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星の勇者  作者: アシラント
149/157

公式戦 レイジvs昆布④

レイジは両手に刀を装備して二刀流になり、さらに名刀『憤怒の魂』に魂の力を流し込んでいつでも波動斬を放てる状態にした。昆布はそれを見てニヤリと笑った。


「兄貴ぃ。兄貴は本当に優しいねぇ。拙者を悪魔から助けるためにそこまで本気になってくれるなんて。」


昆布は自身の鬼のように変貌した右手を見ながらそう言った。レイジは考えた。


『...その言葉は一体どっちが言っているんだ?昆布か?悪魔か?...まあ、いいか。とにかく、昆布を倒さないと。』


レイジはそう思いながらすぐに首をブンブンと振って雑念を払い、戦いの目に変わった。昆布もそれを見てフッとクールな笑みをその面頬(めんぼお)の中で浮かべたまま口を閉じ、戦闘態勢に入った。両者の間に独特の空気が(ただよ)い、ピリピリとした緊張感をお互いに感じ始めた。

 そして昆布が言葉を交わすこともなく、いきなり攻撃を仕掛けた。右手をゆったりと上にあげてから、ヒュッという空を切り裂く音とともに振り下ろし、ホワイトの蛇腹剣をレイジへと向けて飛ばした。レイジは瞬時に反応し、右へと勢いよく動いてかわし、右足で着地した瞬間に()ねるように昆布へと一直線に向かって行った。その姿を見て昆布は思った。


『速い。今の拙者の攻撃を、かなり余裕をもって避けていた。バーニングレイジ中は身体機能が飛躍的に向上している。しかもそれだけじゃなく、魂の力にも何かしら影響が出ているように見える。今までの兄貴の魂の力に加えて、おそらく炎の幻獣の魂の力も加わっている...?いや、それ以上の『何か』も力を与えているのか...?』


昆布はホワイトを巻き取って収納しながら迫りくるレイジをジッと見つめ動きを観察しながらそう思った。そして左手に魂の力を集めていつでも対応できるようにしておき、レイジの動きをギリギリまで引き付けつつ様子を見ていた。

 レイジは左手の勇者の刀を下から上へと切り上げながら攻撃をした。昆布はその攻撃を後ろへと距離をとることによって避けた。その避けた隙を狙って、レイジは右手の刀でまた下から上に切り上げるながら波動斬を放った。


「波動斬!!!!!」


その波動斬は昆布の背丈を優に超えるほどの大きな三日月状の波動斬であった。そしてレイジは思った。


『これほどの大きな波動斬。まだホワイトを巻き取っている状況のお前なら避ける以外に回避方法はない。だが、お前が右へよけても左へよけても意味はない。』


そう思いながらレイジは切り上げた左手の勇者の刀をすでに手放しており、(ふところ)のドナルドにもらったドスに手をかけて、魂の力を込めていた。


『お前の位置からは波動斬のせいで俺の姿があまり見えない。まさか俺が勇者の刀を捨ててドスに魂の力を込めているなんて考えはしない。そして俺はお前がどっちへ避けるか、じっくり見させてもらう。体勢を崩された状態で、俺の波動斬の嵐を避けきれるわけはない!』


レイジはそう思って昆布の動きに注視した。しかし昆布はレイジの予想とは裏腹に、全くその場を動かずにいた。そして昆布はフッと笑った。


「拙者はね。唯一、自慢できることがあるんでござるよ。多分、兄貴にはできないことができる。」


昆布は迫りくる波動斬を前に悠長に話し始めた。レイジは昆布のやっていることが理解できずに思わず大声で言った。


「バカ!前見ろ!!波動斬が迫ってるぞ!!!避けろ!!!」


それは自身の作戦が外れたことによる焦りではなく、単純に昆布の命を心配しての焦りの言葉だった。しかし昆布はそんなことお構いなしに話をつづけた。


「それはね。防御の力でござるよ。拙者、昔はすっごくいじめられていたんでござるよ。毎日毎日、剣術の稽古(けいこ)でボコボコにされてて。だから、うまく防ぐ術を自然と学んでいったんでござるよ。その苦しかった経験がまさか今になって役に立つとは、思ってもいなかったでござるよ。姉御殿の戦闘を見られたことが、本当に幸運でござったよ。」


昆布はそう言って迫りくる波動斬に向かって魂の力を集めていた左手を出した。


「魂の力を波動に変えるように、自身の防御へと変換する。そうすることで、『魂の盾』が生み出される。しかも、その盾は拙者の思ったとおりに形を変える。例えば、自身の手をいっぱいに(おお)う、籠手(こて)のように...!」


昆布は自身の左手に意識を集中させた。そして昆布は波動斬をその左手でつかんだ。すると波動斬はバチバチと稲光を放ちながらその場で止まり、昆布の腕とせめぎ合っていた。レイジは全く予想していなかった昆布の動きに驚き、思わずのけ反った。昆布は自身の左手に押し寄せる波動斬の振動を感じながら、腰を落として足を踏ん張った。


「とてつもない衝撃だ。こうやって触ると実感する。波動斬は高周波ブレードのような、細かく振動しながら迫りくる(やいば)なんだな。そして...残念だけど、やっぱりこれを受けきるほどの実力は、拙者にはないか。」


そう言って昆布は掴んでいた波動斬を自身の後ろへと受け流した。波動斬はシールドへとぶつかり、キラキラとした塵になって消えた。そして昆布は茫然(ぼうぜん)としているレイジに向かって行った。レイジはハッと我に返り、迫りくる昆布に対してドスで波動斬を放って応戦した。しかしそのすべてが昆布の左手に防がれて、レイジは昆布の左手の拳をほほに受けて吹っ飛ばされた。


「ガハッ!」


レイジはそのままシールドまで吹っ飛ばされて叩きつけられ、背中に焼けつくような痛みを感じた。


「ぐわああああああ!!!!」


その痛みは神のへそくりであるシールドを触ってしまったことで発生した。そしてレイジは痛みに奥歯をかみしめながら意識を途切れさせず、昆布の追撃を警戒して昆布から目を離さなかった。昆布は自身の左手を見ながら何か、とても複雑な、(むな)しさや悲しさを心に感じながらその手をじっと見つめていた。そしてレイジは追撃の恐れがないことを確認してフッと息を吐いた。


『いてぇ。し、しかし、さっきの技はなんだ?姉御の技術を利用したのか?いつの間にそんなことが出来るようになっていたんだ?俺の波動斬はすべて通用しなかった。いったいどうしたら...?』


『簡単な話だ。我の炎の力とその波動斬を組み合わせるのだ。』


『スザク!?...そうか。そう言っていたな。お前は。...確かに、それなら突破できるのか?』


『無論だ。貴様は少々炎の力を過小評価している。それは炎のせいではない。貴様には爆発するほどの感情が足りないのだ。そのせいで炎の威力は死にかけの老人程度の威力しか出ないのだ。』


『感情...。そうだろうか?その感情が(たかぶ)ったおかげで、俺は意識を失わずにバーニングレイジを発動できたんだ。それでもまだ感情が足りないっていうのか?』


『そうだ。貴様はただ、何かのために感情を昂らせているに過ぎない。そんなものはまやかし、ただの付け焼刃の感情だ。真の感情とは、何かのためではなく、自然と湧き上がり、爆発するものなのだ。目的のために感情を出すものではない。』


『...じゃあ、一体どうしたらいいって言うんだ?俺は正直、今ですら結構感情的になって頑張ってるんだぞ?』


『爆発だ。爆発が足りないのだ。貴様は。貴様は...良いところなのだろうが、あまり感情的にならない性格のようだ。いつでも冷静に、感情に支配されずにいられる。それは人間関係においては素晴らしい能力だ。だが、強くなるためには冷静な頭脳と熱い魂が必要だ。...もっと馬鹿になれ。レイジ。子供っぽく、わがままに。泣き叫び、(わめ)き散らし、みっともなく感情を表せ。チュー五郎に殺されそうになり、泣きながら命乞いをした時を思い出せ。我は、貴様のみっともない感情が昂ったおかげで、目を覚ませたのだ。』


スザクはレイジを説得するように言った。そのスザクの言葉はレイジには少し痛みを感じる言葉だった。


『...あの、俺がすっごくダサかった時みたいにしろってこと?...嫌なんだけど。かっこいい俺でいさせてほしいんだけど?...でも、わかってる。あれぐらい馬鹿にならなきゃ、俺の感情は引き出せないってことなんだな。...わかった。多分、今すぐには無理だろうけど、頑張ってみるよ。』


『ああ。期待しているぞ、レイジ。とりあえず、今考えるべきは波動斬に炎の力を込めることだ。貴様なら楽にできるだろう?我は分かっているぞ。貴様の技術力はこの世界でもトップクラスに高いことを。』


『...ああ、ありがとう。なんか、スザクって、敵だって言っている割には俺に結構協力的だよな。なんでだ?』


『...フッ。まあ、似ているからな。貴様と我は。敵同士でなければ、いい友人になれただろうな。そう思っただけだ。』


『ふーん、それが本心なのかどうかは分からないが、とりあえずありがとう。』


レイジはそう言って深く息を吐いて集中し、名刀『憤怒の魂』に魂の力を込めて波動斬を放てる状態にし、さらにその上に自身の幻獣の能力、炎の力を上乗せしてみた。


『なるほど。これは確かに難しい。波動斬がまず難しいのにそれに炎を加えるのはあまりにも難しいな。』


『...上乗せしようとしているから難しいのだ。違う。逆転の発想が必要だ。』


『逆転の発想?』


『波動斬に炎を加えるのではない。炎の力を波動斬にするのだ。魂からあふれる炎の力。それは魂の力を炎に変えている。しかし、バーニングレイジ中は炎は貴様の中から湧き出している。その炎を使って波動斬を放つのだ。』


『なるほど。つまり、魂の力を使うのではなく、俺の炎を力を使って波動斬にするってことか。しかもそれはバーニングレイジを発動している間だけ使えるとっておきの必殺技ってことか?』


『そんなところだ。そして、それができてからようやく、波動斬と炎の波動斬を合わせて放つことを考えるのだ。忘れるな。今貴様は炎の魔神と()している。貴様は二つのエネルギーを扱えるのだ。一つは、魂の力。貴様の内側のエネルギー。そしてもう一つは炎の力。貴様の体のエネルギーだ。』


『な...るほど...!!今ようやくわかった!!バーニングレイジがなぜそれだけ特別な変身なのかを!!二つの力を併せ持つ姿になれるからなのか!!!』


『そうだ。そして、それこそが幻獣という種族の本当の恐ろしさなのだ。...今はまだ、魂の力を完全に取り戻していないようだが、もし、ビャッコ、ゲンブ、セイリュウ、そして王の誰かが完全な姿に戻った時、貴様らは...』


スザクは最後の言葉を言おうとしていたが、口を閉ざした。レイジは首を傾げた。


『...王?』


『...ああ、幻獣の王。王がすべての幻獣の頂点に立っている。いずれ、貴様が出会う日も来てしまうのかもな...。』


スザクはすこし悲しげな感情を乗せながらそうつぶやいた。そしてレイジはそのことに疑問を持ちながらも、今は炎の力を波動斬にするために集中しようと思い、聞かなかった。

 レイジは再び息を吐き、集中して、今度は炎の力を刀に流し込んだ。


『炎の力...魂の力と同じように俺の意思に従って動いてくれる!こんなに扱いやすかったのか!』


『ああ。通常時は、魂の力を燃料に炎を生み出していた。しかしバーニングレイジ中は貴様という存在自体が炎を生み出す魔神と化す。炎を操るのは貴様が腕を操ると同じ事。むしろ魂の力以上に扱いやすいといえよう。』


『確かに。炎が俺であることが当たり前になっている。...不思議な感覚だ。そして、炎の波動斬が放てそうだ。いや、放てるという確信がある。』


そう思ってレイジは刀に炎の力を集中させ、炎の波動斬を放った。昆布は再び左手に魂の力を集めてそれを掴んだ。そして違和感に気づいた。


『炎の波動斬...掴んでみたら一瞬でわかる。これは波動斬じゃない!波動斬っぽく放っただけのただの炎だ!魂の力の波動斬みたいに振動していない!ただ、とても熱いだけだ!!』


昆布はそれを理解して、炎の波動斬を受け流した。そしてレイジは思った。


『これ、波動斬じゃ無くね?ただ炎を飛ばしてるだけのような...?』


『それでいいんだ。それが大切だ。そして、ここからが本番だ。魂の力の波動斬と炎の力の波動斬、その両方を組み合わせて放つんだ。』


『どうやって?』


『簡単だ。刀の中心に魂の力を溜め、それを包むように炎の力をまとわせる。そして二つを波動斬にして飛ばす。簡単だろう?』


『難しいんですが。』


『...まあ、ならばコツを教えよう。波動斬を作るイメージではない。人間を作るイメージでやってみるのだ。』


『人間を作るイメージ...?』


『ああ。人間は、魂が中心にあり、それを包み込むように肉体がある。その肉体が炎に置き換わっただけだ。...いや、人間を作るというより、貴様の分身を作るつもりと表現した方がよかっただろうか?』


『...俺の...分身を作る...。』


レイジはそう言われてイメージしてみた。その刀に、自身の魂を、炎を、そして自分自身を乗り移らせるかのようにイメージしながらやってみた。すると刀は今までにない光を放ち始め、まるで生き物のように踊る炎をまとった状態になった。


『そうだ。それでいい。意識を集中させろ。その波動斬は、今までの波動斬とは違う。貴様の全身全霊を込めることでしか放つことが出来ない必殺の斬撃だ。己の全てを、その一振りに賭けろ!!!!』


スザクに言われるとおりに、レイジは深く腰を落とし、両手で名刀『憤怒の魂』を握り、すべての力をその刀に込めた。それを見た昆布は一瞬で死を覚悟した。


『なんだ!?あのとんでもなさそうな炎の刀!!!あの刀から、兄貴を感じる...!?全身の細胞が死を予感するほどの威力!!...へへへ。』


昆布は心の中で笑い、そして昆布もすべての魂の力を使って両手に流し込み、魂の盾をまとって受ける準備を整えた。


「いいでござるよ!!!!兄貴!!!兄貴のその新しい必殺技!!!拙者が受けきって見せるでござるよ!!!!」


その言葉を聞いてレイジは覚悟を決めて炎と魂を込めた波動斬を放った。


「波動斬!!!!!」


その波動斬は三日月状の形をしていたが、加速していくうちに形がどんどんと縮こまっていった。そして昆布は両手でその波動斬を受け止めようとした。


「ぐっ!!?ぐぬぬぬぬぬぬ!!!」


昆布の手には波動斬の細かい振動と燃えたぎる炎の熱さが手に伝わってきた。そしてその威力も半端ではなかった。


『な、なんだ!?この威力!!?さっきの大きい波動斬とは比べ物にならない!!!...受けきれない!!!それどころか、受け流すことすらできない!!!軌道を変えることすら...!!!できない!!!!!』


昆布はそれを理解して、自身の死を悟った。昆布の両手は押され始め、目の前までその波動斬は迫ってきた。そして昆布は死にたくないという必死の思いで火事場の馬鹿力を発揮し、ギリギリで上方向へとそらすことに成功した。しかしそらせたとはいえ、昆布は左肩から左胸にかけてを真っ二つに切り裂かれ、左手は神経を切断され、力なく垂れ下がった。


「ぐ、うぅぅぅぅ!!?」


昆布は信じられない痛みに冷や汗と脂汗を大量ににじませ、右手で左肩を抑えて何とかこれ以上切り開かれないようにしようとした。

 そしてそれを見てマスターブラックはマイクマンに試合が終了したと伝えて、マイクマンは宣言した。


「しょ、勝者!!レイジ選手!!!!!」


その宣言と同時にシールドは解除され、救護班が急いで駆け付けた。そしてレイジはありったけの力を込めた反動でバーニングレイジは解除され、フラフラになりながら昆布の元へと歩み寄った。


「こ、昆布...。」


レイジは自身が昆布の命を奪いかけたことにとてつもない後悔と心苦しさに目をそらしてしまった。しかし昆布は面頬(めんぼお)を外してニッコリと笑った。


「ありがとう!兄貴。拙者、どうやら悪魔に体を乗っ取られていたみたいでござるよ。兄貴が助けてくれなきゃ、拙者は何をしていたかわからないでござるよ。だから、そんな顔しないで。これは拙者が兄貴に勝ちたくて勝手にやったことなんでござるよ。兄貴は何も悪くないでござる。だから...拙者を止めてくれて、本当にありがとう。」


昆布はそう言って駆け付けた救護班の担架(たんか)(みずか)らのって運ばれて行った。それをレイジはやはり苦しそうな表情で見ながらステージを降りた。そこには姉御が待っていた。


「...レイジ。気にするな...と言っても、無駄だろうけど、あんたは正しいことをしたんだよ。中の会話は聞こえやしなかったけど、まあ、大体わかる。昆布のやつが無茶してあんたがそれを止めたんだろう?だったら、後悔はするな。それより、昆布のそばにいて見守ってやりな。それが今、あんたが昆布にできる最大のやれることだろう?」


「姉御...ああ。そうだな。俺、あいつを絶対死なせないようにする。それしか、やれることがないから。」


「ああ。じゃあ、行ってやりな。」


姉御にそう言われてレイジは戦闘で疲れた体に気合を入れて担架で運ばれる昆布を追いかけた。

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