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星の勇者  作者: アシラント
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道中の稽古

「魔王」


突如として復活を遂げた魔族の王。17年前に勇者と相打ちになり、両者行方不明になっていた。魔族の中で一番強いから王になれたわけではなく、最も頭が良かったから王になれた。


魔王が復活してから新しい魔王軍四天王が設立された。そのメンバーは今のところ3人が分かっている。ファイア、アイス、ウィンドだ。魔王軍と名がついているにもかかわらず、その3人は人間である。


復活の魔王軍は17年前の魔王軍とは違い、高度な技術、情報、戦術などがしっかりとしている。そのため17年前とは違い、どこに魔王の城があるのかもわかっていない。さらに魔王軍の不可解な行動は、街を破壊したのにそこに住む人々を殺さないようにしていたこともある。


魔王軍の狙いは魔族の繁栄と言っているが、脅威となる勇者たちをつぶそうとしていないことや、最初の復活宣言以降姿を現していないことなど、矛盾した行動をしている。

レイジたち一行はネネの生まれた町に魔王軍の手掛かりを探して向かっていた。


「なあゴゴ。」


レイジはゴゴに耳打ちした。


「ん?どした?」


ゴゴは耳をレイジに近づけた。


「実はちょっと聞きたいことがあるんだけど。」


「なんだ?」


レイジはもじもじとして、周りをちらちらと見ながら小声で話をした。


「実はな、少し言いにくいんだが、その......ネネを見てるとな、なんか、胸がドキドキするんだよ。」


「胸がドキドキ......?」


「ああ。なんというか、生まれて初めての体験なんだよ。ネネのことをつい目で追ったり、笑顔を見ると胸がドキッとしたり、ネネのことをもっと知りたいと思ったりするんだよ。なあ、これってなんなんだ?」


レイジは前であんこと姉御と仲良く歩いているネネを見ながら言った。ゴゴは真剣な表情でジッと黙り込み、考えていた。


「......もしかしてそれって......戦いたいって事じゃねーのか!?」


ゴゴはニッコニコではしゃぎながら言った。レイジは真面目に考え込んだ。


「......いや、絶対に違うな。だって俺はネネを傷付けたいとは全く思ってないんだ。むしろ守りたいと思ってる。だからたぶん違う。」


レイジは冷静に自分の心理状況を説明した。ゴゴは再びうーんと考え込んで次の言葉を発した。


「じゃあもうわかんねーよ。むしろ戦いたい以外の理由でわくわくするもんなのか?」


「......それはお前だけだろ!」


レイジは思わず突っ込んだ。ゴゴはけらけらと笑った。


「そうかー!俺はまだ感情があんまりわかってねーから、俺に聞くより姉御とかに聞いた方がいいんじゃねーか?」


「まあ、そりゃそうだけどよ。......なんか聞きにくいんだよ。」


「聞きにくいって、何が?」


「なんか、聞いちゃいけないことのような気がして......。」


レイジはうつむいて黙り込んでしまった。そんなレイジを見てゴゴは考え込み、突然レイジに殴りかかった。レイジは間一髪のところで避けた。


「うお!?あぶね!?なにすんだよゴゴ!」


レイジはゴゴと距離を取って警戒態勢に入った。その声に、前を歩いていた3人は振り向いて、姉御がゴゴに話しかけた。


「ゴゴ!いきなりどうしたのよ?」


「どうやらよ、レイジは何かすげー悩み事があるって顔してたんだよ。だからよ!ちょっくら稽古でもつけてやろうかなーって思っただけだよ!」


「いやいやいや!どう考えてもその理論はおかしいだろ!」


レイジは必死に止めようとした。ゴゴの顔は戦いに飢えた獣のような顔をしながら、同時に父親のような厳しい愛情を持った顔になっていた。その顔を見た姉御は何かを言おうと思っていたが、グッと我慢して「ほどほどにしなよ。」と言った。


「ええ!!?姉御!?戦うのを許可するの!?」


レイジは仰天の顔をした。ゴゴはニヤリと笑った。


「ああ!もちろん!どうせレイジの方が強いんだし、それに俺がヒートアップしても姉御が見張ってれば大丈夫だろ!」


ゴゴはギラギラと目を光らせて言った。レイジは「マジかよ......」と困惑しながらも拳をグッと握った。


「行くぞおおおおおおおお!!!」


ゴゴはうるさい叫び声と同時にレイジへと距離を詰めて襲い掛かった。ゴゴの大振りなパンチをレイジは難なくかわす。


「おいゴゴ!俺は剣を抜かないぞ!お前を殺したくはないからな!」


「拳で戦ってくれるのか!?なら俺の勝ちだな!」


ゴゴは喜びに満ち溢れた表情で激しい猛攻をつづけた。レイジも避けるだけではだんだんと余裕がなくなっていき、ついにゴゴに拳を当てた。


「どうしたぁー!?そんなちんけなパンチじゃー俺を止められねーぞ!」


レイジが無理に反撃したので生まれたすきを逃さず、ゴゴはレイジの腹に思いっきりパンチを繰り出した。レイジは「がはっ!」と腹パンされたせいで漏れ出した声をだした。そのままレイジは後ろにある大きな岩に直撃した。岩は崩れ去り、茶色の砂煙が舞う。数秒経ったのちに、お腹を押さえたレイジがその砂煙の中から出てきた。


「いってー!!ゴゴの奴、本気で殴りやがった!......じゃあ俺も本気を出してやるよ。」


レイジは覚悟を決めて右の腰に携えてある勇者の刀ではない方の、もともと持っていた名刀イカリを抜刀し、構えた。


「......なんで二刀流で来ないんだ!?」


ゴゴはレイジが一本しか抜かなかったことに腹を立てている。


「仕方ないだろ。勇者の刀は本当の本気モードの時しか抜かないんだ。」


「今は違うってのか?」


「ああ。この刀はめちゃくちゃ強いんだよ。なんか、自分の手足のように扱うことができるんだ。だけどその代わり、これを使った後はめちゃくちゃ疲れるんだよ。まるで幻獣の能力を最大まで使った後みたいにな。それに、この刀を持つとなんか、心がちょっと狂暴になるんだよ。だからこの刀は使わない。」


レイジはそう言うと深呼吸をして心を落ち着かせた。


「......なるほどなー。まあそれでもいいや。俺は遠慮なく本気を出させてもらうからよ!!」


ゴゴは腰にジャラジャラとつけていたキーホルダーをひとつ取り出した。


「......なんだ?そのちっちゃいハンマー?」


レイジが困惑しながら見ていると、ゴゴはグッとキーホルダーに力を入れた。するとキーホルダーは見る見るうちに大きくなり、ゴゴの身長ぐらい大きくなった。


「な......なんだ!?それぇ!??」


流石のレイジも驚きのあまり冷静でいられなくなった。興味津々にそのハンマーを見つめている。


「へへっ!こいつは俺がある場所から盗んできた武器だ。魂の力を注入するとそれに応じてでかくなるのさ!」


ゴゴは得意げに話している。レイジは勝負そっちのけでジーッと見ている。そしてそのことに気が付いたゴゴはある名案が浮かんだ。


「そうだ!もし俺に勝ったら、この武器の秘密を色々教えてやってもいいぞ!」


「なに!?それは本当か!?」


「ああもちろん!だからよ、レイジも本気で俺を倒しに来いよ!!」


そう言うとゴゴはそのハンマーを右手で握り、戦闘態勢に入った。レイジは少しばかり悩んだが、結局自分の知りたいという欲望に勝てずに、勇者の刀を抜刀して二刀流の構えを取った。


「なら、遠慮なくいくぞ!もし俺がゴゴを殺しそうになったら、姉御!俺を止めてくれよ!」


「ええ。もちろんよ。だからレイジ、遠慮なくぶつかっておいで!」


「よっしゃあ!」


レイジは自分の中の不安がすべて解消され、さらに知識欲を刺激されたため今までにないほどやる気を出した。


「さあ、来い!!」


ゴゴはニッコニコで答えた。レイジはゴゴに向かって前傾姿勢になり真っすぐに近づいた。その姿勢のまま右手を振り上げて切りかかった。ゴゴは後ろへと体を倒して避けた。刀はゴゴの顔の前をかすめた。


「おおっほっ!!いいねぇー!迷いなき刀筋だ!ブレてないぞー!」


ゴゴはレイジの本気の戦いに、ユダと同じくらい気持ちの悪い笑みを浮かべた。レイジは気にすることなくグルっと体を回して、左手で回し切りを繰り出した。ゴゴはマトリックスのように上半身をそらして避けた。


「ゴゴ!?意外にも体が柔らかいな!」


「へへへっ!この美しい筋肉に騙されんなよー!昔はもっとスレンダーだったんだぜ!」


ゴゴは体を起こしながらハンマーでブッ叩いた。レイジは後ろに飛んで避けた。ハンマーで叩かれた地面はバキバキに割れた。


「うお!?やっぱり力は一級品だな!」


「おいおい、そんなに褒めんなよ。嬉しくて筋肉が沸き上がっちゃうよ!」


ゴゴは全身の筋肉をピクピクさせた。レイジはグッと地面に脚をつけて飛びかかった。ゴゴがハンマーを振った後の隙を狙ったのだ。ゴゴはハンマーを手放して後ろへと飛び、逃げた。


「へへへっ!さすがだな!レイジ!俺のやられたくない事をいちいちやって来やがって!つえぇな!」


「まあね。俺の戦闘センスはあの姉御にも認められたほどだからね。」


レイジは姉御に褒められたのがよっぽど嬉しかったのだろう。少し誇らしげに話した。


「そんじゃあ俺も、別の手を考えないとな!」


ゴゴはニヤニヤしながらまた腰に付けたアクセサリーを取り出した。そしてそれにちからを送るとそれが大きくなった。


「どうよ!次のやつはハンマーよりもちょっとだけ防御寄りだぞ!」


ゴゴが取り出したものはランスだった。そのランスは普通のものでは無く、先が四角くなっており、全体的に平べったくなっていた。突き刺す用のものでは無く叩きつけて攻撃するものであった。


「......って!結局ハンマーみたいなものじゃないか!」


レイジは流石に突っ込んだ。なにしろ別の手というからにはもっと別の系統のものを持ってくると思っていた。例えば剣や、ナイフや、鞭といったものを想像していた。しかし現れたのはまさかハンマーに似たようなものだったのだ。レイジの想像と違い過ぎていた。


「おいおい!なんてこと言うんだレイジ!いいか、このランスっぽいハンマーはすごいんだぞ?」


「自分でランスっぽいハンマーって言っちゃってるじゃないか!?ハンマーって認めてるじゃないか!?」


「ショーがねーだろ!?俺は俺が生まれてからこのハンマーっていう武器にしかロマンを感じねーんだよ!!」


ゴゴとレイジは戦いの最中だというのに和気あいあいと口論をしていた。その様子に姉御とあんことネネはくすくすと、ほほえましいものを見つめるような笑いをした。


「二人ともすっかり仲良しだねー。なんかちょっとだけうらやましいなー。」


あんこはふわふわと浮いてアンパンをほお張りながら言った。姉御はうんうんとうなずいた。


「ああ。ほんとそうねぇ。ゴゴのめちゃくちゃな性格がレイジにとっては興味がわいて仕方ないんだろうねぇ。」


「......あれが仲間の絆ってやつなのかしらね。......ほんと、羨ましいわね。」


ネネは自身が今までそんな仲間を作れなかったことに対する悲しみと、もしかしたらこの4人とならそんな絆が作れるかもしれないというドキドキが混ざり合ったため息をついた。



キャラクター紹介


「ユダ」


長身、長髪、筋肉質、気持ち悪さが目立つ男。常に左目が隠れる髪型をしており、黒い髪に白いメッシュが入っている。目玉がぎょろりとしており気持ち悪さに拍車をかけている。端正な顔立ちをしており、よくよく見るとイケメン。ケッケッケという独特の笑い方をする。


腕の筋肉が異常に発達しており、その筋肉で大剣を片手で軽々しく扱う。透明になれる能力を持った幻獣を自身の魂に封じ込めたので、ユダはその能力を扱える。


ゴゴ曰く、勇者候補の中で一番強いとのこと。その評価の通り実力はダントツに高く、また相手を殺すことをためらわない冷徹さを持ち合わせており、絶対に敵には回したくない人物である。よく考える性格であり、一度自分の思考の世界に入ってしまうと声をかけられても気づかないほどに、集中力がある。


「ユダ」という名前の通り裏切る。作者が一番お気に入りのキャラクターである。

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