった。そこにはすでにブレイブが待っており、あんこの姿を見てニコッと笑った。
「おお!来てくれたね!えっと、あんこくん!今日はよろしくね!」
ブレイブは気さくなあいさつをした。あんこも笑顔で返した。
「うん!よろしくね!ブレイブくん!あたし、負けないからね!」
あんこは笑いながらも強い闘志を感じさせるような力強い目をしながら言った。ブレイブはそれを感じ取って強くうなずいた。
「うん!僕も負けないよ!」
二人はそう軽く挨拶をして、お互いに武器を取り出した。そこでマイクマンは試合の開始を宣言した。
「それでは!本日ラストの試合です!試合開始いいいいいいいいいい!!!!」
マイクマンがそう言った直後にシールドは展開され、両者は互いにウキウキとした心持ちで戦いに挑んだ。まず先に動いたのはあんこだった。あんこはふわっと空中に浮かび上がるとヒシちゃん達を自身の周りに展開してブレイブの動きを見た。ブレイブはあんこの武器に興味津々だった。
「うわー!やっぱりすごいね!その武器!僕、今までの人生の中でそんな武器を使っている人、初めて見たよ!」
ブレイブの言葉にあんこはフフンと誇らしげに鼻を鳴らした。
「そうでしょー!ヒシちゃん達はね、あたしと姉御ちゃんとレイジの三人で旅をしていた時に見つけたんだー。じゃあ、その攻撃のすごさも教えてあげるよ!」
そう言ってあんこは切断のヒシちゃんとレーザーのヒシちゃんを展開して、ビームソードを作り出してブレイブへと攻撃を仕掛けた。ブレイブは左手に装備された勇者の剣を握りしめてその攻撃を受けた。そしてあんこは驚いた。
『ええ!?あたしの突撃と思いっきりパワーで斬りかかった攻撃を、左手一本で防いじゃうの!?』
あんこはそう思った。そしてブレイブは受けた左手をブンッと振ることであんこを弾き飛ばした。
「なるほど。そのヒシちゃんって武器はいろんな使い方があるみたいだね。そしてあんこくんもヒシちゃん達も宙に浮いているからどの角度からでも攻撃ができる...。そういう強みもあるみたいだね。」
ブレイブはいつの間にか自身を取り囲むように配置してあるヒシちゃん達に気づいてそう言った。あんこはフフッと笑った。
「すごいね!ブレイブくん!あたしのヒシちゃん達の攻撃の強さがすぐにわかるなんて!...じゃあ、もう本気出してもいいよね?」
あんこはそう言って両手を広げて目を閉じ、集中しながら言った。
「あたしね。ヒシちゃん達とは、本当に、本当に長い間ずっと一緒にいたの。だからね、こんな攻撃もできるんだ。」
あんこはそう言って右手に魂の力を込め始め、カッと目を見開いてブレイブに突進し始めて波動拳を放った。
「波動拳!!!」
あんこの放った波動拳をブレイブは盾で防いだ。そしてブレイブは思った。
『波動拳だ!...でも、思っていたよりも結構軽いかな?タイダイ君とかの波動拳に比べるとやっぱり練度不足なんだなー。』
ブレイブはあんこの波動拳をまだ未熟だと感じた。そして反撃に左手の剣をあんこに振ろうとした瞬間、自身の周りをヒシちゃん達が取り囲んでいることに気づいた。
『なんだ!?...なんか、嫌な予感がする!!』
ブレイブがそれに気づいた瞬間にはもう遅く、あんこはニヤリと笑った。
「波動拳!!!」
あんこの発言と同時に、ヒシちゃん達はキィィィィンという音とともにブレイブに対して波動拳を放った。全方位から放たれる波動拳にブレイブは防御しきれず、全身が圧縮されるような痛みを感じた。
「ぐわあああああああああああ!!!!」
ブレイブは口から血を吐き出しながら叫んだ。そして波動拳を放ち終えたヒシちゃん達は疲れ果て、フラフラとしながらあんこの元へと戻ってきた。そしてあんこは自慢げに言った。
「どう!?あたしの波動拳!!あたし、自分の波動拳はレイジや姉御ちゃん達には劣るけど、あたしとおんなじ威力の波動拳をヒシちゃん達から放てるんだよ!?これ強いよね!?」
あんこは興奮した様子でそういった。ブレイブはそれどころではないほどに痛みを感じていたが、優しく答えた。
「う、うぅぅ。そ、そうだね。正直、僕の人生の中でもトップクラスで痛いよ。」
ブレイブは膝をつき、剣を地面につきたてながらそう言った。あんこはブレイブに褒められて嬉しそうに言った。
「ほんとー!?えへへ!うれしい!!...けど、ヒシちゃん達は波動拳を撃った後にはへとへとになっちゃってもう浮いてるだけでいっぱいみたいになっちゃうんだよね。だから、あたし、もう降参するね?」
「...え?降参?」
ブレイブは予想外の発言に驚いた。あんこはうなずいた。
「うん!この一撃で倒せなかったら、多分あとどんなに闘ってもブレイブくんを倒せないと思う。それに、あたしはヒシちゃん達の一斉波動拳の威力を見れただけで十分なの!だから、降参ー!」
そう言ってあんこは両手を上げて降参のポーズをマスターブラックの方に見せた。それを見てマスターブラックはうなずいて試合の終了をマイクマンに伝えた。
「し、試合終了です!!な、なんと、この試合、あんこ選手の降参によりブレイブ選手の勝利です!!」
マイクマンの宣言でシールドは解かれ、あんこはニコニコしながらブレイブに手を差し伸べた。
「ブレイブくん!ありがとね!キミのおかげでいい試合になったよ!」
ブレイブは少し戸惑いながらもあんこのやさしさに自然と笑みがこぼれ、その手を掴んだ。
「ああ。僕は何にもしてないけれど、役に立てたなら幸いだよ。」
そう言ってブレイブはあんこに手を引っ張られて立ち上がった。そしてあんこと握手をしてからお互いにステージを降りた。あんこはステージを降りた後に姉御の元へと駆け付けた。
「ふぃー。やっぱりヒシちゃん達の波動拳は強かったよ!姉御ちゃんの言う通りだったね!」
あんこはニコニコと笑いながらそういった。姉御はあんこの頭をなでながら答えた。
「ああ。そうだね。それに、あんこが全力を出さなかったことも褒めてあげたいよ。さすがにこの観衆の前ではあの姿は見せられないからね。」
「うん!あたし、姉御ちゃんの言うこと守ったよ!?えらい?」
「フフッ。偉いよ。あんこはいっつも偉いね。それじゃ、そろそろレイジたちと合流して、宿屋に帰ろうか?」
「うん!!」
あんこはニッコニコでうなずいた。そして姉御たちは闘技場を出てレイジたちと合流した。
「レイジ。昆布の状態はどうだったんだい?」
姉御は闘技場の入り口で待っていたレイジに聞いた。レイジは答えた。
「ああ。まあ、命に別状はないらしい。どう見ても肺が切り裂かれていたけど、医者いわく『彼はとても頑丈な体の持ち主だ。確かに肺が斬られてはいたものの、糸で縫い付ければすぐに治る。』だそうだ。」
「...本当にそんなので治るのかねぇ?まあ、あたしは医者じゃないからわからないけれど。...そういえば、神経の方はどうなんだい?左手はもう動かないのかい?」
「ああ。それもなんか、くっつければ治るとかなんとか。まあ、最近に医術はすさまじいし、それに魂の力さえあれば時間はかかっても必ずまた動かせるようになるらしいからな。」
「...へぇ。そうなのかい?まあ、死なないのなら本当によかったよ。まさかあの昆布があんなにもわがままで命知らずだったとは思っていなかったからね。」
姉御がそう言っていた時に、観客席から降りてきたネネとヤミナが合流した。そしてレイジは手を振った。
「おーい!」
レイジの声に反応して二人はレイジの方を向いて手を振り返した。そしてレイジはヤミナに聞いた。
「なあ、ヤミナ。昆布のことなんだが、あいつ、本当に大丈夫だと思うか?」
「え?ええっと...な、なにが?」
「え?ああ。悪い。ヤミナたちは知らないんだな。昆布はなんか、あの赤色の鬼の面頬をつけると悪魔に魂を乗っ取られるらしいんだ。」
「...え?」
ヤミナは眉をひそめた。レイジはうなずいて続けた。
「ああ。だからあの時両腕が鬼みたいな赤い腕に変化したらしいんだ。だから、それは大丈夫なのかと思ってな。ヤミナは神のへそくりとかに詳しいだろう?だから、それっぽい効果の仮面とか、そういうのがあるのか知っているのかと思ってな。」
「な、なるほど。...でも、ご、ごめん。ウチ、そんな神のへそくりは聞いたことない。」
「そうか。まあ、俺も初めて聞いたしな。あいつが元気になったら詳しく話を聞くことにしよう。それより、ゴゴは?あいつはどこ行ったんだ?」
レイジは姉御たちに聞いてみた。しかしゴゴの所在を知っているものは誰もいなかった。そして姉御はため息をつきながら言った。
「はぁ。まあ、ゴゴなら多分いずれ帰ってくるだろうしね。それより、今日はもうみんな疲れたんじゃないかい?いったん宿屋へと向かおうか。もしかしたら、ゴゴが帰っているかも...いや、ゴゴがじっとしているわけないか。まあいいさ。宿屋へ行こう。」
そう言って姉御は宿屋の方へと歩き始めた。それに続いてレイジたちも歩き出した。